事件後の翌日のこと
……この前はえらい目を見た。
『黒亀』を助けに行ったのに、『赤蛇』にほとんど返り討ち状態。
しかも、『黒亀』は全滅。
残党は休暇で家にいた下っ端のみで、もう戦う気力もないみたいだった。
……つまり、僕らは、失敗したのだ。
相手が相手だということでこの島での権力は落ちないみないだが…
当然、僕らのモチベーションは下がるわけで、今は………
「「「「「……………」」」」」
無言での仕事だ。
奏理と歩歌はいないけど。
──いたらこんな静かにならない。
二人はメンタルが強いのだ。
というかむしろ………
「「ひゃぁっほぉぉぉ!!」」
とかなんとか、叫びかねない。
へこたりるなど、ほとんどない、元気な子達だ。
僕らとは違って、ね。
「おい、凜」
「何、愁兄?」
「お前に客だ。………攻撃すんなよ?」
「………え、どう言うことなの?」
「いいから行け」
威圧が、怖いんですけども!?
え、何!?怖い人なの!?
────来客応接室にて
「……………どうも」
「……………ど、どうも」
「こんにちは~」
………えぇぇぇ!?
昨日、僕を凍死、もしくは圧殺死させようとした人とえーと…近くにいた人!?
何故!?
「え、えーと、どう言ったご用件で………?」
「……ごめんなさい」
「へ?」
「ははっ、殺しに来たとかじゃないよ。私は御時 神奈。こっちの子は夕凪 小雪ちゃん。昨日の非礼を謝りに来たんだよ」
「……え?!いや、死んでないし別にそんな…」
「ダメ。」
「ごめんなさい」
あれ、なんで僕が謝ってんだろう…
「……昨日は…気が立ってたから、ごめんなさい。怪我とか、してない?」
「んー…僕はしてないよ?てか、なんで助かったのか、よくわかってないし」
「「…え?」」
「え?」
───沈黙
「誰も…話してくれなかったの?…えーと」
「凜です。成宮凜。」
名前を普通に言った。
その時──ピシッ!というかのように、二人の表情が固まった。
「………成宮?……貴女、歳いくつ?」
「十八ですけど」
「あ、やっばい。歳上だった」
「あー、別にいいですよ。気にしませんので」
「…………成宮………」
「?成宮ですけど……?」
「……………成宮播麻の、娘…?」
「そうですね。播麻は僕の父です」
「…………………」
「凜。お前は仕事に戻れ」
「へっ!?愁兄!?」
「ほら、行った行った。」
──愁兄に押し出される。
いったい、何だったんだか……
あ、父さんについての説明をしておこう。
成宮 播麻。
薬品会社の社長で僕らの父親。
仕事が忙しいのか、なかなか帰ってこない。
と、まあ、ざっくり説明したら、こんな感じ。
………何で父さんを知ってたんだろう。
そんな疑問を胸に、自分の書類を片付けに戻った。
────一方。
「………………ウチの父親が、申し訳ありませんでした。償えることでは御座いませんが……」
「………頭、上げて。」
「貴方は、あの屑の子供ではないのでしょう?なら、貴方が謝る必要なんてありません」
「………ですが、一応戸籍上は、親子なので。」
「構わないと言っているの。…あの娘は、父親のしていることを知らないの?」
「あの子だけではありませんよ、長女よりも下の奴等は知りません」
「…教えないんだ」
「あの子達には、できるだけ苦痛が無いようにしてますから」
「……優しいのですね?」
「俺は、他のところで辛い思いをしてますから。それより軽くても、重いものは背負って欲しくないです」
「……ふぅん。あの野郎と同じことを言う」
「あの野郎、とは?」
「我らの屋敷の執事様です。小雪ちゃんは、苦手らしいのですが」
「違う。嫌い。」
「手厳しいお言葉ですね?」
「………話が逸れた。今日は、詫びをしに来た。先日は済まなかった。以上」
──数秒の沈黙。
「小雪ちゃん…高圧的すぎる……」
「…構いませんよ。……助かりましたし。」
「…今の言葉に、質問する」
「?何でしょうか?」
「助からなかったら、どうしてた?」
「………………」
「小雪ちゃん、今度は無神経すぎ──」
「そのときは。」
─────愁から殺気が出る。
「───お命無いと思え。」
自分の飲み物を淹れようと、席を立ったとき、来客応接室の扉が開いた。
二人が帰るみたいだ。
「…お邪魔した。失礼する」
「失礼しました、それでは」
「あ、いえいえ。外までお送りしますよ」
「…有難う」
「お客人をもてなすのは、私の役目ですから!」
「元気なものね」
「取り柄ですから。はい、どうぞ~」
「……………………………」
「長男は、正直どうしようと構わない。父様もな。でも、他は許さない。ウチの奴らを、『青鳥』を。傷つけるようなら、切り裂く。」
「……無礼な質問だった。謝礼しよう。」
───再び沈黙。
「……ごめんなさい、こんなに高圧的で」
「………………構いませんって。ただ、凜に…あの子にああいう真似は、もうやめてくださいね?あの娘は昔のトラウマのせいで少し記憶がありませんので」
「…ねえ、貴女。成宮凜。」
「はい?なんですか、夕凪さん」
「…忘れたい、若しくは忘れたくないことってある?」
急に何なんだ、この子は。
忘れたいことや、忘れたくないこと?
どうした答えさせたいんだろうか…。
でも、聞かれたことには答えねば。
「…ありますよ?僕、感情はありますから」
「………は、って、何?」
「感情は、あるけど……自己防衛の気持ちがないんです。自分のことよりも他人を、って気持ちが強くて…」
「………ふうん。で、忘れたくない事、とは?」
「『青鳥』のことです。今が、あるってこととか」
「…………そう。」
──その後、エレベーターから降り、玄関までお送りした。
その間、夕凪さんは一言も言葉を発しなかった。
「僕はここまでです。本日は謝礼の為だけに此処まで足を運んで頂き、有難う御座いました」
「いえいえ、此方が悪いからね……」
「今、生きてるので何の問題もないんですけどねー?」
「……命は、大切にしなさい。黒塚がよく云ってた。大切にしなさい。」
──沈黙。
隣の御時さんが頭を抱えて、ため息をついた。
「………は、はい………?」
「この子、すごい上からでしょ?まあ、云ったところで直らないんだから仕方ないけど」
「神奈さん…余計なことは言わなくていい。……成宮凜。ここのリーダーに伝えなさい。此方から、新しい社員にと二人進めます。五日後、準備をしておけ、と」
「え!?あ、え?!……わ、分かりました!伝えます!!」
「…………それでは」
「さようならー」
───────不思議な人だ。
そう思いながら、頭を下げた。
そして、当たり前のように頭を上げる。
…………目を見開く。
「………嘘でしょ…!?」
二人は、人通りの無い一本道を歩いていったのに…
──その道には、もう誰もいなかった。




