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パクサルム【未完】  作者: 片里鴎(カタザト)
ガール・ミーツ・ボーイ
4/20

 血の色の夢を見る。

 いつもそうだ。白昼夢。満ち足りた気分になると、いつもこの白昼夢を見てしまう。自分が少しでも幸せに近くなると、それを許してくれない。いや、きっと自分が許していないのだ。

 ステーキなんて食べるんじゃなかった。

 歩いている。並んでルリと姉が歩いている。夕暮れの路地。血の色に辺りが染まっている。笑っている。ルリと姉が。

 現れる太った、醜い男。怯える二人の前に立ちふさがる。ナイフ。まず、ルリが肩から胸まで切り裂かれる。痛みのあまり悲鳴すら出せず、痙攣する。

 ルリに手を伸ばして泣き叫ぶ姉。その姉を引き倒し、圧し掛かる男。

 倒れたルリは震えながらそれを見るしかできない。真っ赤だ。夕日なのか血の色なのか。悲鳴と男の荒い息。含み笑い。ルリは痙攣している。

 男は姉を嬲る。何度も何度も。嬲りながら、死なない程度に姉にナイフを突き立てる。ナイフがえぐるたびに、姉の悲鳴が弱くなっていく。

 そうして、男は満足すると、姉の喉に向かって思い切りナイフを突き刺す。空気と血が混じるごぽごぽという音が響く。男は刺さったナイフを、更に捻じる。姉が大きく痙攣して、口からとめどなく血を流す。

 やがて、大きく一度体を震わせてから、姉は動かなくなった。

 男は立ち上がり、姉を見下ろした後、にやけた顔でルリに顔を向ける。

 ただただ痙攣しているルリを見て、鼻を鳴らすと、男はその場から去っていく。




「うっぷ」


 さっき食べたステーキが逆流してきそうになるのを必死で抑える。

 危ない。白昼夢か。


「今日で終わる」


 口に出して、それを唱える。息を整えて、


「アイチューズアアップルアンドフォアギブザスネイク」


 小さく歌う。姉が好きだったイギリスの古いバント「ブラックアート」の「アップル」という曲だ。歌詞は正直うろ覚えだが、メロディはこんな感じだった。

 姉とよく一緒に歌った。これを口ずさんでいる間は、心が静まる。


 アランという妙な青年、あの青年のせいでリズムが狂ったが、大した問題ではない。もうやるべきことは決まっている。


 初心者レベルのミッション、ここからすぐの雑居ビルがフィールドになる。許可武装レベルは3以下。防御用の機械式肉体改造、近距離武器、薬物投与による戦闘力増強までが許可されているミッションだ。つまり、爆薬を埋め込んでいるルリには参加できない。

 このミッションはあくまで見世物。監視カメラから中継されるミッションの内容が世界に配信され、賭けの対象にもなっている。

 有望な新人を見つけるためと、新人にミッションとはどんなものかを教えるためと、そして娯楽。これらのために初心者向けに設定されたミッションだ。

 今では、初心者狩りの連中の狩場に成り果てているが。


 待った。

 待って待って待ち続けた。

 あの男がこんな初心者向けのミッションに入り浸っていることは分かっていた。けれど、だからといって手が出せない。ミッションをしていない時にあの男がどこにいるかまでは全く分からなかった。どれだけ調べても。

 おそらく、バンリューにいるのだろう。ここのエリアは入り組んでいて、前もって情報を得ていなければバンリューにいる人間の情報を得るのは難しい。

 ミッションで日々の糧を稼ぐ、生粋のポーンであればあるほど、普段の生活を外には漏らさない。あの男は、狡猾で用心深い。

 だから、やはりミッション中に殺すしかない、と結論が出た。

 後は、どのように殺すのかが問題だ。真正面からぶつかって勝てるとは思えない。命を賭けてすら、だ。あの男は用心深い。だからミッションは自分に命の危険がほとんどないものだけを受けている。そういうミッションのベテランを相手に、正攻法では殺せない。

 だから、その種のミッションに参加するのを諦めて、内臓と引き換えに爆弾を埋め込んだ。


 あとは、待つだけ。

 計画は組んだ。後は、そのミッションが、狙い通りの場所で起こるのを待つだけ。どれだけかかろうと、ただ待つ。どれほど苦しかろうと、ただ待つ。その苦痛など、姉に比べてどれほどのものだというのか。

 そうしてようやく、いくつかピックアップしておいた場所の一つで、その種のミッションが行われることになった。


 今日。

 今日で終わる。


 ちなみに、ブラックアートは四人組みのバンドだが、ドラムが友人を殴り殺して逮捕されて解散した。ベースとボーカルは麻薬中毒となってやがて死に、リーダーだったギタリストは解散してから四年後、三歳になる自分の子どもを銃で殺してその肉を食った。

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