4 Flashbacks
私は動揺したままで目が覚めた。まだ朝の2時にもなっていないはずなのに、頭が冴えきっている。
あのネックレス……その考えを振り切るように頭を振った。ただの夢よ。覚えてすらいない夢。
しっかりしろ! ネックレスを着けるくらい何てことないはずよ。いつもの夜みたいに暗闇にいるはず。
大きく息を吸い込む。やっぱり、好奇心に負けてしまった。
ベッドから鎖を取り上げる。こんな薄暗い中でもクリスタルはキラキラとして光っている。ネックレスを身に着けようと金具を装着する前に、心が私の肌に触れたような感じで映像が流れ込んできた。全て同じ映像だった。つかの間の幸せ、いくつかは愛に近いものもあった。
まるでネックレスが燃えているようで思わず落としてしまったが、一つのイメージだけが残っていた。森の中で笑い合っている男女二人。木々に囲まれ、雪が降っている。男は背が高く、どんなものも倒してしまいそうなくらい強そうだ。黒髪が上にツンと立ち上げられている。目は閉じられている。けれど、私はその色を知っているような気がする。一緒にいる少女……それは自分だった。
呆然としてしまった。きっと何かの悪戯だ。事実ではないはず。それでも説得力に欠ける。また夢に戻らないと。急いで階下に降り、ポーションキャビネットを漁って睡眠用のポーションを探し出す。緑の瓶を掴み、また部屋に駆け戻った。瓶の注意書きに目を通す。睡眠は十二時間継続する、とある。リーは私を殺す気に違いない。瓶の蓋を開け、一気に飲み干し、ベッドに横になって待った。
再び霧の中だったが、この時ばかりは歓迎だ。
「どこにいるの?」
「実体のことかい?それともこの状態のことかい?」
「あ、いるじゃない」
「ここに戻ってきたっていうことはネックレスをつけたんだね。それか戻ってこらずにはおられなかったとか」
「謎かけはナシよ。ちゃんと答えて」
「仰せのままに、ソーン」
「そう。ちょっと待って」
今彼が言ったことが気にかかる。
「今なんて私のことを呼んだの?」
何か彼が口をすべらせてしまったかのように、沈黙が広がった。
「誰かが君のことをローズ(薔薇)ではなくソーン(棘)だと言っていたような気がするよ」
「そんなことはないはず。でも誰も私を怒らせたくないから言わないだけだろうけど」
彼はくすりと笑っていた。
「夢の中だら誰も傷つけられないよ。それにそっちの名前の方があってるよ」
「じゃあ、貴方が名前を教えてくれたらそう呼んでもいいわよ」
「オウラム」
「オウラム?」
「ラテン語さ。黄金という意味だよ」
「へぇ」
それだけしか返せなかった。
「ここに戻ってきたということは、また質問攻めにされてしまうのかな?」
「まさにね。あのフラッシュバックはどう言うことよ?!」
「あれがフラッシュバック(過去の回想)だと言うんだね?」
「他にどう言ったらいいのよ?あのイメージの嵐の中にいたのよ?」
彼はくすりと笑った。
「では、あれのことを忘れられた遠き日々の思い出とでも言っておこうか」
「思い出?」
「これ以上君の貴族嫌いを煽ったりしたくないんだよ」
「何があったの?!」
唸り声を上げていた。
「何もかも知らないと気が済まないのかい?」
「そうよ! そんなに簡単に避けられるとは思わないで!」
「それなら、この質問の代わりに他の要望を聞くっていうのはどうだい?」
私は霧をにらみつけていた。オウラムはきっとこの件に関して口を割らないだろう。でもこのことは絶対に探りだしてみせる、そのときは貴族達に目にものをみせてくれる。
「じゃあ、貴方の姿が見たいわ」
沈黙が広がる。霧が動き始め、彼が私を現実の世界に送り返すのかと思った。
「望みのままに」
霧がある一部から晴れ始め、影が私の方に向かって近づいてきた。逃げ出したくなる衝動を必死に抑えていた。その姿が視界に入ってきた。長く、黒髪が金色の目を覆っていた。彼は背が高く、自信ありげに立っていた。あのフラッシュバックと同じ男だ。
「じゃあ、話してくれる?」