表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者は赤く血に染まる。  作者: 琥呂栖
勇者の再臨
4/7

閑話 一

こう言った過去話などを話の節目などに入れていきますのでよろしくお願いします。

また、後日肉付け及び修正を行います。


それと感想をつけて下さりありがとうございます。

モチベの維持に繋がりますので他の方々も気軽にお願いします。


―魔王


 それは人類に仇なす魔族の王に付けられた恐怖の代名詞だ。突如として表れ、その強大な力を振りかざし、全てを破壊する圧倒的支配力に人々は恐れ、日々魔王の影響に怯えながら生きていた。


 一体どこから魔王は生まれたのか。何故突如として表れるのか。その全ては謎に包まれている。唯一その姿が非常に人間に近い事からエルフやドワーフと言った亜人の一種だろうと言われている。そして魔王の配下である同じ人型の亜人を魔族と人は呼んだ。


 その魔族は数こそ少ないものの一体一体が非常に強力な個体であり、エルフと同等かそれ以上の魔力量に獣人並の身体能力。人類の知らない未知なる魔法。その数々の力を最大限に使い、人類、亜種族に多大な影響を与えた。


 だが人類にもたらされたものは絶望だけではなかった。


 このままでは数年もしない内に人類は滅ぶだろう。そう言われ始めた時期に一人の聖職者が神のお告げを授かったと名乗りを上げる。


 その内容は異世界から魔王に匹敵する潜在能力を持った人間を呼び寄せると言う勇者召喚のやり方であった。


 藁にもすがる思いで飛びついた人類の王達は速やかに勇者召喚を実行。そして大人数による魔力の消費のみで一人の人間を召喚する。皆の希望を寄せたその対象は黒髪に黒い瞳を持った幼い少年であった。


 名を十六夜 冥夜と名乗ったその少年は直ぐに宮廷魔術師による正確な鑑定に掛けられ、その秘めた潜在能力は本物だと断定される。


 目の前の少年が本物だと分かり、各国の王達は支援を惜しまず使い、少年をある程度育てた段階で戦場へと送り出した。少年の訓練に費やされた時間は僅か一ヶ月。その後に少年は地獄を見ることとなった。


 中には少年の扱いに関して非人道的ではないかと言った声もあったが、人類が滅ぼされ掛けているのも事実。やがてそう言った声も消えていった。


 しかし、そう言った懸念を振り払うかのように、少年と各国から遣わされた精鋭達は次々と武功を立ててゆく。今までの人類はなんだったのかと思うほどの快進撃に人類は喜びの声を上げる。


 そして召喚から約五年の年月を掛け、少年率いる勇者達は魔王の住まう魔王城へと足を踏み入れた。


―――――


 空は暗やみに覆われ大地は負の魔力で死滅した不毛の大地にそびえ立つ巨大な城。そこに勇者達は迷う事足を踏み入れた。


 道中に表れる魔王の幹部達の存在により魔王が居る間に到達する時には少年一人になっていた。魔王の存在に聖剣を持つ手が震えるが、後ろに置いてきた仲間達の為にも、少年は勇気を振り絞り扉を開く。


 簡易な装飾が施された王座の上に居た魔王は少年の存在を確認すると玉座から腰を上げた。その風貌はまだ年若く、二十代前半と言った見た目をしている。そして少年と同じ黒目に黒髪だった。


「初めまして、と言えばいいか?勇者よ」


 重く低い声でそう述べた魔王は頭に生えた角を除き、人間と何ら変わらない。しかし、その姿から発せられる重圧感は本物。強く聖剣を握りしめた少年は一歩前に進む。


「…ああ、初めまして。そして…さよならだ!」


 はなから魔王などと話すことは何も無いと決めていた少年は全力を持って地面を強く蹴り、魔王の目の前まで滑るように移動し、迷う事なく聖剣を横に振るった。


「…こうして魔王と勇者の名を持つ者が出会ったのだから少しぐらい語らってもいいのではないか?」


 少年の全力を持ってして繰り出された一撃を、いつの間にか取り出した剣で受け止めた魔王はそう口にする。


 少年は自身の全力の一撃を糸も簡単に止められた事に驚きと絶望を覚えるが、それで動きを止める勇者ではない。すかさず後ろに飛び退き態勢を整える。


「なぁ勇者よ、お前ははこの世界をどう思う?」


 唐突にそう振られた質問の意図が分からず、少年は困惑してしまう。本来なら魔王の言葉に耳を貸す必要はないと感じているいる少年だが、今は目の前の存在を倒す策を考える時間がいると判断し、魔王の話に乗ることにした。


「…質問の意味が分からないな」


「ふむ。ならばこう言い直そう。この争いで満たされている世界は可笑しいと思わないか?」


 その魔王の言葉は少年の逆鱗に触れるには十分なものであった。


「お前がそれを言うのか!この戦争を引き起こしたのはお前だろうが!」


 動きそうになる体を必死に留めながらも、少年は怒りに染まった表情でそう吠えた。少年がこの戦争によって失ったものは数え切れない。だからこそ、戦争を引き起こした本人がその戦争の存在に疑問を抱いている事に怒りを抑えきれなかった。


「そうだな。確かにこの戦争は私が引き起こしたものだ。だがな、ただ己の欲を満たす為に戦争を引き起こした訳ではない。これも必要な事だ」


「…必要?必要だから皆を殺したのか?お前の勝手な考えでどれだけの人が不幸になったと思ってるんだ!?」


「…私が戦争を引き起こさなくてもどのみち不幸にはなっていたさ。ただそれが早いか遅いか。それだけの違いだろうに」


「お前は…!!」


 魔王には魔王なりの考えがあって戦争を引き起こした事は薄々理解出来た。しかし、幾らそこに理由があろうとも、あの地獄の中を歩いてきた少年には到底許せるものではなかった。


 友人だと思っていた村人が幾人も死んだ。仲良くなった兵士は目の前で肉塊に変わり果てた。恋仲にまで発展しそうになった子も魔獣に食われた。少年は幾度もそんな経験をしてきた。そして今も尚、少年の仲間達は、少年を信じ傷付きながら戦っている。


「やはりお前は俺の敵だ!どんな理由があろうとも俺はお前を殺す!」


 少年の怒りは最早抑えきれない所まで来てしまっている。


「俺を殺す、か。なら俺を殺した後はどうする?俺を殺したらそれで世界は平和になるのか?」


「戦争を起こすお前を殺せば終わるだろうが!」


 少年の言葉に魔王は面を食らったような表情になる。そして下を俯くと肩を小さく震わせた。


「クク…クハハ…ハッハッハッハ!俺を殺せば戦争は終わるか!そう思うなら俺を殺して見せろ!…幾ら勇者と言えど所詮は子供。単純で羨ましいな」


「黙れ!!」


 遂に体を抑える事が出来なくなった少年は前へとその体を動かす。


「神に等しい俺に勝てるか?」


 自身の力に絶対の自信を持つ魔王は余裕を持ち少年の攻撃を真正面から再び受け止める。ピクリとも動かずに再び受け止められた事実に歯痒い思いをするが、その程度では少年が諦める事は無い。


 例え一撃が止められようとも、そこで剣を止めはしない。受け止められた剣を素早く引くと首目掛け剣を振るおうと体を動かす。そしてその太刀筋を一瞬で読みっとった魔王は剣を縦に構えた。


「甘いんだよ!」


 そう吠えると同時に首目掛け振られていた剣は蛇のような軌道を描き、剣を持っていた右手の甲を切り裂く。予想外の軌道を描いた剣先に驚きを隠さず目を見開く魔王だが、少年の攻撃は止まらない。がら空きになった魔王の脇腹に左手を添え魔法を発動させる。


「第八階位―縮小爆破―」


 瞬時にして少年の左手に集められた莫大な魔力は凝縮し、指向性をもった爆発を生んだ。常人とは一線を越す魔力の量によって形成された破壊力は魔王を吹き飛ばし、城内の一部をも巻き込む程のものであった。


 第一階位から第十階位まである魔法の内の第八階位に属する高難易度の魔法。その中でも当たれば威力の高い縮小爆発をもろに食らったのだから少しは、と少年は考える。それを確認する為にも魔王が突っ込んだ方向からは決して目を離さない。


「どうして中々…久しぶりに痛みを感じたぞ!」


 石柱の破片を吹き飛ばしがら立ち上がった魔王。その脇腹は肉が抉れその周囲に酷い火傷あとを付けているが、そのことよりも少年は違う物に視線を惹かれた。


 それは魔法の衝撃で服が消し飛び、上半身裸になった魔王の胸部にあった。薄緑色の球体が魔王の胸部に埋め込まれていたのだ。その球体に視線を向ける少年に気付いた魔王は楽しげに口を開いた。


「これか?お前に説明しても分からないだろうからな…そうだな、俺の弱点とでも言っておこうか。これを壊せばお前の勝ちだぞ」


「お前の言葉を信じる訳がないだろう」


「ふむ、まぁ好きにするがいいさ。俺も少しばかり楽しくなって来た。少し本気を出してやろう」


 そう言いながら魔王は胸に埋め込まれた球体の前に先程切り付けた右手を置いた。すると眩い光が迸ると同時に球体から剣の柄が出てきた。


「まさか、有り得ない。なんでお前がそれを…」


 球体から溢れ出す巨大な魔力は少年が持つ聖剣と同じものであり、一瞬少年の頭を過ぎった一つの可能性は恐ろしいものであった。


「お前なら分かると思うが、こいつは少々じゃじゃ馬でな、うっかり殺してしまうかもしれないが許せ」


 球体から完全に姿を表した剣は少年の持つ聖剣と非常に酷似したものであり、発せられる魔力は完全に同質なものであった。


「集中しろ。楽しくなるのはここからだろう?」


 自分が戦っている相手が何なのか分からなくなってきた少年は手に持つ剣に迷いを見せる。しかし、例え少年が困惑しようとも魔王は止まらない。本当の絶望はここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ