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結果として、アランのミッション参加希望は受理された。
「おっ、一人、ネームドが参加してるわね」
携帯端末で参加受付が締め切られたそのミッションをチェックしていたルリが声をあげる。
「ほう、何位だ?」
自分が参加するというのに知らなかったらしい。
アランは少し興味を見せる。
二人がいるのは、ルリの元職場である名前もないレストラン。
葉物と何らかの肉を濃い味のソースで炒めたものを、夕食として食べている。ルリもアランもだ。肉野菜炒めセットは、店でも8ポイントと非常に安く、人気のあるメニューだ。
「95位ね。タイロンって名前」
「ぎりぎりじゃあないか。ネームドとしては最下層か」
「あのね、全ポーンのうち100位以内が、どれほど厳しい壁か分かってるの?」
「舐めているわけじゃあない。むしろ、ありがたい」
獣が舌なめずりをするように、アランは口の端についたソースを舌で拭う。
「ネームドとなるのにどのくらいの実力をつければいいのか、よく分かるサンプルを目にすることができるということだ」
目に浮かんでいるのは暗い喜び。復讐へ一歩一歩近づくための道が見える喜びだ。
「アラン、あなたはこのミッションで、何を得るつもりなの?」
今のままでは、危険度のあまりに高いミッション。命を賭ける代わりに何を得るつもりなのか、ルリにはよく分からない。
「俺には見えている。お前に見えないものが。このミッションで、俺は人の興味を惹かなければいけない」
「どうして?」
「今に分かる。慎重な道を行き、凡庸なポーンとして昇るのでは、辿り着けない場所にいるんだ。俺の標的共は」
無論、ルリにはその言葉の意味は分からない。
相変わらず食べるのが早いアランは、ルリが半分ほど食べたところで皿を空にする。
「以前の礼だ。ここはおごろう」
「同じおごりでも、天と地ほどの差があるんだけど」
なにせ200ポイントだ。
そこまで気にしているわけではないが、さすがにルリは口にしてしまう。
「なに、すぐに取り戻せる。期待していろ。今日の深夜に開始だ。もう帰って寝る」
アランは、店長に言って合計16ポイントをしっかりと払うと、先に出て行く。
一人残ったルリは、また携帯端末に目をやる。
タイロン。
獲得累計ポイントのランキングが100位以内にランキングされた者は、ID番号ではなく名前を登録できる。いや、されるというべきか。一種の危険物とみなされ、他のポーンのように匿名性を剥奪され、パクサルム・ネットによって情報を閲覧される立場となる。別に大した情報ではない。ランキングと名前、獲得累計ポイントのみだ。だがそれでも、匿名性を剥奪されて個と認識される、それだけでポーンとしては不利だ。ネットには流れずとも、噂で、口頭で、ペーパーメディアで、その個としての情報が出回る可能性がある。
逆に言えば、それでもなお強者たりえるからこそ、彼らには名前がつく。
ルリは、まだネームドの実物を見たことはない。




