どうして…!?
あれから、1ヶ月以上過ぎたが、レイン達が、鏡の前に現れることは無かった。そして、カイル達の頭の中からも、鏡の事は少しずつ消えていっていたのだ。
リ)「…ミント。ミントー!!」
ミントを呼ぶリーナの声が震える。
毎日のように、この鏡の前に来ているが、リーナはなかなか行動を起こすことが出来ていなかった。
真実を聞くのが、怖かったからだ。
ミ)「リーナさん!!お久しぶりです!」
リ)「ミント!」
ミ)「どうされました?今日も、願い事ですか?」
リ)「違うの…。うち、レイン達が心配で…。」
ミ)「王子たち…ですか?」
リ)「今、レイン達はどういう状況なの!?皆、無事なの!?」
ミ)「リーナさん、落ち着いてください。皆さん、ご無事ですよ。」
リ)「…!!良かったぁ。」
ミ)「今は…ですけどね。」
リ)「え…?」
ミ)「未来では、明日、城内に最強の敵が3名送り込まれると言っています。お三方とも、命の危機にさらされることでしょう。」
リ)「三人ともっ…!?」
ミ)「ええ。さらに、ピンチの時に王子の近くには誰もおりません。」
リ)「嘘でしょう!?」
ミ)「未来は、そう言っております。」
リ)「…レイン…。ミント、最後のお願いがあるの───。」
レ)「…はぁっ、はぁっ…!!」
マリアが持っている、本から飛び出す数々の猛獣は、確実にレインの体力を奪っていた。マリアは、涼しい顔をして、本を片手に何かを唱え続ける。
マ)「防いでばかりでは、何も出来ませんね。」
あの本をどうにかしなければ、状況は1つも変わらない…!!
レインは、猛獣と戦いながらも、マリアの口の動きに注目をしていた。口の動きから、何を言っているのかを推測し、そのまま、猛獣を倒した瞬間にマリアの元へ駆け寄る。
マリアは、再び何かを唱え始めるが、レインはそれを阻止するために、短剣を投げつける。
マユは、驚き、唱えることを止め、短剣を慌てて交わした。
その隙に、マリアの近くへ行くと、
レ)「─────────!!」
と、大きな声で唱えた。
マ)「嘘でしょっ…!?」
明らかに動揺した様子の、マリア。
本から現れた猛獣は、レインではなく、マリアに向かって攻撃を始めた。
マ)「ふざけないでっ!!私は、あなた達の主よ!?分からないのっ!?」
マリアの声は届く筈もなく、猛獣はマリアを襲い続ける。
マ)「キャアッ!?」
マリアは、足を滑らせその場に座り込む。猛獣の大きな手が振りかざされる。マリアがギュッと目を瞑ったその時だった──。
ズシャッ!!
目の前で猛獣達が弾け飛んだ。マリアは、恐る恐る目を開ける。目の前には、レインが立っていた。
レ)「…ふぅ。危ない危ない。」
レインは、そう言いながら剣をしまう。
マ)「…どうしてっ…!?」
レ)「いやぁ、誰かが死ぬの嫌だからね。」
レインはそう言いながら、ニコッと笑う。
マ)「…余計なことしないで。」
レ)「…え?」
マ)「…助けてなんて言ってない。ましてや、敵に助けを乞うことなんて無い…。知らないの?お人好しはね、いつか損をするのよっ!!」
そう言った瞬間、マリアは本を破り捨て、そして、その中の一枚を口に放り込んだ。
レインは、ただならぬ気配に、再び剣を抜き、一度距離を取る。
静かに、目を瞑っていたマリアだが、次の瞬間目が真っ赤に光り、そのまま、レインに向かって飛び込んできた。
武器も持たずにか…!?
レインは、驚きながらも、片手で受け身を取る。
しかし、次の瞬間、その手から、鮮血が飛び出した。
レ)「──!?」
よく見ると、マリアの体は鋼鉄で出来ており、腕は鋭く尖っていた。
つまり、自分自身が武器になっているのだ。
レインは、片手で剣を操りながら、防ぐことしか出来なかった。
マリアは狂気に満ちた目で、レインに向かってくるばかり。クソッ…!やっぱり、僕は甘いんだ…!!
マリアはニヤリと笑うと、思いきり腕を振り切り、レインを壁に叩きつけた。
レ)「ガハッ!!」
叩きつけられた、レインの体からは、たくさんの血が流れ出てくる。
意識が、朦朧としてきて、立つこともままならない。
僕は、死ぬのか?こんなところで…?
自分に問いかけるが、答えは出ない。
マリアは、ニヤリと笑って、短剣を用意する。
レインは、必死で立とうとするが、武器を持つ手にも力が入らない。
クソッ…約束したのにっ…!!
約束したんだっ…!!生きて帰るって…!!
リーナに会って、伝えることだって…!!
レインは、悔しさから涙をこぼしていた。
こんなところで死ぬわけにはいかないのに…。
体が、言うことを聞いてくれない。
マ)「…フフフッ。王子様の命…いただきますっ!!」
マリアが叫んで、短剣をこちらに投げつける。
ブシュウウウッ!!!!と鮮血が飛び散る。
レインは、ガタガタと震えていた。
自分自身には痛みの1つもない。
目の前にいるのは…誰だっ…!?
レインは、フラフラッと倒れるその人物を抱き締めた。
レ)「──!?」
その顔を見て、やっと気がついた。
レ)「どうしてっ…君がっ…!?」
レインは震える手で、その少女を抱き締めた。
「…レインっ…?ああっ…レインだっ…!」
苦しそうな呼吸で、そう呟くのはリーナだった。
レ)「リーナっ!!どうしてっ!?どうして、こんなことにっ!?」
リーナは、レインの顔に手を伸ばし、レインの涙を拭った。しかし、リーナの手だけで拭いきれず、リーナの顔に涙がポタポタっと落ちる。
リ)「…レインっ…うちね、ずっと心配だったよ?レインは、無事だろうか…?って。」
レ)「リーナ。リーナ、もう良い。」
リ)「レインっ…泣かないで?うち、今幸せだよ?こうして、レインに会うことが出来てっ…レインを守ってっ…レインに抱き締められてっ…レインの側にいてっ…レインっ…ずっと、ずっと会いたかった…!!」
リーナの瞳からも、涙が溢れる。
その涙は、とても美しく、そして、とても儚い。
レ)「僕だってッ…ずっとッ…!!」
リ)「…こうして会えたらねっ…伝えたいことがあったんだよっ…?聞いてくれる…?」
レ)「…伝えたいこと…?」
リ)「うんっ…うちねっ…ずっと、ずっと、レインの事がっ…好きだった。…ううん。今も好きだよっ…?」
レ)「──!?」
リ)「…レインはっ…?レインはっ…うちの事っ…好き?」
その言葉に、レインの目から更に涙が溢れる。リーナの事が見えないくらいに、涙で視界がにじむ。
レ)「…もちろんっ、好きだっ!!僕だって、ずっと伝えたかった!!」
リ)「そっかぁ…。良かったぁ…。じゃあ、私たち、両思いだったんだねっ?…幸せだよ?レインっ…。」
レ)「リーナっ!!僕だってッ…幸せだッ!!」
リ)「…レイン、これからも、私の好きなレインでいて?レインの事っ…ずっと…思って…る…から。」
そう言って、リーナは目を閉じた。急激に重くなる体。
レ)「リーナ…?嘘だろっ?リーナ!?リーナ!?」
いくら呼んでも、肩を揺すっても、目を覚まさないリーナ。
しかし、その顔は実に幸せそうだった。
レインは、震える唇を噛み締め、リーナを静かに床に寝かせると、真っ直ぐにマリアを睨んだ。
レ)「…許さない。お前だけは、許さねぇ。」
ただならぬ雰囲気に、マリアは一瞬怯んだ。
その瞬間、レインは、もう目の前に来ており、受け身の体勢を取る間もなく、壁に叩きつけられた。
鋼鉄の体にヒビが入り、マリアの本体が現れる。
レインは、マリアを掴むと、その鋼鉄を引き剥がし、そのまま胸元を剣で貫く。
マ)「ウグッ!!」
鮮血が飛び散り、返り血を浴びることも気にせずに、レインは再び剣を引き抜くと、違う場所にまた差し込む。
ブシュッ!!ブシュッ!!と、血管が切れる音が鳴り響く。
マ)「ガッ…!!ハアッ!!」
レインの目は、狂気に満ちており、ただ、マリアを差し続けた。
その時──
グイッ!
誰かに腕を引っ張られ、後ろを睨む。
そこには、グミナとネラが立っていた。
その二人を見た瞬間、レインの腕から力が抜ける。
そして、その場に座り込んだ。
グ)「…王子、間に合わず申し訳ございません。」
レ)「…いや、お前達は悪くない…。悪いのは、弱い僕だ。」
レインは、血で真っ赤になった手を見て、泣き崩れた。
リーナ…僕は、結局最後まで君に救われてばかりだった。
僕はっ…君に生かされたっ…!!
静かに眠るリーナを見て、レインは声をあげて泣き続けた。
グミナと、ネラも静かに涙を流していた。




