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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~転~
32/56

消えてる記憶 青鳥

先に言います、長くなりました。何故か青鳥は長くなる呪いでもあるのでしょうか。



彩「………は?」


怒りしかないような声が聞こえる。

珍しい、超低音ボイスだ。

…今、目の前にいらっしゃりますのは、激ギレ状態の長男様です。

怒られてんのは、僕と…愁兄と、奏理と歩歌だ。


歩「え、えぇっとねー……」

奏「歩ちゃん、今は口答えしたら俺ら死ぬからやめよう」


珍しく奏理がまともなことを云ってる。

と、思ったが、奏理はかなりまともなんだった。


彩「奏理は正しい判断だね、今なんか云ったら凍らせるとこだったよ」

愁「……彩雅、せめて俺以外は…………」

彩「あ?」

凜「……愁兄、別にいいよ」


僕に出来ることはないけど、説教を聞かねばいけないのは確かだ。

そう思いながら、彩兄が帰ってきた時のことを思い出した。


───────────────────────────────


二時間程前


彩「ただいまー」

伊「ただいま」

魅「おっかえりなさーい」

伊「あれ、えっと、魅波ちゃんだけ?他の子は?」

魅「奏理君と歩歌ちゃんなら、さっきご飯作ってましたよー? 愁さんと凜ちゃんとみのりんは医務室です」

彩「あー、怪我したんだっけ?」

伊「指名手配犯と対峙したんでしょ? 翔君と黄金君は?」

彩「家が近かったから帰ったんでしょ、きっと」


───────────────────────────────


凜「…み、実さん大丈夫かな…!?」

愁「飛び…下りた、よな?」

凜「それ以外に何にもないよ!?」


割と放心状態の僕と愁兄。

だって、此所、二階とかじゃないよ?

五階だよ!?

足怪我してそう、とか何とか思っていた。


彩「…二人して、なんで窓の近くにいるの」

愁「げっ、彩雅」

凜「お、おかえり、彩兄」

彩「……凜はまだいいけど、愁? げっ、て何さ」


彩兄はそこが気に入らないようだ。

まあ、あからさまに嫌な顔されたら誰でもそうか。


彩「で、実は? 此所にいるって聞いたんだけど」

愁「あー……あーっとな…で、出掛けたぞ…?」

彩「いや、出掛けたなら魅波ちゃんが知ってるでしょ」

愁「うぐっ………」


言い訳が苦しくなってきた。

てか、彩兄が鋭すぎるのか。

ともあれ、この状態はヤバイ。ピンチである。

バレたら間違いなく怒られる。

フォローしようと口を開こうとした。

その時………扉が叩かれるかのように開いた。


「「呼ばれてないし、空気も読まない! 双子参上!」」

凜「いや、空気は読めるようになろう!?」

奏「歩ちゃんが読みたくないって!」

歩「面倒だからやー!」

凜「馬鹿なの!? あ、ごめん、歩歌は馬鹿だった!」

「「酷い! けど、正解!!」」


少し空気が和らいだ。

双子のお陰だ、有難い。


歩「ところで、玲お姉さんは?」

奏「姿が見えないけど、どっかいったの? トイレ?」

「「…………………」」

彩「……………………………玲?」


バレた。

これにて冒頭に戻る。


───────────────────────────────


彩「さあ、事細かに説明しろ。何が、どうで、どうなったか」

愁「…指名手配犯と対峙した黄金と翔のお家の人から、二人が帰ってこないって連絡があって、探しに行ったんだ。そしたら、一時的に組んでる『赤蛇』の奴らも寝っ転がってたんだよ」

奏「それで、第三幹部及び戦闘部隊長の玲お姉さんだけ連れてきたんだよね〜」

歩「他の人は武装してたしね!」


なるほど、そんな状況だったのか…。

僕は運ばれた側だったから知らなかったけど探しに来たんだね…。


彩「…で、その『赤蛇』の奴は?」

愁「………窓から、実を連れて飛び降りて帰ってった」

彩「止めろよ、馬鹿なの?」

愁「………彩雅は、『赤蛇』が政府組織の一つだって、知ってたか?」


ピタリ、と彩兄が止まった。

愁兄は話を続ける。


愁「『赤蛇』の奴は、『赤蛇』が政府の組織だって云った。でもそんな話は…」

彩「知ってたよ」

「「!?」」


彩兄の口から驚きの言葉が漏れた。

小声だったが聞こえた。

知ってたという言葉が。


愁「……は…?」

彩「俺にしか知らされてないけどね」

歩「どーして?」

奏「てか、『赤蛇』ってお偉い様だったんだねー?」

歩「そうなの!?」


歩歌はそこからわかってなかったか……。

妹(義理)の理解力を疑いつつ、彩兄の次の言葉を待つ。


彩「…ま、機密情報だけどねぇ」

愁「おい。早く説明し……………」


愁兄が言いかけた時だった。

またしても勢いよく扉が開いた。

そこにいたのは………


実「彩雅さん!!!」


連れ去られていった実さんだった。

全力疾走したのか、息が切れすぎている。

もう、肩で息をしてるというか、全身で息をしているように見える。

……どの距離を走ってきたのだろうか。


彩「……あー、実。おかえり」

実「挨拶……よりも!! ひとつお聞きしても!?」

彩「え、ちょっと後にしてよ。今は………」

実「……五月蝿い!!! いい加減にしろ!! 僕の話を、聞け!」

彩「!!!」


──────静寂が訪れた。

………実さんが、叫んだ。そう認識するのに、かなりの時間がかかった。

普段、物静かで、苦労人である実さんが叫んだのだ。普段、驚きもしない双子、そして彩兄までもが、目を思いっきり開いていた。

………言わずもがな、僕と愁兄もである。


愁「お、落ち着け!」

実「五月蝿い、黙れ、指図するな」

彩「……愁、黙っていろ」

愁「………」

彩「はあ………、実以外の全員。仕事に戻ってくれ。…あ、愁はいてもいいかな。雷羅には実と話してるって言っといて」

奏「えっ」

歩「えっ」

凜「えっ?」


出ていけ、と言われた全員が、驚きの言葉を漏らした。

しかし、彩兄は本気のようだった。目から殺気を感じた。

……………………そして、次の瞬間には、部屋外へと押し出されていた。


「「え…? …………えええええ!?

」」

凜「え、あ、は、早すぎるよー!?」


そう叫んでいる最中にガチャン、という音が響いた。

…………………嘘ぉぉ。


───────────────────────────────


(視点:実)


彩雅さんが、三人を追い出した。

それはそれは素早い動作で、扉の外に叩き出した。

それから、奥底が見えない、黒い笑顔を浮かべて振り返った。

……大丈夫、五年前まで、この笑顔を見ることは日常的なことだったんだから。


愁「……な、何がどうなって…………」

彩「あぁ、そういえば………愁は詳しく教えられて無かったね」

愁「は?」

彩「名無島にはねぇ、階級が存在してたっていう話」


…愁さんは、ポカンとしている。

本当に知らなかったらしい。

名無島に住んでる人でも知らない人がいたんだな。

ただ、そうとだけ思った。


彩「でね、その階級は十段階あってねぇ。一から十、数字が苗字に入ってたの。一がトップで。さあ、頭のいい愁なら、わかるね?」

愁「………………………一宮?」

実「That's Right」

彩「あれ?『青鳥』にはまだ数字持ちがいるよ?」


巫山戯た様に言う。でも、常に僕の顔色を伺ってる。

相変わらず、面倒な人だ。


実「京子さんですよ、四ノ原。後は、…………君たちだ。成宮もとい七宮」

彩「そうそう。俺らは改名してんだよね〜。……階級が危なくなる前に、ね」

愁「…………苗字は、変えられるもんだもんな」

彩「まあ、父さんの指示だし、従わないわけもない。……うちでも…………多分一人は知ってるよ」


そこまで言って、彩雅さんの笑顔は崩れた。

苦虫を噛み潰したかのような顔になってる。


彩「………で、だいたい言いたいことは分かってますけど、何でしょうかね?実様?」

実「敬語はやめてください。…………玲ちゃんについてです」

彩「あーあーあー………やだやだ。やっぱりか、面倒な事になった」

愁「? どういうことだ?」

実「やはり愁さんは知りませんでしたか。…玲ちゃんの言った通りだった」

彩「そりゃね。何故か、一番覚えてるはずの子が忘れてるんだから、こいつが覚えてるわけないでしょ。…………まあなんで俺が覚えてるのか、分かんないんだけどね」

実「『赤蛇』に、記憶関連の能力者がいるようですよ」

彩「あー…………そいつに、消させたのかな。俺以外の弟妹から」

愁「待て待て待て!? 話についていけねぇんだけど!?」


愁さんが、口を挟んだ。まあ、当然といえば当然だと思うけど。

だって、自分の記憶を消されてる、みたいな話をされてるんだから。


愁「俺は………、なんか忘れてんのか…?」

彩「うん」

愁「………………」

彩「大丈夫大丈夫。俺以外の弟妹は、全員覚えてないから」

実「教えてあげたらいかがですか?」

彩「いやぁ、実様? 混乱してし……」

愁「教えろ」

実「だそうですけど」


どんだけ知りたいんだろうか、即答だったけど。

まあ、モヤモヤしたままは嫌だろうし、当然といえば当然だけど。

チラリと彩雅さんを見ると苦々しい顔をしていた。

…………………この人、昔からよく分からないよな…。

僕の、家がまだあった時から、そう思ってるけど。


彩「…………………………」

愁「彩雅。………俺は、まだ守ってもらわなきゃいけない餓鬼じゃねぇんだけど」

彩「………自傷行為はやめないくせに」

愁「それはそれ、これはこれ」

実「なんか、不吉な言葉が聞こえたんですが!?」

「「気にすんな」」

実「…はい」


やっぱり、この二人………兄弟なんだな。似てる。


彩「…………はぁぁぁ…。仕方ないなぁ………………愁」

愁「なんだよ」

彩「良いか?何を聞いても、それは事実だ、真実だ。驚くだろうけど、声は荒らげるな。それは、あの子に失礼になる」

実「…………………………」


わかんないなぁ…………。

彩雅さんは、鬼だ。性格も行動も完全に。なのに……心配をしているところは…………ただの、優しい兄に見える。

何故だろうか、いつもはただの鬼なのに。(ここ重要)


愁「分かったよ。……まあ、小声なら叫んでもいいんだな?」

彩「それなら…………まあいいよ」

愁「うっし、ならいい」

実「彩雅さん、早く言っちゃって下さい」

彩「はいはい」


彩雅さんは、溜息を一つついた。


彩「………『赤蛇』には、俺らの兄弟が二人いるよ」


……………………………………………………………………………………………………………ん?

二人?


愁「………………………………は?」

実「は!?」

彩「え?なんで実様も言うの?」

実「も、もう様は入りません!!……僕が聞いてたのは………………一人だけです」

彩「………あー………………あーあー、わかった。そういう事か、なるほどね……………………やっぱ、彼奴らしいなぁ、おい」


彩雅さんが、手で顔を覆って空を仰ぐ。

その手は、微かに、微かにだったが……………


彩「……お兄ちゃんが、妹に負けるなんてねぇ……。やっぱり、彼奴は強いわ」


……………震えているような気がした。



次回も青鳥サイドです。

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