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パクサルム【未完】  作者: 片里鴎(カタザト)
オールド・カフェ
19/20

11

「随分、古いものを使っている」


 二人して、身を屈めて走り、場所を変える。

 一時的に落ち着いているとはいえ、おそらく敵兵の余力はまだある。場所を変えるチャンスを見逃すはずも無い。

 その途中で、至近距離でタイロンの持っている銃を目にしたアランが呟く。


「これか」


 走っている間も、怒声と銃声は途切れない。一発、タイロンの右肩をぎりぎりでかする。


「携帯性以外の全てがほとんどの銃器に劣っているんじゃあないのか、拳銃は」


「それは言い過ぎだ。だが、確かに、言いたいことは分かる。俺がこれを使っているのは、単純に慣れているからだ」


 そのタイロンの答えに、アランはしばらく黙って走る。

 やがて二人はよさそうな茂みを見つけ、そこに滑り込む。


「兵士出身じゃあないのか」


 アランが問いかける。

 拳銃を使い慣れている、ということから判断したのだ。


「ああ。察しているようだが、そうだ。俺はいわゆる犯罪組織出身だよ」


 特に隠すこともない。

 タイロンはあっさりと答えて、二発発砲する。

 銃弾は岩をかすり軌道を変え、


「ぎゃ」


「うおっ」


 この茂みからは死角になっている場所にいた敵兵を撃ち抜く。


「跳弾か。すごいものだな」


 感心するアランに、


「これで場所をしばらく誤魔化せる」


 と、タイロンは慣れた手つきでリロードをしていく。


「お前、無改造なのか」


 手を止めず、タイロンは身近で観察して気付いたことを確認する。


「ああ。パクサルムにも、つい数日前に入ったばかりだ」


「生体主義者か?」


「俺にそんな主義はない。単に、手持ちがなかっただけだ。今回のミッションで稼いだ分で、改造するし武器だって買うさ」


『おい、残ったポーンは何人だ?』


『もう十名以下だぞ。他は死んだか離脱済みだ。敵は、何人だ? ああ、マーキングされてる奴らだけで三十名いる。まだ増えるのか? あの基地の中、何人いるんだ?』


 入る無線の量も減っている。ポーンが減っているのだ。


『担当官、まだやるのかよ』


『相手の基地内の兵力は僅かと推測されます。今、マーキングされている兵を片付ければあと僅かです。ミッションは続行します』


『まだ正規軍を出さないのか。どこまで身内の痛みに敏感なのやら』


「素手に拘っている、というわけでもないのか。格闘術なんて珍しいものを修めているようだから、技術偏執者かと思ったが」


 絶望を声に滲ませているポーンの無線を無視して、タイロンが言う。


「ネームドには多いと聞いたことがあるが、別に拘りもない。あんたはどうなんだ? 使い慣れているとは言え、拳銃、それもそんな時代遅れの銃を使い続けるなんて」


「俺か。確かに、俺も技術偏執者かもしれない」


 ただ、とタイロンは続ける。


「俺は、技術というよりも手法に偏執しているんだろう」


 言いながら弾をばら撒く。

 数人の兵が倒れる。


「さて、もう場所が気付かれたか。ここからは削り合いだ。こちらが押し込まれるのが先か、削りきるのが先か。俺が撃つ。お前は、忍んでおいて近づいてきた敵を殺してくれ。できるか?」


「ああ。精々、流れ弾に当たらないように頭を低くして忍んでおく。ところで、あんた」


「どうした?」


「手法に偏執してるとは、どういう意味だ?」


「死体のような目をしているくせに、気になるのか。単純な話だ。銃殺というのは、酷く反倫理的な手法だろう。だから好きなんだ」


 意味が分からないアランは、黙って続きを促す。


「一人殺すのに、銃弾を数発、うまくやっても大体一発は消費する。銃弾という、確かに価値があるものが、人を殺す時に消えてしまうんだ。刺殺や撲殺とは違う。アラン」


「ん?」


「お前、人間一人に、銃弾一発よりも価値があると思うか?」


「ない。俺にとって人間の価値は、もうないんだ。あの日、失われた」


 目が暗い。


「お前もか。俺もそうだ。人間に価値はない。価値はないものを片付けるのに、価値のあるものを消費する。酷く、反倫理的だ」


 それがたまらないのだ、と笑って、タイロンは拳銃を構える。


「さて、来るぞ。俺達が死ねば、おそらく今回のミッションは失敗だ。現時点で外に出ている敵兵を全員片付けるくらいしないと、正規軍も来ないだろう」


「絶望的な話だ」


 棒読みでアランが言うと、


「ははっ」


 タイロンは笑う。

 死人のような反応をするアランが面白く、久しぶりに笑ってしまう。


「絶望していなかったのか? ポーンのくせに」


「一応、望みはある」


「それが、死人になったお前を繋ぎとめているわけか。何だ?」


「ああ」


 銃撃。アランの髪をかする。全く動じず、アランは写真を取り出す。


「暗視で見えるか? これだ。この写真に写っている奴らを捜している。こいつらを殺したいんだ」


「標的がいるのか。うらやましいな」


 その一瞬、タイロンの笑顔から生気が抜け、アラン以上に死人に近い顔になる。


「俺はもう、なくしてしまったよ」


 そして、タイロンは体を起こすと、銃の乱射を始める。いや乱射ではない。その全ての銃弾が敵の命を奪っていく。


「成就するといいな」


「ああ。だから死ねない」


 答えて、アランは闇に消えていく。

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