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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~転から結へ~
38/56

写真立て

………着々と結が近づいてきてしまっているのが地味に悲しいところですが、どんどん行きましょう!



実「四ノ原、お茶」

京「はいはい」

実「冷たいものな。お前は温いのが好きだったようだが」

京「坊っちゃん、猫舌ですものねー」


………ここは、何処だ?(『青鳥』の社内です)

というか、あの方々は本当に実さんと京子さんなのか? 性格逆転どころじゃない。実さんは本当に実さんなのか?

そう思ってしまうくらいには、態度が違いすぎる。

京子さんが、しっかり起きて、実さんにお茶をいれている。実さんが、椅子に座って、足を組んで京子さんを急かしている。


未「……………え?」

凜「え、未鶴? 何でいるの?」

未「あ、いや……有給申請しようと思って、彩雅さん探しに来たのと、応援しに珍しく自分から来たんだけど……」

凜「珍しくって……自覚してたんだね」

未「いや、今それよりも、目の前の状況について説明してくれ……」


いや、それは僕だって聞きたい。


実「…………そこら辺から、視線感じるんだけど」

凜「え、あ、すいません!」

実「いや、そんなにカチコチにならなくてもいいんだけど。まあ、動揺だろうし」

未「まあ、その通りっすよねー」

京「坊っちゃんの雰囲気変わりすぎですからねー。いや、私もだけど」

凜「えっと……? そっちが本当の性格なんですか……?」

京「そうですよー。私は語尾を伸ばす感じの敬語で喋るんですー」


笑顔だった。京子さんの笑顔なんて、寝ている時の幸せそうな顔しか見たことなかった気がする。違和感しかない。


実「ふん。それはそれでかなりムカつくこともあるけどな」

京「あら坊っちゃん。言ってくれたらもっと喋りましたのにー」

実「いや、そこは黙れよ」


あ、ツッコミとボケは入れ替わってないんだ。そこはそのままなんだ。良かった、全くの別人って訳じゃないみたい。


実「………まあ、喋りかけてこないと暇だから、先ほどまでの喋り方に戻してもいいけど」

京「訳すと、寂しいから話しかけて、だそうですよー」

実「お前なぁぁぁぁ……………」

未「あ、ならふつーに話すけどいいんだ」

実「……! ………い、いい」


ツンデレか? 地味にツンデレか? 実さん、微妙に可愛いところあるんだな。三年とかそれくらいの付き合いだけど、初めて知った。


凜「えっと……質問してもいいですか?」

京「凜ちゃん、どうぞー」

凜「えっと、お二人はどのようなご関係で……?」

実「主従と言えたら楽なんだけどな」

京「簡単に言ってしまうなら、一宮と四ノ原は幼馴染みみたいなものでしてー。実は七宮(ななみや)もそうだったんですよー」

未「七宮って、確か今の成宮だったよな」

凜「え?」

「「「え?」」」


僕が疑問形で返すと、他の三人も疑問形で返してきた。

………七宮が、成宮? 何それ、知らないんだけど。え?


未「は? お前、小学校二年生まで七宮凜って自己紹介してたじゃねぇか。忘れたのかよ」

凜「え? 僕はずっと成宮って言ってたよ?」

京「噛み合いませんねー? でも、凜……さん? は、七宮の次女さんでしょ?」

実「あー……………そっか、なるほど。だから忘れて………」

未「実さん、どうかしたの?」


実さんが何かを呟いた。未鶴はそれを聞き逃さず、すかさず聞き返した。


実「……ちょっとだけ待って。成宮彩雅に聞いてくる」

未「え、なんで彩雅さんを呼び捨て………」

京「それは坊っちゃんがいない間に説明しますねー」


─────────────────────────


十年前まで、名無島には階級があったんです。まあ、上の方だけですけどねー。一から十の数字がつく家があって、それらは下から上に偉くなるシステムでした。まあ、ここまで言えば、わかると思いますけど、坊っちゃんは一宮。トップでしたねー、まあお父上が当主を務められてましたが。

で、一から十まである、と言いました。しかし、今も尚、権力を握っているのはたった三つだけです。他七つは壊滅または没落したんですよー。

壊滅または没落したのは、上から一宮、二科(にしな)、四ノ原、五見(いつつみ)六貝(むかい)八卦(はっけ)十頭(とうず)の七つです。まあ、私と坊っちゃんが『青鳥』にきたのは、家がほぼ壊滅した為、行くところが無くなったからー……で納得できるでしょう?

さて、まあ、残りはだいたい分かるでしょう。未鶴……さんなんかは。凜……さんは、忘れているようですけどね。

残ってまだ権力を握っているのは、三和(みわ)、成宮……旧姓は七宮、宰国院(さいこくいん)……旧姓は九院(くいん)の三つだけ。九院に関しては、宰国院って言うよりも中央銀行って言った方が伝わりますよねー。あそこは没落なんて言葉知らないと思いますし。

あぁ、でも最近は三和が危ないって聞きましたね。借金したとかどうとか。……東区大炎上以前に苗字を変えた七宮と九院は利口だったと今なら思えますねー。権力よりも、どちらかと言うと島との和睦と存続を選んだこと、昔は有り得ないって言ってたんですよー。

あ、大炎上のことは覚えてます? ……ですよね、あれは流石に覚えてますよねー。数々の富豪の家や別荘地が燃えて、窮地に立たされたあれは……。無くなった我々の家は、そこに近かったんですよー。七宮や九院は中区に家があったので損害は別荘地ぐらいでしたっけー? あ、違うか。出火元が七宮の別荘でしたね、確か。

三和はそこから離れた位置に家があったので損害無しで生きてきたんでしたよ、確か。

………これくらいですかね、私が話せる限りのことは。


──────────────────────────


京「まあ、偉いお家の人だった、と言っても私は三女でしたから、あんまり力とかはありませんでしたけどねー」

未「能力は強いだろ……」

京「まあ、家では強かったですけど。その点も含めて、坊っちゃんが大変だったんですよ。一人っ子で、五感を操る能力持ちで。だから私がお世話役になったんですよねー」

凜「……………七宮………」

京「ああ、まあ。覚えてないんなら大丈夫ですよー? あなたは何もしてませんし」


上品だけど明るい笑い方で笑う京子さん。本当は明るい性格だったんだな……。面倒臭がり、というイメージしかなかったけど。


京「失礼なこと考えてますよねー。まあいいですけど」

凜「いいんだ………」

京「まあ、私と坊っちゃんの性格を入れ替えた結果でしたし。私は面倒くさがりなんでだらけが入っただけでしたけどねー」

実「本当にな。僕もそこまでだらけていなかったのに」


実さんが帰ってきた。彩兄に会ってきたみたいでゲッソリしてたけど。


実「未鶴………くん? 七宮……じゃなくて、成宮彩雅が有給認めると言っていたぞ」

未「あ、どーも。後、未鶴でいい」

凜「僕も凜でいいですよ。京子さんも呼び方迷ってましたし……」

京「ありがとうございますー」

未「………話聞いてから帰ろっかな、気になるし」

実「いや、そんなにいい話じゃないけど」


実さんが、少し視線を横にずらす。危ない話でもあるんだろうか。それならお断りしたい気持ちもあるけど。


実「まあ、あれだ。心して聞け。多分、東区や凜の通っていた大半の小学校関係者、知り合いの記憶が改竄されている」

京「はい?」

実「恐らく僕と四ノ原もだ。全く記憶にないが、たった一人だけ、全てを覚えている奴が居たからな」

未「えっと………? え? それつまり、俺も?」

実「あぁ。恐らくだが。未鶴の幼馴染みは成宮家だろ?」

未「遊んでたのは凜から下の子だけですけど……」

実「そいつらの名前を言ってくれ」

未鶴「………? 凜と奏理、歩歌だけど」

実「それが答えだ。記憶がある奴とお前らの記憶に違いがある。二人、足りてない」


え……………? 何を言ってるんだ、実さんは。僕に弟妹は二人しかいない。

………記憶に違いがなければ、だけど。

そうやって考え込んでいると、実さんが再び元いた椅子に座り、話しかけてくる。


実「凜。君は家に可笑しな部屋とかないかな? 例えば、物置になっている部屋とか……家具があるのに、誰もいない部屋とか、不自然な部屋とか」

未「あ、あることね? ほら、端っこの部屋。鎖が巻いてあるけど、ベランダから入れる部屋」

凜「……………母さんの部屋だった場所の隣?」

未「そうそれ。中に、ベットとか本棚、ぬいぐるみの置いてある……ん?」

凜「未鶴?」

京「どうかしましたかー?」

未「……いや、あのさ………、その部屋、どんなのかは忘れたけど、写真立てあった気がするんだけど。あの部屋、普通は入れないからさ、まだあるんじゃね?」

凜「! ……………確かに」

実「………僕も連れてって貰えるかな?」

凜「実さんも行くんですか?」

実「気になるからな。四ノ原は……」

京「大人しく仕事してますー」


京子さんは笑って言った。実さんはそれに対して何も言わなかったから多分そう言いたかったんだろう。

本当に長年の付き合いなんだな、と感じた。


──────────────────────────


そして、私と未鶴、実さんは成宮家にきた。(ちゃんと仕事は彩兄に言ってから抜けてきた)

端の部屋、というのは二階の東の部屋。しかし、先ほど未鶴が言った通り鎖がドアのところに巻き付けてある。

……心做しか、誰も触っていない筈のドアノブが、少しだけ綺麗にしてあるような気がする。誰か掃除したんだろうか。隣の、母さんの部屋は掃除されてない様子なのに。


実「………どうやって入るの、これ」

凜「こっちからです。ちょっと埃っぽいので気をつけてください」

実「ああ、わかっ………ゴホッゴホッ!!」

未「うえ、汚ったね。本当に帰ってきてないんだな、おばさん」

凜「うん、しばらく顔すら見てないよ」


母さんが出ていったのは四年前。言ってしまえば失踪みたいなものだ。夜はいたけど、次の朝にはその部屋にいなかった。それ以来、この部屋は変わっていない。


凜「で、ベランダ……というか、バルコニーっと………」

未「それ、油指してないけど動くのか?」

凜「………動かないね。しょうがない、壊すか」

実「え」

凜「ちょっと離れててください、実さん」


そう言うと僕は、近くの椅子を持ち上げ、バルコニーに続く窓から離れた場所に立った。そして、椅子を………思いっきり投げた。


実「は!? そんな壊し方するの!?」

凜「開けばいいんですよ、開けば」

未「凜、そういうところあるからなー……」

凜「うっさい。ほら、行きますよ」


そう言って壊れたところからガラスが刺さらないよう気をつけてバルコニーに出る。前にここを通った時は低かった景色が、高くなったのを感じた。


未「で、向こうまでは……」

凜「僕が橋を作るよ」

実「……………便利な能力だね、植物って」

凜「………………まあ、種がいりますけどね」


そう言っている間にも橋は出来上がった。僕の能力の植物は育ちが早い。その分、体力を使うが便利な能力だ。

僕は一番最初に植物の橋を渡る。見たいからだ。そして、隣の部屋のバルコニーに着くと、少し違和感を覚える。


未「………綺麗すぎじゃね?」

凜「未鶴も思った?」

未「この部屋、誰もいねぇだろ?」

凜「強盗が入ってなけりゃね」

実「物騒だ……………」

凜「まあ、それもないだろうし。誰かが掃除してたんだろうね」


そう言って、バルコニーの方から扉を引く。すると…………開かないと思っていたのに、すんなりと開いた。それに驚く。そして、ゆっくりと室内に入る。自分の家なのに変な感じだ。


凜「お邪魔しまーす………」

未「ここ誰の家だっけ」

実「凜のだね」

凜「いいじゃん別に………」

未「で、写真立ては、っと……………どこにあったっけ?」

凜「棚の上とかでしょ………? にしても………綺麗に掃除されてるな……」

実「絶対誰か掃除してるか住んでるな、これ」


実さんが怖いことをボソリと呟いた。強盗だったら即刻通報ものだな、と思い、用心しながら探す。

しかし、探しているうちにそれも馬鹿なことかもしれない、と思い始めてきた。ベッドが、綺麗すぎる。強盗とかなら、もっとだだくさにやっているだろう。


未「お? ……………当たりだ。凜! あったぞ」

凜「お手柄だね、未鶴! じゃあ見せ………」

実「僕が先に見る」


実さんが少し強引に未鶴から写真立てを奪い取った。未鶴はやや顔をしかめるが、見れるならいいや、と思ったらしく何も言わなかった。


実「…………やっぱり、消せるのは記憶だけなのか……。改変は出来ないみたいだし……………」

未「何物騒なこと言ってんの、実さん」

実「………見ていいよ」

未「はーい。…………………………これ、俺と凜?」

実「多分ね。瞳が青いのが凜だろ?」


未鶴が頑なに写真を見せてくれないんだけど。二人が話してる会話に全く入れない。確かに僕の瞳は青いけど。それがどうしたのか。


未「……………………じゃ、これ誰だよ」

実「………………」

凜「み、実さん」

未「凜に見せますよ?」

実「………ま、その為に成宮彩雅に許可貰ったから」


実さんは、そう呟くと覚悟を決めたような目をして僕らを真正面から見つめ、僕に写真を見せて言った。


実「これが未鶴?」

未「おう」

実「これが、凜だね」

凜「多分、そうです」

実「じゃ、二人共。この子に見覚えは?」

未「あるような、ないような。凜と瓜二つってことは分かるけどな」


未鶴が言った言葉に、何か引っかかるものがあった。最近あったことが、何か…………、何か……………………。


実「そうそれが大切だ。凜と瓜二つ。つい最近、僕らはそんな人に会った。凜と瓜二つで、この写真のように……赤い目をした人に。」

未「? 誰だそれ」

実「未鶴はちょっと前からお家が忙しいみたいだからないか」


実さんがそこまで言った時、僕は頭の中で答えを導き出したように思えた。そして、それを口に出していた。


凜「………………………玲、ちゃん…………?」


そう言うと、実さんは複雑そうな顔で、頷いてくれた。

何でだろうか。玲ちゃん(らしき人)がこの写真にいる。勿論、それも不思議なのだが…………。僕は、この写真を見て、何故かしっくりきてしまっている。それが、不思議で堪らなかった。


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