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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~転~
31/56

本当のこと 赤蛇



────『青鳥』の会社(の窓)から出た後、走って近場の『赤蛇』所有の地下駐車場に向かった。

後ろから聞こえてくる叫び声は一旦後だ、と割り切って。

地下駐車場は、『赤蛇』所有だが、俺の管轄内でもある。

だから、車が置いてある。それに乗れば少し距離がある政府(北区)までさっさと行ける。

そう思いながら走っていると、ふと周りの音が消えた。

驚いて止まる。

そうしたら、音が聞こえるようになった。


実「………や、やっと止まった………………」

玲「…今のは、貴方の能力か。急いでいるんですけど」

実「いや、何度呼びかけても反応ないから仕方なかったんだよ!?」

玲「…あぁ、引き摺られるのが不満でしたか。担がれたいですか?」

実「嫌だよ!?せめて早歩きで行こう!?」


…我が儘だな。

一般人には………いや、この人には難しい事だったのか?

……あ、よく考えたらこの人、資料に元ボンボンって書いてあったかも。

なら仕方ねぇか?

いや、でも戦闘部隊を代表する(?)ボンボンの一人、理さんは運動できるぞ。

シアンは、まあ、生活が祟ってるだろうけど。

つゆりさんは………………ノーコメントでいこう。

そんな馬鹿な思考をしながら早足で歩いていると、地下駐車場に着いた。


───────────────────────────────


実「君、免許持ってるの?」

玲「勿論。政府直属組織の人間が、免許くらい持ってないと駄目でしょう?」

実「まあ、そうだね。…ところで、この車、高級車じゃなかった…?」

玲「給料七ヶ月分です、値段」

実「『赤蛇』は相当のブラック会社なんだね…」


何を今更、なんて思った。

車を走らせて、地下駐車場から出る。

でも、気のせいだろうか、隣から視線が………。


玲「…何ですか、一宮さん」

実「あのさ、君は僕の事どれくらい知ってるの?」

玲「ほとんど知りませんけど、とりあえず名無島の元皇族家の一宮実さん?」


ピシッ、という音が聞こえてきそうだった。

それほどに、隣の人からの殺気が、爆発するかのように出されたからだ。

俺は思わず、車を端に寄せて臨戦態勢をとった。


実「…京子さん、四ノ原京子さんについては」

玲「…皇族家に仕えてた家の生き残り」

実「…個人情報って、守られるべきものでしょう?」

玲「………大丈夫、『赤蛇』では俺と兄者…ボスしか知らない。」

実「へぇ…意外だな、同じ部隊の子には云ってないの?」

玲「上からは極秘だって云われてる。」


緊張が走っている。

相手は、何もしていないのに、何だろうか。

…首に、ナイフを当てられているような感覚がする。

………これは、元皇族の貫禄、か。


実「じゃあさ、幾つか聞いていい?」

玲「………構いませんけど」

実「大事な極秘情報、何で知らされたのが君なの?特別なコネでもあるの?『青鳥』の、内部構造をなんで知ってたの?」

玲「…内部構造?知らな…」

実「階段の位置。把握してないとあの時間では上がれないよ。面倒な造りしてるからね」


この人、意外と見てるんだな。

時計を気にしながら上がってくるとは思わなかった。


玲「…黙秘権は?」

実「無いけど」

玲「………どこから話せばいいので?」

実「君が隠してること全て」

玲「…………全てとか、どれだけになると思ってですか」

実「まあ、幸い京子さんは出張に駆り出されてるし、一日、二日くらいなら付き合えるよ」


ガチじゃねぇかよ、この人…!

くっそ、連れてくるんじゃなかった…!

そう思っても過去には戻れない。

…いや、戻れるけど。でも、代償としてなんか取られるのは嫌だ。


玲「………喫茶店でも入りますか。政府には話通しとくんで」


俺は、残る術はそれしかないと、ため息をついて車を発進させた。


───────────────────────────────


入った喫茶店は、『赤蛇』所有で、その上、主人が『赤蛇』の隠密部隊員、という極めて盗聴などが通り辛い店。

まあ、まず個室でお茶を楽しめる喫茶店ってのもどうかと思う。

勿論、一般人はいない。

(恐らく雰囲気が雰囲気だから無理だろうな)


玲「で、どこから聞きたいんですか?」

実「『青鳥』について、知ってることを全て」

玲「そうですね………内部構造は勿論、監禁施設構造、構成人数、歳、くらいですかね」

実「…いくらなんでも、知るのは難しそうな構造はなんで知ってるの?」

玲「………………………」

実「…僕の能力は知ってる?」


意地でも話させるつもりか?

いや、でも能力は知らない、聞いておくべきか。


玲「────!?」


そう思っていたのに。

またしても、音が消えた。

いや、それに加えて視界が、消えた。

何も見えない。

そう思っていると、音が戻ってきた。だが、視界は戻ってこない。


実「…僕の能力は、五感を奪う。今は聴力と視力を消した。云わないようなら、五感全てを消す」

玲「………『青鳥』は、厄介なものを隠してたな…?」

実「早くしろ」

玲「……混乱しても知りませんよ?…………内部構造は、簡単。昔……そこが、その建物が、遊び場だったから。まだ『青鳥』が出来たての頃の話ですよ」

実「…は?」

玲「だから云ったんだけどな…」


視界が戻る。混乱したのか、解いてしまったようだ。

……混乱しても知りませんよ、って念押ししたし。けど、頷いたから話した。だから云ったのに。

それから、一宮さんが戻ってくるまで相当の時間がかかった。


───────────────────────────────


実「…はっ!!」

玲「おかえりなさい。で続きは?さっさと終わらせないと、どやされるの俺なんですからね」

実「………え?!」

玲「詳しくは、成宮の年長者に聞いたらどうです? あいつ、知ってるのに知らない振りしてますよ」


これも、事実。次男は怪しいが、長男は間違いない。絶対知ってる。

………『黒亀』の時に軽く呼んできやがったし。


実「…じゃ、じゃあ次。…君は何なの」

玲「『赤蛇』第三幹部及び戦闘部隊長、ですが。」

実「僕ね、君が、凜ちゃんと似すぎてると思うんだよね。」

玲「世界には三人、そっくりな人がいるって話は知らないんですか?」

実「違うね。じゃあ、フルネームで本名を教えてよ。歳も、生まれた場所も」


………………………。

……………………あぁ、面倒くせぇ。


玲「…歳は十八。生まれは中区」

実「名前」

玲「…………賭けをしようか」

実「…は?」

玲「貴方の思っているような関係だったら、貴方はこの情報を長男に確認とること以外に使わない。ただし、違うようなら、好きなようにバラ撒け」

実「……………のった」

玲「じゃ、覚悟しろよ?」


───────────────────────────────


玲「正解、でしたね。じゃ約束は守ってくださいね」

実「………まさか、そんな…」

玲「俺、サービスでいろいろ云ったけど、目的は云ってません。聞いてきたらそう伝えてください」


ガタリ、と席から立ち上がる。

一宮さんは、まだ席から立たない。

仕方なく、腕を引っ張り上げる。

立たせて、ヅカヅカと店を出る。

お金は、つけてもらった。

夜に黒祈でも連れてこよう。

………話しちゃったなぁ。

まあ、約束破られたら、緋暮さんに記憶を消してもらうんだけどね。


───────────────────────────────


実「…………」

玲「ほら、早く乗ってください。俺、伊勢さんを待たせてるんで、後からの謝罪が大変なんですから。さっさと……乗れ!」

実「うわっ!?……いったぁ…」

玲「急ぎますよ、シートベルトして。舌噛みたくなければ口閉じて」

実「えっ、ちょ、まっ…」


待つわけないだろ。

待ったら、また根掘り葉掘り聞かれんだろ?

そう思い、車を全速力で走らせる。

残念ながら、警察はこの辺りにない。

ぶっ飛ばしほうだいだ。


実「いや、だから速いいいいい!!」


隣で悲鳴が聞こえる中、関係なしに政府への道を吹っ飛ばした俺だった。



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