5 No More Secret
「さて、どこから始めようか」
とオウラムが言った。
「じゃあ、どうして私の思い出がこのクリスタルに封印されているのかとか、貴族たちのこととかとか。それより、何故貴方が私の思い出の中にいるのか知りたいわ」
とにかく私はまくし立てた。
彼は微笑みながら手で髪をかきあげた。
「君はいつも何でも一纏めにしてしまうよね。隠し事ができないよ。ま、できたとしてもそう長くはないけれど」
「貴方は過去の私のことを知っているんでしょうね。だからフラッシュバックの中にも現れる」
オウラムは小さく笑った。
「貴族たちは異種族恋愛は敵視してるんだよ」
「え?」
「私は、なんというか、完全な人ではない」
「どういうこと? 完全な人でないっていうなら、何なの?」
「それは君が自分で探し当てないといけないんだよ」
「また始まった謎々……。ねぇ、異種族恋愛って言った?」
彼はにやりと笑った。
「他の質問は?」
「そうね……どうやったら完全に記憶を戻せるの?」
「それは簡単だよ。ネックレスを身に着けるだけだよ。今度はフラッシュバックがきてもネックレスを放り投げないようにね」
「ははは。負の感情の感覚が嫌なだけよ」
彼は笑っていた。
「それは嘘だね」
私はオーラムをにらみつけた。
「貴方に恋をしていたなんて信じられないわ」
「正直、私も信じられなかった。ま、今も……だけど。だが、嬉しかったんだよ。君は一筋の光だったからね」
現実に戻って真実を知らないと何も始まらないのね。
「じゃ、送り返してくれる?」
「仰せのままに」
「ちょっと待って! ねぇ、私たちってどうやって出会ったの?」
この問いが心の中でいつも燻っていた。
「そうだね、君が空から降ってきたところを捕まえてあげたってところかな」
納得のいかない答えだったけれど、きっとこれ以上は答えてくれないんだろうな。
霧が晴れて、私は現実に戻ってきた。私の目はクリスタルハートのペンダントに引き寄せられていた。そっとそれを手に取り自分の首にかけると記憶の波が押し寄せてきた。しばらくそれを自分の中になじませる。突然、貴族達に対する怒りが強くなり、全ての欠片が一つになった。
**********
オーラムは私をきつく抱きしめていた。足音が通路に響き渡っている。彼らがやってくる。
「私なら止められるわ」
私が言った。
「馬鹿なこと。君は彼らが言うことをやるべきだ。それが君にとって最善なんだよ」
「違うわ。私の王位継承権のせいよ」
彼は呆れた顔をしている。
「王は老いてきている。継承者が必要なんだよ。彼らにその権利を渡すべきじゃない」
「彼らを排除しても心配することは何もないわ」
「だめだ」
「じゃあ、逃げるのよ」
「お姫様は王位を捨てるっていうのか」
「そのことを言わないで」
「真実だろ」
「遠い昔、母さんが私を連れて去ったときに終わったことよ。もし逃げないって言うのなら、戦うわ。失いたくないもの」
オウラムは考えこんでいるようだ。
「最後の戦いってことか」
「これで終わらせるのよ」
「それじゃ、手っ取り早く彼らを黒焦げにしてしまおうか」
私は固まってしまった。
「そんなことしないわよね」
彼はにやついている。
「半竜だって楽しまないとな」
「普通の半竜は炎を吐いて敵を燃やしたりしないわよ」
「そんなことはない。半竜たちはそれで有名だよ」
私は頭を振り、微笑んだ。
「時々貴方の主人格がどちらなのかわからなくなるわ、人間なのかドラゴンなのか」
「もし人間だったら此処にはいないんじゃないかな? ちょっとドラゴンになって大暴れするってだけのことで大したことじゃないだろ」
「そんなことしないで!」
「間違って君を殺したりはしないから」
彼は微笑んでいたので、笑みを返した。
私達は永遠に引き裂かれようとしているのにふざけあっていた。オーラムが変化して問題を消してくれたら簡単なんだろうけど。これは自分で解決しなければいけないこと。自分の魔力を解放し、私たちの周りがキラキラ輝いていていた。魔力が空気の中を渦巻いているのが感じられる。十分は稼げているはずだけれど、充分ではない。
「よくやっているよ」
オーラムが言った。私は顔をしかめた。もっとできたはずだ。オーラムが額に優しくキスをしてくれた。彼の瞳の中のユーモアが消え、私が身につけているクリスタルハートを見つめていた。彼はクリスタルをなぞっていた。
「ごめんよ」
彼は囁いた。
「あなたが悪いわけじゃない」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
私が何かを言う暇などなく、クリスタルの周りに煙が渦巻きはじめた。クリスタルは熱を増し輝いていた。そして床に音を立てて落ちた。
周囲は元通りになり、自分がどうしてこの通路にいたのか思い出せずにいた。目の前にいる男性が誰だかわからない。突如として貴族たちに取り囲まれていた。彼らは私をその場から連れ去り、誰かが遠くで大声で怒鳴っているのを聞いてた。
「ソーン! いつか私を探し出してくれ!」
また違う声が言う。
「彼女がお前を見つけることなどないのさ」
**********
いつの間にか眠っていたようだった。オーラムには会わず、記憶の中にいた。彼のくれた小さな記憶の欠片が一つになっていく。母さんを探して森の木に登っていた。母さんが森の中で行方不明になったとき、私はあとをついていっていた。オーラムが見つけてくれなかったら私も帰れずにいたはずだ。一番大きな木に登っていて足を滑らせて、落ちていた。地面に落ちて、死ぬはずだった。だけど、真っ直ぐに立っていて、風が髪の周りを吹き付けていた。オーラムが助けてくれたのだ。彼の黒い鱗が月の光でキラキラしていたのを覚えている。彼の金色の瞳がとても印象的で忘れられなかった。
これで三つのことがわかった。私が半竜のオーラムのことを愛していること。貴族たちが私とオーラムを危険視し引き離したこと。そして私はオーラムを助けに行く。今度こそ誰にも邪魔をさせない……
END?
読んでいただき誠にありがとうございました。
一応、完。デス。
作家は米人中学生でまだまだ修行中です。
未熟な作家ではありますが今後ともどうぞよろしくお願いいたします。