報告をしに来てまた災難
───ピリピリしてるなぁ
俺は、肌でそれを感じ取った。
『赤蛇』にはあまりない感じだ。
それもそのはず。
俺が今いるのは………………
「…失礼します。先日の『黒亀』の処分の報告をしに来ました、『赤蛇』の成宮玲です」
───『赤蛇』の上層部にあたる、名無島の中心……政府への報告に来ていた。
「あら、いらっしゃい。『赤蛇』第三幹部成宮玲。報告、お願いするわ」
「はい。まず、達成目的である『黒亀』の処分については、貴殿方のお耳に入っているように完全達成いたしました。」
「はいはい、聞いてるわ」
「で、途中『青鳥』の介入。これは簡単にあしらいました。」
「はいはい」
「で、最後に〔アンデット〕数人の介入」
これを言ったら長官殿は、うわ、と目を潜めた。
それほど嫌か?
「災難だったわねー、第三幹部殿」
「そこまでですが。ただ、『青鳥』の成宮凜が巻き込まれかけたので救出する羽目になりましたが」
「………複雑?」
「慣れっこです」
申し訳なさそうにしないで。
心から頼むから。
「…………以上となります」
「ご苦労様。」
「いえ、では私はこれで」
出ていこうと、礼をして後ろに下がったら……
……何かにぶつかった。
温かかったので、人なのだろう。
振り返ると………
「………入って来んなっつったろ、黒祈」
「…連れてきたのは誰だよ」
「……玲さん」
「…わるうございましたね。」
黒祈と空日だった。
てか、黒祈がぶつかるなんて珍しい。
バランス感覚MAXなのに。
って、よく見たら空日を睨み付けてる。
「……空日、押すなよ」
「黒祈さんがなかなかいかないのが悪いんです。私、微塵も悪くないです」
「お前らなぁ…ここ何処かわかってんの?」
「「政府」」
「わかってやってるのか…」
「ぷ………くくく………」
もう半ば諦めと呆れの目で二人を見始めていた頃。
含み笑いが聞こえてきた。
聞こえてきた方を見ると………
長官殿が、笑っていた。
「………長官殿。」
「あー、面白い。」
「面白くありませんよ…」
「…普通に喋っていいわよ?」
「…ここ、政府の長官室です」
「私が許すわ。後、外で待機してる私の部下の伏見那緒君?入ってきなさいな」
扉が開く。
呆れた顔をした青年が入ってきた。
黒祈が警戒したのか、俺の後ろにまわった。
前に立てよ……
「はぁ……流石、長官殿。気配察知能力が高いですね~」
「あれくらい、すぐわかるでしょう?」
「まあ、ここにいる人なら簡単でしょうけど……。ところで、俺、そこの少年になんかした?」
「警戒してるんでしょうね。こいつ、妙に疑いやすいので」
「…………………………」
「怪しくて悪かったね。確かに……髪は紺色、瞳は深緑色、革ジャンにスーツ。うん、怪しい」
「知ってんなら、直してきなさいよ?それ、規定違反だからね?」
「その規定違反を見逃してるのは何処のどいつですかね?」
この人は、伏見 那緒さん。
こんな名前だが、れっきとした男性だ。
そして、長官補佐というかなり高い位にいる。
だから、格好も咎められない。
唯一、咎められる人が、全く注意しないからだ。
にしても…この二人は。
お互いにからかうのが得意な組み合わせだな。
このままでは話が進まない、ということで、俺は仲裁に入ろうとした。
………………入ろうとしたんだが…
「玲さん、帰っていい?」
爆弾発言を可愛がっている妹分から聞いてしまった。
一瞬にして静寂が訪れる。
「…………………………」
「…………………?お腹すいた」
「……伏見殿。何か食べるものは御座いませんか?」
「フィ〇ガー〇ョコならあるよ」
「くださいませんか?」
「はい、どうぞ」
「空日、食べてていいよ」
「…ありがとうございます」
「………面白い子つれてきたわねー?」
「そうですね…」
「だから、敬語じゃなくていいって。普通に喋りなさい?」
「お断りし───」
「命令です。」
「………………わかったよ」
上機嫌になりやがった。
こんちくしょう。
顔見せに来ただけ(あ、報告も)だったのに………
「黒祈も、大きくなったわねー?」
「…別に、そうでもないでしょ」
「無愛想さは誰に似たのか…」
「玲姉ェ」
「でしょうね」
「やめてくれ、二人共………!」
「あはは、そうしてれば、普通ですよねぇ………?成宮翁華長官様?」
「あら、嫌味?いつもこうしてちゃ、流石に世間様に叩かれるわ」
ここでの一番の権力者の癖に、何をいうかこの人は。
「……ねぇ、今日は私、一言も聞いてないわよ?」
「何を?」
「呼び方」
「………………………………黒祈」
「玲姉ェが言ったら言う」
「…………………………………」
「早くしないと、怒るわよー?」
それは困った。
この人が怒ると怖いのだ。
俺は、観念することにした。
「…………………………………母さん」
「よし、よく言った!黒祈~?」
「お母さん」
「はい、OK!………ちなみに、そこの子、何処で連れてきたの?」
「西区に一人でいたから連れてきて育てた」
「どうも、矢上空日です。チョコ、ご馳走さまでした」
「おきに召してもらえたなら何よりだね。あ、長官様。書類落ちてま……あぁ!?これ、先週なくしたとか言ってたやつ!?」
「逃げるわよー、三人とも!」
「は!?ちょ、待てっ!?」
………襟をひっ捕まれて、俺らは長官室を後にした。
この人について説明しよう。
この人は成宮 翁華。
俺と黒祈の母親で、政府の長官殿。
『赤蛇』に指令を出す本人だ。
『黒亀』についても全部この人の指令。
自由気ままで、明るい人。
しかし、名無島の為なら非道も(赤蛇を使って)行う人だ。
ちなみに、名無島の生まれではないらしい。
………外の国の人なのに、なんで名無島の為に働くのか、よくわからないけど。
「ふう……撒いたわね」
「……無理無理無理無理無理。……………日光下とか、マジで無理だって……」
「黒祈、死ぬな」
「頑張って下さい」
「昔から、インドア派だったけど、やっぱり悪化してるわねー?」
「…………あのくそ野郎のせいだっての……」
「…それもそうね」
「で?こんなところまで走らせて、なんのようなの、母さん」
「ふふ、特別任務~」
「「うわ、最悪」」
「流石兄妹ですね」
「そこは誉めちゃダメよ、空日ちゃん?……でね。内容なんだけど……」
真剣な顔になった。
これは、大事なやつか。
…母さんは、特別任務、と言って政府の他のメンバーに内緒で『赤蛇』に依頼を出すときがある。
聞いて喜べ、これは給料に上乗せだ。
そして、泣き叫べ。
かなり難しいか、大変なものばかりだ。
「…………[日滝家]って、知ってる?」
「俺は知らない。黒祈と空日は?」
「私も知りません」
「……指名手配犯と要注意人物の兄妹、だっけ」
「正解。よく知ってたわね?」
「夜中に、指名手配犯の方に出くわしたことある」
「捕まえなさいよ…」
「動きが早くて出来なかったし、時間外勤務はするつもりないから」
「この野郎め………」
「で?その二人がなんなの?」
「調べといて」
「…………そんだけ?」
「天音ちゃんに頼めばすぐ………と、いかないだろうけど、まあまあ簡単には集まるでしょ」
「……すぐ、じゃないの?」
「多分ね。…その二人、一つも戸籍がないのよ。名前も出てこないし。日滝、ってことしかわかってないの」
そりゃ、大変だな………
天音さんなら、まあ三日でいけると思うけど。
でも、面倒かな………
「しかも、監視カメラにほとんど映らないときた」
「天音さん、無理じゃん」
「だから大変なのよ」
「うわー」
「残業確定?」
「私は途中で帰りますよ?」
監視カメラにほとんど映らないとどんな悪いところがあるか。
それは、天音さんたち情報部隊は、監視カメラをハッキングして遊ん………
じゃなかった。
仕事をしているからだ。
映らないとなると、かなり時間がかかる。
残業確定。
「………ま、やれるまでやってみるよ」
「よろしくね」
「はい。じゃ、そろそろ帰るわ」
「またな、お母さん」
「失礼しました」
「うん、またね。………また来てね」
その言葉に、返事は返さなかった。
「………あー、天音さん?あのさ、母さ──長官殿から頼み事されたんだけど…情報部隊、ファイト。…えーとね。[日滝家]について、洗いざらい全てだってさ~。…うん、指名手配犯もいる。…………残業確定だと思うよ。頑張れ。じゃ」
通話を一方的に切る。
多分帰ったらなんか言われるな、これ。
まあ、仕方ないけど。
「玲姉ェ。珈琲飲みたい」
「いいよ。空日は?」
「……林檎ジュース」
「了解。買ってくるよ」
「じゅーう、きゅーう……」
「ごめん、せめて二分は頂戴!?」
走って自販機に向かう。
………黒祈もやはり母さんの子だな。
そう感じて、ブラックコーヒー、林檎ジュース、そして自分の分の水も買った。




