事件から三日後の災難
……『黒亀』の事件から三日がたった。
まあ、任務には成功したから此方としては変わらぬ日常を送っていた………
…………………かったのだが。
残念ながら、この世界はそううまくは出来ていないようだ。
何故って?
それは………………
「と、いうことで。今日の午後二時に〔アンデット〕の方々をお招きするから、幹部は準備よろしくね」
「「「………………は?」」」
うちのボスの一言により、平穏が一瞬にして消え去った。
おい、切実に、平穏を返せ。
「え、聞こえなかった?準備よろしくね?」
「いや、時雨君?流石にそこまで老いぼれてないけど。いきなりすぎない?」
「向こうからの指定だもん。仕方ないじゃん」
「………マジなんだね…」
「…兄者。詳しくは何するので?」
「協定結ぼうかなぁと」
「詳しくも何にもないよ、時雨君!?」
ハル、もっといってやれ。
お前が言わないなら俺が言うけどさ。
てか、天音さんも、もの申したそうにしてっから。
「だって、もう仕事の邪魔されたくないでしょ?」
「いや、されたくないけどね?流石に急すぎるのよ」
「だって、この日以外は嫌って言われたもん」
「あー……なら仕方ないですね」
「みゃーちゃん!?」
「…諦めましょ、美琴君」
それが今回の懸命な判断だと、天音さんはわかったみたいだ。
兄者は決めたら梃子でも動かないから。
さっさと納得した方がいい。
面倒くさい事にはしたくないしね。
「で?具体的には何するの?」
「えーとね。天音さんはいつも通りで良いけど、部屋の見張りだけは強くしといて。美琴は……俺の隣にいてねー」
「うわ、面倒臭い。それ絶対嫌がらせか何かでしょ。」
「もっちろーん!で、玲は……お茶でもいれて持ってきて」
「随分適当だな……まぁ、了解」
「うん、以上。お昼までにそれぞれ準備しておいてねー」
………人使いが荒い。
もう慣れたけどさ?
午後二時頃───
俺は戦闘部隊の執務室で仕事をしていた。
もう少し…と思っていたところで肩を叩かれた。
何か、と思って振り返った。
そうしたら………
「ねぇ、吸血鬼さんのお姉さん」
……この前の氷の少女がいた。
───え?
「聞いてるの。ここ、匿える?」
「……か、匿うことは簡単ですが……何故此処に?」
「嫌なやつが護衛に来やがったから逃げた」
苦虫を噛み潰したかのような顔でハッキリと言い切った………。
随分表情豊かなお嬢様だな。
オマケに口が悪い、とは……
完全にうちの黒祈と同じだ。
Prrrrrr───
「はい、此方戦闘部隊……………は?」
「つゆりーん?口が悪くなってるぞー」
「……玲、〔アンデット〕の女の子が其処に………玲?」
───俺は、その子に腕を掴まれ、走り出していた。
──組織のビル内の休憩所にて。
俺はオレンジジュースと珈琲を買って、お嬢様にオレンジジュースを渡す。
「……で?お嬢様は〔アンデット〕の方だと」
「そう。夕凪小雪。この前はごめんなさい」
「いや、別にいいけどさ。俺には雪とか氷とか効かねぇし」
「……炎遣い、だったか」
「そうそう。……って違う違う、本題は別。なんで俺の腕を掴んで走り出したのさ……」
「捕まったら面倒臭い。本当なら神奈さん…鬼神さんに来て貰うつもりだったのに、あの糞が………」
ものすごく嫌そうな顔していらっしゃる…。
と思ったら、メキメキッ!、とかいう不吉な音が聞こえてきた。
そのお嬢様の手の方からだった。
手元を見ると………
「おいおい、オレンジジュースの缶が凹んでるぞ」
「…………………」
しまった、みたいな顔をしているがそんなにジュースが飲みたいのか?
「……とにかく、彼奴がいるなら会談したくない」
「そりゃ、此方が困るな……兄者に伝えようか?」
「兄者?」
「あぁ、ここのリーダー様だ。昔からお世話になってて、兄みたいな人だからそう呼んでる」
「……兄…みたいか……」
「ま、本当の兄貴ほど屑はいないしな」
「?他にもお兄さんがいるの」
「あれ、黒祈に聞いてない?」
「うん、吸血鬼さんのお話は、あんまり聞かない」
「彼奴らしいな?兄貴は二人いる。姉は一人、妹は二人、弟二人。弟の一人は黒祈な?」
「……大家族」
「よく言われ……てた。」
「過去形」
「今は家出した成宮玲だからね。弟が一人だ。」
「あ、そう」
冷めてるな………
この子……本当に黒祈にそっくりじゃん。
何があったんだろうか。
って、その前に会談について聞かねぇと。
「で、どうするのさ」
「……リーダーに電話」
「……あ、はいはい」
人づかい荒いな、このお嬢様……
まぁ、服見てる限り家柄とか良いみたいだし、育ちが良いんだろうな
「…あー、もしもし、兄者?」
『?玲?今何処?』
「それは別にいいから。あのさ、そっちに〔アンデット〕の方いる?」
『いるいる。さっきから、小雪様ァァァ!って五月蠅い』
「そのお嬢様なんだけどさ、その五月蝿い人が嫌いだから逃げたみたいなんだよな。と、言うわけで取引は電話でもいい?」
『俺は話せたら構わないよ』
「ん、了解。……はいよ、お嬢様?」
「……感謝する。」
そこからは俺は聞いていない。
書類を取りに行って、戻ってきて仕事をしていた。
なにやら話し込んでいるので聞かないべきかとね。
……ん?この書類シアンのじゃないか?
………おい、これじゃ印を押せねぇよ。
字が汚ねぇんだよ………
って、それ以前につゆさん…
あんた、途中で寝ましたね?
字が恐ろしいことになってんだけど
……………これ、白輝か。
月村さん並みに綺麗だからびっくりしたわ。
その時はそういう役だったのか?
何度か自分の頭の中で自問自答を繰り返す。
そうやってる内に、通話が終わったみたいだ。
お嬢様が袖を引いてきた。
「……終わりましたか、お嬢様」
「…うん。有難う。」
「いえいえ。…ただ、帰る際はお付きの方はどうするおつもりで?」
「引き摺って帰る」
「マジかよ。」
人づかい荒いし、冷めてるし、口悪いし…
悪いところ多いな、と思ったらまだあるのか。
凶暴、と付け足さねば。
「彼奴がウザいのが悪い。私は微塵も悪くない。」
「決めつけが素晴らしいほどに…」
「…彼奴が此処を見つけるまでは、貴女といる。いいよね」
「最早疑問型でもないのか…いや、いいけどさ。書類は……夜にでもやるし」
「………無銭労働」
「難しい言葉知ってんな?」
「…黒塚から、教わった。」
「黒塚?誰だ、それ」
「ウザい人」
「おおう………」
あ、違う。
バッサリしてるんだ、この子は。
「…私に着いてきてくれるお節介人」
「………好きなの?嫌いなの?」
「どっちでも」
「お嬢様は冷たいね…」
「貴方は、嫌いな人いる?」
「いるよ。世界で一番全てが最悪で、一番全てが大嫌いな糞野郎がね」
「……私よりも、酷い」
「本当だ。まあ、嫌いなものは嫌いだよ。……たぶん永遠にね」
「…?どういう────」
「小雪様ァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
………………なんか来た。
え?……………………え?!
なんか来た!!
……怖っ
「無事ですか!?お怪我とかは…」
「帰る。」
「かしこまりました!」
「……お、お気をつけて」
「……ん?失礼、気づきませんでした。貴方は……」
「……成宮。成宮玲と申します。こちらのお嬢様のお話のお相手をさせていただいておりました」
「成宮…?……いえ、失礼。私は黒塚 友斗と申します。小雪様を見ていただきありがとうございました」
「いえいえ。此方も久しぶりに息抜きができましたのでお気になさらず」
って、ん?
お嬢様、走ってどっか行った!?
どこ行くつもりだ!?
「左様でございますか。では、私どもはこれで…って小雪様!?」
「…左様でございますか、の辺りで走っていきましたよ…」
「!?す、すみません!さようなら!!」
……………バタバタした人だな。
可愛そうに。
にしても……成宮、で思うことがあったのか。
でも、俺関連ではない……?
なら、十中八九は…彼奴か糞野郎だろうな。
俺は、いやな顔を思いだし、持っていたやり直しの書類を握り潰した。




