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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~承~
21/56

報告をしに来てまた災難



───ピリピリしてるなぁ

俺は、肌でそれを感じ取った。

『赤蛇』にはあまりない感じだ。

それもそのはず。

俺が今いるのは………………


「…失礼します。先日の『黒亀』の処分の報告をしに来ました、『赤蛇』の成宮玲です」


───『赤蛇』の上層部にあたる、名無島の中心……政府への報告に来ていた。


「あら、いらっしゃい。『赤蛇』第三幹部成宮玲。報告、お願いするわ」

「はい。まず、達成目的である『黒亀』の処分については、貴殿方のお耳に入っているように完全達成いたしました。」

「はいはい、聞いてるわ」

「で、途中『青鳥』の介入。これは簡単にあしらいました。」

「はいはい」

「で、最後に〔アンデット〕数人の介入」


これを言ったら長官殿は、うわ、と目を潜めた。

それほど嫌か?


「災難だったわねー、第三幹部殿」

「そこまでですが。ただ、『青鳥』の成宮凜が巻き込まれかけたので救出する羽目になりましたが」

「………複雑?」

「慣れっこです」


申し訳なさそうにしないで。

心から頼むから。


「…………以上となります」

「ご苦労様。」

「いえ、では私はこれで」


出ていこうと、礼をして後ろに下がったら……

……何かにぶつかった。

温かかったので、人なのだろう。

振り返ると………


「………入って来んなっつったろ、黒祈」

「…連れてきたのは誰だよ」

「……玲さん」

「…わるうございましたね。」


黒祈と空日だった。

てか、黒祈がぶつかるなんて珍しい。

バランス感覚MAXなのに。

って、よく見たら空日を睨み付けてる。


「……空日、押すなよ」

「黒祈さんがなかなかいかないのが悪いんです。私、微塵も悪くないです」

「お前らなぁ…ここ何処かわかってんの?」

「「政府」」

「わかってやってるのか…」

「ぷ………くくく………」


もう半ば諦めと呆れの目で二人を見始めていた頃。

含み笑いが聞こえてきた。

聞こえてきた方を見ると………

長官殿が、笑っていた。


「………長官殿。」

「あー、面白い。」

「面白くありませんよ…」

「…普通に喋っていいわよ?」

「…ここ、政府の長官室です」

「私が許すわ。後、外で待機してる私の部下の伏見那緒君?入ってきなさいな」


扉が開く。

呆れた顔をした青年が入ってきた。

黒祈が警戒したのか、俺の後ろにまわった。

前に立てよ……


「はぁ……流石、長官殿。気配察知能力が高いですね~」

「あれくらい、すぐわかるでしょう?」

「まあ、ここにいる人なら簡単でしょうけど……。ところで、俺、そこの少年になんかした?」

「警戒してるんでしょうね。こいつ、妙に疑いやすいので」

「…………………………」

「怪しくて悪かったね。確かに……髪は紺色、瞳は深緑色、革ジャンにスーツ。うん、怪しい」

「知ってんなら、直してきなさいよ?それ、規定違反だからね?」

「その規定違反を見逃してるのは何処のどいつですかね?」


この人は、伏見ふしみ 那緒なおさん。

こんな名前だが、れっきとした男性だ。

そして、長官補佐というかなり高い位にいる。

だから、格好も咎められない。

唯一、咎められる人が、全く注意しないからだ。

にしても…この二人は。

お互いにからかうのが得意な組み合わせだな。

このままでは話が進まない、ということで、俺は仲裁に入ろうとした。

………………入ろうとしたんだが…


「玲さん、帰っていい?」


爆弾発言を可愛がっている妹分から聞いてしまった。

一瞬にして静寂が訪れる。


「…………………………」

「…………………?お腹すいた」

「……伏見殿。何か食べるものは御座いませんか?」

「フィ〇ガー〇ョコならあるよ」

「くださいませんか?」

「はい、どうぞ」

「空日、食べてていいよ」

「…ありがとうございます」

「………面白い子つれてきたわねー?」

「そうですね…」

「だから、敬語じゃなくていいって。普通に喋りなさい?」

「お断りし───」

「命令です。」

「………………わかったよ」


上機嫌になりやがった。

こんちくしょう。

顔見せに来ただけ(あ、報告も)だったのに………


「黒祈も、大きくなったわねー?」

「…別に、そうでもないでしょ」

「無愛想さは誰に似たのか…」

「玲姉ェ」

「でしょうね」

「やめてくれ、二人共………!」

「あはは、そうしてれば、普通ですよねぇ………?成宮翁華長官様?」

「あら、嫌味?いつもこうしてちゃ、流石に世間様に叩かれるわ」


ここでの一番の権力者の癖に、何をいうかこの人は。


「……ねぇ、今日は私、一言も聞いてないわよ?」

「何を?」

「呼び方」

「………………………………黒祈」

「玲姉ェが言ったら言う」

「…………………………………」

「早くしないと、怒るわよー?」


それは困った。

この人が怒ると怖いのだ。

俺は、観念することにした。


「…………………………………母さん」

「よし、よく言った!黒祈~?」

「お母さん」

「はい、OK!………ちなみに、そこの子、何処で連れてきたの?」

「西区に一人でいたから連れてきて育てた」

「どうも、矢上空日です。チョコ、ご馳走さまでした」

「おきに召してもらえたなら何よりだね。あ、長官様。書類落ちてま……あぁ!?これ、先週なくしたとか言ってたやつ!?」

「逃げるわよー、三人とも!」

「は!?ちょ、待てっ!?」


………襟をひっ捕まれて、俺らは長官室を後にした。


この人について説明しよう。

この人は成宮なるみや 翁華おうか

俺と黒祈の母親で、政府の長官殿。

『赤蛇』に指令を出す本人だ。

『黒亀』についても全部この人の指令。

自由気ままで、明るい人。

しかし、名無島の為なら非道も(赤蛇を使って)行う人だ。

ちなみに、名無島の生まれではないらしい。

………外の国の人なのに、なんで名無島の為に働くのか、よくわからないけど。


「ふう……撒いたわね」

「……無理無理無理無理無理。……………日光下とか、マジで無理だって……」

「黒祈、死ぬな」

「頑張って下さい」

「昔から、インドア派だったけど、やっぱり悪化してるわねー?」

「…………あのくそ野郎のせいだっての……」

「…それもそうね」

「で?こんなところまで走らせて、なんのようなの、母さん」

「ふふ、特別任務~」

「「うわ、最悪」」

「流石兄妹ですね」

「そこは誉めちゃダメよ、空日ちゃん?……でね。内容なんだけど……」


真剣な顔になった。

これは、大事なやつか。


…母さんは、特別任務、と言って政府の他のメンバーに内緒で『赤蛇』に依頼を出すときがある。

聞いて喜べ、これは給料に上乗せだ。

そして、泣き叫べ。

かなり難しいか、大変なものばかりだ。


「…………[日滝家]って、知ってる?」

「俺は知らない。黒祈と空日は?」

「私も知りません」

「……指名手配犯と要注意人物の兄妹、だっけ」

「正解。よく知ってたわね?」

「夜中に、指名手配犯の方に出くわしたことある」

「捕まえなさいよ…」

「動きが早くて出来なかったし、時間外勤務はするつもりないから」

「この野郎め………」

「で?その二人がなんなの?」

「調べといて」

「…………そんだけ?」

「天音ちゃんに頼めばすぐ………と、いかないだろうけど、まあまあ簡単には集まるでしょ」

「……すぐ、じゃないの?」

「多分ね。…その二人、一つも戸籍がないのよ。名前も出てこないし。日滝、ってことしかわかってないの」


そりゃ、大変だな………

天音さんなら、まあ三日でいけると思うけど。

でも、面倒かな………


「しかも、監視カメラにほとんど映らないときた」

「天音さん、無理じゃん」

「だから大変なのよ」

「うわー」

「残業確定?」

「私は途中で帰りますよ?」


監視カメラにほとんど映らないとどんな悪いところがあるか。

それは、天音さんたち情報部隊は、監視カメラをハッキングして遊ん………

じゃなかった。

仕事をしているからだ。

映らないとなると、かなり時間がかかる。

残業確定。


「………ま、やれるまでやってみるよ」

「よろしくね」

「はい。じゃ、そろそろ帰るわ」

「またな、お母さん」

「失礼しました」

「うん、またね。………また来てね」


その言葉に、返事は返さなかった。



「………あー、天音さん?あのさ、母さ──長官殿から頼み事されたんだけど…情報部隊、ファイト。…えーとね。[日滝家]について、洗いざらい全てだってさ~。…うん、指名手配犯もいる。…………残業確定だと思うよ。頑張れ。じゃ」


通話を一方的に切る。

多分帰ったらなんか言われるな、これ。

まあ、仕方ないけど。


「玲姉ェ。珈琲飲みたい」

「いいよ。空日は?」

「……林檎ジュース」

「了解。買ってくるよ」

「じゅーう、きゅーう……」

「ごめん、せめて二分は頂戴!?」


走って自販機に向かう。

………黒祈もやはり母さんの子だな。

そう感じて、ブラックコーヒー、林檎ジュース、そして自分の分の水も買った。


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