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ミッションが始まれば、そのフィールドからは参加者以外は即刻退避するようにコアから指示が出される。
指示を無視し、警告が来ても更に無視すれば、頭を爆発させられるという噂だ。どこまでが真実なのかは分からず、パクサルム側はコアは爆弾ではないと否定しているが、まことしやかに語られている。
ただ、何らかの緊急的な措置がとられるのは間違いないだろう。
その噂、というよりも曖昧な情報の逆に言えば、頭が爆発するまで、あるいは何らかの措置がとられるまでの時間、参加者でなくともミッションのフィールドに侵入できる。もっと上位のミッションであれば、乱入がありえないように警備がつくが、こんな初心者向けのミッションでは警備などいるわけもない。
警告が出て、爆発させられるまで3分。
3分間、自由に動けるわけだ。
外から標的の位置を確認でき、なおかつ標的に3分以内で接近できる場所。そんな場所がミッションのフィールドに選ばれるのを、ルリは待っていた。
今、ルリはミッションが行われるバンリューの外れ、パクサルムのエリアの範囲内ぎりぎりに位置している雑居ビル、その隣にある一つ背の低いビルの屋上から、双眼鏡を使ってビルの内部を観察している。この位置からならば、双眼鏡を使えばあの雑居ビルのほぼ全域を何とか確認できる。
下で雑多な店を経営していたり、勤めていたりする奴らが住まう雑居ビルのはずだが、退去命令が出ているせいでがらんとしている。
これで、確認できる場所にあの男が、マウントがくれば、このビルの外付けの非常階段から向こうのビルの踊り場まで飛び降りる。可能なのは実験済みだ。そうして、三分以内にあの男に接近し、もろとも爆発してやる。
それしかない。
腕時計を確認する。ミッション開始時刻まであと30分。
胃がひりつく。ここで白昼夢を見るわけには行かない。肩から胸にかけての傷がうずく。
今日で、終わらせる。解放される。
ルリはそれだけを支えに、死人になることなくここまで生きてきた。心が死なずにいた。本当に心が死ぬまでに間に合った。その前に、きちんと死ねる。あの男を殺して、ちゃんと死ねる。
それは救いだ。
「来た」
自然と呟く。ルリは双眼鏡で見下ろす。
雑居ビルの入り口の一つ、そこに醜く太った男が入っていく。あの巨体、マウントだ。
姉を殺した男。
歯が鳴っている。恐怖なのか、武者震いなのか、体が震える。あの日のように。
「アイチューズアアップルフォアギブザスネーク」
終わらせてやる。
「え?」
だが、そこで驚きでルリの震えが止まる。
別の入り口から、ゆっくりと雑居ビルに入っていく男。
アランだ。
「どうして?」
疑問に頭が埋め尽くされそうになるが、慌てて振り払う。あんな、半分死んでいるような男、気紛れで食事をおごった青年などどうでもいい。
マウントを殺す。
ミッションが終了した直後、あの男の気が緩んだ瞬間に。