本当のこと 赤蛇
────『青鳥』の会社(の窓)から出た後、走って近場の『赤蛇』所有の地下駐車場に向かった。
後ろから聞こえてくる叫び声は一旦後だ、と割り切って。
地下駐車場は、『赤蛇』所有だが、俺の管轄内でもある。
だから、車が置いてある。それに乗れば少し距離がある政府(北区)までさっさと行ける。
そう思いながら走っていると、ふと周りの音が消えた。
驚いて止まる。
そうしたら、音が聞こえるようになった。
実「………や、やっと止まった………………」
玲「…今のは、貴方の能力か。急いでいるんですけど」
実「いや、何度呼びかけても反応ないから仕方なかったんだよ!?」
玲「…あぁ、引き摺られるのが不満でしたか。担がれたいですか?」
実「嫌だよ!?せめて早歩きで行こう!?」
…我が儘だな。
一般人には………いや、この人には難しい事だったのか?
……あ、よく考えたらこの人、資料に元ボンボンって書いてあったかも。
なら仕方ねぇか?
いや、でも戦闘部隊を代表する(?)ボンボンの一人、理さんは運動できるぞ。
シアンは、まあ、生活が祟ってるだろうけど。
つゆりさんは………………ノーコメントでいこう。
そんな馬鹿な思考をしながら早足で歩いていると、地下駐車場に着いた。
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実「君、免許持ってるの?」
玲「勿論。政府直属組織の人間が、免許くらい持ってないと駄目でしょう?」
実「まあ、そうだね。…ところで、この車、高級車じゃなかった…?」
玲「給料七ヶ月分です、値段」
実「『赤蛇』は相当のブラック会社なんだね…」
何を今更、なんて思った。
車を走らせて、地下駐車場から出る。
でも、気のせいだろうか、隣から視線が………。
玲「…何ですか、一宮さん」
実「あのさ、君は僕の事どれくらい知ってるの?」
玲「ほとんど知りませんけど、とりあえず名無島の元皇族家の一宮実さん?」
ピシッ、という音が聞こえてきそうだった。
それほどに、隣の人からの殺気が、爆発するかのように出されたからだ。
俺は思わず、車を端に寄せて臨戦態勢をとった。
実「…京子さん、四ノ原京子さんについては」
玲「…皇族家に仕えてた家の生き残り」
実「…個人情報って、守られるべきものでしょう?」
玲「………大丈夫、『赤蛇』では俺と兄者…ボスしか知らない。」
実「へぇ…意外だな、同じ部隊の子には云ってないの?」
玲「上からは極秘だって云われてる。」
緊張が走っている。
相手は、何もしていないのに、何だろうか。
…首に、ナイフを当てられているような感覚がする。
………これは、元皇族の貫禄、か。
実「じゃあさ、幾つか聞いていい?」
玲「………構いませんけど」
実「大事な極秘情報、何で知らされたのが君なの?特別なコネでもあるの?『青鳥』の、内部構造をなんで知ってたの?」
玲「…内部構造?知らな…」
実「階段の位置。把握してないとあの時間では上がれないよ。面倒な造りしてるからね」
この人、意外と見てるんだな。
時計を気にしながら上がってくるとは思わなかった。
玲「…黙秘権は?」
実「無いけど」
玲「………どこから話せばいいので?」
実「君が隠してること全て」
玲「…………全てとか、どれだけになると思ってですか」
実「まあ、幸い京子さんは出張に駆り出されてるし、一日、二日くらいなら付き合えるよ」
ガチじゃねぇかよ、この人…!
くっそ、連れてくるんじゃなかった…!
そう思っても過去には戻れない。
…いや、戻れるけど。でも、代償としてなんか取られるのは嫌だ。
玲「………喫茶店でも入りますか。政府には話通しとくんで」
俺は、残る術はそれしかないと、ため息をついて車を発進させた。
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入った喫茶店は、『赤蛇』所有で、その上、主人が『赤蛇』の隠密部隊員、という極めて盗聴などが通り辛い店。
まあ、まず個室でお茶を楽しめる喫茶店ってのもどうかと思う。
勿論、一般人はいない。
(恐らく雰囲気が雰囲気だから無理だろうな)
玲「で、どこから聞きたいんですか?」
実「『青鳥』について、知ってることを全て」
玲「そうですね………内部構造は勿論、監禁施設構造、構成人数、歳、くらいですかね」
実「…いくらなんでも、知るのは難しそうな構造はなんで知ってるの?」
玲「………………………」
実「…僕の能力は知ってる?」
意地でも話させるつもりか?
いや、でも能力は知らない、聞いておくべきか。
玲「────!?」
そう思っていたのに。
またしても、音が消えた。
いや、それに加えて視界が、消えた。
何も見えない。
そう思っていると、音が戻ってきた。だが、視界は戻ってこない。
実「…僕の能力は、五感を奪う。今は聴力と視力を消した。云わないようなら、五感全てを消す」
玲「………『青鳥』は、厄介なものを隠してたな…?」
実「早くしろ」
玲「……混乱しても知りませんよ?…………内部構造は、簡単。昔……そこが、その建物が、遊び場だったから。まだ『青鳥』が出来たての頃の話ですよ」
実「…は?」
玲「だから云ったんだけどな…」
視界が戻る。混乱したのか、解いてしまったようだ。
……混乱しても知りませんよ、って念押ししたし。けど、頷いたから話した。だから云ったのに。
それから、一宮さんが戻ってくるまで相当の時間がかかった。
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実「…はっ!!」
玲「おかえりなさい。で続きは?さっさと終わらせないと、どやされるの俺なんですからね」
実「………え?!」
玲「詳しくは、成宮の年長者に聞いたらどうです? あいつ、知ってるのに知らない振りしてますよ」
これも、事実。次男は怪しいが、長男は間違いない。絶対知ってる。
………『黒亀』の時に軽く呼んできやがったし。
実「…じゃ、じゃあ次。…君は何なの」
玲「『赤蛇』第三幹部及び戦闘部隊長、ですが。」
実「僕ね、君が、凜ちゃんと似すぎてると思うんだよね。」
玲「世界には三人、そっくりな人がいるって話は知らないんですか?」
実「違うね。じゃあ、フルネームで本名を教えてよ。歳も、生まれた場所も」
………………………。
……………………あぁ、面倒くせぇ。
玲「…歳は十八。生まれは中区」
実「名前」
玲「…………賭けをしようか」
実「…は?」
玲「貴方の思っているような関係だったら、貴方はこの情報を長男に確認とること以外に使わない。ただし、違うようなら、好きなようにバラ撒け」
実「……………のった」
玲「じゃ、覚悟しろよ?」
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玲「正解、でしたね。じゃ約束は守ってくださいね」
実「………まさか、そんな…」
玲「俺、サービスでいろいろ云ったけど、目的は云ってません。聞いてきたらそう伝えてください」
ガタリ、と席から立ち上がる。
一宮さんは、まだ席から立たない。
仕方なく、腕を引っ張り上げる。
立たせて、ヅカヅカと店を出る。
お金は、つけてもらった。
夜に黒祈でも連れてこよう。
………話しちゃったなぁ。
まあ、約束破られたら、緋暮さんに記憶を消してもらうんだけどね。
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実「…………」
玲「ほら、早く乗ってください。俺、伊勢さんを待たせてるんで、後からの謝罪が大変なんですから。さっさと……乗れ!」
実「うわっ!?……いったぁ…」
玲「急ぎますよ、シートベルトして。舌噛みたくなければ口閉じて」
実「えっ、ちょ、まっ…」
待つわけないだろ。
待ったら、また根掘り葉掘り聞かれんだろ?
そう思い、車を全速力で走らせる。
残念ながら、警察はこの辺りにない。
ぶっ飛ばしほうだいだ。
実「いや、だから速いいいいい!!」
隣で悲鳴が聞こえる中、関係なしに政府への道を吹っ飛ばした俺だった。




