Monologue
今回はアンデッドのお話です。視点は黒祈です
──────北区にある、山の山間部にて。
薄暗い山を、突っ切るようにズンズンと歩く。その足に、迷いはない。まるで、歩きなれた庭を歩くように。
…………まあ、実際、歩きなれてるんだけどな。
黒「……………………此処はやっぱ、落ち着くわ」
陽「うすぐらいから、ですかー?」
黒「そうですよ。日光ほどに怖いものは無いですから」
陽「そうですね〜、ぼくも、おつきさまがすきです」
黒「あんたはそうでしょうね。俺は……曇り空が好きですから」
俺は、少しの光も………好きにはなれないのだから。
紫外線だと、俺の場合は灰も残らないしな。嫌いどころか、もはや消えろとまで思うほどだ。
……それだと、アンデッド以外の奴らが悲しむからダメだけど。
そう考えながら無言で歩く。
隣には、何も喋らないが、常にニコニコしている陽さんがいる。
いつもの事だが、陽さんはなんで笑ってるんだろうと思う。
聞きはしないけどな。
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ただひたすら歩いていると、一つ、家が見えてくる。
何故、薄暗い中に家が?
そう思う人が多いと思う。俺も最初はそう思った。
しかし、何処か浮世離れしたかのようなその家は、かなり昔からあるらしい。
俺と陽さんはその家の扉を開けた。
玄関ホールは、外見に合った感じで、オレンジ色の鈍い光で照らされていた。
(全部屋こんな感じである)
陽「ただいまでーす〜」
黒「ただいま」
帰宅を告げる挨拶をする。
すると、奥の部屋の扉がゆっくり開いた。古い洋館にありがちな壊れたオルゴールのような音はしない。
そこから現れたのは、微笑んでいる青年だった。
黒「あれ、珍しく黒塚さんいないの?」
陽「こうやさん、こんばんは〜」
洸「こんばんは、陽くん。友斗さんはキッチンにいるよ、黒祈」
洸也、と呼ばれた青年は、丁寧に質問に答えた。
この人は御時洸也さん。この家で雑務全般を行う人だ。
黒「キッチン?なんでまた」
洸「みんなが来るから、自分でやりたいんだってさ。あの人、多才だからね」
陽「なるほど〜。ゆうとさんのごはんはおいしいので、たのしみです〜」
洸「うん、そうだよね 」
にこやかな会話が繰り広げられる。俺はその中に入らない。見てるだけで十分。むしろ、表情筋がほとんど動かないから入らない方がいい。
気を遣わせたくはない。
洸「さて、立ち話が長いと神奈に怒られちゃうからね。中に入ろうか」
黒「やっぱり尻に敷かれてんの?」
洸「恐ろしいこというね………? 敷かれてないってば………」
黒「あ、そう」
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神「遅い!!」
案の定、お盆が恐ろしい速度で飛んできた。つまり、怒られた。
しかし、陽さんがお盆を片手で受け止めたので、何事も無かった。
陽「かんな〜? あぶないですよ〜、ぼくじゃなかったらがんめんちょくげきでしたよ〜?」
神「うっ………ごめんなさい」
魅「神奈ちゃん、みんなに会いたかったんですよ〜」
神「み、魅波さん!?」
狐「魅波、可哀想だから言わないであげて?」
神「狐茶さんも、何言ってんですか!?」
神奈さんが狼狽えている。まあ、狼狽えるだろうな。
俺なら気にせず流すだろうけど。
そうやって、ぎゃあぎゃあと騒いでいるときだった。
その部屋の俺達が入ってきた扉が開いた。
友「……おや、皆様、もうこんなにお揃いでしたか」
陽「ゆうとさん〜、こんばんは〜」
黒「友斗さん、どうも」
友「はい、いらっしゃい。小雪様はもうすぐ来るので、お料理をお楽しみくださいな」
魅「だってさ! 髏呂ちゃん!!」
魅波さんが、ソファの方に向かって言った。そうすると、ソファから立ち上がる影があった。ぼんやりとしながらヘッドホンを外して、こちらに歩いてくる。
………佐々木髏呂さんだった。
髏「………チキン」
友「もちろんありますよ」
髏「の、頭」
友「それは狩りにでも出てください」
髏「冗談」
友「冗談に聞こえませんでしたよ……。というか、この会話、先ほど厨房に来た吉倉さんともしたんですけど」
陽「いちろうたさん、きてるんですかー?」
友「ええ。蛟さんと一緒に」
黒「珍しく早いんだ。蛟さん」
蛟「………珍しくとは、失礼なものだねぇ、吸血鬼くん」
一「蛟くんは煽り癖をやめようね?」
後ろから、それまでは感知できなかった気配が在った。
驚く友斗さん以外。友斗さんは、気づいていたようだった。
……そこには蛟さんと、吉倉一朗太先生がいた。流石は歳も高い分だけある。
そう考えていると、蛟さんに睨まれた。
読心術でも使えるのだろうか。
蛟「後は百々目鬼くんだけかな?」
一「百々佳くんのことだから、もういるんじゃないかな? 服にも、外見にも見合わず身体能力高いからね」
百「あら、吉倉先生? 褒めて下さるなんて嬉しいわ」
孤「……………誰も褒めてないと思いますよ? 百々佳さん」
………女性に全く興味が無い(血液関連ならそりゃ、体型のいい人がいい)俺が、この人………藤森百々佳さんは美人だと思う。ミステリアスで多少悪戯好きだけど。
魅波さんは綺麗だけど元気さが全てを相殺しているからアウト。(孤茶さんの前で言ったら殺されそう)
百「ところで、まだご飯は出ないの?ステーキ食べる為にわざわざ仕事を日中に終わらせたのだけど」
一「山の外にまできてた美味しそうな匂いのおかげで、誰かを食べてしまいそうだったよ」
髏「………それは、ちょっと……」
陽「ぼくはとなりにくろきがいましたから〜」
黒「いなかったら食ってたのかよ」
魅「物騒だね、肉食組は!」
孤「………僕も肉食組なんだけど?」
友「そこは気にするべきでないかと思いますよ」
蛟「妖狐くんは突っ込むねぇ……。やっぱり、俺とは違うよ」
洸「蛟さんは扱いづらいですものね」
いろいろな言葉が飛び交う。そして、ふと気付いた。神奈さんがいない。
誰も指摘しないから、恐らく気付いていないか、どこへ行ったか知っているんだろう。
そう思った時だった。扉が勢いよく開け放たれた。
…………というか、蹴り開けられた。
そこには、神奈さんが両手と頭に皿を載せた状態で、片足で立っていた。もう片方の足は、扉を蹴ったのだろう。片足を前に突き出している。
神「はいはい、皆さんー。テーブルを開けてください。後、男どもは手伝ってください」
蛟「おっ、出来たのー? って、肉かー………」
髏「肉………お野菜も………」
一「髏呂くんは、食い意地張りすぎだねぇ。可愛いけど」
孤「吉倉先生、それだけ聞いたら変態です」
神「ほら、黙って来てくださいよ! 小雪ちゃんももうすぐ来ますので!」
神奈さんが言った。へぇ、小雪は意外と早く来るんだな。いつももう少し遅いのに。
呼び出した本人が未だに来ない変な集まりはもう終わりのようだ。
呼び出した内容は、わからない。黒塚さんは聞かされてんだろうけど、ニコニコ笑顔で何も言わない。
神奈さんが蛟さんと洸也さん、孤茶さんを引っ張っていく。俺も男なんだけど、呼ばれない。ついでに吉倉先生も。(多分年齢的な問題で)
俺はまあ、ガキだからって意味だろうけど、吉倉先生、見た目は若く見えるのにな………。この人、見た目だけ言えば三十歳だから。実年齢は五十歳はいってるけど。
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そうしていると、ご飯が揃ってきた。すごい美味そう。名前カードがテーブルに並べられ、その前には個別に別のものが置かれている。
………好みによって違うみたいだな。吉倉先生のところには肉が置かれている。(牛肉だと信じよう)
髏呂さんのとこには………盛り合わせか?(大食いである)
俺のところは…………なんか、真っ赤な飲み物がある。………………一つしか思いつかない。きっと、吸血鬼といって思いつくものだろう。
神「はい、終了。小雪ちゃん、さっさと入ってきて?」
神奈さんが言った。………小雪、もしかして働きたくなくて外で待ってたのか。
そう思い、扉の方を見ると案の定扉が開いた。そこには、白髪、前髪にひと房水色のメッシュがある子ども………俺ら、アンデットの親玉、夕凪小雪が立っていた。
小「…ご苦労さま。」
神「あなたねぇ………」
百「まあまあ? 小雪ちゃんはこうじゃないとね」
髏「………ご飯、食べる」
魅「お魚ー!!」
女性陣が騒ぐ。最後二人は早く食べたいだけみたいだった。
まあ、俺も、個別に置かれたものを目の前に、待て、は正直辛い。涎が既に出そうだ。
小「………食べるなら、席について話を聞きなさい」
小雪がそう発すると、一瞬にして席に座る腹減り組。(俺もいる)
のんびりと座る成人組(魅波さんを除く)+陽さん。
最後に小雪が席についた。
そうして、言った。
小「…………近い内に、成宮当主が動くみたい」
ピシッ……………と、空気の凍りつく音がした。それと同時に、殺気が室内に溢れた。常人なら、卒倒レベルだ。
小「何かするつもりみたい。どうしたい?」
沈黙が訪れる。
チラリと横目で見ると、蛟さんまでも笑顔を消している。無表情だ。
髏「………その次の日に、また今日みたいにご飯を食べたい。前、あの人と会った次の日は、食べられなかったから」
髏呂さんが言った。
陽「みんなが、にこにこえがおでわらっていられるひをむかえたいです。はじめてあったひは、そんなかんじはまったくなかったので」
陽さんが言った。
蛟「私、正直、日光下に出られない以外では不便してないのだけどね……。でも、残念ながら、他の人間に被害が及ぶのも面白くない。知人もいるし。それなら僕が多少の危険を侵すのは仕方ないかな」
蛟さんが言った。驚いた。
洸「神奈と話していたけど……神奈には、夜間学校のお友達がいてくれてね。その子達、中区に住んでるらしくね………」
神「その子達も巻き込まれる恐れがあるんなら………私は手段を選ぶ気はさらさら無い。」
洸也さんと神奈さん……御時兄妹が言った。
一「大切な人で言うなら、私にも娘がいるよ。幸せな家庭を築いている。しかし、一緒に歳をとることは出来ない。そんな方々に増えて欲しくはないね。」
吉倉先生が言った。
孤「魅波とは前話してましたけど……僕らは、ここにいる人が一人でも動くなら動きますよ」
魅「それが、大切なものを守るための事だと思ってるから」
孤茶さんと魅波さんも言った。
百「私は、この身体になってからは割と幸せよ? ここにいるみんなと会えたもの。………でもね、こうならない未来は、もっと別の会い方を出来たと思ってる。幸せな、笑顔での会い方ね。それなら………今の幸せを守る為に、みんなが動くから動くわ。みんなの幸せだものね」
百々佳さんが言った。百々佳さんらしい。
友「……………………いつも、夢を見ます。救えたんじゃないか、って。いつも、感じています。ここに、彼女がいたんじゃないか、って。そうだったら……小雪様、もう少し笑えてましたよね」
小「………………………うん。笑えてたよ、昔は」
友「それなら、私は被害を増やさないようにします。神奈さん同様、手段を選ぶつもりはないです。小雪様の大切なものを、出来るだけお守りします」
小「私とて、黒塚に言われずともやってやる。これ以上、この家を不幸せにしないために。集まってきた同胞を、守るために。」
小雪と友斗さんが言った。多分、この人たちの決意が、一番強いだろう。
小「最後だよ、黒祈」
小雪が、俺に言った。
黒「………………最初のアンデットは、俺。俺が成功させられたから、みんなが巻きこまれた。俺が成功しずに、死んでれば、もう少し遅くなってたかもしれない」
陽「そういうわけでは…………」
黒「いいんだよ、陽さん。…………姉さんは、そんな俺を、大切に守ってくれた。おかげで、ここまで育つことが出来た。…………それと同時に、姉さんの人生を俺が消費した。俺は……、それを、償いたい。謝りたい。それで……ありがとう、って言いたい」
俺の言葉を遮る人はいなかった。
黒「そして、姉さんの人生を消費したのは、幼かった俺と、クソ野郎のせいだ。………クソ野郎の実験のおかげで、全部が狂った。これ以上、狂わされる人が出るのを防げるなら……」
俺は、そこで言葉を切った。この先は、姉さんに怒られる気がした。
でも、本心だ。しっかり言え、と言われる気がした。
黒「………この命くらい、惜しくはない。投げ打ってやる」
小「………………結局、みんな同じ?」
友「そのようですね」
小「なら、食べようか」
小雪が発した。ナイフを片手に持ち、もう片方の手には、肉を持っていた。
小「…………消そう、元凶を。私たちが巡り会ってしまった最悪の原因を。どんな手を使っても構わない」
グシャリ、と歪な音を立て、肉にナイフが突き刺さった。肉汁が、溢れている。
小「ただし、出来るなら生きて帰ってくる。命はやるべき事よりも最優先に」
夕凪小雪───雪女が言った。
人形好きで、日に当たると溶けてしまう、十二歳の少女。
友「当たり前です。死んだら元も子もないのですから。出来るだけ、生還を目指しますよ」
黒塚友斗───烏天狗が言った。
小雪の忠犬であり、アンデットの中で強者の位置にいる。
洸「あはは、此処の居心地はどこよりもいいからね。戻ってくるよう頑張ろう」
御時洸也───龍神が言った。
アンデットの中で誰よりも優しく、何でも出来る。
神「兄さんみたく居心地的なのもあるけど、みんな優しいもの。此処が大好き、それだけでいいでしょ」
御時神奈───鬼神が言った。
強気で、メンタルが強くて、人に左右されない高校生。
一「ははは、怪我はやめてくれると助かるかな。私が治療するんだからね?」
吉倉一朗太───猫又が言った。
お医者様であり、一番の年配だが、かなりの戦力となる方。
蛟「んんー……僕の勘では、知り合いに会える気がするねぇ? 楽しみにしていようかな!」
蛟─────本名不詳な為、そのままの名前で呼んでいる。
奥底が読めないが、この人がいるといろいろ得ができる。
髏「……小雪ちゃん、そのお肉頂戴………食べたい………」
佐々木髏呂───餓者髑髏が言った。
ぼんやりしてて、変な人かと思いきや、ロックが好きな意外と気が合う方。
孤「ふふ、戦の前の腹拵え、かな。存分に貰おうっと」
仁叶狐茶───妖狐が言った。
紳士的に見えるが、実は腹黒い狐……というか狸。
魅「それならお魚さん沢山もらうね! あ、でも干物は要らないよ!!」
都川魅波───人魚が言った。
発言からも分かるが、自由人。だが、仲間思いだ。多分。
陽「おいしそうなものばかりです〜、このおにくとか」
中戸陽───狼男が言った。
ホワホワとしていて、いろいろ浮世離れしている。事態の重さはしっかり理解してるからいいけど。
百「ねえ、ワインはないの? どう見ても血にしか見えないのは黒祈の前にあるけど」
藤森百々佳───百々目鬼が言った。
見た目も性格も、一目でだいたいわかるような方。
黒「まあ、真っ赤で俺の前にあるって時点で、確定だよな。いただきまーす」
成宮黒祈───吸血鬼。
他人からどんな目で見られてるかなんて知らない。好きなように生きりゃいい。
そうやって生きてきた。帰る気はさらさら無い。
というか、俺らは変わらないと思ってる。これから、何百年と生きていかないといけなくても。
きっと変わらないのだろう。
………………先の戦で、この中の誰かが死ぬことになっても。俺らは、きっと変わらない。




