12
十五分。
携帯端末を見て、それを確認する。第二波が来て、削り合いが始まってからの時間だ。
もっと長く感じたが、とアランは長く長く息を吐く。
疲れた。
両手の指が血に塗れ、周囲には首の骨を折られた兵士達が散乱している。
「二発か」
左の太股に一発。わき腹に一発。
流れ弾が当たった。
同士討ちも厭わずに敵は銃を撃ちまくってきた。流れ弾を喰らうのは仕方ない。むしろ、よくぞ二発で済んだものだ。その二発とも、致命傷にはなっていない。
とはいえ、それなりに出血が酷い。このままでは、戦闘不能になるかもしれないが。
精々があと二十分か。自己分析して、アランは辺りを見回す。
怒声や銃声、悲鳴にポーンからの無線も、もはやまばらなものになっている。
大分、片付いたはずだ。
「担当官」
少し血をこぼしながら無線を入れる。
「まだ、正規軍はこないのか? もう、いいだろう」
『ええ、既に連絡はしてあります。リパブリックの正規軍が到着するまで、残り十分程度です。到着と同時に、ミッションは成功となります』
無線に安堵して息を吐くアランが視線を上げると、左腕をぶら下げたタイロンが近づいてくる。血の気が引いているのか、元々白かった皮膚が更に青白くなっているのがアランの目にも見える。
「お前も撃たれたか」
「あんたもか。腕をやられたのか、痛手だな」
「片手で済んだなら御の字だ。何とか生き残れたな」
趨勢は決した。
「ああ、無線は聞いたか?」
「聞いた。あと十分だろう? さて、どうしたものかな」
「何がだ?」
「あと十分、何をするかということだ」
「命を拾ったんだ。大人しく待てばいいだろう。それとも、残存兵力を刈るのか?」
「そうだな、そうするか。やはり、このミッションを受けた理由の一つでもある。行くとしよう」
「どこに?」
「基地の内部だ。あそこに、いるかもしれない」
「あんたの、個人的な標的か?」
「いや」
寂しげにタイロンが口の端を歪める。
「言っただろう、俺はそれを失った。あそこにいるかもしれないのは、そうだな、その残骸だ」
「残骸に会うために命を賭けるのか」
「ああ。不思議か?」
「いや。好きにするさ」
空気が変わり、金属の軋む音が聞こえる。
『嘘でしょ』
あのオリガが出したとは思えない、ほとんど金切り声に近い無線。
軋みに向けて顔を向けたアランとタイロンの目に、基地からゆっくりと出てくる人間よりも一回り大きな人影が映る。
「コクーンか」
タイロンの声に明らかな驚愕が混じる。
「トロット社の強化外骨格? どうして」
困惑にアランは目を細める。
「銃器の類の武装がついていない。初期型か。いや、造りも甘いな。コクーンの初期型、そのコピー品だ」
暗視したタイロンが分析する。
「ということは、スピードは人間と同等かそれ以下、武器もない典型的なコクーンか。ただ硬くて力の強い代物」
「だが、単純だからこそ強い。俺の豆鉄砲はもちろん、マシンガンでもあの装甲を貫くのは不可能だ。あんな代物を準備していたとは。コピー品とはいえ、あれ一つでこのご時勢小国なら買えるぞ。しかし、あれを準備していたなら、どうして今まで出さなかった。あれが出てきて、他の兵と連携していれば負けていたのに」
「ああ、あれだろうな、フォークスだ」
タイロンの問いに、アランが簡潔に答える。
「そうか」
すぐに理解して、タイロンは頷く。
「馬鹿がいると思ったが、あれのおかげで命拾いしたわけか。フォークス粒子兵器が命中すれば、コクーンと言えども破壊される可能性が出てくる。貴重なコクーンを失うわけにはいかないからか」
「贅沢も言えなくなったし、フォークス粒子兵器を持っていた奴は死んだみたいだからな。ついに登場というわけだ。担当官」
アランは無線を入れる。
「どうするんだ?」
『たった今、正規軍に連絡を入れました。対強化外骨格兵用の装備に換装することに決定。それにより、到着時間が二十分後に延長しました』
「二十分か。あいつ一体だけじゃない。おそらく、ここで状況をひっくり返すために残存兵力が全部出てくるぞ。とてももたない」
アランの判断に、
『もたせてください』
ほとんど悲鳴だ。
『特別なボーナスを支給します。何としても正規軍の到着までもたせてください』
「どうしたものかな、逃げようにも、難しいか」
アランは呟く。
「瞬間的な速度は人間並みとはいえ、持久力の差でコクーンにすぐに追いつかれる。よし、アラン、悪いな」
と、タイロンが覚悟を決めたのか銃を構え直す。
「どうするんだ、あんた?」
「突入する。相手の基地へな。今、外に出てきてる兵隊を殺しながら突入してやる。それで、コクーン以外の兵のほとんどは俺に向かうだろ」
「コクーンも向かうと思うが」
「お前が止めろ」
「俺が? 武器もなければ改造もしていない、新入りのポーンだぞ。止められると思うか?」
「さあな。それで、返事はどうだ?」
「ああ、もちろん」
死人じみた顔のまま、
「やるさ。徒手空拳でコクーンを倒す。悪くない。それくらいしなければ、近づけない」




