目論む者の様子
登場回数少ない人たちの話です
─────ここは、西区の廃工場。中は混沌としていた。まるで闇鍋の如く。
樹「世壬ちゃん!? 小鬼危ないから片付けてよ〜!!」
世「はぁ? 小鬼ちゃんたちは物じゃないの。片付けるとか言わないで」
夢「いやっ!? でも、あの、俺の目がおかしくなければ小鬼君たち暴れまくってんだけど!?」
?「………………そうでも、ない」
樹「ちょっと、世壬ちゃん! 俺の妹にたい焼き与えて餌付けしたでしょ!」
世「何のことかしら」
夢「恋々〜、カステラ上げるからこっちおいで〜」
恋「………カステラって、何?」
ア「……………………………………お前ら、頼むから片付け手伝え。このままじゃ、あいつが帰ってきた時に笑われるぞ」
私がそういうと、闇鍋の材料(比喩)たちは黙って仕事に戻り始めた。余程笑われたくないのか。
世「というか、アヴィさん。なんであんな野郎が帰ってくるだけで大掃除してんの?」
ア「もうすぐ一段落付きそうなんだとさ。で、めいっぱい寝たいから片付けといて、って言われた」
樹「うっわ、迷惑だ〜」
夢「迷惑この上極まりないね」
恋「……どうせだから、壁に落書きでもしちゃう?」
ア「壁は水無月が汚れ落としたから辞めとけ。水無月の掃除場所がまた増える」
夢「さっき樹々君が汚して増やしてたもんね」
樹「あれは本当にごめんなさい………」
樹々が珍しく項垂れている。まあ、世壬にあれだけ怒られたら、そうもなる。アイツ、意外と子供好きだから、樹々にものすごい勢いで怒っていた。まあ、その子供はオロオロしていたが。
そうやってぼんやり見ていると、後ろの出入口から人が入ってくる。
ア「水無月。終わったか?」
水「あ、はい。雑巾がけとベッドメイキングは終わりました」
ア「おいお前ら! 私たちよりも水無月の方が働いてるぞ!」
水「!? いや、お気になさらず! ………やりたくてやってるだけなので」
少し俯きながら水無月が言う。
水無月は、まだ子供だ。今年で十歳だったか? ちなみに、十八歳の樹々は、ゲラゲラと品のない笑いをしながら、ソファや木箱の上を跳びまくっていた。
その妹である恋々は黙々とその木箱を端に寄せていた。兄に対する些細な抵抗だろう。
世「みなちゃんは、あのクソが帰ってくるの楽しみだもんね」
水「うっ……………まぁ、………楽しみ、ですけど…………」
世「やっぱりあのクソぶん殴りましょ? アヴィさん、いいでしょ?」
ア「気持ちはわかるが抑えろ。水無月が泣く」
水「いや………流石に泣きはしませんけど……」
夢「ちょっと誰かー! 樹々君、絶対酒飲んだ!! 暴れてるから助けてー!!」
ぎゃああ、というような夢羽の悲鳴が聞こえる。そちらを見てみると、樹々が走り回っていた。水無月と樹々は歳が逆なんじゃないだろうか。
はあ、と溜め息をついている恋々が目に入ったから、どうせよくある事なんだろう。ということで放置させてもらう。世壬もそう判断したようだった。
水「……元気ですよね、樹々さん」
世「あれはただの馬鹿よ」
水「ええ…………」
ア「そう言ってやるな。せめて水無月の前では」
世「アヴィさんも思ってんのね」
ア「あれは一回死ぬべきだ」
水「えええ……………」
水無月が狼狽えるがお構い無しに言うと世壬もやっぱり、という顔をしていた。アイツは本当に死ねばいいと思っている。
夢羽「まあまあ、そう言ってあげないの。水無月が泣いちゃうから! 樹々君落ち着いてぇぇぇぇ」
水「や、泣きはしませんけど………。………多少は、悲しいですかね」
夢「ほらね? 泣きはしないらしいけどっ!」
恋「………みなちゃんは、強い。どれだけ無視とかされても、生きてるから。兄様、邪魔………」
世「ま、そうよね。その歳の女の子が……父親に名前を呼んでもらえないなんて、普通は耐えられないわ」
恋「私が、父様に無視されてたら………多分自害した。」
ア「さらっと怖いこと言うな」
確かに、ここは訳あり人の集まりだが、怖いこと言うのはどうかと思う。国際指名手配されてる奴が言うのもどうかと思うが。
その中でも水無月は特殊だろう。どう考えても愛なんて貰えてないのに、父親は娘を捨てず、娘は父親を父と呼ばずに慕う。どう考えても異常だ。
水「………ところで、リーダーはいつ帰ってくるので……?」
世「あ、それ聞きたい。アヴィさん知ってるでしょ?」
ア「あぁ、全部終わってからいろいろ連れてくるらしいから……四日か五日後だとさ」
私がそう言った。すると、恋々、世壬、夢羽は掃除道具を地面に投げ出した。
世「ぜんっぜん先の事じゃないの!? ならまだ暴れていいわね、じゅーくんいい加減黙れ!」
恋「……………まだやる必要ない……。兄様止める………」
夢「あ、ありがとう二人と…………」
「「じゃないと片付け増える」」
夢「決して俺の為ではないのね……」
相変わらず暴れ続ける樹々を見る。その顔は、(酒を飲んだからもあるだろうが)楽しそうだった。心做しか、他の奴らの顔も楽しそうだった。
水「……アヴィリオさんも、楽しみですか?」
ア「? どうして?」
水「笑ってるからです、楽しそうに」
ア「………決してあのクソが帰ってくることが楽しみなわけじゃない」
水「………わかりましたよ」
ア「水無月も、楽しそうだけどな」
水「ここにいることが好きなんです」
水無月はそう言うと、ゆったりとした足取りで暴れている方向に歩いていった。地味に息苦しくなる感覚がした。水無月が能力を使ったみたいだった。じきに樹々が倒れるだろうな。
そう思って、私も加勢しようと、暴れている方に歩いていった。
次からは結です……ついに終わりが…………




