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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~転から結へ~
42/56

出撃 赤蛇

遂に結に入ってしまった……………。


──────時間というものは、あっという間に過ぎる。早いものだ。


白「んー…………よく寝れたよ、うん!」

シ「羨ましいね………。俺はこんな日でも寝れなかったよ、うん……」

つ「仕方ない仕方ない、頑張れストレス性不眠症患者」

シ「酷くない?」


そんな日でも戦闘部隊は何も変わらないらしい。まあ、気持ち的には一般的な仕事とあんまり変わらないんだろうし。それはそれでいつも通りの仕事が出来る、と安心している自分もいる。


理「姫様、お時間は……」

玲「姫様はやめろ。そろそろ出る頃だな」

理「車まわしましょうか?」

玲「月村さん来てからにしよう。まあ、程々んところで降りるけど」

理「大丈夫です、というかいざとなれば新しく創りますので」

玲「本当に便利な能力だな、理さんのは」


心の底から思うことだ。そして、戦闘部隊では一番経験浅いけど、流石最年長。落ち着いている。いつもいつも、その落ち着きある態度には助かっている。騒がしいのがいるからだろうな。


白「なんかどっかで貶された気がする!!」

玲「超能力者か」

シ「一メートルも離れてない所で貶されてた」

白「悲しい!!」

シ「しかし本当は?」

白「どうも思ってない!」

シ「流石は白輝くん!」


きゃあきゃあと囃し立てる声を立てる二人に、女子か、あいつらは。と理さんが呟いた。あなた女だろ、と思った。しかし俺も女だった。

馬鹿なことを考えていると、扉が開く音が聞こえた。全員がそちらを見る。


水「さあ皆さん。行きますよ」


その一言で全員を纏っていた空気が張り詰める。まあ、笑ってるやつもいるが。


──────────────────────────


全員が廊下に出て、駐車場へ向かう。


白「いやぁ、夜の出勤は慣れてるけど、こんなに『赤蛇』がピリピリしてるのは久しぶりだねぇ」

水「東区のあの時以来ですね」

つ「その現況が今のうちの隊長様だけどね」

玲「ごめんなさい」

シ「あれはまあ、仕方ないんじゃない? あんなことがあったんなら俺、家を潰しにかかるからね」

理「物理的に、だろう?」

シ「うん、能力で潰すね」


恐ろしいな、と思った。うちの部隊、闇が深すぎる。俺が言うのも可笑しいけど。


水「戦闘部隊は怖い人ばかりですねぇ」

白「あはは、水樹ちゃんには言われたくなーい」

つ「水樹ちゃんはあれだっけ? 拾われた系?」

水「ええまあ。五歳の時の話だけどね」

白「で、僕が九つん時に、いろいろあったんだよね〜。僕のあれと、玲の事件」

玲「ああ、そういや同年だったな」


完っ全に忘れてた。あれの方がもっと後だと思ってた。時ってのは経つと怖いな、どんどん忘れていく。


つ「私が入ったのが………いくつだっけ」

玲「四年前じゃなかった? ほら、中学校卒業間際のとき」

シ「え、てことはつゆりちゃん、中学中退みたいなもん?」

つ「そう言われたらそうかな。うん」

シ「うへぇ………俺みたいなのでも卒業したのにねぇ……」

つ「あんたはいつだっけ?」


つゆさんがその話はあんまり好きじゃないのか、あからさまに話をぶん投げた。しかし、シアンは気づいているだろうけど、全く気にしていないように話し出した。


シ「俺はねー、一昨年かな。高校二年の時に家出したら、スカウトされましたって話」

水「そういえばそんなんでしたね」

玲「順番的には後から二番目か」

シ「そうそう、理さんが一番最後だよね。去年だっけ?」


シアンがあっけらかんと家出したことを話した。かなり明るいので勘違いしそうになるが、まあお家は訳ありだ。そんなシアンも話してからなんか気まずくなったのか、理さんに話を振った。

………理さん、戦闘部隊内でかなり複雑なんだけど。


理「いや、ギリギリ一昨年だな。まだ二十になったばかりだったはずだから」

白「てことは、ギリギリ成人式出れたんだ〜。いいなぁ」

理「その後、二次会も出ずに帰らされたけどな」

玲「流石………」

理「流石でも、つまらなかったですよ。こことは天と地の差があるくらいです」

つ「あ、わかる」

シ「すっごくわかる」


つまらなかったのか。つゆさんはお姉さんいたし楽しかったんでは……、と思うが、そういやうちの長男の暗黒時代にあの人絡んでたわ。そりゃ、喋ることもほとんどねぇわな。


白「うへえ、お金持ちは言うことが違うねぇ………。僕ら、生きることで精一杯だったからさぁ」

水「慣れっこだけどね」

玲「俺はどっちに含まれるんだ?」


そうやって疑問を口にすると、無言になられた。え、そんなに難しい事か?


つ「………一応、成宮のお嬢様よね……?」

シ「でも、十歳以下で『赤蛇』にいたよね………」

白「というか、金持ち時代の玲を知らない」

水「流石に成宮の次女ってことで多少知ってましたけど………」

理「………微妙なところですね。家での苦労はされたでしょうけど、こちらの苦労もされてるでしょうし」

玲「いや、わかんないならいいぞ……? それにほら、駐車場すぐそこだし」


そう、駄弁ってる間に、地下駐車場の入口は既に目前となっていた。


───────────────────────────


理さんの愛車(?)に次々と乗り込んでいく。全員が乗り込むのが素早かったからか、出発は早かった。

車内はとても綺麗にされていたが、助手席に乗っているシアンから、笑い声が漏れた。


シ「ちょ、理さん! せめて絵本とかは家に降ろしてこようよ!!」

理「あ、あいつ入れっぱなしにしてたのか」

つ「祭李ちゃん? どんな絵本読むの?」

理「ホラーとか、サスペンス」

水「それ、絵本なんですか?!」


ホラーとサスペンスを読む子供っていったい? と、思ったが理さん自体がそういった本が好きだった記憶がある。そりゃ、そんな人の元で育てばそっち系が好きになるだろうな。

祭李ちゃん、と呼ばれたのは理さんが育ててる女の子だ。決して理さんの子供ではないが。訳あって育ててる感じの子だ。


理「まあ、あれだな。帰れたら叱ろう」

白「帰れたらね〜。………そいや、あれ書かされたじゃん、あれ」

シ「……あぁ…………遺書ね」


……今回の任務………いや、復讐戦は、苛烈なものになると思われる。そのため、遺書を書かされた。その遺書は、一番自分の死を伝えたい人に書いた。まあ、それを聞くのは無粋なので誰も聞いてないが。

ちなみに、自分で言い出したのは別である。


白「水樹ちゃんって、誰に書いたの?」

水「? なんで?」

白「や、親族って時雨君しかいないじゃん。お友達も僕だけだし。誰なのかなー、って」

水「ああ、うん。伊地覇さんに書いたよ」


そこで沈黙が訪れた。恐らくその沈黙は二つに分かれるだろう。

一つは、伊地覇さんって誰?

もう一つは、どうやって送るの?

ちなみに、私は後者である。


つ「伊地覇さん、って誰?」

白「……つゆりんは、伊地覇さん知らないっけ」

シ「俺も知らないよー」

玲「その調子じゃ、理さんも知らねぇな」

理「ええ、まあ……」

つ「誰なの?」

水「『赤蛇』の先代ボスで、私と現ボスの養父です」


月村さんがそう言うと、またしても全員が黙った。月村さんは、それを見て苦笑する。


水「送ったのは簡単ですよ。私が死んだら、伊地覇さんの墓の前で燃やすように頼みました。多分兄……ボスも同様かと」

白「えー………死人に送っていいなら、母さんにも書けばよかったなぁ」

玲「俺は、じいちゃんに書きゃよかった」

白「あれ、玲っておじいちゃんっ子だったの?」

玲「まあ、そうとも言える。俺に勉強叩き込んだのはじいちゃんだったから」

水「地味に多才なのはそのお爺様のお陰ですか……。感謝ですね」


俺らが話している中、ほかの三人は沈黙していた。多分話題の振り方を考えているんだろう。


水「そういや、白輝は誰に書いたの? 予想できるけど」

白「誰だと思うー?」

水「お父上でしょ?」

白「正解ー」

水「むしろ、それ以外って誰かいるの?」

白輝「失礼なー、僕にだって知り合いはたくさんいますー!」


意外だ。いるのか、たくさんの知り合い。白輝はなんかこうやって、戦闘部隊で喋ってたところしか見たことないからな。


白「警察の総監様でしょー、テレビ局の方々でしょー」

水「……………前者には絶対恐れられてるね」

白「あはは、悲しいけどねぇ!」

玲「うわっ、ちょ、白輝! 車ん中で暴れんな!!」


ごめんなさーい、と舌をぺろりと出しながら謝る白輝。反省は全くしていないようにしか見えない。白輝らしいが。

そうこうしていると、やっとかける言葉を考えることをやめたらしいほか三人が動き出した。


シ「俺は、仕方なしに家に書いたよ。流石に無言は恨まれそうだし」

つ「へえ…………。あ、でも淡間屋さんって面倒なことで有名だったっけ」

シ「淡間屋さん、ってか、あれだよ。葵様………えっと、母親が面倒なんだよ」

理「? 母親に様をつけるのか?」

白「変わってるよねー。僕とお家のぶっちゃけ話する時もずぅっとそうだったんだよー」

シ「父親も葵さんって呼ぶんだよねー。母親は絶対権力者みたいなところあるから」

理「面倒だな、それは」


でしょー? と、けらけら笑うシアン。戦闘部隊には、複雑な家庭しかねぇな、って思った。月村さんは家庭って言っていいのかわからないけど。


つ「でもダントツは間違いなく、理さんと玲よね」

シ「俺、理さんのお家事情聞いたことないかなー。あ、聞く気ないからね」


この後、死んだりしたら意味無いし。ということだろうな。

俺らは、戦闘部隊。戦いの場において、最前線での戦いが普通だ。つまり、いつ死んでもおかしくはない、ということになる。まあ、遺書を書いたのは初めてだけど。(月村さんと白輝は十年前に書いているらしい。その節はご迷惑おかけしました)


理「そろそろ着くので、準備をして下さい」

玲「ああ、ありがとう。流石は理さん。予定ぴったりに着きそうだな」

理「お褒めの言葉ありがとうございます。計算はそれなりに得意ですので」

シ「理さん、めっちゃ誇らしげな顔してる。……いっだい!」


理さんがシアンを軽く叩いたみたいだ。軽く、なのかはよくわからないけど、まあいいだろ。


玲「準備っつってもなー……覚悟くらいだろ」

白「覚悟だけなの!?」

つ「武器の手入れとかは出来てるでしょ? 武器持ち歩いてて、使うのアンタと玲だけだし」

玲「理さんは創れるからな」

つ「私とシアン、水樹ちゃんは能力だし」

水「拳も追加でよろしく」


真剣なような、ふざけているような。そんな会話で目的地に近づいていく。その場は、昔の俺に見慣れた場所であったところに近い。そこはかつて大炎上が起きた場所である。十年たった今に、またそこが地獄とかすのは、何かの因果だろうか。

そんな考えを抱きながら、着々と地獄は近づいてきていた。


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