頻発する事件~上編~ 赤蛇
「はぁ?馬鹿じゃねぇの」
「ちょ、酷い」
いきなり、失礼した。
この会話は、俺、成宮玲とボスである月村時雨の会話の一部である。
全部説明するには、少し前まで遡る。
少しお付き合いいただこう。
まず、最近、ある事件が多発している。
うちの隠密部隊員である遠江一樹さんも巻き込まれたあの事件だ。
規模が拡大しつつあり、政府から正式に事件捜査及び終わらせろ、との通達がきた。
で、俺がその通達を受け取ったので兄者に渡しに来た。
「失礼します。……兄者。」
「ん?あ、おかえりー。どうだった?」
「捜査依頼来た。」
「やっぱりかー」
たはは、と苦笑する兄者。
予測はしていたそうだ。
なら先に言えって思うが口には出さない。
「で?指示は?」
「そうだねぇ………………あ、そうだ。今、暇な部隊ってある?」
「………?比較的、全部仕事は少ないと思う。暇ではないけど」
「うーん……戦闘は残ってもらいたいし…隠密は遠江さんがねー…なら、情報か」
「?何がどうしたんだ?」
嫌な予感がする。
なんか、嫌な予感がする。
大事だから二回いったぞ。
「『青鳥』に協力依頼を出しに行こう!」
「はぁ?馬鹿じゃねぇの」
「ちょ、酷い」
………と、言うわけだ。
うん、ふざけてんのか、この人は。
『青鳥』と、協力?
嫌に決まってんだろうが。
「いや、でもね?これは正直、『赤蛇』だけじゃ対処は難しいんだよ?表にも裏にも被害がでてる。」
「んなことはわかってんだよ。大事なのは『青鳥』と組む事だ。反発は絶対出るぞ」
「いや、それを話し合いで解決するのが俺の特技だよ?」
……もう何を言っても無駄か。
そう考え、最後に溜め息だけついた。
それを見て、兄者は笑い、次の言葉を吐き出す。
「じゃあ、情報部隊によろしくね。お姫様?」
………どうにでもなりやがれ。
俺は知らないからな。
────情報部隊が、帰ってきたみたいだ。
天音さんがご機嫌だし、向こうも協力を承諾したのだろう。
まあ、向こうにも不利益はないし。
これで組めなかったら『青鳥』は壊滅ギリギリまでいきそうだしな。
「…玲」
「ん?………なんだ、緋暮さん。おかえりなさい」
「おう。幹部は集まれってさ」
「んなこったろーと思ったよ。了解」
………俺としては大反対なんだけどな。
「はい、緋暮さん、おかえりー」
「ただいまでーす。で、はい承諾書」
「お疲れちゃん♪」
「うっぜぇ」
「月村さん、顔も声も言葉もすげぇことになってるよ」
「うん、お兄ちゃん、滅茶苦茶悲しいよ」
「死ねよ」
「はいはい、早くしてくださいな、馬鹿」
「母さんも母さんだけどね」
………うん、やっぱりまともじゃねぇよな、うちは。
常時この馬鹿騒ぎだから、突っ込みたくもなくなってきた。
今回は天音さんに同意だ。
てか、おそらく面倒くさくてハルと紫由、無視を決め込んでるな。
「……で、協定の内容だけど。緋暮さん、よろしく」
「はいよ。内容っつってもさ……協定結んだから、一緒に調査する。それだけだけどね」
「嫌」
「姫、秒速で否定しないでくださいよ………」
「嫌なもんは嫌」
「みゃーちゃん、仕方ないよ?」
「諦めてくださいませ」
「ほら、隠密の二人も仰ってますので」
「…………嫌なものは嫌です」
駄々をこねる。
さて、駄々をこねたのはいつぶりだろうか。
軽く……………十年ぶりくらいか?
うん、それより前の気がするわ。
……あれ、ついたことあったっけ?
「玲ー?嫌でも、命令で何とかするよ?」
「………うげぇ…」
「どれだけ嫌なのさ…」
「というか、何故そんなに嫌なんですか?美琴様は知っているようですが」
「あー…………言っていいの?」
「………………………………」
「あ、別に構いませんよ。嫌な記憶なら思い出さなくとも」
「……すまんな、紫由」
「だからいいですって」
あぁくそっ!
仕方ねぇのはわかってるけどやりたくない!
「で、本来、応対の役目をするのは戦闘部隊だから、よろしくね」
「拒否権は?」
「あるわけないでしょ」
「………了解」
苦虫を噛み潰したみたいな顔になってるだろうが、仕方ない。
やれるだけ、やろう。
ただし、やれるだけ、だがな!!
その後、戦闘部隊は、三つに分けられ、『青鳥』と行動することになった。
まあ、そこはギリギリセーフとしよう。
…………………で、まあさっそく来たんだが……
「……………………」
「あ、あの」
「………………………」
「おーい?」
「すいません、姫…………うちの方は拒絶反応を示しておりますので」
「地味に酷いんですけど」
「申し訳ありません。私は月村水樹と申します」
「あ、はい。僕は…」
「存じております、成宮凜様ですね。」
「え、あ、はい。……ん?何で知って…」
「うちの情報部隊、怖いので」
「ア……ハイ」
「ほら、ひ………じゃない、幹部様ー?貴方も名乗ってくださいな」
「…………………玲」
「え、名字は……」
聞かれるよなー………?
言いたくねぇなぁ………?
よし。
「…吾輩は猫である。」
「…え?」
「吾輩は猫である。」
「……な、名前はまだない」
「そういうことだ」
「え?!」
「ないってことにしとけ」
「え、あ、うん」
「……(どれだけ知られたくないんですかね~)」
月村さんの呆れた目線が刺さる気がする。
無視を決め込もうか。
うん、そうしよう。
「………というか、すいません……」
「?何故謝るのですか?」
「いえ、実は……もう一人いるんですよ。貴方がたと組む人…」
盛大な遅刻だな。
重役か?
そうじゃないなら殴りたいものだが、相手はうちの奴らじゃないからな。
殴れない。
と、そんな思案をしているときに、足音が聞こえてきた。
「あっ!遅い、未鶴!!」
「わり、昨日ゲームしてた」
「未鶴!?」
「……元気ですね」
「その通りだな」
その声を聞いてか、今きた奴が振り返る。
あっけらかんとゲームしてた、と言ってのけた奴は───
「………………は」
「未鶴?どうしたの?」
「…………」
口をパクパクさせていた。
「自己紹介をお願いできますか?」
「…………どうせ、あんたら知ってんだろ?」
「えぇ。ですが、情報の照らし合わせも大切ですので」
「………そこの奴に聞いたら?」
あ、俺を指差しやがった。
人を指差すな、貴様。
とか思うけど、まずは返答かな。
「さて、何の事でございましょう?和泉未鶴」
「敬語なのかどうなのかをはっきりしろよ」
「断る」
「即座に否定かよ」
「はいはい、喧嘩っぽいのしないでくださいまし?私は月村水樹です。よろしくお願いしますね」
「……玲。名字は聞くな」
あ、和泉未鶴。
あん?って顔しやがってる。
殴っていいかな?
………月村さん、マジで怖いからやめて。
「……さて、私たちが探すのは南区。貴方がたにとっては最初の事件が起きた場所ですね?」
「あの、貴方がたにとっては、とは?」
「あぁ、失礼。私たちの中にも被害者が出まして。それが南区の事件と同時刻だった、というだけですよ」
「そう、なのですか…ありがとうございます」
「で、行くなら行こう。さっさと終わらせて帰る」
一言発して南区へと向かう。
追いかけてくる気配があるから大丈夫だろう。
……先行きが思いやられるのだが。
一方、東区メンバー────
「……糸坂、いづるです…」
「夏野目桜之じゃ。」
「若葉伊織です、どうぞよろしく」
「朝戯理と申します」
「…………淡間屋シアンでーす…」
「「…え、淡間屋!?」」
「ほら、だから言ったじゃん、理さん!!」
「私は知らん、とも言ったろう?決めたのは水樹さんだ」
「そうだけどさぁぁ!!」
「……朝戯さん」
「?なんでしょう、糸坂さん」
「……つゆは元気ですか?」
「えぇ。貴女と組むのを猛反対するくらいには元気ですよ」
「……良かった」
「(いいのか……)」
「………後…」
「?」
「……どこかで、お会いしたことありますか?」
「………………先日の事件以外では、御座いませんと思いますが…?」
「…………そう、ですか……」
「(…………うん。朝戯さん、は会ったことないよ)」
そして、もう一組。
北区にて─────
「はいはい、どーもぉ!里峰白輝でぇす!」
「白輝、うるさい。私は糸坂つゆり。」
「むぐぐぐぅぅぅ!むぐぅ!!」
「あ、えっと、満辺 侑奈です」
「はいはい、満辺侑奈ちゃんね!……で、何で君は隣の子の体をロープでグルグル巻きにしてるの?」
「あぁ、えっとですね……あ、ちょっと明ちゃん!」
「ぷはっ!!何してくれてんの、侑奈ちゃん!?」
「いや、だって絶対騒ぐでしょ?」
「酷すぎない?!私、女優だからね!?」
「……女優、だってさ?白輝」
「……。」
「……はっ!し、失礼しました!私は梅花 明ですっ!あ、あの!もしかして、湊白亜様ですか!?」
「?湊白亜………あぁ、こいつか」
「…………うっさいよ、つゆりん!……もぉー!そうだよ、そうです!僕は湊 白亜ですぅ!!」
「きゃぁぁぁぁあ!!!」
「「(あ、ダメだこれ)」」
南区メンバー
(まあ、簡単に言えば、もとに戻る)
「………調査、っつてもな…」
「だいたいは“上”や『青鳥』がやってくれたみたいですしねぇ」
「やることねぇじゃん」
「あ、あはは………」
「俺まで駆り出したのに、何にもねぇとか呪う」
「未鶴くーん!?」
「つか、“上”ってなんだよ」
…………あれ?
こいつら、知らないの?
月村さんに言ってもいいのかを目線で聞く。
………何も言わないなら言ってもいいんだろうか。
よし、言うか。
「俺ら、『赤蛇』は政府の上位配下組織だ。“上”ってのは政府。つまり、俺らの行動のだいたいは政府の命だ。」
「「……………は!?」」
「元気ですね、お二人。」
「……まあ、それを知らずに動いてたから、俺らの行動をいちいち止めようとしたのか。納得いったわ」
これで止められなくて済むかな。
………ん?
これ、俺らが名無島のほぼ最強戦力になるような………?
…まあ、いいか、別に。
「あはは、姫はバッサリ言いますね?」
「悪いか」
「いえ、全く。…で、お二人様?できるだけ、我々の仕事の邪魔は…しないでくださいね?」
この言葉は、フリーズしてる和泉未鶴と成宮凜に向けられた言葉。
どうか、邪魔しないことを願ってるよ。




