頻発する事件~中編~ 『赤蛇』
またしても遅くて申し訳ない………。
これからはもう少し早くできるよう頑張ります。
俺と成宮凜………いや、凜ちゃんは、集合場所である、病院前に向かって走っていた。
「ねぇ、どうしたの?」
「………導羅杏、っつったんだよ。さっきのスマホの持ち主」
「…?それがどうしたの?」
「……………集合終わったら、ちょっと付き合え。」
病院前にて──────
「あ、未鶴!」
「……!凜!」
「うわっ!?どうしたの…!?」
「…………だめ、あの人怖すぎる、ヤバイ…!!」
「え?!」
………何があった。
月村さんはいったい何をした…!?
「…月村さん、何したの」
「何もしてないんですけどねぇ?」
嘘をついている顔だった。
しかし、同時に威圧感も半端ないので黙ることにした。
「そちらは成果、ありました?」
「切り傷が多かった。それだけ」
「そうですか…。こちらは人を殺した跡があったんですよね。」
「………理由は不明だけど」
「そうか………………。」
「まあ、他の所に期待をしましょう。和泉さんも、帰りたいようですし」
和泉未鶴は首を縦にぶんぶん振っていた。
………よほど怖かったのだろうか。
申し訳ないことをしてしまったな。
「あ、そういえばさ。捜査中にスマホを見つけたんだ。持ち主に返す約束取り付けたから、先に帰ってて」
「…?わかりました」
「あ、よく似た二人組で行くって言っちゃったので、僕も行ってきます」
「はぁ!?俺を一人にする気か!?」
「私がついてますので、安心して行ってきてくださいませ♪」
月村さんが、気を効かせたかのように言う。
しかし、隣の和泉未鶴は顔面蒼白である。
安心して行ってきてくださいませ?
どこをどう安心したらいいんだよ…。
「……じゃあ、お願いします。月村さん」
「頼むわ、月村さん」
「ええ、勿論!行ってらっしゃいませ~」
そう見送られて、俺と凜ちゃんは無事に通っているバス停へと歩き始めた。
「……で、導羅杏さんがどうかしたの?」
「…今回の事件の犯人が恐らくアビィリオ・アスタシアだってのは知ってるな?」
「うん。…犯罪大国ジュラドの出身で……国際指名手配犯、だよね」
「あぁ。…そのアビィリオ・アスタシアはな、幾つか偽名をもってんだよ」
「………なんか、話が読めてきた」
やはり、頭が良いみたいだな。
いや、これくらいなら誰でもわかるか?
まあ、いいや。
「お察しの通りだと思う。…導羅杏は、アビィリオ・アスタシアの偽名だ。つまり、このスマホは犯人の落とし物ってわけだ」
「そうか……って、ん?ちょっと待って」
「?なんだ?」
「いや、その犯人の所に僕ら二人で行くの!?」
「そうだが」
「えぇ!?いや、危険すぎない!?」
「?」
何言ってんだ、この子は。
俺をなんだと思ってんだ?
「一応、再確認させてもらうけど。俺は『赤蛇』だから。おまけとして戦闘部隊長。けっこう自信はある」
「あ、そっか…………いや、でも…?」
「………この前の『黒亀』戦のとき。見てたけど戦えねぇわけじゃねぇだろ?」
「あー、うん。僕自身、戦いは苦手なんだけどね。能力はそうなってくれなかったみたい…」
「安心しろ。鍛えりゃ強くなるタイプだと思うから。一日腹筋背筋腕立て伏せを百回ずつやればな」
「絶対に無理かな」
…運動、苦手なのか、この子は。
まあ、俺も好きなだけで得意ではないけど。
凜ちゃんの場合は、好きでもなさそうだな。
「……ま、安心しろ。襲われたら何とかするから」
「その何とかを知りたいかな…!」
「臨機応変にいこう。」
「不安だよ………」
「知るか。あ、バス来た。乗るぞ」
「え、う、うん!」
少し時間が立ち、西区──────
「…………何時来ても寂れてるなぁ」
「奥はさらに酷いんだよね。この状態が…」
今俺たちがいるのは西区の入口。
まあ、一番南区に近いところだ。
寂れてると云えば寂れてるが、中心や左山付近に比べたらマシなのだろう。
……でも、『赤蛇』の見回りを増やすべきかな。
あ、いやでも………俺らの仕事が増えるわ、それ。
「ええと、紡績工場、だったよね。ならこっちか」
「覚えてるのか」
「あ、うん。名無島の地形とか、建物はだいたい覚えてるよ」
「…………マジか」
「父さんに覚えて、って言われたからね」
「……………どう反応したらいいのかわかんねぇ」
「素直すぎるね!?」
いや、本当にわかんねぇんだけど。
言われたから覚えた…?
言われたら覚えられるもんか?
それ、天才の域だろ………。
「………あれ、ここ………かな?」
「あ?どうした?」
「いや、なんかね………岩石が道を塞いでる?」
「は?いくら西区でも、そんなもんはねぇだ──────いや、あるわ。目の前にあるわ。」
俺らの目の前には………高さ二メートル、横幅三メートルくらいの岩があった。
ここを通らないと、ものすごい時間がかかるらしい。
…………奥行きは……軽く一メートルくらいか?
「ど、どうしようか……?」
「離れてろ」
「え?」
───俺は、凜ちゃんを岩から遠ざけた後、岩の方に戻り、思いっきり、地面を蹴った。
宙に舞い上がる。
つっても、一般人間の脚力じゃ、鍛えてようが一メートルと二十センチ位が限界。
…………………しかし、高さはそう問題ではない。
俺は、その位置から足を振りかぶらせ、岩に踵を二、三度叩き込んだ。
「えぇぇぇぇ!?」
凜ちゃんの絶叫が聞こえる。
まあ、次の瞬間。
その絶叫を隠すかの爆音をたてて、岩にヒビが入り、岩は崩れていった。
「………よし、通れるな?先進むぞ」
「……………うっそぉ……」
「?どうした、進まないのか?」
「……や、進むけどさ……。踵蹴りしたら壊れるとか、普通なくない!?」
「いや、さっきまでいた月村さんはもっとすげぇぞ?殴って粉砕させるから」
粉砕させる……うん、マジで粉砕させるから。
腕力どうなってんの。
何回か、馬鹿やらかして殴られたことあるけど、死ぬかと思ったし、次の日まで腹痛かった。
…それを白輝は何度もくらってるからすごい。
「月村さんって、表は優しそうだけど、本当はどす黒いドSだぞ?」
「え」
「………政府の人と会ったことあるか?」
「…ないかな」
「いや、一人はあるな。絶対にある」
「嘘ぉ……」
「長官殿には会ったことあるだろ、成宮のお嬢様?」
「…………あー、うん。あるね」
記憶を辿らずとも、言われたら思い出したみたいだった。
でも、なんか、久しぶりに思い出したみたいだ。
「なんでそんなに会ったことがあんまりないみたいな感じなんだ?」
「父さんが駄目って」
「…………………………」
「………あの、殺気が……」
「あぁ、すまない。ちょっとね」
「……てか、さっき女の子の声出してたけど、女の子の服装しなくてもいいの?」
「あ」
「え?」
ヤバイ、ヤバイ。
完全に忘れてた。
くっそ、女の声で話すのやめときゃよかった……!
でも、まあとりあえず……
「……………服屋なんてこの辺にねぇぞ」
「……あ!」
「あ?」
「西区に、『青鳥』の子達がいるから、その子達に借りよう!」
「え、は?ちょっと待て」
「電話するね!まだ待ち合わせまで結構あるし!」
「いや、おい!?お待ちくださいって!?」
「あ、もしもーし!黄金?」
「……………もういいや」
だめだ、これもう諦めてくれないみたいだ。
こっちが観念して諦めねぇといけないやつだわ。
俺はため息を一つついて、空を仰いだ。
『んあ、なんだ、凜さんッスか!適当に出たんで誰かと思ったッスよ~』
「……君の電話帳には、『青鳥』メンバーしかいないでしょ」
『いや、母さんとお店の人と常連さん達がいるッスよ!』
「…………あ、そう……。」
『で、なんスか?お話?』
「あ、そうそう。あのさ、“普通の”女の子の着るような服って持ってる?」
普通の、と強調した。
嫌な予感しかしない。
てかまず、西区って時点で危なげな雰囲気だよな。
うわぁ………
とりあえず、普通の服が無いことを願っておこう。
そして女物の服はなんでも着たくない。
『え、普通の?んー………翔くーん!女の子の着るような普通の服、ある!?』
『は!?いきなり何!?』
『いや、凜さんが必要なんだってさ!』
「出来れば今すぐ」
「……出来れば、永遠に無しがいい」
『凜さんが………?…うーん、探せばお古が見つかると思います、って言って』
「聞こえてるよー。後、三十分以内に用意できる?そっち行くから」
『いや、オレらが行くッスよー。ねぇ、翔くん』
『えぇ。流石に成宮のお嬢様をこの店には招けませんから』
「ねぇ、本当にどんな店なの!?」
「………店名聞いてみろ」
「え、あ、うん。店名は?」
──────ちょっと名前からして問題大有りの店だったので、ここでは伏せさせてもらおう。
結局、三十分以内に用意できるらしい。
俺と凜ちゃんは此処で待つことになった。
「玲ちゃん、君ってどうして『赤蛇』にいるの?」
「…………恩があるから、だな」
「え、恩……?」
「あぁ。……情報部隊の………いや、緋暮さんでわかるよな。緋暮さんが家出した俺を拾ってくれたんだよ。」
「あ、あの人か。いい人なんだねぇ」
「『赤蛇』の第二幹部補佐だけどな」
「…………う、うん」
「まあ、他の人も……大好きだけど」
「!笑った!!」
笑っちゃ悪いか?
少し不服だが、凜ちゃんは意外そうな、嬉しそうな微妙な表情を見せていた。
「悪いか?」
「あ、ううん。ただ、女の子らしいところも結構あるなぁ、って」
「喧嘩売ってんなら買うぞ?」
「違うって」
「………女の子らしい、とか女の子らしく、はもう嫌だから。出来るだけやめたい」
「…………………………」
沈黙が訪れる。
そりゃあ、そうなるわな。
だって、この子はそう思ったことなんて、無いだろうから。
「…僕ね、憧れてる子がいるんだよね」
「……へぇ」
「女の子だけど、強くて。でも優しくてね。なんやかんや言いながら僕を手伝ってくれて……黒い髪で…」
…………………ん?
あれ、なんか……………………あれ?
「主に、灰色の服とかで行動してたなぁ…。一人称は男の子っぽくて……あ、玲ちゃんみたいな子だった気がするかな。」
「…………その子とどんな遊びしたの?」
「んー、チャンバラごっことかスパイごっことかしたかな。あ、おままごともやったかな」
「…………………」
「だから、そうやって引っ張っていってくれた子に憧れて、一人称は“僕”にしてるんだよね。」
「…そう、なんだ」
………なんだろう、なんか……なんか………
……俺、その記憶に、覚えがあるんだけど!?
そう思って、記憶を思い起こそうとしていると。
「凜さーん!」
「……こ、黄金くん!?速すぎる!僕死ぬ!!」
「え、翔くん、体力ないね!?」
「……能力使ったら勝てるし。僕の方が速いし」
……………『青鳥』の二人が来た。
元気だなぁ………。
そう思いながら、凜ちゃんがそいつらの方に歩いていくのを見ていた。




