頻発する事件~上編~ 『青鳥』
利音さんとりのちゃんが怪我を負ってから、一週間が経っていた。
事件の犯人に繋がる捜査は続いている。
警察からも直々に協力依頼がきた。
少し前まで、警察は南区しか動いていなかったのに。
……………理由は簡単。
同じような事件が、北区、そして中区でも頻発しているからだ。
「あぁもう!!」
「ら、雷羅ちゃん?落ち着こう?」
「…………でも、こんだけ忙しいなら、仕方ないですよね」
「うーん……久しぶりにこんなに動いたよ…太陽が出てたら動くのきついけどさぁ…」
「……愁ちゃん!今、何が起きてるのか、もう一回教えてヨ!」
雷姉が、叫んだ。
趣味に没頭できなくて怒っていらっしゃる。
くわばらくわばら。
「……最初は南区。二キロの範囲内で傷害事件発生。これは利音とりのが巻き込まれてるから知ってるな?」
「うん。二人が全治二週間だってのもね」
「次に中区。ビル街にいた人全員にいきなり攻撃がきた。これも、妙な液体をみた、という人がいる」
「随分と広範囲ですね?」
「あぁ。で、昨日。北区が同じ現象に見舞われた」
「………砂夜ちゃん…」
そう、北区でも起きたこの事件。
『青鳥』の学生の一人も巻き込まれたのだ。
天童 砂夜ちゃん。
十六歳のハンドメイド品が大好きな女の子。
北区には、砂夜ちゃんと同居している『青鳥』の女の子がいる。
満辺 侑奈ちゃん。
砂夜ちゃんのお財布をしっかり管理している女の子。
侑奈ちゃんは、中区の図書館に来ていたため、事件の被害に遭うことはなかった。
「北区は、最悪なことに、警察署も被害を被った。その範囲内に天童の家もあったんだ」
「………予告とか、しなさいヨ…!!」
「それは相手がするはずないでしょう……?」
「今、情報集めに双子出してるからちょっと落ち着け」
「落ち着けるわけないでショ!?趣味に没頭できないんだかラ!」
これだけ聞いたら、クズの極みである。
が、誤解されるのも可哀想なので付け足しておこう。
雷姉の机の上には、今回の事件が乗った新聞全てと、病院に持っていくと思われる見舞いの品が置いてある、ってね。
なんやかんやで、優しい姉なのだ。
「雷羅、落ち着け」
「だーかーラ!落ち着けるわけないでショ!私は、疲れてるのに出勤だシ!」
「雷羅ちゃん、それ僕を見てもっかい言って?」
「……………撤回するワ、伊織さん」
「うん、よろしい」
伊織さんは、ものすごく働いてる。
なんでも、愁くんとやるから、病院関連なら任せて、だそうだ。
どうしよう、伊織さんと愁兄が搬送されないか、というぐらいに働いてる。
…………因みに、彩兄は……
と、そのとき。
扉が勢いよく開いた。
「たっだいま~」
「「双子は無理やり帰らされましたー、ただいまでーす!」」
「………彩雅、どうだった?」
「いや、それがね。なんにも収穫なし。珍しいよ?うちの情報網に引っ掛からないなんて」
「双子は?」
「液体の話は知ってるねー?」
「うん、利音君から聞いたからね」
「じゃあ、その液体の色の話はー?」
「色?水じゃないの?」
そうやって伊織さんが聞くと、ニシシ、というかのように双子が笑った。
そして、嬉しそうに言った。
「「その液体、赤黒い色をしてたんだって!」」
「「「「!!」」」」
赤黒い……………
……それってつまり、血、ではないか?
ここにいるやつらは全員思っただろう。
「………未鶴は?」
「働きすぎてゲーム不足とかで倒れた。今家でゲームしてる」
「そういやあいつ、引きこもりだったな………」
話し合いをしながら、てんやわんやする『青鳥』。
もう五月蝿いレベルに騒ぎ始めた頃。
コンコン、と扉をノックする音がした。
依頼………かな?
愁兄が、扉を開いて応対する。
「すいません、今、依頼を受ける余裕がなく………」
「いえ、依頼ではなく、協力要請です。」
「………………は?」
扉を開けたその先には、茶髪でラフな格好をした男性がいた。
その後ろには、同じくラフな格好をした、よく似ている三人の子供がいる。
………年もそこまで離れていなさそうだし、ご兄弟かな。
「……とりあえず、中へどうぞ」
「ありがとうございます。ほら、お前ら」
「「「ありがとうございます!」」」
「いえ、応対室へどうぞ。仁叶、お茶を頼む」
「わかりました」
「彩雅、凜。お前らこっちな」
「はいはーい」
「僕はこっちにいるからね」
「お願いします」
応対室へ入り、ソファに案内する。
向かいのソファに僕らは(彩兄のみ一人がけのソファに)座り、話を始める。
「……で、どのようなご用件で?」
「………………………『青鳥』って、意外に人を疑わないんですね」
雰囲気が変わった。
よく見ると目付きも変わっている。
しかし、三人の子供は笑っている。
「………単刀直入に聞きましょうか?ねぇ、愁」
「……あんたら、どこの誰だ」
「……あはっ!面白い聞き方されたね、ひーくん!」
「面白かねぇだろ。」
「れんくんー?静かにしてね?」
「はーい」
……常識人とは。
いないのか?
「……………相手の質問、答えてあげなくていいの?」
あ、いたわ。
よかった…、いたよ。
「………ごめんなさい」
「いや、別に大丈─────」
「僕の兄はしっかり者ですが、弟妹が糞生意気でご迷惑をお掛けすることが多々あるとは思いますが」
前言撤回。
いないわ、常識人。
え、急に飛び出す皮肉の大合唱!?
「…………で、誰なんで?」
「あぁ、失礼。俺は柯由緋暮。この三つ子は弟妹です」
「はーい!弟の紅蓮でーす!」
「妹の千桃です」
「………弟の藍砥、です」
「……………で、まあ?用件と言いますと…ぶっちゃけ、俺らは『赤蛇』から来た使者です」
驚愕だった。
まさか、僕らのところに……
直接『赤蛇』からの使者が来るなんて。
何を考えてるんだ………?
「で?用件は?」
「言ったでしょう?協力依頼、と」
「………頻発してる事件のこと?」
「そうですよ。お宅も、何人かやられた、と耳に挟みましたが」
「も、ってことはそっちもか」
「お恥ずかしながら。隠密を得意とするものが後ろからやられました」
「ふぅん?で?協力依頼の詳細は?」
「協力して、暴れまわってる血液遣いを捕まえましょ、ってやつです」
「……血液遣い?それが犯人なの?」
「おや、知らなかったのか。えぇ、そうです。おそらく、名はアンジェロ・アスタシア。国際指名手配犯の犯行かと思われてます」
すごい。
『赤蛇』はここまで調べあげたのか?
………僕ら、敵わないじゃないか。
「ま、これはうちの幹部が海外の新聞を読んでいた為気づいたのですけど~」
「どうします?そちらにも、不利益はないでしょう?」
「……彩兄…………」
「……………………………そうだね、のって損はないし、逆の方が損をするね」
「のるのか?」
「俺はそっちがいいと思う。代理と一社員としてどう思うかな?」
僕がどう答えるかとか、わかってる癖に。
彩兄が言ったことに逆らったら、どうなるか、なんて身に染みている。
凍りづけとか、絶対に嫌だから。
「意義なし、かな」
「しゅーくんはー?」
「きもい」
「酷い」
「………意義なし」
「はい、これでいいかな?」
『赤蛇』の人の方を見る。
ニヤリと笑っていたが、気にしないで彩兄は話を進める。
「さて、凜。みんなに伝えてきて。各方には根回しをよろしく」
「わかったよ。では、ごゆっくり」
そういって、僕は部屋を出ていった。
雷姉、何て言うかなぁ………。
……凜が出ていって、すぐの会話
「…………ふうん?意外と妹さん思いですねー?」
「………れんくん。僕らが言っても、説得力の欠片もない」
「仲良すぎるもんねー」
「三つ子、五月蠅い」
「「「ごめんなさーい」」」
「……凜ちゃん、ね?やっぱり似てるな、うちのお姫様に」
「…」
「…確かに、驚くぐらい似てるよねぇ」
「……彩雅…」
「でも凜とその子は─────」
「………赤の他人だからさ?」




