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なんでこんなことに……

司書官補佐


学校司書として働いてはいたが、こちらの学院での規則などを知っているわけではないので、それらを覚えてしまうまでの間は研修生と言うことで、補佐だとケインに言われてしまった。


 まあ補佐でも補佐じゃなくても衣食住はすべてイレイアが保障してくれるそうなので気にはしてない。それよりも、まずは馬車から荷物を下ろすとするか。


「それじゃあ少し待っててくれ、馬を厩に連れて行くから」

「え?」

「私も来ている者を呼んでくるか」


 2人ともそれだけ言うとさっさと行ってしまう。俺はケインにここにいるように言われてしまったので、イレイアについて行くわけにもいかず取り残された形になる。


「……仕方がないか。一先ず荷台の後ろ側を開けてしまおう」


 ケインが移動中に開かないようにしたのとは逆に木の板を外すことで後ろの布を外す。思ったよりも板はしっかりと固定されていたのでなかなか外れない。


「よい…しょっと!」

「いっちば〜ん!」


 俺が板を外すのと、馬車の外からそんな声がするのはほぼ同時だった。板が外れたことで後ろ部分の布が動くようになったので荷台から顔を出すと、そこには160センチほどの赤い短髪のイレイアと同じ制服を着た女性が手にもった指揮棒のような物を上げた状態で立っていた。


「………え?」


え?


「あぁ〜!本ドロボー?!」

「え?!ちが…」

「わざわざここの本を盗もうとは、いい度胸だ。何処の研究室(へや)の生徒か素直に言うか?それとも痛い目をみるか?」


 声がした方に顔を向けるとさらにもう一人、黒い髪を頭の後ろで一つに結んで後ろに流した、ポニーテールと呼ばれる髪型をした女性がそこにはおり、こちらは長い棒状の物を腰のベルトに下げていた。


 さらにその向こうから赤髪の女性が叫んだからなのか、それともイレイアが呼びに行った成果なのか、図書館から続々と人が出てくる。

 司書の人数比がだいたい男性と女性で2:8と男性が少ないところは異世界でも変わらないようだ。


 そして悲しいかな、最後尾にいる人まで見てもイレイアはいない。ケインもまだ厩から戻ってこない。

そして、そこにいる全員の顔が笑顔なのに威圧感がすごいか、普通に危ない目付きかの2通りしかいない。


「いや、誤解だから!」


 誤解の『ご』と言ったぐらいで、顔のすぐ近くを火の玉が通り過ぎる。

 いや、正確にはすぐそばにいた赤髪が細長い棒のような物をこちらにかざしたところで、背中がなぜか冷えたので顔を馬車の中に戻したら、寸前まで顔があった辺りに上から下へと火の玉が通ったのだ。


「書物に火がついたらどうする、この馬鹿者が!」


と先ほどのポニーテールの罵声が聞こえてくる。


「…儂が行こう」


どっしりとした、威厳のある男の声が罵声に続き


「何をしてくるかわからないのだから、わざわざ1人でやることも…」

「なに、小僧の1人や2人ぐらいなら儂1人で魔導具無しでもどうとでもなるじゃろうて」


再び俺の背中に冷や汗が流れる。


  コノママジャダメダ………


 第六感とでも言うのか、心の内側から溢れ出てくる恐怖が逃げろ逃げろと俺を急かすが、足がまったく動かない。


「…さて、出てきてもらおうか。のぉ?」


気がつけば50歳ぐらいのシワの目立つ、日焼けした褐色の肌をした男性が荷台に手をかけていた。

 まるで山道でクマに出会ったかのような緊張感。正直なところ、言われた通りに外へ行こうとしても殺される、そんな未来しか見えてこない。


「ま、まずは、お互い、おちち、落ち着きませんか?」


苦笑いでも、とにかくこちらはなにもしていないのだから話し合おう。そう願いを込めたこの言葉


「そうじゃの。落ち着いて、ゆっくりと話し合うとするかのぉ」


そう言いながら荷台に上がってくる男性。


詰んだ。正直そう思ったところで


「騒がしいっすけど、何かありました?」


救世主(ケイン)が戻ってきてくれた。






「すみませんでした!」


 あの騒動の後、ケインが俺の事をここで働いている人たちに話してくれたおかげで、本ドロボウと言う不名誉な間違いは無くなった。


 先ほどの謝罪は、一番初めに俺を見て本ドロボウと勘違いした女性で、名前はフィリエラと言うそうだ。


 騒動の中で目の前に火の玉が通ったのは、彼女の持っている魔導の力らしい。


「まぁ小僧もそんな格好でいたのじゃ、間違われても仕方がなかろうて」


 そう言って肩を叩いて来るのはガウロさん。先ほどのクマだ。あの殺気は野生の熊としか言えないが、残念ながら人間であり、さらにこの図書館で司書官をしているらしい。


 先ほどの件もあって、彼と一緒に働くのはしばらくの間慣れそうにない。


「確かに父の言う通りです。司書官ならば制服はどうしたのですか」


 黒髪ポニーテールさん。名前はサキさん。背が高くガウロと同じぐらいあり、目線を合わせるためには少し見上げないといけないので170は超えていそうだ。


 近くで話してわかった事だが、彼女のその耳は少し横に尖っている。漫画のエルフ耳と呼ぶには少し短いかもしれないが、それでも俺やガウロの耳が上下が長いのに対して、彼女の耳は左右の方が長い。


 自己紹介をしたのは俺だけで、後は本を運びながら近くに来た人が順番に名前を教えてくれているのだ。


 そしてそんな司書官の中には数人だが、本を空中に浮かべて運んでいる人もいて、それ以外の人は俺と同じように、両手で分厚い本を抱えて運んでいる。


「なあなんで、みんな浮かべて運ばないんだ?そっちに方がいっぺんに運べて時間短縮になりそうなのに」

「確かにその方が簡単に終わるかもしれないが、人によって扱える魔導が違うからなぁ。魔導具にも似たことが出来るのもあるっちゃあるが、あれは浮かべるだけみたいな簡単なのしかまだ作れてないみたいだし」

「浮かせるだけ?それに魔導は使えたり使えなかったりするものがあるのか?」

「そういう事さ。先天的な物じゃないから頑張って数年ぐらいやってれば、いろいろできるようになるとか聞いた事もあるが、それなら別の得意な物の修行とかするだろ?」

「う~ん…どうしても欲しかったら頑張ってみるかも?」

「えっと…ケイン?こいつが司書官としてここで働くのか?」


 どうして当たり前のことを知らないのか?とケインを引っ張って近くで話を聞いていたサキ達が小声で聞いているのがこちらまで届く。そちらには興味がないのかフィリエラがケインの変わりにこちらへ近づいて魔導について教えてくれた。



『魔導』とは、世界の理を歪める事で、普通では起きない現象を起こす魔法の力。そして『魔導具』は、そんな現象を起こすプロセスを誰にでも使えるように簡略化して、魔力を通すだけで使えるように試行錯誤の結果できた道具らしい。


 魔導の名前の由来は、今は亡き神様信仰の盛んな国(所謂宗教国)が、自然の理は神様が決めた事であり、それを歪めてしまうのは悪魔の所業である。という事で悪魔を導く、俺が考えるような魔法の事を『魔導』と呼び、魔導を簡単に使えるようにした道具には『魔導具』と名付けられたそうだ。


 そして魔導具を否定していたその国は、魔導と言う強力な力を捨てていたがために武力では近隣の国に勝てず、生産性という点も魔導具の恩恵を受けなかったがために低かった。


 そんな国が生き残れるはずもなく、随分と昔に滅ぼされ、どこかの国に吸収されてしまったそうだ。



 今は俺とフィリエラが並んで階段を4階を目指して上っていて、ケインたちが少し後ろでワイワイやりながら上っている。そんな俺たちの前の方には魔導で本を浮かせた人たちが、後ろにはあまり力仕事が向かない数人が本を抱えて運んでいる。俺たちがいるあたりが一番人が多いので、話し声がいろいろ聞こえてくる。


 フィリエラは横に並んでいるのでそちらを見れば顔がよく見えるのだが、こちら(横)を向きながら階段を歩いていて大丈夫なのだろうか?


 などと考えたのがいけなかったのか、フィリエラが最上段の手前で足を引っ掛けてしまい、持っていた本を4階の廊下に落としてしまった。


 叫び声の後に聞こえたカエルの潰れるような声や、スカートの中に白い物が見えたりはしなかった事にしてあげよう。


「おいおい、本がダメになってないだろうな。先生に怒られるぞ?」


 ニヤニヤとしながらケインが「紐はほどけてないな」などと本を見ながら声をかける。体の方を心配しないあたりコケるのはいつもの事のようだ。


「ちょっとは私の方を心配してよ!」


 うがー!と表現するのが正しいにだろうか?本で両手が塞がっていたために受身もまともにとれず、鼻のあたりを赤くしたフィリエラがケインに掴みかかろうとする。


「いや、ちょっと待とう!な?!」


 さすがに階段の近くで(じゃ)れることは危ないとケインが止めようとするのだが


「中がいいのはいい事だが、道を塞ぐんじゃない」

「「誰がこいつなんかと!」」


 茶化されたと感じたのか2人がそろってそう答えながらサキの方を見る。


 サキは重い本を抱えて腕を震わせながら暗い笑顔を2人に向けていて、さらに後ろには俺たちの後ろから上って来た司書官たちが、2人に同じように笑顔を向けている。


「ちょ、フィー早く本片付けろ!」

「わかってるわよ!ケインもそっち手伝ってよね!」

「本抱えてるから無理だって!…あれ?」


 俺とガウロは本が散らばってしまって通れないから無関係だとなるべく道の隅の方に逃げている。その理由はケインが見ていた本が『誰かの手』で移動されたためだ。もちろん俺の後ろにいた人たちではない、そして魔導で浮かせていた人たちなら手で動かすことはないだろう。つまり


「ケイン、フィリエラ。この忙しいときになにを騒いでいるんだ」


 4階の部屋で運んだ本を整理しているはずの上司イレイアである。


「あの…先生、この本はフィリエラが……」

「ちょっとケイン!」

「時間がないのに騒いだのだから同罪だ」


 イレイアによって部屋へと連れ去られていく二人。残された本は手の空いていた人たちによって部屋へ運ばれていく。

 俺とガウロなどもその後に続いて部屋へと入っていく。もちろんそこにはケインたち3人がいるのだが、イレイアの様子に流石に近づく気が起こるはずもなく、荷台に残っている本を運ぶために二度三度と図書館を上り下りするために急いで本を置いて部屋を後にした。

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