楽しかった
凜ちゃんが、驚愕したかのような顔をしている。しかし、すぐに頭を抑えて蹲った。
心の底からごめんなさいと、思った。
…………駄目で、屑な姉で、ごめんなさいと、思った。
対して、目の前の屑は、笑っていた。心底腹が立つような笑いだった。誰よりも気持ち悪い、笑いだと思った。
玲「……………」
播「? 玲、どうしたの? 私を倒すのでしょう? やればいいさ」
玲「それだ、その態度だ。今から死ぬってのに、怖くないのか?」
播「自分の最高傑作に殺されるんだ、構いやしないよ」
玲「…………………」
ああ、そうかよ。ただそうとだけ思った。しかし、気がかりはあった。
蹲っている凜ちゃんである。
凜「……う、ぁ…………」
播「ああ、凜のこと? 気にすることは無いさ。君は元からこうするつもりだったんだろうから」
玲「……………そう、だな。うん、そうだ」
俺は、ここに来るまで取ることのなかった銃を、手に取って、屑に向けた。
屑は、笑ったままだった。ああ、心底イライラさせてくる。
そう思いながら、俺は、私は、父に向かって、銃の引き金を引いた。
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(水樹side)
グシャリと、もう何十回も感じた感覚が手の中にあった。死んだのは、私ではなかったようだ。しかし、少年は私の頬の皮をかなり剥いでから死んだようだった。ああ、『赤蛇』だったら良かったのにな、と思った。
時「あー……………良かった、うん」
水「何もしてない奴が何いってんですか。私は、戦闘ではエリートですからね」
時「はいはい、分かってるよ。………まあ、彼には悪いけど」
兄さんが壁を見た。そこには、兄さんによって壁に磔になっていた少年がいた。呆然、唖然、戦意喪失の顔になっている。
これなら、通れるだろう。まあ、戦場ではこんなものだ。仕方ない。
水「……………行きましょう。早くした方がいいです」
時「うん、そうだね」
兄さんが先に歩いていく。私は数歩後でそれを追う。
時「早くして玲を助けてあげないと。一人だとちょっと危ない気がする」
水「ええ、そうで」
私は、途中で言葉を切った。いや、切らざるおえなかった。何か、熱いものがこみ上げている感覚がして、吐き気のようなものがくる。
兄は、それを不自然に思ったのか、振り返った。そして、驚いた顔をした。
私が、倒れた。
私は、何か言おうとした。しかし、声にならなかった。そこで気づいた。
ああ、喉に大穴空いてるな、って。
時「水樹! 水樹、水樹!!」
私を抱えて、兄さんが叫んでいた。そんな声が遠く聞こえた。不思議、こんなに近いのに。
私は、兄さんの頬を撫でた。そして、上手く出来てるか分からなかったけど、笑った。
時「みず…………」
兄さんの声も止まった。私の上に兄さんが倒れてきた。
どうしたのだろうか、そうおもいながら、私は、小さい頃のように、にいさんの手を握って、めをとじた。
………………近くで、誰かが立ち上がった気がした。
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(凜side)
あたまがいたい。あたまがいたい。
それと同時に、目が熱い。ぼろぼろぼろ、と涙が零れる。
こころがいたい。あたまがいたい。めがあつい。
目の前で、倒れた実の父を、目の前で、よくわからない顔した実の………………実の、双子の姉が見下ろしていた。
玲「……………さてと。どうする? 凜ちゃん」
凜「……………………へ………?」
玲「私を倒す? 見逃す? どっちでもいいよ。でも、私としては、窓から飛び降りて逃げてほしい」
凜「……………え………………?」
玲「俺は、ここを焼くから。逃げてほしい」
凜「…………どういう、こと………?」
玲「記録を消さなきゃいけないの。また、最後は、十年前と同じにして、終わりにするんだ」
何を言ってるんだろう、と思いつつ、私は思い出した十年前を振り返った。
一面、炎だった。
……………ああ、あれは、玲ちゃんの能力だったのか。
玲「だから、出来れば私が焼く前に出てほしい」
凜「……………玲ちゃん、は?」
玲「……………耐えることくらいは…………頑張ってみるから」
凜「え、あっ!?」
玲ちゃんが、僕の前に歩いてきて、僕を持ち上げた。そして、窓の方に歩いていく。
窓を開け放った。
凜「…………へ!?」
玲「俺や、黒祈………末っ子について知りたいなら、多分、知夏とか帝弥がアルバム隠し持ってるから、貰いな」
そう言って、玲ちゃんは、僕を窓から投げた。
凜「待って、玲ちゃん! まだ、まだ僕……私は!!」
玲「……………………………愛してるよ、私の可愛い片割れ。どうか生きてくれ」
私は、地面に叩きつけられた。これくらいなら、大丈夫だけど、しばらくは動けない。………………窓が、閉まったのが見えた。
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(玲side)
玲「……………さて、と」
ポケットに手を突っ込む。グシャリと紙の音がして、それを出す。
殴り書きだった。しかし、そこに書いてあったのは、見覚えのある文字だった。
玲「……………『希望は絶望と隣り合わせ。私は最高傑作の成長が見れただけで嬉しい』ね…。知ったこっちゃねぇな」
紙を燃やす。
しかし、あいつからしたら、これも想像通りだったんだろうな、とか思いつつ、舌打ちした。
扉が開く音がした。
玲「…………ああ、こんにちは。月村兄妹は…………その様子じゃ死んでしまったか。」
相手は黙りだった。この感じだと、相手の大事な子も死んでしまったらしい。
こう見ると、やっぱり復讐かな。
玲「復讐かな、翔くん」
翔「…………………あなた方が来なければ、黄金くんは、死ななかったのに」
玲「元凶はこれだけどな」
ガッと親だったものを蹴った。翔くんはそれを一瞥すると、目を伏せた。
翔「…………まあ、そうですね」
玲「ところで翔くん。ちょっとお願いしていい?」
翔「はい?」
驚いたような顔をされた。はは、出し抜いたような感じでも困る。俺は、言いたかないけど、成宮の最高傑作、らしいからね。思考もそこそこ得意だから。
玲「ここ、焼くからさ。大事な子の死体と、月村兄妹の死体をどこか別の場所にやってよ」
翔「……………いや、黄金くんならまだしも、なんでその人らまでやんなきゃいけないんですか」
玲「ははは、だろうね。じゃあ、こうしよう。俺、死ぬから。俺の武器とか、集めたもの、ぜーんぶあげるよ」
翔「……………………」
玲「実は全部中区の廃墟の隠し部屋の中にあるんだな」
翔「…………………………………」
玲「ほら、鍵」
鍵を投げた。翔くんの足元に転がる。
俺は、書類を適当に取る。それを燃やす。地面に落とす。3回ほど繰り返す。
翔「…………………」
翔くんは、鍵を拾って出ていく。
それを笑って見る。
玲「翔くん。是非さ、君の知り合いとかにこの馬鹿らしい最後を伝えてよ。真似はすんなってね」
翔「…………じゃ、思いっきり格好よく伝えますね。他人のためにここまで出来る格好いい馬鹿ってね」
玲「うげ」
それは心底嫌だな、と苦笑いする。それを見て、翔くんは笑った。しかし、それは何も許してない笑いだった。
翔「……………さよなら、ヒーロー」
そういって、翔くんは扉から出た。
玲「…………誰がヒーローだっつーの。俺は一応、女だ」
そういいつつも、笑う。彼、見た目通り、真面目ではあるんだろう。ただ、これから、どうするんだろう、とは思う。
まあ、俺には関係ねぇな、と呟いて、笑った。
もう周りは赤に染まっていた。
十年前と同じ景色だ。でも、どこかスッキリした。憑き物が落ちたような、そんな感じ。
玲「……………楽しかったなぁ」
呟いて、笑った。しかし、未練はあるかもしれない。じっくりと、弟妹や、兄姉を、見ていたかったかも。
もう戻れやしないから、構わないけど。
玲「……………うん。」
少し、目が熱かった。気のせいだろうけど。
玲「楽しかった」
私は、そう言って、目を閉じた。
…………………………………最期に、長い灰色の髪の女の人を、見た気がした。
(ハテナだったので)
結崎黄金「家族」
月村水樹「家のような場所」
月村時雨「『赤蛇』」
成宮玲「悲劇をそのままにはしない」




