こころ 青鳥
凜「………父さん、ここって防音?」
播「そうだねぇ。耐震もしてあるよ」
凜「それって、襲撃を察知できないよね……」
播「まあ、知夏や帝弥もいるし大丈夫だろうね」
凜「そうなの………?」
播「大丈夫大丈夫。凜、お茶いれて?」
そう言われて、空になったティーカップを受け取る。心配が無いわけではないけど、父さんが言うなら大丈夫かもしれない。僕は、ティーカップにお茶をいれるため、父さんに背を向けた。
播「……大丈夫大丈夫。凜は生きていけるはずの計算だからね」
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(彩雅side)
彩「花が綺麗でしょー?」
実「………花は綺麗なものだけど、隣にいるのがあなたというだけで吐き気がしてます」
実くんモードで言わないで欲しい。こっちの方が冷たい言葉が刺さるんだから。
彩「まあ、それはいーや。敵さん、正面には来たみたいだね」
実「そうそれです。………やっと触れたか。……なぜ動かないので?」
彩「…………それだから、一宮は滅んだんだよ。全部に動けるわけないでしょ? その間にここから来たら終わりだって」
実「ここから来るのはほとんどないと思う、と言っただろ?」
頭が固い。これはむしろ滅んどいて良かったと思う。これじゃ、すぐに二科に負けてたはずだ。いや、俺らが追い越すか。
彩「相手さんがどんな手をとるかわから────」
実「……どうした?」
彩「……………………塀から離れろ!!!」
そう言って、俺が実を突き飛ばして、花壇に突っ込んだと同時だっただろうか。恐ろしい勢いで塀に何かが当たり、ヒビが入り、すぐに穴が空いた。そして、水らしき液体が流れ込んできた。
彩「…………おいおいおいおい……勢いありすぎじゃあございませんかねえ……?」
時「あはは、それはごめんなさい。でも、これは仕方ないよね。君たちでは無いとはいえ、先にそっちが仕掛けてきたんだから」
実「おい! 成宮彩雅、今すぐどけ! お前、全く重くはないが前が見えない!」
重くない、って………。これでも二十五歳の中身長なんだけど……。
地味に筋肉が無いことを言われた気がしたが、そこは後で追求しよう。今は目の前の敵が先だ。そう考えて、俺は突き飛ばした後に覆いかぶさった実の上から退いた。
時「おお怖い怖い。『青鳥』のリーダー様は、悪名高いから怖いなあ」
一「あのさぁ、頼むから時雨君。早く行ってくんない? 俺、何故か今日、叔父さんに呼ばれてっから早く帰らなきゃなの」
空「………遅いのは、困る」
実「………たくさん出てくるな」
実が、起き上がりながらげんなりした顔で言う。俺のことを軽く睨んでいるけど、それは後にしてもらおう。
時「はーい。じゃ、大人しく玄関から特攻するね」
空「……………送る?」
時「いや、空日はそこで戦えない遠江さんの代わりやっといて」
一「それ、さり気なく気にしてるからね〜?」
緊張感が皆無だな、と思う。ここは軽い戦場のはずなんだけどな。
と、思っていたのだが、時雨、と呼ばれていた人が次こちらを向いた時、俺の目の前には小さな女の子がナイフを持って飛び掛ってきていた。
彩「うぉわっ!?」
実「視界消去!」
空「………チッ……。遠江さん、見えないです」
一「早速くらったの……? まあでも、先にやったのはこっちか。触った?」
空「腕は、やりました」
実「え、腕……?」
彩「あー……………………いったーい………久しぶりに切りつけられたよ、うん。高校三年以来かな」
いや、真面目に痛い。今現在、俺の腕は、ザックリと切られていた。下手したら骨見えるかも、ぐらいの勢いだったぞ。痛い痛い。
一「おおお、なら上出来でしょ。じゃ、俺も働きますかねぇ〜」
空「………私よりも戦闘力以外は、圧倒的に強いクセに」
一「あはは、それは言わないでよ」
カラカラと笑った遠江と呼ばれる奴は、まだ雰囲気を変えなかった。女の子の代わりようは凄かったのに。主に殺気が。
一「えっと、じゃあ俺は………」
空「…………遠江さん、こっち来て」
一「んえ?」
空「上から来てる」
一「んえ? …………ちょっ、は!? マジじゃんか!!」
実「上? ……………わあぁ!?」
実が、横に避ける。すると、そこに何かが落ちてきた。
………いや、何か、というのは失礼だった。落ちてきたのは………姿は違ったが見知った顔の友人だった。
彩「………………百々佳ちゃん?」
百「あら、彩雅君。御機嫌よう。外しちゃった」
一「うわぁ………………来ちゃったかぁ……。」
百「来ちゃダメだった?」
空「………別に、目的が同じなら、大丈夫」
百「そ、なら良かった。後、彩雅君。そこ、退いた方がいいわよ」
どういう事かと思った。しかし、すぐ分かった。俺と実の真上に、大きい黒い影が出来ていたのだ。俺は避けることが出来そうだった。しかし、実は……中心部にいた。
彩「実ぃぃぃ!!」
実「っ………!」
俺は無意識に、ギュッ、と目をつぶっていた。流石に、人が潰れるのは見たくない。反射行動だった。次の予想できる音が聞こえてこないことを、ひたすら願っていた。
しかし、その最悪は聞こえてしまった。バキバキバキ、と言うような音。恐らく、骨が……折れていく音。
百「あら」
実「……………四ノ原!!!」
………………え?
驚いて、目を開く。すると、手と(恐らく)自分の能力を使って、大きな影の正体を支えている、京子さんがいた。先ほどの音はどうしたのか、と思って、よく見たら……………京子さん、腕が赤くなっていた。多分、肩を下げれば腕は上がらなくなるだろう。
京「………………たはは〜、これで無傷なら……、お姉様達にも褒めてもらえたんでしょうね〜」
実「四ノ原っ、どけ! 今すぐ能力を解け!」
百「ビックリしたわ。まさか、髏呂ちゃんを受け止められる人がいらっしゃるなんて。髏呂ちゃん、大丈夫?」
髏「『………………問題は、ない……。でも、これ、繊維っぽいものが絡みついてる………』」
京「坊っちゃん、今すぐこの骸骨の陰の及ばない所へ行ってください〜。早く」
彩「おいおい、京子さん? それ、死ぬつもり?」
京「……ええまあ。………ですが、私の仕事はこれですので〜」
まだ笑っている。多分腕はもう終わりだろう。そして、本人は死ぬ覚悟をしている。俺には、何も出来ない。ならば………
実「嫌に決まってるだろ!? 四ノ原、打開策を考えるからちょっと……」
百「時間の無駄ね。髏呂ちゃん、引きちぎりなさいな」
髏「『うん……。わかった………』」
実「!?」
百「戦場に待ては聞かないわよ。ここには………怨みしかないし」
百々佳ちゃんが冷たい視線を向ける。本当は俺のことも消してしまいたいくらいに怨んでいるだろうに。消さないのは、情もあるんだろう。
しかし、彼女らは実には何も無い。京子さんにも。つまり、排除が可能ということだ。
京「そう……ですよ、坊っちゃん。………だから、……早くどいて下さいな〜」
実「………………………なんで。なんで僕を助ける? 僕を助けても四ノ原には何も無いだろ? なんで……」
彩「実! 早くこっちに……」
実「僕は、能力と頭以外は弱い。あった権力も、もうないぞ? 助ける価値なんて、何一つ……」
京「………あるに……決まってますよ〜。無かったらね…………私が楽しんで十九年も共にするわけ無いでしょう? ものすっごい面倒くさがりなんですからね〜」
流石の京子さんも、ついに顔を歪め始めた。腕は赤み………を通り越して青くなっているように見える。本当に辛いのだろう。
髏「『……あと、二本…………』」
京「ああもう、…………退かないんですか? 困るので退いて下さいよ〜。なんなら、私が退かしますね〜」
実「え、………うわっ!?」
京子さんは、指一本動かしてないのに、実が浮いた。それは、彼女の能力………布の繊維を操る能力を使ったのだろう。彼女は常にマフラーを持っていた。今はそれを骸骨を受け止めるのと、実を浮かすのに使っているのだろう。そう考えると、本当に四ノ原京子という人物は強かったことがわかる。そんな強度の繊維は、多分いづでも作れない。
京「……………楽しかった人生を、ありがとうね。実。」
髏「『……………………バイバイ、おねえさん』」
グシャリ、という嫌な音が耳に入る。気分はさいっこうに……最悪だった。しかし、実はそれを俺よりも近い位置で見た。しかも、ずっと世話をしてくれていた人だ。今は多分………。
彩「………実」
実「……僕の命よりも…………京子さんの方が…………世界に価値があったはず、なのに………」
彩「……………………実。後は、任せて」
もちろん俺も、ショックは残っているが、今は実の方がショックが大きいに決まってる。なら、仕事は俺一人でやるしかない。
百「彩雅君。今君、凄い怖い顔してるわよ?」
彩「…………だろうね〜。まあ、それは当然だと思わないかな?」
百「君、意外に結構優しいものね。でも人じゃない私達に勝てるとでも思っ………」
彩「凍れ」
空「いっ………………!?」
一「えっ、ちょっ!? いきなり!?」
髏「『……………冷たい』」
一言、凍れ、と発する。そうすると、見物を決め込んでいた『赤蛇』の二人と骸骨の足が凍る。
彩「ねえ、百々佳ちゃん」
百「…………そうだった。君は、容赦が無かったことで有名だったね」
彩「ちなみに、あの骸骨は許す気ないよ。君についてはまだ考えあぐねてるけど」
百「………髏呂ちゃん、元に戻りなさいな。貴女は下がっててもいいから」
髏「『…………はーい』」
百々佳ちゃんが言うと、骸骨から段々煙が出てくる。多分、消えると人間サイズの子が出てくるんだろう。そう思っていると予想外なことがあった。
彩「………まじで子供じゃん……」
百「でしょう? この子がアンデットになったのは……」
髏「三年前………。………十五歳、だった」
彩「………それは申し訳なかったね、父親が」
百「ええ。あなたに罪はないわ。でも、あなたの父親が大問題なの。だから、守るあなたも消さなきゃいけないのよ。ごめんね?」
彩「仕方ないから、いいよ。でもね………そっちも、消される覚悟が、あるってことだよね?」
俺は、そう言うと、周囲を氷で包み始めたのだった。
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(花那汰side)
縁「……んー………派手にやり始めましたねぇ。どう思いますぅ? かなちゃんは」
花「うっさい、黙れ、どマゾ」
縁「ああん……、その言葉も割と御褒美だってわかってますぅ?」
花「………法律的には、『赤蛇』、アンデットが駄目なんだけど。でもね、成宮播麻はそれ以上のことやっちゃったから」
縁「人体改造、でしたっけぇ。ちょっとだけ立ち会ってみたかったですよ、僕は」
頬を染めて、心からと言うかのようにポツリと言葉を漏らすどマゾ。何で上が毎回私とこいつを組ませるんだろう、と頭を抱えたことは一度では無かったはずだ。
花「今の発言がすっぱ抜かれてても知らないからね。」
縁「うふふふ、僕みたいな異端児を刑務所で管理するのは難しいですよぉ? だから、僕より異端なレンカ先生が管理してるんじゃないですかぁ」
花「わかってますよーだ。………で、仕事は覚えてんの?」
縁「余りにも大きな被害が出そうな際は、僕が止める。その被害を出した人をかなちゃんが裁く……ですよねぇ」
頭は割ととち狂ってるくせに思考は正常らしいから、イライラさせる。違反起こしたら、真っ先に密告して裁いてやるのに。
花「…………わかってるね。ならいーよ。さっさと終わればいいのに。私は真様で忙しいんだから」
縁「うふふふふふ、かなちゃんって、僕のことを精神異常者、って言うのに、伊勢さんのストーカーしてますよねぇ。面白いですねぇ」
花「黙って見張れ、クソ縁」
はぁーい、とどこか気の抜けたように笑いながら言う、一応、相方はしっかりと方向を改め、見張りに入った。
黙ってれば仕事できるんだから、いつも無意味な時間を使わせないで欲しい。
そう思いながら、氷で覆われた庭だった所を見て、私は早く終われ、と念じていた。
四ノ原京子『可愛い坊ちゃんの笑顔を守りたい』




