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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~転から結へ~
52/56

楽しかった



凜ちゃんが、驚愕したかのような顔をしている。しかし、すぐに頭を抑えて蹲った。

心の底からごめんなさいと、思った。

…………駄目で、屑な姉で、ごめんなさいと、思った。

対して、目の前の屑は、笑っていた。心底腹が立つような笑いだった。誰よりも気持ち悪い、笑いだと思った。


玲「……………」

播「? 玲、どうしたの? 私を倒すのでしょう? やればいいさ」

玲「それだ、その態度だ。今から死ぬってのに、怖くないのか?」

播「自分の最高傑作に殺されるんだ、構いやしないよ」

玲「…………………」


ああ、そうかよ。ただそうとだけ思った。しかし、気がかりはあった。

蹲っている凜ちゃんである。


凜「……う、ぁ…………」

播「ああ、凜のこと? 気にすることは無いさ。君は元からこうするつもりだったんだろうから」

玲「……………そう、だな。うん、そうだ」


俺は、ここに来るまで取ることのなかった銃を、手に取って、屑に向けた。

屑は、笑ったままだった。ああ、心底イライラさせてくる。

そう思いながら、俺は、私は、父に向かって、銃の引き金を引いた。



────────────────────────────

(水樹side)


グシャリと、もう何十回も感じた感覚が手の中にあった。死んだのは、私ではなかったようだ。しかし、少年は私の頬の皮をかなり剥いでから死んだようだった。ああ、『赤蛇』だったら良かったのにな、と思った。


時「あー……………良かった、うん」

水「何もしてない奴が何いってんですか。私は、戦闘ではエリートですからね」

時「はいはい、分かってるよ。………まあ、彼には悪いけど」


兄さんが壁を見た。そこには、兄さんによって壁に磔になっていた少年がいた。呆然、唖然、戦意喪失の顔になっている。

これなら、通れるだろう。まあ、戦場ではこんなものだ。仕方ない。


水「……………行きましょう。早くした方がいいです」

時「うん、そうだね」


兄さんが先に歩いていく。私は数歩後でそれを追う。


時「早くして玲を助けてあげないと。一人だとちょっと危ない気がする」

水「ええ、そうで」


私は、途中で言葉を切った。いや、切らざるおえなかった。何か、熱いものがこみ上げている感覚がして、吐き気のようなものがくる。

兄は、それを不自然に思ったのか、振り返った。そして、驚いた顔をした。

私が、倒れた。

私は、何か言おうとした。しかし、声にならなかった。そこで気づいた。

ああ、喉に大穴空いてるな、って。


時「水樹! 水樹、水樹!!」


私を抱えて、兄さんが叫んでいた。そんな声が遠く聞こえた。不思議、こんなに近いのに。

私は、兄さんの頬を撫でた。そして、上手く出来てるか分からなかったけど、笑った。


時「みず…………」


兄さんの声も止まった。私の上に兄さんが倒れてきた。

どうしたのだろうか、そうおもいながら、私は、小さい頃のように、にいさんの手を握って、めをとじた。

………………近くで、誰かが立ち上がった気がした。


────────────────────────────

(凜side)


あたまがいたい。あたまがいたい。

それと同時に、目が熱い。ぼろぼろぼろ、と涙が零れる。

こころがいたい。あたまがいたい。めがあつい。

目の前で、倒れた実の父を、目の前で、よくわからない顔した実の………………実の、双子の姉が見下ろしていた。


玲「……………さてと。どうする? 凜ちゃん」

凜「……………………へ………?」

玲「私を倒す? 見逃す? どっちでもいいよ。でも、私としては、窓から飛び降りて逃げてほしい」

凜「……………え………………?」

玲「俺は、ここを焼くから。逃げてほしい」

凜「…………どういう、こと………?」

玲「記録を消さなきゃいけないの。また、最後は、十年前と同じにして、終わりにするんだ」


何を言ってるんだろう、と思いつつ、私は思い出した十年前を振り返った。

一面、炎だった。

……………ああ、あれは、玲ちゃんの能力だったのか。


玲「だから、出来れば私が焼く前に出てほしい」

凜「……………玲ちゃん、は?」

玲「……………耐えることくらいは…………頑張ってみるから」

凜「え、あっ!?」


玲ちゃんが、僕の前に歩いてきて、僕を持ち上げた。そして、窓の方に歩いていく。

窓を開け放った。


凜「…………へ!?」

玲「俺や、黒祈………末っ子について知りたいなら、多分、知夏とか帝弥がアルバム隠し持ってるから、貰いな」


そう言って、玲ちゃんは、僕を窓から投げた。


凜「待って、玲ちゃん! まだ、まだ僕……私は!!」

玲「……………………………愛してるよ、私の可愛い片割れ。どうか生きてくれ」


私は、地面に叩きつけられた。これくらいなら、大丈夫だけど、しばらくは動けない。………………窓が、閉まったのが見えた。


────────────────────────────

(玲side)


玲「……………さて、と」


ポケットに手を突っ込む。グシャリと紙の音がして、それを出す。

殴り書きだった。しかし、そこに書いてあったのは、見覚えのある文字だった。


玲「……………『希望は絶望と隣り合わせ。私は最高傑作の成長が見れただけで嬉しい』ね…。知ったこっちゃねぇな」


紙を燃やす。

しかし、あいつからしたら、これも想像通りだったんだろうな、とか思いつつ、舌打ちした。

扉が開く音がした。


玲「…………ああ、こんにちは。月村兄妹は…………その様子じゃ死んでしまったか。」


相手は黙りだった。この感じだと、相手の大事な子も死んでしまったらしい。

こう見ると、やっぱり復讐かな。


玲「復讐かな、翔くん」

翔「…………………あなた方が来なければ、黄金くんは、死ななかったのに」

玲「元凶はこれだけどな」


ガッと親だったものを蹴った。翔くんはそれを一瞥すると、目を伏せた。


翔「…………まあ、そうですね」

玲「ところで翔くん。ちょっとお願いしていい?」

翔「はい?」


驚いたような顔をされた。はは、出し抜いたような感じでも困る。俺は、言いたかないけど、成宮の最高傑作、らしいからね。思考もそこそこ得意だから。


玲「ここ、焼くからさ。大事な子の死体と、月村兄妹の死体をどこか別の場所にやってよ」

翔「……………いや、黄金くんならまだしも、なんでその人らまでやんなきゃいけないんですか」

玲「ははは、だろうね。じゃあ、こうしよう。俺、死ぬから。俺の武器とか、集めたもの、ぜーんぶあげるよ」

翔「……………………」

玲「実は全部中区の廃墟の隠し部屋の中にあるんだな」

翔「…………………………………」

玲「ほら、鍵」


鍵を投げた。翔くんの足元に転がる。

俺は、書類を適当に取る。それを燃やす。地面に落とす。3回ほど繰り返す。


翔「…………………」


翔くんは、鍵を拾って出ていく。

それを笑って見る。


玲「翔くん。是非さ、君の知り合いとかにこの馬鹿らしい最後を伝えてよ。真似はすんなってね」

翔「…………じゃ、思いっきり格好よく伝えますね。他人のためにここまで出来る格好いい馬鹿ってね」

玲「うげ」


それは心底嫌だな、と苦笑いする。それを見て、翔くんは笑った。しかし、それは何も許してない笑いだった。


翔「……………さよなら、ヒーロー」


そういって、翔くんは扉から出た。


玲「…………誰がヒーローだっつーの。俺は一応、女だ」


そういいつつも、笑う。彼、見た目通り、真面目ではあるんだろう。ただ、これから、どうするんだろう、とは思う。

まあ、俺には関係ねぇな、と呟いて、笑った。

もう周りは赤に染まっていた。

十年前と同じ景色だ。でも、どこかスッキリした。憑き物が落ちたような、そんな感じ。


玲「……………楽しかったなぁ」


呟いて、笑った。しかし、未練はあるかもしれない。じっくりと、弟妹や、兄姉を、見ていたかったかも。

もう戻れやしないから、構わないけど。


玲「……………うん。」


少し、目が熱かった。気のせいだろうけど。


玲「楽しかった」


私は、そう言って、目を閉じた。





…………………………………最期に、長い灰色の髪の女の人を、見た気がした。




(ハテナだったので)

結崎黄金「家族」

月村水樹「家のような場所」

月村時雨「『赤蛇』」

成宮玲「悲劇をそのままにはしない」

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