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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~承~
27/56

頻発する事件~中編~ 『赤蛇』

またしても遅くて申し訳ない………。

これからはもう少し早くできるよう頑張ります。



俺と成宮凜………いや、凜ちゃんは、集合場所である、病院前に向かって走っていた。


「ねぇ、どうしたの?」

「………導羅杏、っつったんだよ。さっきのスマホの持ち主」

「…?それがどうしたの?」

「……………集合終わったら、ちょっと付き合え。」






病院前にて──────


「あ、未鶴!」

「……!凜!」

「うわっ!?どうしたの…!?」

「…………だめ、あの人怖すぎる、ヤバイ…!!」

「え?!」


………何があった。

月村さんはいったい何をした…!?


「…月村さん、何したの」

「何もしてないんですけどねぇ?」


嘘をついている顔だった。

しかし、同時に威圧感も半端ないので黙ることにした。


「そちらは成果、ありました?」

「切り傷が多かった。それだけ」

「そうですか…。こちらは人を殺した跡があったんですよね。」

「………理由は不明だけど」

「そうか………………。」

「まあ、他の所に期待をしましょう。和泉さんも、帰りたいようですし」


和泉未鶴は首を縦にぶんぶん振っていた。

………よほど怖かったのだろうか。

申し訳ないことをしてしまったな。


「あ、そういえばさ。捜査中にスマホを見つけたんだ。持ち主に返す約束取り付けたから、先に帰ってて」

「…?わかりました」

「あ、よく似た二人組で行くって言っちゃったので、僕も行ってきます」

「はぁ!?俺を一人にする気か!?」

「私がついてますので、安心して行ってきてくださいませ♪」


月村さんが、気を効かせたかのように言う。

しかし、隣の和泉未鶴は顔面蒼白である。

安心して行ってきてくださいませ?

どこをどう安心したらいいんだよ…。


「……じゃあ、お願いします。月村さん」

「頼むわ、月村さん」

「ええ、勿論!行ってらっしゃいませ~」


そう見送られて、俺と凜ちゃんは無事に通っているバス停へと歩き始めた。



「……で、導羅杏さんがどうかしたの?」

「…今回の事件の犯人が恐らくアビィリオ・アスタシアだってのは知ってるな?」

「うん。…犯罪大国ジュラドの出身で……国際指名手配犯、だよね」

「あぁ。…そのアビィリオ・アスタシアはな、幾つか偽名をもってんだよ」

「………なんか、話が読めてきた」


やはり、頭が良いみたいだな。

いや、これくらいなら誰でもわかるか?

まあ、いいや。


「お察しの通りだと思う。…導羅杏は、アビィリオ・アスタシアの偽名だ。つまり、このスマホは犯人の落とし物ってわけだ」

「そうか……って、ん?ちょっと待って」

「?なんだ?」

「いや、その犯人の所に僕ら二人で行くの!?」

「そうだが」

「えぇ!?いや、危険すぎない!?」

「?」


何言ってんだ、この子は。

俺をなんだと思ってんだ?


「一応、再確認させてもらうけど。俺は『赤蛇』だから。おまけとして戦闘部隊長。けっこう自信はある」

「あ、そっか…………いや、でも…?」

「………この前の『黒亀』戦のとき。見てたけど戦えねぇわけじゃねぇだろ?」

「あー、うん。僕自身、戦いは苦手なんだけどね。能力はそうなってくれなかったみたい…」

「安心しろ。鍛えりゃ強くなるタイプだと思うから。一日腹筋背筋腕立て伏せを百回ずつやればな」

「絶対に無理かな」


…運動、苦手なのか、この子は。

まあ、俺も好きなだけで得意ではないけど。

凜ちゃんの場合は、好きでもなさそうだな。


「……ま、安心しろ。襲われたら何とかするから」

「その何とかを知りたいかな…!」

「臨機応変にいこう。」

「不安だよ………」

「知るか。あ、バス来た。乗るぞ」

「え、う、うん!」





少し時間が立ち、西区──────


「…………何時来ても寂れてるなぁ」

「奥はさらに酷いんだよね。この状態が…」


今俺たちがいるのは西区の入口。

まあ、一番南区に近いところだ。

寂れてると云えば寂れてるが、中心や左山付近に比べたらマシなのだろう。

……でも、『赤蛇』の見回りを増やすべきかな。

あ、いやでも………俺らの仕事が増えるわ、それ。


「ええと、紡績工場、だったよね。ならこっちか」

「覚えてるのか」

「あ、うん。名無島の地形とか、建物はだいたい覚えてるよ」

「…………マジか」

「父さんに覚えて、って言われたからね」

「……………どう反応したらいいのかわかんねぇ」

「素直すぎるね!?」


いや、本当にわかんねぇんだけど。

言われたから覚えた…?

言われたら覚えられるもんか?

それ、天才の域だろ………。


「………あれ、ここ………かな?」

「あ?どうした?」

「いや、なんかね………岩石が道を塞いでる?」

「は?いくら西区でも、そんなもんはねぇだ──────いや、あるわ。目の前にあるわ。」


俺らの目の前には………高さ二メートル、横幅三メートルくらいの岩があった。

ここを通らないと、ものすごい時間がかかるらしい。

…………奥行きは……軽く一メートルくらいか?


「ど、どうしようか……?」

「離れてろ」

「え?」


───俺は、凜ちゃんを岩から遠ざけた後、岩の方に戻り、思いっきり、地面を蹴った。

宙に舞い上がる。

つっても、一般人間の脚力じゃ、鍛えてようが一メートルと二十センチ位が限界。

…………………しかし、高さはそう問題ではない。

俺は、その位置から足を振りかぶらせ、岩に踵を二、三度叩き込んだ。


「えぇぇぇぇ!?」


凜ちゃんの絶叫が聞こえる。

まあ、次の瞬間。

その絶叫を隠すかの爆音をたてて、岩にヒビが入り、岩は崩れていった。


「………よし、通れるな?先進むぞ」

「……………うっそぉ……」

「?どうした、進まないのか?」

「……や、進むけどさ……。踵蹴りしたら壊れるとか、普通なくない!?」

「いや、さっきまでいた月村さんはもっとすげぇぞ?殴って粉砕させるから」


粉砕させる……うん、マジで粉砕させるから。

腕力どうなってんの。

何回か、馬鹿やらかして殴られたことあるけど、死ぬかと思ったし、次の日まで腹痛かった。

…それを白輝は何度もくらってるからすごい。


「月村さんって、表は優しそうだけど、本当はどす黒いドSだぞ?」

「え」

「………政府の人と会ったことあるか?」

「…ないかな」

「いや、一人はあるな。絶対にある」

「嘘ぉ……」

「長官殿には会ったことあるだろ、成宮のお嬢様?」

「…………あー、うん。あるね」


記憶を辿らずとも、言われたら思い出したみたいだった。

でも、なんか、久しぶりに思い出したみたいだ。


「なんでそんなに会ったことがあんまりないみたいな感じなんだ?」

「父さんが駄目って」

「…………………………」

「………あの、殺気が……」

「あぁ、すまない。ちょっとね」

「……てか、さっき女の子の声出してたけど、女の子の服装しなくてもいいの?」

「あ」

「え?」


ヤバイ、ヤバイ。

完全に忘れてた。

くっそ、女の声で話すのやめときゃよかった……!

でも、まあとりあえず……


「……………服屋なんてこの辺にねぇぞ」

「……あ!」

「あ?」

「西区に、『青鳥』の子達がいるから、その子達に借りよう!」

「え、は?ちょっと待て」

「電話するね!まだ待ち合わせまで結構あるし!」

「いや、おい!?お待ちくださいって!?」

「あ、もしもーし!黄金?」

「……………もういいや」


だめだ、これもう諦めてくれないみたいだ。

こっちが観念して諦めねぇといけないやつだわ。

俺はため息を一つついて、空を仰いだ。


『んあ、なんだ、凜さんッスか!適当に出たんで誰かと思ったッスよ~』

「……君の電話帳には、『青鳥』メンバーしかいないでしょ」

『いや、母さんとお店の人と常連さん達がいるッスよ!』

「…………あ、そう……。」

『で、なんスか?お話?』

「あ、そうそう。あのさ、“普通の”女の子の着るような服って持ってる?」


普通の、と強調した。

嫌な予感しかしない。

てかまず、西区って時点で危なげな雰囲気だよな。

うわぁ………

とりあえず、普通の服が無いことを願っておこう。

そして女物の服はなんでも着たくない。


『え、普通の?んー………翔くーん!女の子の着るような普通の服、ある!?』

『は!?いきなり何!?』

『いや、凜さんが必要なんだってさ!』

「出来れば今すぐ」

「……出来れば、永遠に無しがいい」

『凜さんが………?…うーん、探せばお古が見つかると思います、って言って』

「聞こえてるよー。後、三十分以内に用意できる?そっち行くから」

『いや、オレらが行くッスよー。ねぇ、翔くん』

『えぇ。流石に成宮のお嬢様をこの店には招けませんから』

「ねぇ、本当にどんな店なの!?」

「………店名聞いてみろ」

「え、あ、うん。店名は?」


──────ちょっと名前からして問題大有りの店だったので、ここでは伏せさせてもらおう。



結局、三十分以内に用意できるらしい。

俺と凜ちゃんは此処で待つことになった。


「玲ちゃん、君ってどうして『赤蛇』にいるの?」

「…………恩があるから、だな」

「え、恩……?」

「あぁ。……情報部隊の………いや、緋暮さんでわかるよな。緋暮さんが家出した俺を拾ってくれたんだよ。」

「あ、あの人か。いい人なんだねぇ」

「『赤蛇』の第二幹部補佐だけどな」

「…………う、うん」

「まあ、他の人も……大好きだけど」

「!笑った!!」


笑っちゃ悪いか?

少し不服だが、凜ちゃんは意外そうな、嬉しそうな微妙な表情を見せていた。


「悪いか?」

「あ、ううん。ただ、女の子らしいところも結構あるなぁ、って」

「喧嘩売ってんなら買うぞ?」

「違うって」

「………女の子らしい、とか女の子らしく、はもう嫌だから。出来るだけやめたい」

「…………………………」


沈黙が訪れる。

そりゃあ、そうなるわな。

だって、この子はそう思ったことなんて、無いだろうから。


「…僕ね、憧れてる子がいるんだよね」

「……へぇ」

「女の子だけど、強くて。でも優しくてね。なんやかんや言いながら僕を手伝ってくれて……黒い髪で…」


…………………ん?

あれ、なんか……………………あれ?


「主に、灰色の服とかで行動してたなぁ…。一人称は男の子っぽくて……あ、玲ちゃんみたいな子だった気がするかな。」

「…………その子とどんな遊びしたの?」

「んー、チャンバラごっことかスパイごっことかしたかな。あ、おままごともやったかな」

「…………………」

「だから、そうやって引っ張っていってくれた子に憧れて、一人称は“僕”にしてるんだよね。」

「…そう、なんだ」


………なんだろう、なんか……なんか………

……俺、その記憶に、覚えがあるんだけど!?

そう思って、記憶を思い起こそうとしていると。


「凜さーん!」

「……こ、黄金くん!?速すぎる!僕死ぬ!!」

「え、翔くん、体力ないね!?」

「……能力使ったら勝てるし。僕の方が速いし」


……………『青鳥』の二人が来た。

元気だなぁ………。

そう思いながら、凜ちゃんがそいつらの方に歩いていくのを見ていた。

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