いこうか 赤蛇
美「………………なるほどね 」
紫「それは…………」
仕事ではなかったハズの二人を、電話で呼び出してからすぐ。兄者の執務室には、二人の幹部と二人の補佐、そして、ボスである兄者がいた。
時「……しょーじき、今すぐ単身でもいいからぶん殴りに行きたい」
美「それはやめて。お願いだからやめて」
時「いや、しないから安心して」
兄者が、ケラケラと笑って訂正を入れる。いくら兄者みたいな自由人でも、流石にしないだろ。はは、と乾いた笑いが口から出た。
玲「……で? どうすんの? なんなら俺、今すぐ政府に許可とってくるよ? 殴り込み許可」
時「天音さんと緋暮くんが来てからね。今一番、ダメージを受けてるのはあの人たちだから」
紫「まあ、こうもわかりやすく挑発されてるんで、打ち返されるであろうことは向こうも分かってるでしょうけどね」
美「紫由、相変わらず辛口だね……」
紫「そうですか? 僕よりも、兄の方がすごい発言する時ありますけど」
そんな時があるのか……。いや、いつも弟に怪訝にされてるところしか見てないからわからないだけかもしれないけど。
そう思っていると、ガチャリと扉が開いた。
緋「遅くなりましたー」
天「………………………」
時「いいよ。来てくれてありがとう。で、こんな時に呼んでごめんなさい」
天「…………いいわ、大丈夫よ。私も、さっきはごめんなさいね」
天音さんは、こんなとき普通謝らない。つまり、考えられることは二つ。本当に心から悪いと思っているか、あるいは………
時「君、本当に天音さん? 偽者?」
緋「ぶっ……!」
美「………くくく………」
紫「………ボス……」
玲「………………」
という事だ。偽者という可能性がある。まさか兄者が本当に言うとは思わなかったけど。
天「あ??」
玲「ほら! 早く進めて、お願いだから進めて!」
美「そ、そうそう! 早く早く!」
おい、ハルはさっき笑ってたろうが。そうやって心と目線で訴えるが、知らんぷりのようだった。紫由を見るとため息をついている。呆れられてる様だった。
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時「さて、どうしたいかな?」
天「殴り殺す」
玲「俺よりも物騒なこと言ったね!?」
緋「そりゃ、キレてるからな。俺も賛成だけど」
美「異議はないけど、俺らは参加出来にくいかな。一応、国外の奴が多っぴろに動くのはちょっとね」
紫「そうなりますね。なので隠密部隊で動くことが可能なのは、遠江さんと黒祈くん、空日さんのみです」
時「そこは仕方ないよね。留守番は頼むよ」
水「え、その発言からするともしかして、ボスも出るので?」
水樹さんが聞いた。俺も聞きたい。トップ自らが出るとか、危ないだろ。
時「……俺がここでじっとしてれると思うのかな?」
天「思わないわね」
玲「まあ……思えないけど」
美「両隣に同じく、かな」
時「でしょー?」
うーん、ここまで聞くとこの組織大丈夫か? ってなるな。というか、伊勢さんに何回か言われたな。大丈夫じゃないようだ。
玲「……じゃ、満場一致(に近い状態)か。聞いてくるか?」
時「今ここで電話して? 急用だって言えば行けるでしょ」
玲「……普通の人なら行けるけど、あの人今職場で仕事してるかな……。してますように………」
美「小さい時からずっと思ってたけど、みゃーちゃんのお母さん凄いよね……」
ハルは幼馴染みだから、うちの母をしってる。最初見た時は、目を白黒させてたっけ。……そう言えるくらいにはインパクトのある人だろう。
玲「…………………………もしもし。伏見さんですか」
翁『私の声が那緒の声に聞こえたなら、耳鼻科を薦めるわ』
玲「……珍しい、仕事場にいるんだ」
翁『私をなんだと思ってんの、アンタ。で? ご要件は?』
玲「出撃と襲撃の承認」
翁『許可。分かってるから、ぶっ潰してきな』
あっさりだな……。でも、母さんも本当にこの人成宮の正妻か? と思うくらい父さん………成宮播麻が嫌いみたいだし。(本人曰く、政略結婚らしい)
翁『出来るだけ派手に諸悪の根源をぶっ潰してきなさい。アンタや遠江くん(?)、里峰くんや空日ちゃん、そして珂由の人はアイツに恨みあるでしょ』
玲「そりゃそうだ。まあ、許可貰えるんならそれでいい。ありがとうございます、成宮長官」
翁『いえいえ、大丈夫よ。『赤蛇』第三幹部及び戦闘部隊長さん。……………頑張れ』
プツッ、と通話を切る。そして、許可されたことを伝える。天音さんは不敵に笑い、緋暮さんは頭を搔く。ハルは頑張ってきて、と応援をして、紫由は何も言わずただ控えている。兄者は支持を飛ばし始める。水樹さんは俺に声をかけた。
水「大丈夫ですか?」
玲「大丈夫だよ」
これでも、十年の付き合いだから、多少は言葉が無くても通じる。多分、親に歯向かうのは心苦しかったりしませんか? まあ、私にはわかりませんが。とかそんなもんだろう。
玲「俺、十年前の東区大炎上から吹っ切れてるからな? 大丈夫だ」
水「………そうですか。じゃ、大丈夫ですね」
時「で、戦闘部隊ー。君らはもうあれね、いつも通り。先陣は矢上ちゃんと一樹さん使っていいから」
玲「了解」
そこまで言うと、兄者は全部説明し終わっていたようで、解散と言おうとしていた。
しかし、扉が勢いよく開いて、それは遮られた。扉を開けたのは、紅蓮だった。後ろから千桃と中戸さんも来ていた。
天「紅蓮?」
紅「あいくんが起きた!!!」
千「母さん、ひーくん! 早く来て!!」
ガタン、と天音さんが立ち上がる。そして二人の方へ歩いていく。緋暮さんも急いで立ち上がった。しかし、中戸さんがそれを制した。
緋「? 陽くん、どいてくれる?」
陽「まってくださいよ〜。ぼくはじゅうようじょうほうをつたえにきたんですから〜」
時「重大情報?」
陽「はい〜。えーと、ちなつ? さんからです〜」
美「誰?」
紫「知りません」
水「どなたです?」
玲「…………メールでもきたの?」
陽「えっと、たしかですね〜。『せいちょう』さんせんします、でした〜」
動揺がはしる。『青鳥』が、参戦? つまり、前の『黒亀』事件と状況が同じになる?
玲「………中戸さん。そのメールさ。送り主、知る夏って書いて知夏?」
陽「はい、そうですよ〜」
玲「あー……………緋暮さん」
緋「?」
玲「そいつです。貴方と藍砥を襲ったの。低身長で灰色の髪の奴が、知夏って名前のアイツですよ」
緋「あ……アイツか………!」
時「知ってんの?」
俺と緋暮さんが顔を見合わせた。言いたいことはわかる。少しだけどわかる。
玲「………俺の、専属のお世話役がそいつです。弁解しておきますけど、いい奴ですよ……」
緋「雇われの身だからやったんだろうな……」
玲「これ、天音さんに言わないでおこう。俺はアイツと戦いたくない」
水「珍しい。貴女がそういうなんて」
時「気持ち的な戦いたくないなら、押し潰してもらうけど……」
違う。違うんだよ。緋暮さんも、目を伏せてため息をついた。アイツの本質を知っているからだろう。知夏なら防壁を張る前に攻撃されても可笑しくはないと思ってるかもしれない。それはないと思うけど。単に不意打ちだからだ。
玲「違くて……単にアイツ強いんです。ものすごく。俺、一勝も出来たことないです」
紫「…………………は?」
水「ちなみに、私は勝てますか?」
玲「触ったら投げられる」
水「……………能力攻撃しかできない……?」
玲「それでも強いですからね……」
時「ま………そいつは上手くかわして。最終目的は成宮播麻一人だから」
玲「了解」
俺がそう答えると、追加報告&命令は無いらしく。兄者が立ち上がった。それと同時に緋暮さんが立ち上がって早足で部屋を出ていった。中戸さんは一見のんびりと見える仕草でお辞儀をして出ていった。
俺も戦闘部隊の執務室に戻るために立ち上がる。水樹さんはよくわかっているみたいで、後ろから着いてきた。後ろからじゃなくてもいいんだけどな。
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シ「理さぁぁぁぁん!? ちょ、大丈夫!?」
白「あっははははっ! 理姉サン、引っかかったー!!」
つ「うわ、タチ悪い」
理「……………白輝、貴様………!」
水「いや、何してんですか。白輝は大人しくしばき倒されろ」
戦闘部隊の執務室に入ると、騒ぎが起きていた。白輝の仕業の様だった。
………ここは、外の起こったことなど知らないかのようにしていて、本当に別世界なんじゃないか、と思った。白輝がイタズラを仕掛け、シアンがそれを見て騒ぎ、つゆりさんが呆れ、理さんが怒る。水樹さんは時と場合により笑ったり注意したり。いつも通りすぎて、笑えてきた。
玲「………さて、全員。座れ」
だから、そうやって言葉を発するのは、少しだけ辛くもあった。
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白「え、マジ!? 戦争?」
つ「………藍砥君は一命とりとめたけど、やばかったものね」
シ「……『青鳥』も、来るのか〜」
理「東区に行くんですよね……?」
玲「まあ、行くな。覚悟だけは決めてくれ」
理「はい……。しかし、最奥って、家の近くなんですけど………」
シ「うちはそこそこ遠いからいいけどさ〜………」
つ「私は近くも遠くもないわ」
白「お金持ちは大変だねぇ……。僕は一般家庭育ちだったからな〜」
水「まあ、それはなんでもいいけど」
水樹さん、辛辣だな………。これも、いつも通りだけど。つい、苦笑いしてしまう。
つ「というか、玲は大丈夫? 別荘なんてほとんど来なかったでしょ。外見は綺麗だったけど」
玲「昔、妹と一緒に忍び込んだことはあるから大丈夫」
白「玲の大丈夫って信頼できないよね!」
水「ですが、その妹さんとも相対する羽目になるでしょう?」
玲「……………そうだな」
理「失礼かもしれませんが、どのような方だったので?」
理さんが聞いてきた。容姿の話だろうか。それとも、性格の話だろうか。
玲「うーん………容姿は俺そっくり。目の色が違うくらい。性格は……」
つ「アンタ、ものまねできるでしょ」
玲「……………三分待ってて」
そう言うと俺は、扉を開けて廊下を走った。普段なら喋り声でうるさいはずの廊下は、事件の大きさのおかげか、誰も歩いていなかった。
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つ「…………あら、本当に完璧に真似てきたの。流石」
玲「…………喋り方も真似しようか?」
つ「ええ。よろしく」
玲「マジかよ………」
チラリと横を見ると、期待の目を向ける理さんが目に入った。水樹さんは驚きの目を向けていた。
水「す、す………スカート…………」
玲「……妹はスカートを履くんだよ……」
白「そんなの、どこにあったの〜」
くつくつと笑っている白輝を無視して、咳払いをする。この前会ったし、多分出来るだろう、多分。自信は多いわけではないけど。
玲「あー…んん! …………僕の性格は、人を優先して、自分を後に考える……みたいな?」
シ「…………今どき女子? でもって、僕っ子とか、え、そんな可愛い妹ちゃんなの? 会ってみたいわー」
玲「妹の口調で言うのもどうかと思うけど、妹は天使だよ。あ、でも、他の弟妹も可愛いよ」
白「玲さー、黒くんだけかと思ってたけど、兄弟馬鹿だね」
玲「兄と姉は普通もしくはあんまり好きじゃないけどね」
理「姫は弟妹馬鹿でしたか………」
なんか失礼なこと言われたよ。何でだろうか、馬鹿にされてるんだろうか。事実だけども。
つ「てか、話戻しましょ? いつまでもこんな馬鹿騒ぎしてらんないでしょ」
水「………つゆさんから始めたんですけどね……」
玲「…………………その通りだな」
白「妹ちゃん大好きな玲が分かったねぇ」
玲「あぁ。ものまねが出来るくらいには、目に焼き付いてるよ。もう笑い合うことは出来ないだろうけど」
そう言うと、静まり返った。それを見て、苦笑したあと、俺は表情を消した。
玲「まあ、仕事に私情は挟まない。仕事の話に戻るぞ」
白「はいはい、りょーかい」
シ「白輝君は、本番にならないと本気入らないね……」
理「いつもの事だろう? 天才でも阿呆は阿呆だ」
つ「理さんはいつも同じ感じだけどね」
水「そりゃ、理さんは白輝と違って阿呆じゃないもの」
白「みんなして僕を滅多打ちだね!?」
………やっぱり、変な集団なんだな、と感じる。でも、これが戦闘部隊及び『赤蛇』なんだろう。
俺らは、死を恐れない。覚悟して挑んでるからだ。そして、いつ死んでもいいようにしてある。だから、今を全力で楽しむ。
……でも、まだこの日が続いてほしいな、とそう思うくらいには、ここが大切で愛おしい。出来ることならば、無事に帰って来れますように。
そう願って、俺は話を戻した。




