表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法の鏡  作者: 瑠音
8/17

裏切り者


───ということでございます。王子。」




レ)「…報告ご苦労。」


ブリランテ国。最近までの楽しい雰囲気は消え、重たい空気に包まれている。


グ)「王子、昼食を召し上がってください。まずは、体力が無ければ何も出来ません。」

レ)「…ああ。そうだな。」


レインは、震える手でナイフとフォークに手を伸ばすと、食事を始めた。


今のブリランテ国は、感染症に悩まされていた。先ほど解剖士から話を聞いたところによると、原因は牛肉らしい。二つの種類が、交配して出来上がった新しい品種の牛だったらしい。

その牛肉の、味の良さに人々は闇ルートで高値をつけて売っていたという。

普通、新しい品種が生まれれば、国に報告する必要があるのだが、今回は報告もなく、たくさんの人々がその味を1度は味わいたいと、闇ルートに手を伸ばしてしまい、今は国民の4割程度が感染症にかかっている。その内の1割は、特効薬が見つかることもなく亡くなってしまっている。



レ)「…一難去ってまた一難…か。」

ネ)「…本当にそうですね。」

グ)「…何か解決策を見つけなければ、被害はさらに大きくなってしまいます。」

レ)「…しかし、その解決策がなかなか見つからない。」


ネ)「何せ、新しい品種ですから、何もかも分からない状態ですからね…。」



グ)「…鏡には頼らないのですか?」



恐る恐るその言葉を発したグミナを、ネラとレインは、目を丸くして見つめた。


グ)「…何でも叶えてくれる鏡ですよ?頼る以外に他ありません。」

ネ)「…私も賛成です。今まで、活用したことはありませんが、今回の場合は緊急事態です。今が、使うべき時だと思います。」



レ)「──いや、ダメだ。」



グ&ネ)「…!?」



いつも、町民のことを第一に考えてきたレインからは考えられない言葉だった。


レ)「…もう少し…もう少しだけ、解決策を探してみたい…。そうしなければ…そうしなければ…!!」

レインは、震えながらそう話す。


ネ)「…王子…?」



グ)「…恐れているのですね。日本への影響を。」



レ)「──!?」



ネ)「え?どういうこと?」


グ)「…前回、王子は鏡に願ったのよ。町民にたくさんの食物を与えたいって。」


ネ)「え!?だから、あんなにも急に食事に恵まれたってこと!?」


グ)「当たり前でしょ?普通じゃあり得ないもの。」


ネ)「でも、その願いと日本に何の関係が?」

グ)「その願いはあまりにも大きすぎた。だから、反動が起こってしまった。日本のあの四人の誰かにね。」



ネ)「…へっ!?」



レ)「何故、グミナがその事を知っている…!?」



グ)「詳しくは言えません。しかし、今回その反動によって四人の内の誰かが、また、とんでもない願いをしたのでしょう。その願いによって、今は何百人が苦しんでいます。」


レ)「…やめろ。」

グ)「一人の問題が、多数の人を苦しめている。」

レ)「もう良い。」



グ)「それなら私たちだってあの鏡を使う資格が──」




レ)「──やめろと言っているだろう!!グミナ!!」




初めて声を荒げたレインに、ネラは驚き言葉も出ない。

しかし、グミナのクールな表情は変わらない。

レインは、怒りの表情で肩を上下させている。


グ)「…王子は、分かっていません。」



レ)「分かってる!!僕の願いのせいで、ルルの姉は死んだんだ!!」



ネ)「…!!」


グ)「標的はルルさんでしたか。」


レ)「お前は、何をそんなに落ち着いているんだ。僕の願いによって、多くの人が亡くなっているんだぞ!?それなのに、もう一度鏡に願えと言うのか!?それで、また人が死んでいくのをただ見ていろとでも言うのか!!僕は、そんなの──」



グ)「──目を覚ましてください、王子!!」



普段、声を荒げない二人がお互いに声を張り上げている。ネラは、静かに見守るしかなかった。


グ)「あなたは、この国の主ですよ!?あなたがそんな事をいつまでも恐れていたら、国民は他に誰に頼るというのですか!?あなたは、何のためにここにいるのですか!?いつだって、国民の事を一番に考え、国民の幸せを何よりも願ってきたあなたは、どこに行ってしまわれたのですか!?私は、そんなあなたをいつだって尊敬していました。いつだって、憧れていました!!なのに、今のあなたはどうですか?ただの恐れている少年ではありませんか。」



レ)「…っ!!」



グ)「…今は、決断をするべき時です。これ以上、被害を増やしても良いのですか?これ以上、苦しむ人たちを増やしても良いのですか?王子。」



レ)「・・・。」



グ)「王子!!」



レ)「黙っていろ!…ミントを呼べ。」



グ&ネ)「…!!」



ネルは、急いで鏡の前に立つと、ミントを呼び寄せた。ミントは全てを知っている様子で、真剣な表情だった。


レ)「…グミナ、ネラ。僕はまだまだ子どもだ。いつも、こんな僕についてきてくれて感謝している。それに、今ので目が覚めた。僕のやるべきことは、恐れることではない。いつでも、国民のために動くことだ。」


ネ)「…王子…!!」


レ)「…ミント。用意は良いか?」


ミ)「ええ。もちろんです。」




レ)「願いを叶えてくれ。今すぐ感染しょ・・・」




──ドサッ。





そこまで言ったところで、レインは崩れ落ちた。


ネラとグミナは一瞬、何が起きたのか分からなかった。





ネ)「…お、王子っ!?」





ネラは、王子の元に駆け寄る。


ネ)「すごく熱い…!!グミナ!今すぐ医者を呼んで!!」


グ)「わっ…分かった!!」


ネラは、王子をベッドに寝かせると、ハッとして机に目を向ける。



机の上には、先ほど王子が口をつけたランチがまだ並んでいる。



ネ)「…!!」




グ)「──王子!!今医者を連れてきました!!もう、大丈夫ですからね!?」


グミナと医者が部屋に飛び込んできた。医者は、静かにレインの診察を始める。


グミナは、心配そうに王子を見つめている。

















時間は少しさかのぼり、王子が解剖士の説明を受けている時のこと。


ネ)「あら、今日はグミナが料理担当なの?」

グ)「ええ。あいにく、料理長まで感染症にかかってしまってね。仕方がないのよ。」

ネ)「へぇ。グミナって料理も出来たのね!」

グ)「王子の口に合うかどうかは分からないけどね!」


そう言っている割には、美味しそうな料理が並んでいる。

キャベツやベーコンなどが入っている、コンソメスープ。

バターの良い香りの漂う、バターロール。

ブリランテ国名産の野菜がたくさん入ったサラダ。

そして、何よりもメインのハンバーグは肉汁が溢れており、こちらの食欲もそそった。


グ)「レイン王子はハンバーグが好きでね。メニューにあれば必ず最初に手をつけるって決まってるのよ!」

ネ)「へー!!知らなかった!!」

グ)「フフフ!楽しみだわ!」




















──感染症にかかっています。」



グ)「えっ…!?」



そんなことを思い出していると、医者が口を開いた。




「かなり強力で、下手をすれば死に至るかもしれません。」




ネ)「…嘘っ…!?」

グ)「そっ…そんなっ…!!」


「…感染症と分かった上では、私たちにはどうすることも出来ません。」


ネ)「本当にどうしようもできないんですか!?何か手があるはずです!!お願いだから王子を助けてください!!お願いだから!!ねえっ!!お願いっ!!」



グ)「─ネラ!!もうやめなさい!!」



グミナは、ネラを押さえ込む。ネラは力を無くして、その場に崩れ落ちた。


ネ)「何でっ…!…ひどすぎるよっ…!!」


ネラが涙を流す横でグミナはずっと、背中をさすり続けた。本当に、何て残酷な世界なのだろう。



本当に…何でレイン王子なのだろう…。












深夜2時頃。

レイン王子が眠っている部屋に、静かに侵入してくる姿が鏡に写されていた。

その人物は、レイン王子をボーッと見つめると、静かに移動する。

そして、鏡の前に立った。



と、その時──




「──何をしているの?」




「─!!」




その声に、鏡の前に立っている人物は慌てて振り返った。


「…こんな夜中に、レイン王子の部屋で何をしているの…?ネラ。」


カチリと、電気をつけられ眩しさに目を細めるネラ。


グミナは、怪訝そうな顔でネラを見つめた。


ネ)「…鏡に願いに来たのよ。感染症の特効薬を用意してほしいって。」


グ)「…へえ。そうなの?」


ネ)「…願って欲しくない?」


グ)「私がそんなこと言うと思う?」


ネ)「…思うわ。今のあなたなら。」



グ)「…!?」



ネラは、真剣な目でグミナを見つめた。グミナも、目を逸らそうとしない。


ネ)「…ねぇ。そんなに王子が憎いの?」


グ)「何のことかしら?」



ネ)「…知らないふりをするのも、大概にして欲しいんだけど。グミナ。」



ネラは、忍ばせておいた短剣の先をグミナに向ける。


グミナは、落ち着いた目でネラを見ている。




ネ)「…グミナ。じゃあ、どうしてハンバーグに、あの品種の牛肉を使ったの?」






グ)「──!!」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ