天使と悪魔
玲「うぉあっ!?」
水「危なっ!?」
…………執念深すぎる。というか、攻撃範囲が広すぎる、と言った方がいいのか。電撃がかなり離れたところまで届いた。当たったら即失神レベルだろ、これ!?
水「もう来ますかね!? てか、来ないと私たち、電撃くらって死にそうですよね」
玲「理さん! こっちに来る電撃をどうにかしてくれ!!」
理「了解しました!!!」
割と遠いのにしっかりと声が聞こえる。すごいな、と思うのと同時に、流石理さん、と思えてしまう。流石。
玲「月村さん、このまま書斎まで突っ切るぞ!」
水「ええ、もうヤケです! 電撃くらって焦げるくらいならもういいです!」
それはやめてくれ、と思いながらも俺と月村さんは再び廊下を走り出した。
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(シアンside)
「「あはははははははははは!!!」」
シ「うわっ!? あっぶないよ、君ら!?」
奏「『黒亀』の時に俺ら、アンタに潰されかけてんだよー」
歩「そうだったっけ!?」
奏「あるちゃん!? 忘れるの早いよ!」
伊「歩歌ちゃんは二週間以上前の事は忘れちゃうからね………」
それはそれで面白い子だな。敵なのに相手の男の子の苦労が伺えてしまった。可哀想とも一応思った。
伊「ねえ、淡間屋さん」
シ「何ですか、若葉の坊っちゃん?」
伊「何故、『赤蛇』にいるの? 君には将来が約束されてたじゃない」
シ「……………約束された将来が、嫌いな時期だったんだよ。家出したのがね。あんたにゃわかんねーだろーけど、さ!」
歩「きゃあ、あっぶなーい!」
奏「あるちゃんが言うと危ないようには聞こえないね! てか、楽器重い!!」
そりゃ、能力使ったんだから当然だ。パッと見、二人が使うのは楽器を使った攻撃だろう。要するに、楽器を封じてしまえ、ということである。ただし、問題がない訳では無い。俺の能力は、無機物には加減できない。この前の『黒亀』事件の時は、人だったから、加減が効いた。しかし、今回は楽器だ。つまり……
「「ぎゃぁぁぁぁぁ!? 楽器、壊れたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
というわけだ。これはこれで殺されそうな気がしなくもない、怖いぞ。
伊「あーあ。僕は知らないよ………淡間屋さん。あの二人、楽器量産できるからね」
シ「え?」
伊「でも、愛着とかでめっちゃくちゃ怒るからね。おまけに見境なしに攻撃始めるから」
シ「え、それあんたも危ないんじゃ?」
伊「ああ、僕は能力で逃げるから。最初から彩雅君に言われた通り、二人が暴走したら逃げるつもりだったから。じゃあ、頑張ってね」
そう言うと、若葉の坊っちゃんは地面に消えていった。ああ、そういえば、彼は迷宮を作る能力だったっけ。作り手の意志で出る、もしくは入った人の頭脳が試される……みたいなのだった気がする。そこに逃げたら安心ってことか。
あ、つまり俺はめちゃくちゃ危ないってことか。
奏「お気に入りだったんだけどなぁ」
歩「壊れちゃったよねぇ………」
「「ねえ、責任とってよ、おにいさん」」
シ「………一応聞くけどそれは、弁償って方向でいいのかな?」
歩「べんしょーはしなくていーよ」
奏「鬱憤だけはらさせてくれれば、ね」
回避は不可避か、これ。昔から大変な子たちだったって聞いてたけど、まさかこれ程とはね。
これ、俺だけだと死ぬやつ。でも、今つゆりちゃんに話しかけても死ぬやつだよね、これ。あー、どうしようか。
そんな現実逃避みたいな事を頭ん中で考えていた。
白「あーらら、お困りかな! シアン君!」
シ「! 白輝君!」
白「ふふん、救世主登場ってね〜」
白輝君が、普通にこちらに歩いてきた。多分、玄関が済んだんだろう。
しかし、問題がある。普通に、歩いてきた、という点が問題大ありだ。白輝君の後ろから、双子ちゃん達の女の子の方が、走ってきていた。手には、ナイフらしきものを持っている。しかし、男の子の方は、笑顔ではなかった。どちらかというと、戻ってきて欲しいというかのような、寂しげな顔だった。
歩「かーごめかーごめ。カーゴのなーかのとーりは。いーついーつでーあう? うしろのしょーめんだぁーれ」
女の子がナイフを振り上げた。しかし、白輝君は俺の方を余裕の笑みで見ていた。何かあるんだろうなぁ、と何も手助けしずに見ていると、白輝君はいきなりくるりと後ろを向いてナイフを一本投げた。
そのナイフを投げた白輝君の技術は、見事なもので女の子の持っていたナイフに当たった。女の子は尻餅をついた。
歩「わっ!」
奏「あるちゃん! だから危ないってば!!」
白「そこの男の子の忠告を聞いておくべきだったねぇ〜。なんでその場所にナイフがあったかを疑わなきゃ」
シ「あー………白輝君。君、わざと落としてきたんだ」
白「うんっ! どう出るかなー、って思ったんだけど………」
白輝君が意地悪そうな、性悪そうな、面倒臭い笑いをしていた。女の子はそれが見えたのだろうか。すぐさま楽器を創り出そうとしていた。
しかし、白輝君の方が速かった。白輝君は、もう何本か(俺の目が正しければ三本)だけナイフを女の子の方に投げた。
そのナイフの行き着く先は容易に予想ができた。ナイフは、思った通り全て、…………女の子の肌を掠っていった。
男の子が叫んで、駆け寄ってこようとしているのが見えた。しかし、男の子の方は察しがいいのだろう。女の子は項垂れて動かなくなっていたのだ。
白「さあさあ、成宮歩歌ちゃん。君はどんな愉しいものを見せてくれるのかな!」
シ「白輝君! 遠ざかるよ!!」
奏「は!? ちょ、あるちゃんに何したのさ!」
白「見てればわかるよ! ねえ、僕のナイフが掠った歩歌ちゃん」
白輝君が、そう言うと女の子はスクリと立ち上がった。俺は、白輝君の腕を引きながら全力で走った。インドア派には辛い。その場から、全力で、逃げて、屋敷の奥へと逃げて行った。
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(奏理side)
あるちゃんが、不気味な動きをしだした。違和感しかない。いや、いつも変な動きはしてるかもしれないけど。それとは違うような動きだった。
奏「ぁ………ある…ちゃん?」
歩「………………ぅ………ぁ?」
もはや声になってないかのような声だった。本能的に能力を発動させてしまった。あ、と思って能力を消そうとすると、あるちゃんも能力をこちらに発動させたらしく、光の銃弾が飛んできた。
奏「………精神操作の人だったか……」
歩「ぅ………あ…うう?」
奏「あるちゃん!? 最後疑問形に近いのに迷う事なく撃ったね!?」
あるちゃんはそういう子だけど。そういう子だけど!
そんなことを考える余裕はまだあるみたいだった。でも、この余裕も無くなるんだろうな。そう思った。
あるちゃんは、ぶっちゃけ理性の一部が欠落しているところがある。それを俺が補っていたんだ、いずれ爆発するだろう。
まあ、そこで俺は死ぬかなー、なんて思う。確信してしまえば怖いのかな、とか思っていたこともあったけど、そうでもなかった。それよりも、あるちゃんが目覚めた時に大量殺人犯になってた方が怖い。
奏「………ってことは。」
俺が、止めなければいけないわけだ。
俺で、終わらせねばいけないわけだ。
まあ、出来るだけあるちゃんを生かす方向でやろう。あるちゃんに罪はないのだから。ただ、何も知らなかっただけなのだから。
奏「あーるちゃーん」
歩「うううあ………う」
奏「あー、駄目か。……ま、仕方ないか。最後の話が、俺の一方通行ってのも、悲しいんだけどなぁ」
いつものおどけた調子で言う。内面も、いつもとそう変わりないように喋っているつもりだ。
………まあ、実際震えていたりするかもしれないけど。俺は分からない。あるちゃんが欠落している所があるんなら、きっと俺にもあったんだろう。
双子は、全部、どこかは似ているはずだから。そう思ってるから。
奏「あるちゃん! 今までありがとう! あるちゃんはいつも明るくて、楽しくて、元気で、笑顔で、俺と一緒にいてくれたよね! うん! おかげで、いつでも幸せだったよ! だから一人になっても負けないか心配だけど、一応、長生きしてほしいけど、言うね!」
あるちゃんがこちらに向かってくる。能力───で創り出したハーモニカを持っている。わかんないんだなぁ、とちょっと悲しくなる。
けど、言っとかないと後悔するね。絶対に。
奏「天国で待ってるから。あ、天国じゃなくて地獄じゃないの? とかいうのは無しね! 俺ら、いろいろ壊したけど、悪いことはしてないよ! きっと天国に行けるよ!」
歩「う………ぁ、…ぁ……う!!」
奏「だから、ちょっとの間だけ……………」
そこまで言って、俺の体に光の銃弾が撃ち込まれる。
痛い。すごく、痛い。
ああ、壊してきた建物とかも、こんな思いをしてたのかな。ごめんね。
かなりの量の血を、地面に散らしながら、俺は言った。
奏「………バイバイ。大好きな、たった一人の、いもうと」
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(歩歌side)
あたたかいものが、体を包んだ気がした。眠たいな、疲れたな、なんて思う。
ぼんやりと、寝ていたような感覚から目を覚ます。でも、視界はぼやけたまま。水の中みたいにゆらゆらしてる。
私は、分かっていた。自分が、何をしたのかを。でも、泣いて叫んで、止めようとした自分の声は、内で留められていた。
目の前に広がっている赤と、それで染まった小さなハーモニカ。そうくんは、ハーモニカが得意だったなぁ。
視界がぼやけていた意味が、そこでやっと、なんでぼやけていたかに気がついた。まあ、本当なら想像しやすいんだろうけど、私は物事を考えるテンポが遅いみたいだから。近くにそうくんがいたら……聞いてみるだけでいいんだけどね。
今回、そうくんは近くにはいる。けれど、真っ赤になって倒れてる。そして、真っ赤になったハーモニカ。これくらいなら、一分あればわかる。
歩「…………………私が」
やってしまったのだろう。素でそうくんを殺したいはずがない。何かがあったんだろうけど、私には分からない。
でも、そうくんがいなくなったのは分かった。そして、それはどういうことか、すごく、理解していた。
私は、近くに落ちていたナイフを拾い上げた。誰のかはわからないけど、借りよう。
歩「…………天国には、今行くからね!」
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(縁side)
花「………まだ、私たちより小さい子だったのに……」
縁「そういう世界ですからねぇ……。仕方ないですよぉ」
僕がそう言うと、かなちゃんはキッとこっちを睨みつけてきた。もう既に当然のことだと言っても、何を言っても睨まれる気がしなくも無い。 僕としてはこういうところが面白いから、からかうんですけどね。
そんなことを思い、笑って受け流していると、何か変な予感がして、背後を振り返った。
縁「………………気の所為?」
花「は? 何が?」
縁「や、何でもないですよぉ。ただ、レンカ先生みたいなねちっこい視線があった気がしたんですよねぇ……」
花「え、最悪」
縁「レンカ先生、泣きますよぉ?」
花「あんな怪盗ストーカー死んじまえばいい」
縁「泣くどころじゃ無かったですねぇ」
クスクスと笑いながら、玄関の方に目を向ける。戦ってるもう一組があるから。ただ、こちらは今のよりも酷い状況になっていた。アンデットが参加しているからでしょうねぇ。
死人は、いくら出るんだろう。そう思いながら、再び望遠鏡を覗いた。




