消えてる記憶 青鳥
先に言います、長くなりました。何故か青鳥は長くなる呪いでもあるのでしょうか。
彩「………は?」
怒りしかないような声が聞こえる。
珍しい、超低音ボイスだ。
…今、目の前にいらっしゃりますのは、激ギレ状態の長男様です。
怒られてんのは、僕と…愁兄と、奏理と歩歌だ。
歩「え、えぇっとねー……」
奏「歩ちゃん、今は口答えしたら俺ら死ぬからやめよう」
珍しく奏理がまともなことを云ってる。
と、思ったが、奏理はかなりまともなんだった。
彩「奏理は正しい判断だね、今なんか云ったら凍らせるとこだったよ」
愁「……彩雅、せめて俺以外は…………」
彩「あ?」
凜「……愁兄、別にいいよ」
僕に出来ることはないけど、説教を聞かねばいけないのは確かだ。
そう思いながら、彩兄が帰ってきた時のことを思い出した。
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二時間程前
彩「ただいまー」
伊「ただいま」
魅「おっかえりなさーい」
伊「あれ、えっと、魅波ちゃんだけ?他の子は?」
魅「奏理君と歩歌ちゃんなら、さっきご飯作ってましたよー? 愁さんと凜ちゃんとみのりんは医務室です」
彩「あー、怪我したんだっけ?」
伊「指名手配犯と対峙したんでしょ? 翔君と黄金君は?」
彩「家が近かったから帰ったんでしょ、きっと」
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凜「…み、実さん大丈夫かな…!?」
愁「飛び…下りた、よな?」
凜「それ以外に何にもないよ!?」
割と放心状態の僕と愁兄。
だって、此所、二階とかじゃないよ?
五階だよ!?
足怪我してそう、とか何とか思っていた。
彩「…二人して、なんで窓の近くにいるの」
愁「げっ、彩雅」
凜「お、おかえり、彩兄」
彩「……凜はまだいいけど、愁? げっ、て何さ」
彩兄はそこが気に入らないようだ。
まあ、あからさまに嫌な顔されたら誰でもそうか。
彩「で、実は? 此所にいるって聞いたんだけど」
愁「あー……あーっとな…で、出掛けたぞ…?」
彩「いや、出掛けたなら魅波ちゃんが知ってるでしょ」
愁「うぐっ………」
言い訳が苦しくなってきた。
てか、彩兄が鋭すぎるのか。
ともあれ、この状態はヤバイ。ピンチである。
バレたら間違いなく怒られる。
フォローしようと口を開こうとした。
その時………扉が叩かれるかのように開いた。
「「呼ばれてないし、空気も読まない! 双子参上!」」
凜「いや、空気は読めるようになろう!?」
奏「歩ちゃんが読みたくないって!」
歩「面倒だからやー!」
凜「馬鹿なの!? あ、ごめん、歩歌は馬鹿だった!」
「「酷い! けど、正解!!」」
少し空気が和らいだ。
双子のお陰だ、有難い。
歩「ところで、玲お姉さんは?」
奏「姿が見えないけど、どっかいったの? トイレ?」
「「…………………」」
彩「……………………………玲?」
バレた。
これにて冒頭に戻る。
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彩「さあ、事細かに説明しろ。何が、どうで、どうなったか」
愁「…指名手配犯と対峙した黄金と翔のお家の人から、二人が帰ってこないって連絡があって、探しに行ったんだ。そしたら、一時的に組んでる『赤蛇』の奴らも寝っ転がってたんだよ」
奏「それで、第三幹部及び戦闘部隊長の玲お姉さんだけ連れてきたんだよね〜」
歩「他の人は武装してたしね!」
なるほど、そんな状況だったのか…。
僕は運ばれた側だったから知らなかったけど探しに来たんだね…。
彩「…で、その『赤蛇』の奴は?」
愁「………窓から、実を連れて飛び降りて帰ってった」
彩「止めろよ、馬鹿なの?」
愁「………彩雅は、『赤蛇』が政府組織の一つだって、知ってたか?」
ピタリ、と彩兄が止まった。
愁兄は話を続ける。
愁「『赤蛇』の奴は、『赤蛇』が政府の組織だって云った。でもそんな話は…」
彩「知ってたよ」
「「!?」」
彩兄の口から驚きの言葉が漏れた。
小声だったが聞こえた。
知ってたという言葉が。
愁「……は…?」
彩「俺にしか知らされてないけどね」
歩「どーして?」
奏「てか、『赤蛇』ってお偉い様だったんだねー?」
歩「そうなの!?」
歩歌はそこからわかってなかったか……。
妹(義理)の理解力を疑いつつ、彩兄の次の言葉を待つ。
彩「…ま、機密情報だけどねぇ」
愁「おい。早く説明し……………」
愁兄が言いかけた時だった。
またしても勢いよく扉が開いた。
そこにいたのは………
実「彩雅さん!!!」
連れ去られていった実さんだった。
全力疾走したのか、息が切れすぎている。
もう、肩で息をしてるというか、全身で息をしているように見える。
……どの距離を走ってきたのだろうか。
彩「……あー、実。おかえり」
実「挨拶……よりも!! ひとつお聞きしても!?」
彩「え、ちょっと後にしてよ。今は………」
実「……五月蝿い!!! いい加減にしろ!! 僕の話を、聞け!」
彩「!!!」
──────静寂が訪れた。
………実さんが、叫んだ。そう認識するのに、かなりの時間がかかった。
普段、物静かで、苦労人である実さんが叫んだのだ。普段、驚きもしない双子、そして彩兄までもが、目を思いっきり開いていた。
………言わずもがな、僕と愁兄もである。
愁「お、落ち着け!」
実「五月蝿い、黙れ、指図するな」
彩「……愁、黙っていろ」
愁「………」
彩「はあ………、実以外の全員。仕事に戻ってくれ。…あ、愁はいてもいいかな。雷羅には実と話してるって言っといて」
奏「えっ」
歩「えっ」
凜「えっ?」
出ていけ、と言われた全員が、驚きの言葉を漏らした。
しかし、彩兄は本気のようだった。目から殺気を感じた。
……………………そして、次の瞬間には、部屋外へと押し出されていた。
「「え…? …………えええええ!?
」」
凜「え、あ、は、早すぎるよー!?」
そう叫んでいる最中にガチャン、という音が響いた。
…………………嘘ぉぉ。
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(視点:実)
彩雅さんが、三人を追い出した。
それはそれは素早い動作で、扉の外に叩き出した。
それから、奥底が見えない、黒い笑顔を浮かべて振り返った。
……大丈夫、五年前まで、この笑顔を見ることは日常的なことだったんだから。
愁「……な、何がどうなって…………」
彩「あぁ、そういえば………愁は詳しく教えられて無かったね」
愁「は?」
彩「名無島にはねぇ、階級が存在してたっていう話」
…愁さんは、ポカンとしている。
本当に知らなかったらしい。
名無島に住んでる人でも知らない人がいたんだな。
ただ、そうとだけ思った。
彩「でね、その階級は十段階あってねぇ。一から十、数字が苗字に入ってたの。一がトップで。さあ、頭のいい愁なら、わかるね?」
愁「………………………一宮?」
実「That's Right」
彩「あれ?『青鳥』にはまだ数字持ちがいるよ?」
巫山戯た様に言う。でも、常に僕の顔色を伺ってる。
相変わらず、面倒な人だ。
実「京子さんですよ、四ノ原。後は、…………君たちだ。成宮もとい七宮」
彩「そうそう。俺らは改名してんだよね〜。……階級が危なくなる前に、ね」
愁「…………苗字は、変えられるもんだもんな」
彩「まあ、父さんの指示だし、従わないわけもない。……うちでも…………多分一人は知ってるよ」
そこまで言って、彩雅さんの笑顔は崩れた。
苦虫を噛み潰したかのような顔になってる。
彩「………で、だいたい言いたいことは分かってますけど、何でしょうかね?実様?」
実「敬語はやめてください。…………玲ちゃんについてです」
彩「あーあーあー………やだやだ。やっぱりか、面倒な事になった」
愁「? どういうことだ?」
実「やはり愁さんは知りませんでしたか。…玲ちゃんの言った通りだった」
彩「そりゃね。何故か、一番覚えてるはずの子が忘れてるんだから、こいつが覚えてるわけないでしょ。…………まあなんで俺が覚えてるのか、分かんないんだけどね」
実「『赤蛇』に、記憶関連の能力者がいるようですよ」
彩「あー…………そいつに、消させたのかな。俺以外の弟妹から」
愁「待て待て待て!? 話についていけねぇんだけど!?」
愁さんが、口を挟んだ。まあ、当然といえば当然だと思うけど。
だって、自分の記憶を消されてる、みたいな話をされてるんだから。
愁「俺は………、なんか忘れてんのか…?」
彩「うん」
愁「………………」
彩「大丈夫大丈夫。俺以外の弟妹は、全員覚えてないから」
実「教えてあげたらいかがですか?」
彩「いやぁ、実様? 混乱してし……」
愁「教えろ」
実「だそうですけど」
どんだけ知りたいんだろうか、即答だったけど。
まあ、モヤモヤしたままは嫌だろうし、当然といえば当然だけど。
チラリと彩雅さんを見ると苦々しい顔をしていた。
…………………この人、昔からよく分からないよな…。
僕の、家がまだあった時から、そう思ってるけど。
彩「…………………………」
愁「彩雅。………俺は、まだ守ってもらわなきゃいけない餓鬼じゃねぇんだけど」
彩「………自傷行為はやめないくせに」
愁「それはそれ、これはこれ」
実「なんか、不吉な言葉が聞こえたんですが!?」
「「気にすんな」」
実「…はい」
やっぱり、この二人………兄弟なんだな。似てる。
彩「…………はぁぁぁ…。仕方ないなぁ………………愁」
愁「なんだよ」
彩「良いか?何を聞いても、それは事実だ、真実だ。驚くだろうけど、声は荒らげるな。それは、あの子に失礼になる」
実「…………………………」
わかんないなぁ…………。
彩雅さんは、鬼だ。性格も行動も完全に。なのに……心配をしているところは…………ただの、優しい兄に見える。
何故だろうか、いつもはただの鬼なのに。(ここ重要)
愁「分かったよ。……まあ、小声なら叫んでもいいんだな?」
彩「それなら…………まあいいよ」
愁「うっし、ならいい」
実「彩雅さん、早く言っちゃって下さい」
彩「はいはい」
彩雅さんは、溜息を一つついた。
彩「………『赤蛇』には、俺らの兄弟が二人いるよ」
……………………………………………………………………………………………………………ん?
二人?
愁「………………………………は?」
実「は!?」
彩「え?なんで実様も言うの?」
実「も、もう様は入りません!!……僕が聞いてたのは………………一人だけです」
彩「………あー………………あーあー、わかった。そういう事か、なるほどね……………………やっぱ、彼奴らしいなぁ、おい」
彩雅さんが、手で顔を覆って空を仰ぐ。
その手は、微かに、微かにだったが……………
彩「……お兄ちゃんが、妹に負けるなんてねぇ……。やっぱり、彼奴は強いわ」
……………震えているような気がした。
次回も青鳥サイドです。




