『黒亀』事件~後編~ 青鳥side
………今、立っている者は?
………今、聞こえる悲鳴は?
………今、この場の状態は?
………………どれも、最低なものだ。
…頭が痛い。
ガンガンする。
誰かの能力だろうか。
……いや、違う。
誰もそんな力使ってはいなそうだ。
………………では、何故?
………何故、このタイミングなのか。
…あぁ、酷い…頭痛が、している。
「………ッ!!」
「あら、動きが鈍いですよ?大丈夫ですか、貴女」
「…敵を心配するなんて、余裕だねぇ?」
「えぇ、余裕です。だって、我々の勝利は………決定事項ですから」
「何をぬかすか、小娘がっ!」
「……香り系の能力の方、ですか?なら、ハンカチで口を塞ぐか、息をせずに、貴女を倒せばよいだけのこと」
「やってみるがよいぞ?」
………桜之さん、もしかして、僕らから敵を遠ざけてる?
被害から守るため?
………この中では、桜之さんが一番攻撃的じゃないのに?
「……桜之さ───」
──刹那、轟音が響き渡った。
そして、静寂。
…二方向から来る足音がする。
片方は………
「凜ちゃん!無事かしラ?!」
「……結局、最終部隊まで到着させちゃったか…」
「…利音さんと翔が重傷、奏理と歩歌は…」
「「怪我してるし、今現在瓦礫の下敷きでーす」」
「…軽傷なのは桜之さんと凜だけか」
「………随分と、普通に言うな?『青鳥』?」
僕にそっくりな子が憎たらしげに彩兄のほうを見ていう。
彩兄はそれを驚いた表情で見た。
「…おや………珍しい。君がわざわざ出てくるなんてねぇ?」
「アンタはとっととこの世からおさらばしろよ。成宮彩雅?」
「お断りだね。まだやりたいことはあるからさ」
「…あっそ」
……もう一つの足音。
それは………
「やっほぉ~?隠密部隊、ただいま到着したよー」
「まともに報告できないんですか、兄さん」
「……威和、紫由?静かにできるかな?」
「もちろんですよ、美琴様」
「はぁーい、了解ッスよ。美琴様」
「敬意がなってませんよ、兄さん」
「いやいや、今さら?」
「今さらです。」
「紫由くんは、厳しいよな」
「だよね、黒祈君!」
…………あぁ、ヤバイ。人増えた。
僕もう無理。無──
「さぁーて?凜、まだ行けるね?行けるよね?」
「………イケマス」
「…サイガ、虐めないであげて」
「うるさいなぁー?」
「……………!?」
「いづ!?」
「つゆりさん!!?」
「………やっと、見つけられたよ。つゆり」
「…うっさいよ、いづる」
…あぁ、どこがで、見たことがあると思った。
…いづさんの親族なのか?
…ん?
恐ろしい斬り合い…に使われてる武器が………メス!?
「「刃こぼれするわ!!」」
同じタイミングで、赤い瞳の子と叫ぶ。
…何故だろうか?
頭が、いっそう痛くなってきた
何故だろう。
あの子は…知ってる気がする。
「………君は、誰?僕を…知ってる?」
「お前は知ってるけど。お前は俺を知らないよ。」
何故か、聞こうとしたんだ。
でも、聞けなかったんだ。
そのわけは…その子の後ろから、歩いてくる人たちがいたから。
「…………?」
その子が、振り返った。
……そして、叫んだ。
「……総員、退避用意!!!」
「「「「…………?!」」」」
「…〔アンデット〕が、来やがった!」
………何かが、歩いてきたのはわかっていた。
近づいてくるにつれて、はっきり、二人の人がいるのもわかった。
──────次の瞬間。
目の前の道がえぐり取られた。
──え?
──え?え?
────何が…起きた?
「…散歩の、通り道なの。…どいてよ」
「まあまあ、雪女ちゃん。多少五月蝿いぐらいならいいじゃん?」
「…やだよ、鬼神さん。私、人間嫌いだもん」
「あらら、そりゃ駄目だね。…というわけで……」
───刹那、走る悪寒。
「どかないようなら潰すよ?」
「…鬼神さん、雪女さん。潰すのはやめてくれない?」
「あれ、黒祈君?逃げないと?」
「大丈夫。先に行って」
「あれ、君はどっちだっけ?」
「逃げてる方です」
「………なら……呆然としてる奴等を、始末したらいいんだね?」
…矛先が………『青鳥』に向いた?
「!逃げるぞ!!」
「……ばーか。人間は…嫌いだよ?そういう判断が遅いところも含めて」
──────特に、君たちとかは。
─あれ?
……もしかして…あの大きな氷の塊は……僕を標的にしてる?
綺麗な、光った、透き通った、氷?
…彩兄の作るやつよりも、大きいなぁ?
…あ、愁兄と雷姉が、なんか言ってる。
彩兄は……いつも通りの顔が、少し歪んでる?
珍しいなぁ?
……僕は、死ぬのかなぁ?
………死ぬときは、なんだっけ?
走馬灯?が見えるみたいなことを聞いたけど……
思い出す記憶なんて、いいもんないし。
……これが、僕の最後かぁ……
あ、でも他の仲間は無事ってことか。
………それなら、この終わり方も……
「……悪く、ないかもね。」
目を閉じた。
「……………馬鹿っ!!!」
─僕に似た声を、最後に聞いた気がしたのは……現実か、それとも………




