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薄暗い部屋で、巨大な男が携帯端末を確認している。縦にも横にも大きいその男は手も指も大きく、彼に持たれては携帯端末も必要以上に小さく見える。
男は、パクサルムではマウントと呼ばれている。
マウントは太っているために常に眠そうに見える目で端末の画面を確認して、すぐにそれをジーンズのポケットに突っ込む。
薄汚れたベッドの上で、マウントは片手にストロークのビスケットの袋を掴んでいる。少しでもマウントが身動きするたびに、ぎしぎしとベッドの貧弱の骨組みが泣き叫ぶ。
場所以外は、この種のミッションはいつも一緒だ。このタイプのミッションばかり参加しているマウントには見ずともルールまで把握できる。
許可武装レベルは3以下。
参加人数は十数名程度。最後の三名になるまで、互いに争って勝ち残ればいい。先頭不能かギブアップで敗北。ギブアップした者への攻撃は犯罪行為。
そんなところだ。
太い指でビスケットを摘み上げ、口に放り込む。
ミッションクリアで200ポイント。ミッションの報酬としては最低レベルだが、命の危険が少なく、コンスタントにこのポイントが稼げるとすれば悪くない。
もっとも、命の危険が少ないのはマウントにとってだ。向こうの新人にとっては、そうではない。
「ふふぅ」
含み笑う。
今回も、何も分かっていない新入りどもを殺せる。
携帯端末が鳴る。
指についたビスケットの粉を舐め取ってから、マウントはポケットから取り出した端末を耳に当てる。
「おう、どうした?」
「ああ、悪いな、マウント」
軽薄な男の声。
今回、組んでいることになったチンピラだ。
そう、これも新入りとの差だ。チームを組める。最後の三人の中に入ればポイントはもらえる。それなら、一人で参加する必要はない。最初から、徒党を組んでミッションを受ければいい。
何度か組んだことのある、マウントと同じ新人狩りでポイントを稼いでいる男と、今回組むことになっている。
「もう一人、都合がついたぜ」
男の声に、にやぁとマウントの顔に笑みが広がる。
三人勝ち残れるのであれば、三人でチームを組むのが一番効率がいい。だが、今回はミッション開始の三時間前になっても、最後の一人が見つからなかった。
それが、見つかった。
「よかった、磐石だな」
「ああ、何とかまだねじ込めた。ちゃんとそいつも参加させられたぜ」
「ああ、いいぞ。これで今回も俺達の勝ちだ。ふふぅ、前回は、向こうに女の参加者がいたから面白かったな。今回もいればいいが」
「はっ、女を殺すのが好きな奴だな。俺は、ポイント稼げりゃどうでもいいよ。じゃあ、そういうことで、頼むぜ。そいつのことは現地で紹介する」
「ああ」
いつの間にか垂れていた涎を腕で拭う。
一方的な狩りが始まる。マウントの、一番好きな時間だ。