表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

夢・・・のはずもなく

 朝。窓からの陽の光で目が覚めた。精神的に疲れているのか体のだるさを少しでもとるために、ため息とともに寝心地のよいベッドから起き上がり軽く伸びをする。昨日のことは夢ではなくやはり現実なのだと目の前の光景が教えてくれた。


「どうするかな・・・これから」


 考えてもまとまらないことは置いておいて、まずできることをしてしまうとするか。

 寝巻きに使った服をベッドに投げ、持っていた物からいつものベージュ色のチノパンと地味な黒色のポロシャツを着てから部屋を出る。廊下には誰もいないので人がいそうな場所へと向かうことにする。


 階段を下りて食堂のほうに顔を出す。するとそこにはすでに食事を始めていた3人の姿があった。


「まったく、遅い起床だな」

「あれ、もしかして寝坊ですか?」

「俺は降りる前に一応お前に声をかけてからここにいるからな?ぐっすり眠りすぎだろう」

「次はもう少し早くお願いします。食事は昨日と同じ席においてありますので、そちらをお召し上がり下さい」


 いつもの起床時間から考えて、まだ朝の7時前といったところだと思ったのだが?ここの住人はすでに起きて食事も終わろうとしていた。


「食事を急いでくれ。朝の鐘が鳴る前には学院に行きたいからな」

「朝の鐘?」

「うむ。朝に3回、昼に5回なる学院の鐘だ。学院での授業はその鐘と鐘の間に1つ行われることになっている」

「教師によってはどの鐘の時にはやらないってのもあるから、全体での時間の共有でしかないがな」

「つまり1つ目の鐘が鳴ったら、学院が始まる合図ってことでいいのか」

「そういうことだ」


 「だから生徒が図書館にくるまでに行くために急げ」と2人から急かされる。昨日からの話を聞く限り学院は日本の小中高校とは違った、大学のような運営の仕方らしい。


 朝食は、パンとオムレツ、スープとサラダ。パンはカゴに入れられている数種類を自分で好きに手にとって食べる。昨日のお酒のことがあったから、一度水を飲む前に液体の匂いを確かめてから飲む。朝からアルコールを入れて仕事ができる気がしなかったのだが、さすがに朝からお酒が出てくることもなかったようで安心した。


 食事のときにミーナから「洗物があれば、部屋に入れ物を置いていますのでその中に入れてください」と昨日伝えてくれればいいことを教えてくれた。彼女も昨日はそれなりに飲んでいたので忘れていたのだろうか。


 俺は食事が終わると、一度部屋へと戻り昨日着ていた服をカゴに入れて部屋の外に置いておく。車に置いている分はまた明日にでも出せばいいだろうか?などと考えながらも、時間がないので急いでエントランスまで行きそのまま外へと出る。


 門の近くにはすでに出発の準備を完了したイレイアとケインが馬車に乗っている。そのそばにいるミーナが馬を触っているのが見える。


「すまん。遅くなったか?」

「まだ大丈夫だ。だが生徒が多くいるかもしれないからお前は荷台の中にでも隠れとけ」

「・・・なんでだよ?」

「人が寄ってくると面倒だ。それだけだよ」


 何で隠れないといけないのかとか、何で寄ってくるのかとか気になったのだが、走っている車の近くに人が寄ると危ないというのはわかるので大人しく荷台の中に隠れる。


 荷台には本に陽が当たらないように、そして人が問題なく座れるぐらい高い幌が付けられている。俺が乗り込んだ後に、ケインが後ろから見えないように後ろにある2枚の布を板で動かないように固定する。これで荷台に乗り込んでいる俺とイレイアは前方から、しかも2階ぐらいからしか見えないだろう。


 荷台は本でほぼ埋まっている。足の踏み場がほぼないこの中で2人も座ることはできそうにない。イレイアは1人分のスペースを用意すると、さっさとそこに座り込み近場の本を読み始める。


 俺は仕方なく、近場にある本を適当に隅のほうへ隅のほうへと持ち上げては積み上げていく。


「っは!」

「ちょ?!」


 そうやって俺の座れる場所を用意していると、ケインの掛け声と共に何かを鞭で打つ音が聞こえて、荷台が揺れ始める。その揺れのせいでせっかく積み上げた本の山が崩れてしまい、さらにはバランスを崩した俺は本の山の中に倒れていまう。


「うくく・・・。なにをやっているんだお前は」


 俺の間抜けな声を聞いたイレイアが口元を押さえて笑っているのを隠そうとしているが、全く隠れていない。それどころか、今にも腹を抱えて笑い出しそうだ。


「笑わなくてもいいじゃないですか・・・ケイン!もう少し安全に出せなかったのか?」

「すまんすまん。まさか立っているとは思わなくてな。ほら、さっさと起きて座ってな。それなりに時間はかかるんだからさ?それと、騒ぐとばれるから俺が良いっていうまで俺に話しかけないでくれよ?」

「はいはい、わかりましたよっと・・・」


 俺は再び本を積み上げていくが、倒れると困るので高くは積み上げずに5段ぐらいの山を作っていく。その作業の中で、陽の光が布越しに入る薄暗い荷台の中で本のタイトルが見えないことに気がつく。


 ・・・どうやら本の表紙には何も書かれていないようだ。それに背表紙のほうには何も付けられていないので、本のページが細い糸で縛られているのが見えている。最近の物でわかりやすくいうと、ルーズリーフの閉じられているバインダーだろう。あの鉄の輪の変わりに、細い糸を数箇所に開けた穴に通して縛り上げ、それが見えるようになっている。数百年前の日本や中国の書籍なんかを思い浮かべてもいいかもしれない。


 表紙を開いてみると、中には少しつるつるとした触感のおそらく動物の皮でできたページがある。薄くそれなりに軽いが、それでも紙よりは重くて書きづらそうな紙だ。そして俺はそこに書かれている文字を見て固まってしまう。


 紙に書かれている文字が、全くといって良いほど読めないのだ。


 ケインたちと普通に会話できていたからわからなかったが、どうやら文字は違うようで書かれている文字が全くわからない。似たような形の文字が複数個あったり、つながった文字と文字の間に空白があるために英語に近い文法なのだろうということは理解できるが、それ以外は全くわからない。


 そして文字が理解できないということは、今日行うはずの手伝いで俺のできる仕事がかなりの量減ってしまったことを意味していた。




 しばらく馬車に揺られていると、外から人の話し声がたくさん聞こえ始めた。声の高さから若い人よりも成人したぐらいの声と思われる高すぎない声の方が多いだろうか?たまに普段から叫んでいるのかしゃがれた声も聞こえてくる。

 学院の入学資格は、下が10歳から上は特に上限が定められていないらしい。年齢以外で受験資格がないのは卒業生のみ。そして入試の点数は、魔導を扱う力『魔力』か、魔導に対する知識が多いほど得点が高くなる。つまり先天的に魔力が高い人物ほど若くしてはいり、年老いてはいる人物ほど知識が多いということがいえる。「例外はどこにでもいるがな」とはケインの言葉である。


「・・・ふぅ」


 入学を考えているわけではないので話半分で聞いていたが、一芸でも入れるというのは私立の学校のようだった。そしてそんな場所に子どもから大人までが学院の制服を着て歩いているのかと思うと、今その光景を目で見ることができないことが残念だ。


「どうした。馬車に酔ったのか?」


 ため息をついた俺を見たイレイアが少し怪訝そうにこちらを伺う。


「いや、外がどうなっているのかと思って・・・」

「ふむ。昼休みに時間があるから少し案内してやろうか?」

「あ~・・・いや、ケインにでも案内してもらうよ」


 それなりに有名らしいイレイアに案内してもらう見知らぬ男性。人が寄ってくるか噂が立つのが目に見えている。ケインに愚痴を言われる可能性もあるから、なるべくそういう面倒なことは避けておきたいと思った。


 外の声が疎らになり、少しの間馬車の音とイレイアが本をめくる音だけが響く。


「さぁついたぜ!こっちに顔を出しても大丈夫だ」


 ケインが俺を呼ぶ。荷台から顔を出すとそこには石造りの白い巨大な建物が在った。


「ようこそ、イシュリス魔導学院へ。オーハラ司書官補佐殿、まぁここは図書館だがな」


 馬車を先に降りていたケインが俺にそういってくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ