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太陽と月~赤と青~  作者: 黒野凜兎
名無島での出来事~起から承へ~
15/56

事件後の翌日のこと



……この前はえらい目を見た。

『黒亀』を助けに行ったのに、『赤蛇』にほとんど返り討ち状態。

しかも、『黒亀』は全滅。

残党は休暇で家にいた下っ端のみで、もう戦う気力もないみたいだった。

……つまり、僕らは、失敗したのだ。

相手が相手だということでこの島での権力は落ちないみないだが…

当然、僕らのモチベーションは下がるわけで、今は………


「「「「「……………」」」」」


無言での仕事だ。

奏理と歩歌はいないけど。

──いたらこんな静かにならない。

二人はメンタルが強いのだ。

というかむしろ………


「「ひゃぁっほぉぉぉ!!」」


とかなんとか、叫びかねない。

へこたりるなど、ほとんどない、元気な子達だ。

僕らとは違って、ね。


「おい、凜」

「何、愁兄?」

「お前に客だ。………攻撃すんなよ?」

「………え、どう言うことなの?」

「いいから行け」


威圧が、怖いんですけども!?

え、何!?怖い人なの!?



────来客応接室にて


「……………どうも」

「……………ど、どうも」

「こんにちは~」


………えぇぇぇ!?

昨日、僕を凍死、もしくは圧殺死させようとした人とえーと…近くにいた人!?

何故!?


「え、えーと、どう言ったご用件で………?」

「……ごめんなさい」

「へ?」

「ははっ、殺しに来たとかじゃないよ。私は御時みとき 神奈かんな。こっちの子は夕凪ゆうなぎ 小雪こゆきちゃん。昨日の非礼を謝りに来たんだよ」

「……え?!いや、死んでないし別にそんな…」

「ダメ。」

「ごめんなさい」


あれ、なんで僕が謝ってんだろう…


「……昨日は…気が立ってたから、ごめんなさい。怪我とか、してない?」

「んー…僕はしてないよ?てか、なんで助かったのか、よくわかってないし」

「「…え?」」

「え?」


───沈黙


「誰も…話してくれなかったの?…えーと」

「凜です。成宮凜。」


名前を普通に言った。

その時──ピシッ!というかのように、二人の表情が固まった。


「………成宮?……貴女、歳いくつ?」

「十八ですけど」

「あ、やっばい。歳上だった」

「あー、別にいいですよ。気にしませんので」

「…………成宮………」

「?成宮ですけど……?」

「……………成宮播麻の、娘…?」

「そうですね。播麻は僕の父です」

「…………………」

「凜。お前は仕事に戻れ」

「へっ!?愁兄!?」

「ほら、行った行った。」


──愁兄に押し出される。

いったい、何だったんだか……

あ、父さんについての説明をしておこう。

成宮なるみや 播麻はりま

薬品会社の社長で僕らの父親。

仕事が忙しいのか、なかなか帰ってこない。

と、まあ、ざっくり説明したら、こんな感じ。

………何で父さんを知ってたんだろう。

そんな疑問を胸に、自分の書類を片付けに戻った。



────一方。


「………………ウチの父親が、申し訳ありませんでした。償えることでは御座いませんが……」

「………頭、上げて。」

「貴方は、あの屑の子供ではないのでしょう?なら、貴方が謝る必要なんてありません」

「………ですが、一応戸籍上は、親子なので。」

「構わないと言っているの。…あの娘は、父親のしていることを知らないの?」

「あの子だけではありませんよ、長女よりも下の奴等は知りません」

「…教えないんだ」

「あの子達には、できるだけ苦痛が無いようにしてますから」

「……優しいのですね?」

「俺は、他のところで辛い思いをしてますから。それより軽くても、重いものは背負って欲しくないです」

「……ふぅん。あの野郎と同じことを言う」

「あの野郎、とは?」

「我らの屋敷の執事様です。小雪ちゃんは、苦手らしいのですが」

「違う。嫌い。」

「手厳しいお言葉ですね?」

「………話が逸れた。今日は、詫びをしに来た。先日は済まなかった。以上」


──数秒の沈黙。


「小雪ちゃん…高圧的すぎる……」

「…構いませんよ。……助かりましたし。」

「…今の言葉に、質問する」

「?何でしょうか?」

「助からなかったら、どうしてた?」

「………………」

「小雪ちゃん、今度は無神経すぎ──」

「そのときは。」


─────愁から殺気が出る。


「───お命無いと思え。」



自分の飲み物を淹れようと、席を立ったとき、来客応接室の扉が開いた。

二人が帰るみたいだ。


「…お邪魔した。失礼する」

「失礼しました、それでは」

「あ、いえいえ。外までお送りしますよ」

「…有難う」

「お客人をもてなすのは、私の役目ですから!」

「元気なものね」

「取り柄ですから。はい、どうぞ~」

「……………………………」




「長男は、正直どうしようと構わない。父様もな。でも、他は許さない。ウチの奴らを、『青鳥』を。傷つけるようなら、切り裂く。」

「……無礼な質問だった。謝礼しよう。」


───再び沈黙。


「……ごめんなさい、こんなに高圧的で」

「………………構いませんって。ただ、凜に…あの子にああいう真似は、もうやめてくださいね?あの娘は昔のトラウマのせいで少し記憶がありませんので」




「…ねえ、貴女。成宮凜。」

「はい?なんですか、夕凪さん」

「…忘れたい、若しくは忘れたくないことってある?」


急に何なんだ、この子は。

忘れたいことや、忘れたくないこと?

どうした答えさせたいんだろうか…。

でも、聞かれたことには答えねば。


「…ありますよ?僕、感情はありますから」

「………は、って、何?」

「感情は、あるけど……自己防衛の気持ちがないんです。自分のことよりも他人を、って気持ちが強くて…」

「………ふうん。で、忘れたくない事、とは?」

「『青鳥』のことです。今が、あるってこととか」

「…………そう。」


──その後、エレベーターから降り、玄関までお送りした。

その間、夕凪さんは一言も言葉を発しなかった。


「僕はここまでです。本日は謝礼の為だけに此処まで足を運んで頂き、有難う御座いました」

「いえいえ、此方が悪いからね……」

「今、生きてるので何の問題もないんですけどねー?」

「……命は、大切にしなさい。黒塚がよく云ってた。大切にしなさい。」


──沈黙。

隣の御時さんが頭を抱えて、ため息をついた。


「………は、はい………?」

「この子、すごい上からでしょ?まあ、云ったところで直らないんだから仕方ないけど」

「神奈さん…余計なことは言わなくていい。……成宮凜。ここのリーダーに伝えなさい。此方から、新しい社員にと二人進めます。五日後、準備をしておけ、と」

「え!?あ、え?!……わ、分かりました!伝えます!!」

「…………それでは」

「さようならー」


───────不思議な人だ。

そう思いながら、頭を下げた。

そして、当たり前のように頭を上げる。

…………目を見開く。


「………嘘でしょ…!?」


二人は、人通りの無い一本道を歩いていったのに…

──その道には、もう誰もいなかった。

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