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ぷろろーぐのような未来の話

  カーンカーンカーン・・・


「お?もう昼の3つ目の鐘か」

「みたいだな。あと鐘2つで帰れると思うとやる気が出てくるな・・・」

「そう思うならいつまでも寝そべってないで、さっさと机から起き上がれよ・・・」

「そういうお前こそ、何でいつまでもそこに座ってんだよ」



 ここは、王立魔導学院イシュリスに併設されている図書館塔の地上1階部分にある読書スペース。大きな長方形のテーブル1台に椅子が6脚のセットが壁際の本棚と入り口近くのカウンター以外のスペースを所狭しと並べられている。

 先ほどなった3つの鐘の音は、イシュリスの本日最後の授業時間が終了したことを知らせる音だ。最終授業までとっていない生徒もいるが、基本的に生徒は最終授業までとっているので、大半の生徒がこれからの時間を思い思いに過ごすことになる。


 現在図書館の中で駄弁っている2人の男は同じ服を、いや正確にはこの図書館で働いている者たちは男女の差はあれど、全員ほとんど同じ格好をしている。そんな格好をしている2人がなぜカウンターではなく、読書スペースのテーブルに座っているのかというと、生徒の少ない時間帯にちょっとした休憩を取っていたというわけだ。


「そこの2人!さっさと自分の持ち場に行きな!」


遠くから女性がそう声をかける。2人と同じ司書官で、両手で抱えられた5冊ほどの百科事典ぐらいはある大きさの本を少しふらつかせながらも、サボっている彼らを注意する。


「「へ~い・・・」」


2人は気だるげに返事をして、2人でカウンターのほうへ向かう。そこに各々の仕事のスケジュール(この図書館では鐘の音ごとに仕事がローテーションしている)が書かれているのでそれを見にきたのだ。


「げ・・・俺今の時間館内だったのかよ・・・。しかも次はカウンター・・・」

「人が多い時間の館内がいいよなっと・・・俺は今から館内でその後カウンターか」

「俺とかわらねぇ?」

「い、や、だ」

「はあ・・・しかもカウンターの次整理とか、絶対借りたやつをそのまま持って行ってこいって言ってるだろ・・・」

「今から整理のやついないもんな~。ま、その分一人じゃないんだしがんばれよ!」


 これから館内だといっていたほうの男が、これからカウンター業務の男の肩を軽く叩いて本棚のほうへと向かっていった。




「はぁ・・・返却の数多すぎるだろ・・・」


 俺がカウンターに入ってまだ20分といったところだろうか?その間に来た学生と教師の数は合わせて100人はきただろうか。この図書館には地球でのコンピュータのような便利機器など存在しない。いまだに紙に誰が何を借りたのか、ソレをいつ返したのか記入しているのだ。つまり今、俺ともう一人のカウンター担当で100人分の貸し出し・返却用のカードを記入したということだ。


「先生。お疲れ様です!」


 俺がやっとできた休憩時間を少しでも楽な姿勢で体力の回復を図っているときに、そう言葉をかけてくる女生徒が一人。この図書館で司書官・・・いや俺を先生と呼ぶ生徒は一人しかいない。そして呼ばれているのが俺であることもわかっている。・・・・・・わかっているのだが、だからといってせっかくの休息をここでこの生徒の相手で失うのは


「ほら、客の相手も司書官の仕事でしょうが」

「っいで!」


うだうだと考えていたせいか、ドンッと背中を叩かれてしまった・・・


「先生、大丈夫ですか?」

「いてて・・・あ~その、なんだ?まずその先生ってのをやめてくれないか?俺は司書であって学院の先生じゃないってなんどもいってるんだが・・・」

「でも先生が私の魔法の自主練習に付き合ってくれて、いろいろ教えてくれてるじゃないですか!だから先生は先生なんです!」

「はぁ・・・」


 彼女の名前はイリス・フラメル。この王立魔導学院イシュリスに通う4年生の生徒だ。淡い赤紫色とでもいうのだろうか、その髪が肩の少し上で内側にカールしている。軍服のような薄い灰色のポケットつきの上着に現4年生を示す緑色のネック部分(入学した年度毎に制服の色が決められていて、入学後の7年間を同じ色の物を使う)。上着と同色の、いや黒を入れた3色のスカートを動きやすいように膝上までの丈にしてある。


 この学院は10歳以上の生徒を対象に毎年200人ほどの枠にはいるために千人以上の受験生が来るそうだ。年齢に上限はないが、一度入学した者は2度目の入学はすることができないらしい。

 そして10歳で学院に入れるものはよほど魔導に対する知識があるか、もしくは魔法的な能力が高いかのどちらかで、一般的な新入生の年齢は15歳を超えているらしい。


「先生、もしかして疲れてます?」

「もしかしなくても疲れているよ。イリスが来る前に何人の利用者が来たと思っているのやら」


 そういって後ろに置いてある『さきほど』返却された本の山を指差す。その山の量を見てさすがのイリスの笑顔も引きつっている。


「・・・もしかして、わたし仕事の邪魔ですか?」

「ん~・・・」


 その言葉に館内を見回したあと、入り口のほうにも目を向けてから最後にイリスに目を向け


「今はちょうど暇な時間だから大丈夫だよ」


 確認のためにお隣さん(同僚)に目を向ける(先ほど背中を叩いてくれたありがたい方だ)。イリスも同じようにそちらに視線をやり


「騒がないのなら大丈夫じゃないですか」

「と、いうことらしいよ」

「よかった~!」


 騒がなければ、と私には関係ありませんよとそっけない態度の同僚さんの横で、いきなり大きな声を出したイリスは即座に注意されてしまった。カウンターの目の前で騒げばそれも仕方ないのかもしれないが。


「はぅぅ・・・。すみませんすみません」

「はぁ・・・なにやってるんだか」

「わたしが怒られてるのも、わたしの成績が『また』下がりそうなのも先生が原因なんです!だから仕事が終わったら、いつものようにわたしの自主練習に付き合ってください!」

「騒いだのはともかく、成績については知らん!というか、下がりそうならここで俺と話してないでさっさと目当ての本を探して来いよ・・・」

「そうだ!どこにあるのかわからないから先生に聞きに来たんだった」

「はぁ・・・それで?なにについての本を探してるんだ?」

「えぇ~っと・・・たしか次から授業でやるのが大地のマナを使った中級の下位魔法って話だったから、ソレに関連する本かな~?」

「土に中級の魔導書ね、了解っと。それじゃちょっと出てきます・・・ほれ、行くぞ?」


 カウンターを同僚さんに任せて俺はカウンターの外へでる。場所だけ口で教えてもいいのだが、目的の本が置いてあるであろう書架の位置と蔵書の量を考えて、一緒に探してあげるべきだと判断したのだ。


「先生も一緒に探してくれるんですか?やった~!」


 そういうと彼女はうれしそうに俺の横に並ぶ。俺と彼女の腕が触れそうなぐらいに近いのはそれだけ彼女が俺を信頼しているということだろうか。


「・・・あれ?先生そっち階段ですよ、魔導関係の書物って1階部分じゃないんですか?」

「1階にあるのは初級までの本だよ。後の魔導関係は中・上級が2~3階で特級が地下部分。まぁ地下にあるやつは基本的に生徒は見れないから先生用だけどね」

「へぇ~・・・あれ?中・上級が一緒?」

「そう。だから2階以上の棚を全部確認して回ることになるかもね~」

「えぇ!だって大部分は終わったってこの前・・・」

「そう、大部分は終わったよ。分類っていう大枠だけね」

「じゃあ中級がどこにあるのかもわかるんじゃないんですか?」

「残念ながら、魔導関係の本ってわかってるのだけだね。順次初級は1階、それ以外は確認済みの印を付けて何の本かわかるようにして棚に並べてるところだよ」

「そんなぁ~・・・」

「そんな声だすなよ。これでも去年までよりはだいぶましになっただろ?それに確認済みのほうを見れば案外すぐ見つかるかもしれないんだしさ」

「あ!確かにそうですね。じゃあ早速そっちを見に行きましょう先生!」


 ぐいぐいと行く場所がわかっていないだろうに腕を引っ張っていく。たまに彼女のどこ、とは言わないがやわらかい部分に触れているような暖かい何かに当たったことを腕が教えてくるが、そこは生徒と先生(?)という関係を自分に言い聞かせることで何も起きていない、何もないと言い訳する。


「あ~イリス?棚はそっちじゃなくて反対側の、そうあのまだまだ空きがあるあっちの方の棚」


 先ほどの会話にあったように、この図書館・・・いやこの国の図書館では、どの本がどこに並んでいるのかを地球のようにきっちり分けていなかった。そんな図書館に、1万冊以上の本が蔵書されていたのだ。そこから目的の本を探し出すために、以前は捜索グループを編成して数日かけての作業を行っていたというのだから呆れてしまう。

 地球。そう自分は元々はここイシュリスの人間ではない。いや、この世界の人間ではないというべきか。ここにきたのは大体1年ほど前になるだろうか。


「そういえば、先生に魔導の練習を見てもらうようになって、もうすぐ1年になりますね」


 彼女と出会ったのも、ここに来てからすぐだったか?元々の、いや出会った当初の彼女は勉強がうまくいかず、ソレをどうにかしようと書物を適当に選んではその中に書かれている内容を練習していた。若くしてイシュリスに入れているということは彼女も優秀だったのだろうが、徐々に授業についていけなくなり、焦りからかあんな無茶な練習をしていたのだろうか。

 俺はあまりに必死な顔で本を読んでは図書館を出て行く彼女を見て「何か手伝えることはありますか?」と声をかけた。そこからが彼女との、そして騒がしくも充実したこの世界での生活の始まりだった。

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