開始 赤蛇
最初は、車を近場に止める計画だった。しかし、それで歩いていって遠くから視認されるのも嫌だ、という白輝の(一応)一理ある意見により俺らは………………。
……………車による別荘への突撃を決めた。
──────────────────────────
玲「……………いってぇ…………………」
理「も、申し訳ありません、姫様……!」
玲「や、大丈夫……。それより、準備しろ。すぐに援軍くるから、道を開けるんだ」
了解、と聞きなれた声が五つバラバラに聴こえる。それもいつも通りだった。
そして、それの数秒後に聞こえたこの声も、既に聞きなれたものだった。
白「ひゃぁっはぁぁぁぁぁぁ!!!」
つ「行ってきま~す」
常に、戦闘部隊の先陣をきっていた二人……白輝とつゆさんの楽しそうな声だった。こんな時でも楽しそうなのは油断でもないだろう。この二人に限ってはそれもないし。
理「さて姫様、どうします? 車は放置しますが」
玲「予定通り行こう。月村さん準備して」
水「了解です」
月村さんが、一言返事を返した後、門の中で爆裂音が響く。うちの先陣たちからあんな音は出ないから、誰かビームでも放ったんだろうか。
そう思いながら、月村さんの準備が整うのを待った。
─────────────────────────
白「……………うっへぇ………。まさか、ビームが飛んでくるとは全く思ってなかったよねー……」
つ「後ちょっと遅かったら、焼ける、もしくは木っ端微塵だったわね」
明「……………ひ、久しぶりに使った……」
京「ふふ、それでその威力なら何にも文句はありませんね〜。私も頑張らないといけませんかね」
つ「…………ああ、誰かと思ったら、四ノ原家の………」
京「そうですよ〜。一宮家のボンボンのお付きしてる末っ子です〜」
つ「………末っ子、ね。厄介なのが生き残ってたのね」
白「厄介なの?」
つ「ええ。四ノ原家の中では多分、能力ではトップクラスだったわ」
─────────────────────────
水「姫、準備できましたよ」
玲「姫言うな。ありがとう。出るぞ」
理「援護しますね」
シ「当たり前のことだけどね!」
玲「頼む」
理さんの申し出を了承して、車のドアを蹴り開ける。この車はもう捨てるしか末路がなさそうだから、容赦なく蹴った。(逆側を月村さんが蹴っていたが、そっちのドアは飛んでいった)
その勢いのまま、門から玄関の通路を駆け抜ける。その中で、ある人を見かけた。それをつゆさんに叫んで伝える。
玲「つゆさん、アンタの目標は玄関にいるぞ!」
つ「!」
白「うぉあっ!? つゆりん、いきなり僕の方に相手さん投げないで〜!」
つ「ごめん、玄関行く」
白「え!? ……………あ、なるほどね。うん、いーよ。行っておいで」
つ「ありがとう」
白「ふふん、二対一っていうのもしょーじき怖いけどね! でも、僕は役者だ! どんなときでも、楽しんでおどけて魅せよう! さあ!」
つゆさんが走ってくる中で、やっと明かりを付けてない、ということを思い出したかのように、庭や門の明かりが灯り始める。そして、それらのお陰で、白輝が照らされた。
白「里峰白輝、もしくは湊白亜! 踊ってくれるのは二人でいいかな!?」
─────────────────────────
その勢いのまま、庭の横を走り抜ける。視線を感じて、チラリと庭を見ると、見覚えのある顔が二つほどあった。長男と一宮さんだった。庭も一応見張ってるのか。戦闘部隊がそこから入ってくる予定は無かったが、正面突破で良かった。
まあ、攻撃してくる気は今のところないのか、視線だけだから、無視して、玄関に駆け込む。
そうすると、予想通り攻撃が飛んでくる。しかし、予想外のものがあった。それは頭上からの、不穏な音だった。
歩「さあ! 奏くんの攻撃だよ!」
奏「Let’s dancing!!!」
「「あはははははははっ!!」」
玲「燃えろ」
頭上からの、不穏な音の正体は、光の矢だった。しかし、落ちてくるだけなら対処法がある。俺は容赦なく矢を燃やした。一応、矢自体は数だけで、弱いみたいでボロボロと崩れて消えた。
奏「うわぉ………………」
歩「きゃー! あ、でも、立ち止まらせるっていう目標は達成したからいいか!」
理「何?」
桜「そこで止まっておれ、『赤蛇』」
い「………失礼します。そちら、能力のネットとなっております………」
またまた見覚えのある二人が出てきた。罠か。
つ「……………邪魔」
しかし、つゆさんが、ネットのような罠を、自分の能力で解いた。まあ、これはつゆさんいたら有難いことに解くことが出来るだろう。ネットを張った人と同じ能力を使うのだから。
つ「私の目的はアンタらだからね。……仕事もやるけど、いろいろよろしく」
玲「わぁってるよ」
水「誰しも目的はあるからね。ただし、シアンも置いていくから」
シ「俺は物か何かかな!? まあ、つゆりちゃん一人じゃ大変かもしれないから残りますけど!」
つ「ん、ありがと。でも獲物は盗らないで」
シ「そんな後が怖いことはしまっせん!!」
何だかんだで、この二人は相性いい。だからほとんど心配してないけど、ここまで明るいと大丈夫かと疑いたくなる気持ちもある。
まあ、無用だと言われそうだから言わないが。
つ「さあ、お姉さまと幼なじみのお姉さま? 一緒に踊りやがれです」
シ「物騒だから、近寄らないように、残りの子達もよろしくねー」
───────────────────────────
そのまま、廊下を走って目的地を目指す。誰もいない廊下は、恐ろしい程に不気味だった。暗いのには慣れてるけど、殲滅対象が一人だってのは静かなんだな、と思った。
しかし、何となく、本当に景色の一環として見た扉に違和感を感じた。もう一度しっかり見てみると、取っ手の部分が、一定間隔で光っているのがわかった。そして、その光はだんだんバチバチと火花をあげているように感じた。
玲「月村さん、止まれ!」
水「はい!」
ピタリと、先行していた月村さんが止まる。まだ、扉の取っ手が光っている、と思ったその瞬間。先程まで月村さんがいた場所に大きな火花が落ちた。いや、火花というのは間違いかもしれない。ほかの言葉で言い表すなら……………
理「………放電!?」
雷「あラ。意外と頭のキレる方ネ? ……………って、よく見たらアンタ、鹿沢さんじゃない?」
理「──────あ?」
水「………危なかった……。姫が止めてくださらねば、黒焦げでし………って、理さん?」
月村さんが、ホッとした顔で俺と理さんの方を向いた。しかし、理さんの様子がいつもと違うのに気づき、すぐに問いかけた。
理「…………」
雷「違わないわよネ。アンタ、鹿沢さんとこの、消えた跡取りさん……」
理「姫様。ここ、私に任せてもらっても?」
玲「………いいよ。もうすぐ、アイツらも来………」
許可の言葉を出そうとした時だった。壁に、穴が空いたかのような音が飛んできた。
相手……成宮雷羅は驚いてそっちに目を向ける。その隙を見逃す理さんではない。能力でバズーカを創り出していた。それを、派手に撃ち込む。爆裂の際に出た煙で、俺らは姿を隠しながら、目的地へと向かった。複雑な廊下を抜けた先の……………成宮播麻の書斎へ。
──────────────────────────
(白輝side)
大きな大きな音がした。それは、僕が出したものではない。つまり、答えは一つだった。
明「い、今の音は………?」
白「怖い怖ーい、怪物さんたちだよ。梅花ちゃん」
京「………アンデット、ですかー?」
白「おお、これだけでよく分かったねぇ。そうだよ、アンデットの皆さんだ」
嘘だ、というかのように梅花ちゃんの瞳が見開かれる。嘘だと思いたいみたいだけど、残念ながらきっと真実だ。
まあ、『赤蛇』も本当に彼らが来たのか、と聞かれれば、きっと彼らだろう、としか言えない。だけど、彼らは恨んでいるからね、今回の抹殺対象を。きっと動かないはずがない。
京「………」
白「音はどこからだと思う? この方向だと、綺麗な薔薇とかの咲いた……」
明「…………庭、ですか?」
京「!!!」
白「そーそー。さあ、どうする? 僕は知ってるよ? あなたが大切に大切に守ってきた子のことを。あなたが生きる意味のように縋っているあの子のことを! 助けに行く? それとも信じる? さあ、さあさあさあさあ!! 決めるのはあなただ、四ノ原京子さん! ふふふふふ、僕はどっちをとってもあなたを尊敬するよ。たった一人のために、人生を賭ける、あなたをね!」
ケラケラ、という擬音が似合いそうな笑いを見せる。常に笑みを絶やさない。それが僕の信条、大切にするもの。そして、選ぶ必要も無いような質問を人に投げ掛ける。答えは決まっているだろう。
僕の言った言葉を、心の中で数回噛んだ後だろうか。彼女は庭の方に走り出した。梅花ちゃんが、それを見て追いかけようとする。しかし僕は……。
明「!!」
白「はい、少しでも動いたら君、喉にナイフが刺さっちゃうぞ? 若き女優さんは、身体に傷なんて付けたくないでしょ?」
明「なん………なんで、ですか。白亜様……」
白「僕は里峰白輝だ。白亜は懐かしい過去だよ。君が憧れていてくれた僕は、とっくの昔に死んでるんだ」
自虐的な笑みを浮かべて、淡々と真実を述べる。そう、僕は一回死んでるようなもんだ。何もかも知らないような顔してすべて奪ってった奴らに、少しでも報復をしたいだけ。
白「でもね。ファンであってくれて、ここまで踏み込んで来てくれた君を傷つけたくはない。でも仕事だから。やることはやるよ。………例え、もう君がファンじゃ無くなっても、ね」
明「……………い」
白「い?」
明「…………………今も、大好きです。何しても、ずっと……大好きです。カッコイイし、演技はうまいし………全てにおいての、憧れです」
なんてこと言ってんだよ、この子は。今、どんな状況下におかれてるかを理解してないのかな? そんな感じに頭がグルグルしてくる。そんな中で、結論らしきものが頭に浮かんだ。
白「………ああ、人に奉仕するだけの僕らは、元から割と狂ってるのかも」
明「……………?」
白「気にしないで。で? 降伏します? しないと喉を掻っ切るけど」
明「…………………仕事には、責任を持ちたいです」
白「え。マジで?」
明「なので、……………あの、死んじゃっても、仕方ないかなって……」
そこまで聞いて、僕は怒りがこみ上げた。思わず、拳を振りあげようとした時だった。
破壊された門の方から、冷たい風が吹いてきたのは。僕は振り上げかけた拳で、梅花ちゃんを突き飛ばした。そして、僕自身も後ろに跳んだ。立っていた場所は、白い何かに包まれた。
白「………ちょっとちょっとぉ………これは死ぬってば……アンデットさんさぁ!」
小「……………殺す気でかかってるから、当然」
白「いやぁ、梅花ちゃんはともかく、僕を殺す必要はないでしょ〜」
小「アンデット全員に伝えたのは、邪魔する全てを排除。つまり、一応、『赤蛇』も例外じゃない。でも、一応聞く。君らは、私の道を阻む?」
幼い子供のはずなのに。アンデットの長───夕凪ちゃんからは、恐ろしい量の殺気が出ていた。梅花ちゃんは怯んでるね。
白「………僕は目的一緒だろうから、そのつもりはさらさら無い」
小「そっちは?」
明「……………………」
白「戦意喪失してる。だから、進みたいなら進めばいい。僕も進むけどね」
梅花ちゃんは、もはや喋れる状態ではない。言うなれば、生まれたての子鹿のようになっている。だから、戦意喪失してる、と伝える。
すると、夕凪ちゃんは興味を失ったかのように冷気を止めた。
小「そう。じゃ、失礼するね。行くよ、黒塚」
友「了解です」
そして、どこからか現れた………天狗のような人を連れて、玄関の中に入っていった。何故天狗、と思わないこともないけど、まあ、アンデットだからそんなものなのだろう。
白「………だぁぁぁぁ、アンデット、こっわ〜………」
明「あ、あの。……ありがとうございます!」
白「いやいやいや、僕らは一応政府組織だからー。民間人に怪我してもらっちゃあ困るし」
明「それでも………助けてくれました」
ああ、これ、恩とかそんなんだ。面倒だなぁ、と思うけど、この子は僕のファンだった。なら、その範疇でなんとか片付けてくれるだろう。
白「………なんでもいーけど、そろそろ行くから。後は自分でなんとかしてね」
無責任だな、と思わないこともないけど。僕らの作戦はまだ終わってない。つまり、まだ戦わなければいけない。梅花ちゃんはもうそろそろ大丈夫だろう。
僕は、アンデットの二人が行った、玄関に向けて歩き出した。




