繰り返し
───速報です!先ほど入りましたニュースによりますと、先ほど午後1時38分頃───」
午後1時頃…
リ)「ねえねえ、この本で良いかな~??」
ル)「…猿でも分かる、幼児教育…。ブフッ!!!!」
リ)「ちょっとおおお!バカにしたでしょ!!」
ル)「もちろん、するわよ!」
今、リーナとルルは、週末の課題の為に市営の図書館に来ていた。今、大学自体は夏休みに入っているが、幼児教育学科は、補講期間にある。
リ)「いいなー!カイルとガイは、もう実家でしょー?羨ましいよー!」
ル)「私たちも一週間もすれば、実家に帰れるわよ。」
リ)「それに、カイルたち車で迎えに来てくれるんでしょ?やったねー!!」
ル)「地元が一緒だと、こーいうことが出来るから良いわよねー。電車代が浮くわ。」
二人は、それぞれ本を選ぶと図書館を後にした。
ル)「せっかくだから、何か食べて帰る?」
リ)「お、良いねー!!」
午後1時15分頃…
リ)「キャー!!すっごい美味しそう!!」
ル)「やっぱり、たまには外食もいいわねー!」
リ)「写真撮らなきゃ!」
リーナは、楽しそうにカバンを漁る。
リ)「あ、カイルたちに自慢してやろー♪」
ル)「アハハ!果たしてどんな反応を返してくるか。」
リ)「ランチなう…と!」
ル)「ほら、冷めない内に早く食べちゃうわよ?」
リ)「はーい!いただきまーす!!」
午後1時35分頃…
リ)「あー!返ってきた~!!」
ご飯も食べ終わった頃、カイルから連絡が返ってきた事に喜ぶリーナ。
ル)「何って?」
リ)「"よぉござんすなぁ"って♪」
ル)「相変わらずの適当さね。」
リ)「これは、スタンプ爆裂するしかないっしょ!!」
ル)「絶対に怒られるわよ?」
リ)「カイルは怒ってるときが一番イキイキしてるもんねー♪」
ル)「あなた、意外と性格悪いわよね。」
リーナは楽しそうに、スマホをタップしまくる。
すると、カイルから連絡が届く。
リ)「ハハハッ!!"やめろ!充電が無くなる!"だってさー♪」
ル)「そうよね。意外と充電減りやすいからね。」
リーナは、構わずにスタンプを送り続ける。
リ)「あ、カイル怒っちゃうかも!!」
ル)「え、今さら?」
リ)「"やめろ!返信すらしねぇぞ!"って。」
ル)「あーあ、迎えに来てくれなくなるわよー?」
リ)「えっ!?それは、困る!!」
リーナは、謝罪の言葉を述べる。と、その時───
ゴゴゴゴゴ…ガタタンッ!!!
リ&ル)「──!?」
突然の揺れに二人は、机をつかんで固まる。
ル)「…驚いたわね。一瞬だったけど…。」
リ)「…う、うん…。」
ル)「今のどれくらいの揺れだったのかしら?」
リ)「また、速報で出るでしょ!」
ル)「カイルたちは大丈夫かしらね?」
リ)「聞いてみよー!怒って返してくれないかもしれないけどねー。」
ル)「そうなったら自業自得ね。」
リ)「カイルなら返してくれるもん!何だかんだで、優しいからねー♪」
ル)「さてと、早く帰っちゃいましょう?」
リ)「はーい!ここは、ルルの奢りかな?」
ル)「ちょっと!?」
二人は、楽しそうにお店を去っていく。
午後2時頃…
リ)「ただいま~!ふぁー…眠いなぁ。てか、カイル連絡返してくれないし!!」
ル)「やっぱり、怒っちゃってるのね。」
リ)「うわああああ!!どうしよー!!!」
ル)「あなた、本当にバカねー。」
ルルは呆れながら、テレビをつける。
『先ほどからお伝えしております、地震についてのニュースです。』
ル)「あら、やっぱり出て・・・。」
ルルがテレビ画面を見て固まっているのをよそに、リーナはスマホとにらめっこをしている。
リ)「あーあー…どうしようかな~?何って送れば、許してくれるのかなぁ?」
ル)「…リーナ。」
リ)「ルル~!やっぱり、ここは電話かなぁ?」
ル)「ねえ、リーナ。」
リ)「でも、電話は怖いんだよな~!」
ル)「リーナってば!!!!!」
ルルの叫び声で、リーナはやっとルルの方を向く。
リ)「…ルル?どうしたの?」
ルルは、テレビの画面から目を離そうとしない。リーナも、恐る恐る画面を覗き込む。
リ)「…え?」
『──なお、震源は瀬戸内海で、香川県、愛媛県北部、岡山県南部、広島県南部、ともに震度6強。この地震による津波も心配されており───』
ル)「ねえ、カイルに連絡してくれる?」
リ)「嘘だ…。」
ル)「私はガイに連絡するから。」
リ)「どうして香川県が…?」
ル)「リーナ!!話を聞きなさい!!」
リーナは、目に涙を浮かべ、ルルの方を向く。
ル)「良いわね?もし、連絡がつかなくても、無駄な心配をしちゃダメよ?ただ、電波が繋がらないだけってこともある筈だから。とりあえず、取り乱さないこと。約束できる?」
リ)「…わ、分かった…。」
リーナたちの、地元は香川県だ。今は大阪に住んでいるリーナたちだが、カイルたちは一足先に地元に帰っている。そこで、大地震が起こっている。もしかすると、カイルは怒って返さないのではなく、何かに巻き込まれているのかもしれない…。そう考えると、気が気でなかった。リーナは、震える手で通話ボタンを押す。
プルルルル、プルルルル、プルルルル、プルルルル…
4コールしたが、出る気配は無い。
リーナが、焦っていたその時───
ル)「あ、ガイ!?」
ルルが声をあげた。ガイは、繋がったみたいだ。
ル)「そう、無事なのね?…ええ。ちなみに、カイルは一緒なの?…そう。分かったわ。ありがとう。」
リーナがボーッとしている間に二人の電話は終わってしまっていた。気づけば、カイルとの電話は留守番電話サービスに繋がっていた。
リーナは静かに電話を切る。
リ)「ガイは、どうだったの?」
ル)「ちょうど、広い場所にいたみたいで何の被害もなかったみたい。」
リ)「良かった…。カイルは?」
ル)「…一緒にはいないらしいわ。でも、確か今日はコンサートに行くとかで…。」
リ)「コンサート…!?」
ル)「ええ。何度も電話をかけてるらしいんだけど、繋がらないらしいの。」
それから、電話をかけ続けたがカイルが出ることは無かった。テレビでも、少しずつ様子を伝え始め、特に香川県の被害は著しいらしい。家が全壊しているところも多く、死者も何百人にものぼる。
自分の親たちは、無事だったが、今は地元の体育館で避難生活を送っているらしい。日本全国の自衛隊や消防隊が一斉に中国四国地方に集まり、救助活動を行っているという。
ル)「…当分は、香川には帰れないわね。」
リ)「…え?」
ル)「交通機関も麻痺してるみたいだし、それに二次災害の恐れもあるわ。」
リ)「…そうだよね…。」
ル)「…カイルなら大丈夫よ!あのカイルが簡単に死ぬはずないわ。」
リ)「…うん。そうだよね…。」
ル)「そうよ!だから───
プルルルル、プルルルル
その時ルカの携帯が鳴り響いた。
ル)「ガイだわ?」
ルルは、恐る恐る携帯を耳に当てる。
ル)「もしもし、ガイ?」
ガ)『ルル!!落ち着いて聞いてくれ!!カイルが─』
その言葉にルルは固まる。
リーナも嫌な予感を隠しきれていなかった。
ル)「そう、救助はされたのね。良かった。」
リ)「救助は…?」
ル)「ええ。ありがとう。また、そっちに向かうわ。」
プツッと電話を切り、落ち着いた様子でリーナの方を向いた。
ル)「コンサート会場で、下敷きになっていた所を、救助されたらしいわ。…もう、亡くなってはいるらしいけど。」
リ)「──!?」
ル)「…また、会いに行きましょう?きちんと、お別れを言いに。」
リ)「…嘘だよ。嘘。こんなの嘘だ。」
ル)「リーナ。」
リ)「うちは信じない。こんなの、きっと悪い夢だよ。そうだよね?」
ル)「リーナ、話を──」
リ)「──触らないでよ!!!!」
リーナは、ルルの伸ばしてきた手を振り払う。
ルカは怒るわけでもなく、リーナを見つめた。
リ)「…嘘だよっ…嘘だっ…カイルっ…カイルっ…カイルーーーーーー!!!!」
リーナが泣き叫ぶ中、ルルもその場で下唇を噛み、静かに涙を流した。きっと、悪い夢だ。早く覚めてくれ。そう祈っても覚めない夢に、私たちは抗うことなんて出来なかった。
それから、1か月後、初めて香川県に帰ることが出来た。酷い状態で、自分の家も跡形も無くなっていた。
私たちの安らぎの場所はどこに消えたのだろう?
久しぶりにカイルの親に会い、仏壇の前で手を合わせる。まだ、受け入れられない事実。
すると、カイルの親は、リーナにカイルの携帯を渡してくれた。あの日で止まった、記録。リーナからの電話や、色んな人からの連絡が入っている。そして、リーナとのトーク画面を開きリーナは固まった。
リーナのスタンプ爆裂、その後の謝罪、心配の連絡。
その前に、カイルから送信されていない、"俺を怒らせたら怖いぞ~?(笑)"という、冗談めいた文。
あと、送信を押すだけで、リーナに届いていた。
その言葉は、この携帯の中でずっと止まっていた。
リーナは、溢れる涙を押さえることが出来ず、その場に崩れて泣き続けた。
カイル、カイル、カイル───!!!
その日の内に、大阪に帰らなければならないということで、リーナたちは急いで大阪に帰った。
当たり前だが、そこにカイルはいない。
リーナは夜中になり、静かに自分の部屋を出ると、奥の部屋へと向かった。
リ)「…ミント。」
久しぶりにミントを呼んだ気がする。
ミ)「…リーナさん、とても痩せられましたね?」
リ)「…そうだね。」
いつものリーナとは違う様子にミントも黙っていた。
リ)「…ミント、お願いだから私を止めないでね?」
ミ)「…ええ、分かりました。」
リ)「…お願いがあるの。カイルを…私たちの故郷を返してほしい。…あの日の地震を、無かった事にして欲しいの。」
ミ)「…分かりました。その願いは、とても大きいですが後悔はされませんか?」
リ)「…しないよ。幸せが戻ってくるのなら…。」
ミ)「…かしこまりました。それでは、目を閉じてください。3、2、1───」




