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荒廃した大地を行く。
ハミングバードと俗称される旧式のヘリで、深夜に目標地点から5キロは離れた場所に降ろされた。
後は、携帯端末のマップを頼りに、徒歩で、限界まで警備に気付かれないように近づいていくしかない。
アランの乗ったヘリには、ポーンが他に四人。
おそらく、五人ずつでそれぞれバラバラの地点に降ろされているのだろう。アランは全く会話のないヘリの中で他のポーンを伺ったが、全員がそれなりにベテランのポーンらしかった。アランと同じように普段着のまま来たかのような中年の男もいれば、暗い色の迷彩服に両手でサブマシンガンを抱いている若い男もいた。おそらく、誰もがそれなりの修羅場を潜っているのだとは推測できた。
真夜中。廃墟とところどころに生えている葉のない木々だけが障害物の大地。
身を隠しながら、アランは歩き続けている。
他のポーンのことは知らない。元々、ポーンは個人主義者が多い上に、今回のミッションの内容上、協力して事を運ぼうという方が無理がある。
同じ場所に降ろされた他の四人ですら、無言ですぐに分かれてしまった。
コアを通して、ミッションの参加者とは無線通話できるはずだが、さっきから誰も発言していない。
まあ、それはそれでいい。
こんなものなのだろう、とアランは思う。最初のミッションはお遊び程度のものだった。本当のミッションがどのようなものか、それを知るという目的も今回はある。これがそうなら、受け入れるだけだ。
「効率は悪いが」
呟いて、歩くアランの足が止まる。
視線の先に、月明かりに照らされて、背の低い草が生えている。
土壌再生が行われているということだ。つまり、この先は、人が住んでいるエリア。この場合、何のエリアなのかははっきりしている。
そろそろ、足を進めるのに慎重になった方がいい。
そう判断したところで、
『こちら、タイロン』
無線が入る。
『担当官です。いかがしましたか?』
担当官の声は合成音声に置き換えられている。とはいえ、声の調子からあのオリガの硬く鋭い様子が見えてくる。
足を進めながら、アランはタイロンがネームドだったことを思い出す。
『どうやら先陣を切るのは俺となりそうだ。既にフェンスを乗り越え、敷地内に身を隠している。警備兵、視認できたものはマーキングしておく。端末で確認してくれ』
『素晴らしい貢献度です。それでは、全員が攻撃可能位置につくか、敵が気付くまで待機しておいていただけますか?』
『悪いが、断る。こういう時は、現場の判断が優先されるな。口火を切らせてもらう』
そうして、それきり連絡は途絶える。前方から、かすかに銃声と、叫び声のようなものが聞こえてくる。
こうなれば、あまり慎重に進んでも意味はない。
アランは、足を速める。




