表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~転~
34/56

Monologue

今回はアンデッドのお話です。視点は黒祈です


──────北区にある、山の山間部にて。


薄暗い山を、突っ切るようにズンズンと歩く。その足に、迷いはない。まるで、歩きなれた庭を歩くように。

…………まあ、実際、歩きなれてるんだけどな。


黒「……………………此処はやっぱ、落ち着くわ」

陽「うすぐらいから、ですかー?」

黒「そうですよ。日光ほどに怖いものは無いですから」

陽「そうですね〜、ぼくも、おつきさまがすきです」

黒「あんたはそうでしょうね。俺は……曇り空が好きですから」


俺は、少しの光も………好きにはなれないのだから。

紫外線だと、俺の場合は灰も残らないしな。嫌いどころか、もはや消えろとまで思うほどだ。

……それだと、アンデッド以外の奴らが悲しむからダメだけど。

そう考えながら無言で歩く。

隣には、何も喋らないが、常にニコニコしている陽さんがいる。

いつもの事だが、陽さんはなんで笑ってるんだろうと思う。

聞きはしないけどな。


───────────────────────────────


ただひたすら歩いていると、一つ、家が見えてくる。

何故、薄暗い中に家が?

そう思う人が多いと思う。俺も最初はそう思った。

しかし、何処か浮世離れしたかのようなその家は、かなり昔からあるらしい。

俺と陽さんはその家の扉を開けた。

玄関ホールは、外見に合った感じで、オレンジ色の鈍い光で照らされていた。

(全部屋こんな感じである)


陽「ただいまでーす〜」

黒「ただいま」


帰宅を告げる挨拶をする。

すると、奥の部屋の扉がゆっくり開いた。古い洋館にありがちな壊れたオルゴールのような音はしない。

そこから現れたのは、微笑んでいる青年だった。


黒「あれ、珍しく黒塚さんいないの?」

陽「こうやさん、こんばんは〜」

洸「こんばんは、陽くん。友斗さんはキッチンにいるよ、黒祈」


洸也(こうや)、と呼ばれた青年は、丁寧に質問に答えた。

この人は御時(みとき)洸也(こうや)さん。この家で雑務全般を行う人だ。


黒「キッチン?なんでまた」

洸「みんなが来るから、自分でやりたいんだってさ。あの人、多才だからね」

陽「なるほど〜。ゆうとさんのごはんはおいしいので、たのしみです〜」

洸「うん、そうだよね 」


にこやかな会話が繰り広げられる。俺はその中に入らない。見てるだけで十分。むしろ、表情筋がほとんど動かないから入らない方がいい。

気を遣わせたくはない。


洸「さて、立ち話が長いと神奈に怒られちゃうからね。中に入ろうか」

黒「やっぱり尻に敷かれてんの?」

洸「恐ろしいこというね………? 敷かれてないってば………」

黒「あ、そう」


───────────────────────────────


神「遅い!!」


案の定、お盆が恐ろしい速度で飛んできた。つまり、怒られた。

しかし、陽さんがお盆を片手で受け止めたので、何事も無かった。


陽「かんな〜? あぶないですよ〜、ぼくじゃなかったらがんめんちょくげきでしたよ〜?」

神「うっ………ごめんなさい」

魅「神奈ちゃん、みんなに会いたかったんですよ〜」

神「み、魅波さん!?」

狐「魅波、可哀想だから言わないであげて?」

神「狐茶さんも、何言ってんですか!?」


神奈さんが狼狽えている。まあ、狼狽えるだろうな。

俺なら気にせず流すだろうけど。

そうやって、ぎゃあぎゃあと騒いでいるときだった。

その部屋の俺達が入ってきた扉が開いた。


友「……おや、皆様、もうこんなにお揃いでしたか」

陽「ゆうとさん〜、こんばんは〜」

黒「友斗さん、どうも」

友「はい、いらっしゃい。小雪様はもうすぐ来るので、お料理をお楽しみくださいな」

魅「だってさ! 髏呂ちゃん!!」


魅波さんが、ソファの方に向かって言った。そうすると、ソファから立ち上がる影があった。ぼんやりとしながらヘッドホンを外して、こちらに歩いてくる。

………佐々(ささき)髏呂(ろろ)さんだった。


髏「………チキン」

友「もちろんありますよ」

髏「の、頭」

友「それは狩りにでも出てください」

髏「冗談」

友「冗談に聞こえませんでしたよ……。というか、この会話、先ほど厨房に来た吉倉(よしくら)さんともしたんですけど」

陽「いちろうたさん、きてるんですかー?」

友「ええ。蛟さんと一緒に」

黒「珍しく早いんだ。(みずち)さん」

蛟「………珍しくとは、失礼なものだねぇ、吸血鬼くん」

一「蛟くんは煽り癖をやめようね?」


後ろから、それまでは感知できなかった気配が在った。

驚く友斗さん以外。友斗さんは、気づいていたようだった。

……そこには蛟さんと、吉倉一朗太(いちろうた)先生がいた。流石は歳も高い分だけある。

そう考えていると、蛟さんに睨まれた。

読心術でも使えるのだろうか。


蛟「後は百々目鬼くんだけかな?」

一「百々(ももか)くんのことだから、もういるんじゃないかな? 服にも、外見にも見合わず身体能力高いからね」

百「あら、吉倉先生? 褒めて下さるなんて嬉しいわ」

孤「……………誰も褒めてないと思いますよ? 百々佳さん」


………女性に全く興味が無い(血液関連ならそりゃ、体型のいい人がいい)俺が、この人………藤森(ふじもり)百々佳さんは美人だと思う。ミステリアスで多少悪戯好きだけど。

魅波さんは綺麗だけど元気さが全てを相殺しているからアウト。(孤茶さんの前で言ったら殺されそう)


百「ところで、まだご飯は出ないの?ステーキ食べる為にわざわざ仕事を日中に終わらせたのだけど」

一「山の外にまできてた美味しそうな匂いのおかげで、誰かを食べてしまいそうだったよ」

髏「………それは、ちょっと……」

陽「ぼくはとなりにくろきがいましたから〜」

黒「いなかったら食ってたのかよ」

魅「物騒だね、肉食組は!」

孤「………僕も肉食組なんだけど?」

友「そこは気にするべきでないかと思いますよ」

蛟「妖狐くんは突っ込むねぇ……。やっぱり、俺とは違うよ」

洸「蛟さんは扱いづらいですものね」


いろいろな言葉が飛び交う。そして、ふと気付いた。神奈さんがいない。

誰も指摘しないから、恐らく気付いていないか、どこへ行ったか知っているんだろう。

そう思った時だった。扉が勢いよく開け放たれた。

…………というか、蹴り開けられた。

そこには、神奈さんが両手と頭に皿を載せた状態で、片足で立っていた。もう片方の足は、扉を蹴ったのだろう。片足を前に突き出している。


神「はいはい、皆さんー。テーブルを開けてください。後、男どもは手伝ってください」

蛟「おっ、出来たのー? って、肉かー………」

髏「肉………お野菜も………」

一「髏呂くんは、食い意地張りすぎだねぇ。可愛いけど」

孤「吉倉先生、それだけ聞いたら変態です」

神「ほら、黙って来てくださいよ! 小雪ちゃんももうすぐ来ますので!」


神奈さんが言った。へぇ、小雪は意外と早く来るんだな。いつももう少し遅いのに。

呼び出した本人が未だに来ない変な集まりはもう終わりのようだ。

呼び出した内容は、わからない。黒塚さんは聞かされてんだろうけど、ニコニコ笑顔で何も言わない。

神奈さんが蛟さんと洸也さん、孤茶さんを引っ張っていく。俺も男なんだけど、呼ばれない。ついでに吉倉先生も。(多分年齢的な問題で)

俺はまあ、ガキだからって意味だろうけど、吉倉先生、見た目は若く見えるのにな………。この人、見た目だけ言えば三十歳だから。実年齢は五十歳はいってるけど。


───────────────────────────────


そうしていると、ご飯が揃ってきた。すごい美味そう。名前カードがテーブルに並べられ、その前には個別に別のものが置かれている。

………好みによって違うみたいだな。吉倉先生のところには肉が置かれている。(牛肉だと信じよう)

髏呂さんのとこには………盛り合わせか?(大食いである)

俺のところは…………なんか、真っ赤な飲み物がある。………………一つしか思いつかない。きっと、吸血鬼といって思いつくものだろう。


神「はい、終了。小雪ちゃん、さっさと入ってきて?」


神奈さんが言った。………小雪、もしかして働きたくなくて外で待ってたのか。

そう思い、扉の方を見ると案の定扉が開いた。そこには、白髪、前髪にひと房水色のメッシュがある子ども………俺ら、アンデットの親玉、夕凪小雪が立っていた。


小「…ご苦労さま。」

神「あなたねぇ………」

百「まあまあ? 小雪ちゃんはこうじゃないとね」

髏「………ご飯、食べる」

魅「お魚ー!!」


女性陣が騒ぐ。最後二人は早く食べたいだけみたいだった。

まあ、俺も、個別に置かれたものを目の前に、待て、は正直辛い。涎が既に出そうだ。


小「………食べるなら、席について話を聞きなさい」


小雪がそう発すると、一瞬にして席に座る腹減り組。(俺もいる)

のんびりと座る成人組(魅波さんを除く)+陽さん。

最後に小雪が席についた。

そうして、言った。


小「…………近い内に、成宮当主が動くみたい」


ピシッ……………と、空気の凍りつく音がした。それと同時に、殺気が室内に溢れた。常人なら、卒倒レベルだ。


小「何かするつもりみたい。どうしたい?」


沈黙が訪れる。

チラリと横目で見ると、蛟さんまでも笑顔を消している。無表情だ。


髏「………その次の日に、また今日みたいにご飯を食べたい。前、あの人と会った次の日は、食べられなかったから」


髏呂さんが言った。


陽「みんなが、にこにこえがおでわらっていられるひをむかえたいです。はじめてあったひは、そんなかんじはまったくなかったので」


陽さんが言った。


蛟「私、正直、日光下に出られない以外では不便してないのだけどね……。でも、残念ながら、他の人間に被害が及ぶのも面白くない。知人もいるし。それなら僕が多少の危険を侵すのは仕方ないかな」


蛟さんが言った。驚いた。


洸「神奈と話していたけど……神奈には、夜間学校のお友達がいてくれてね。その子達、中区に住んでるらしくね………」

神「その子達も巻き込まれる恐れがあるんなら………私は手段を選ぶ気はさらさら無い。」


洸也さんと神奈さん……御時兄妹が言った。


一「大切な人で言うなら、私にも娘がいるよ。幸せな家庭を築いている。しかし、一緒に歳をとることは出来ない。そんな方々に増えて欲しくはないね。」


吉倉先生が言った。


孤「魅波とは前話してましたけど……僕らは、ここにいる人が一人でも動くなら動きますよ」

魅「それが、大切なものを守るための事だと思ってるから」


孤茶さんと魅波さんも言った。


百「私は、この身体になってからは割と幸せよ? ここにいるみんなと会えたもの。………でもね、こうならない未来は、もっと別の会い方を出来たと思ってる。幸せな、笑顔での会い方ね。それなら………今の幸せを守る為に、みんなが動くから動くわ。みんなの幸せだものね」


百々佳さんが言った。百々佳さんらしい。


友「……………………いつも、夢を見ます。救えたんじゃないか、って。いつも、感じています。ここに、彼女がいたんじゃないか、って。そうだったら……小雪様、もう少し笑えてましたよね」

小「………………………うん。笑えてたよ、昔は」

友「それなら、私は被害を増やさないようにします。神奈さん同様、手段を選ぶつもりはないです。小雪様の大切なものを、出来るだけお守りします」

小「私とて、黒塚に言われずともやってやる。これ以上、この家を不幸せにしないために。集まってきた同胞を、守るために。」


小雪と友斗さんが言った。多分、この人たちの決意が、一番強いだろう。


小「最後だよ、黒祈」


小雪が、俺に言った。


黒「………………最初のアンデットは、俺。俺が成功させられたから、みんなが巻きこまれた。俺が成功しずに、死んでれば、もう少し遅くなってたかもしれない」

陽「そういうわけでは…………」

黒「いいんだよ、陽さん。…………姉さんは、そんな俺を、大切に守ってくれた。おかげで、ここまで育つことが出来た。…………それと同時に、姉さんの人生を俺が消費した。俺は……、それを、償いたい。謝りたい。それで……ありがとう、って言いたい」


俺の言葉を遮る人はいなかった。


黒「そして、姉さんの人生を消費したのは、幼かった俺と、クソ野郎のせいだ。………クソ野郎の実験のおかげで、全部が狂った。これ以上、狂わされる人が出るのを防げるなら……」


俺は、そこで言葉を切った。この先は、姉さんに怒られる気がした。

でも、本心だ。しっかり言え、と言われる気がした。


黒「………この命くらい、惜しくはない。投げ打ってやる」

小「………………結局、みんな同じ?」

友「そのようですね」

小「なら、食べようか」


小雪が発した。ナイフを片手に持ち、もう片方の手には、肉を持っていた。


小「…………消そう、元凶を。私たちが巡り会ってしまった最悪の原因を。どんな手を使っても構わない」


グシャリ、と歪な音を立て、肉にナイフが突き刺さった。肉汁が、溢れている。


小「ただし、出来るなら生きて帰ってくる。命はやるべき事よりも最優先に」


夕凪小雪───雪女が言った。

人形好きで、日に当たると溶けてしまう、十二歳の少女。


友「当たり前です。死んだら元も子もないのですから。出来るだけ、生還を目指しますよ」


黒塚友斗───烏天狗が言った。

小雪の忠犬であり、アンデットの中で強者の位置にいる。


洸「あはは、此処の居心地はどこよりもいいからね。戻ってくるよう頑張ろう」


御時洸也───龍神が言った。

アンデットの中で誰よりも優しく、何でも出来る。


神「兄さんみたく居心地的なのもあるけど、みんな優しいもの。此処が大好き、それだけでいいでしょ」


御時神奈───鬼神が言った。

強気で、メンタルが強くて、人に左右されない高校生。


一「ははは、怪我はやめてくれると助かるかな。私が治療するんだからね?」


吉倉一朗太───猫又が言った。

お医者様であり、一番の年配だが、かなりの戦力となる方。


蛟「んんー……僕の勘では、知り合いに会える気がするねぇ? 楽しみにしていようかな!」


蛟─────本名不詳な為、そのままの名前で呼んでいる。

奥底が読めないが、この人がいるといろいろ得ができる。


髏「……小雪ちゃん、そのお肉頂戴………食べたい………」


佐々木髏呂───餓者髑髏が言った。

ぼんやりしてて、変な人かと思いきや、ロックが好きな意外と気が合う方。


孤「ふふ、戦の前の腹拵え、かな。存分に貰おうっと」


仁叶狐茶───妖狐が言った。

紳士的に見えるが、実は腹黒い狐……というか狸。


魅「それならお魚さん沢山もらうね! あ、でも干物は要らないよ!!」


都川魅波───人魚が言った。

発言からも分かるが、自由人。だが、仲間思いだ。多分。


陽「おいしそうなものばかりです〜、このおにくとか」


中戸陽───狼男が言った。

ホワホワとしていて、いろいろ浮世離れしている。事態の重さはしっかり理解してるからいいけど。


百「ねえ、ワインはないの? どう見ても血にしか見えないのは黒祈の前にあるけど」


藤森百々佳───百々目鬼が言った。

見た目も性格も、一目でだいたいわかるような方。


黒「まあ、真っ赤で俺の前にあるって時点で、確定だよな。いただきまーす」


成宮黒祈───吸血鬼。

他人からどんな目で見られてるかなんて知らない。好きなように生きりゃいい。

そうやって生きてきた。帰る気はさらさら無い。


というか、俺らは変わらないと思ってる。これから、何百年と生きていかないといけなくても。

きっと変わらないのだろう。

………………先の戦で、この中の誰かが死ぬことになっても。俺らは、きっと変わらない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ