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担当官はオリガ・ノトと名乗った。
背が高く、痩せた若い女だ。艶のある長い黒髪、黒曜石のような黒い瞳、仕立てのよさそうな黒いスーツ。そして、全てが鋭い。目も態度も動きも、その全てが。
「あなたが参加希望したミッション、その担当が私になります。よろしく」
「よろしく」
短く答えて、アランはベッドマットの上で座り直す。
鍛錬として、片腕で指立て伏せをしていると携帯端末が着信を知らせた。誰かと思えば、担当官からの映像通話だった。
「今回の三合会への作戦は、非常に重要なものです。その全責任は私が負っています」
口調も鋭い。
鍛えられた刃を思わせる女だ。美しく、優れていて、強靭で鋭く、そして危険だ。
見たところアランよりも年下だが、もはや見た目が実年齢を知らせる時代は終わった。皮膚も全て人工皮膚の可能性がある。
重要なミッションの担当官となっているのだから、リパブリックの中でもエリートなのだろう。エリートとして受ける恩恵の一つとして、アンチエイジング改造を受けていてもおかしくない。
「ミッション中は、あなたの司令を受けることになるわけだ」
「私があなたの参加を認めれば、の話です」
画面の向こうから、オリガは値踏みするよう目をしてくる。
「担当官が参加希望者の面接を行うのはそうあることではありませんが、私が今回それをする理由はあなたにも想像がつくと思います」
「ああ」
アランはばたばたと床に立てかけた携帯端末に向かって手を振る。
「悪いとは思っている。面倒をかけるな」
「いえ、今回のミッションは重要なものです。一人でも優秀なポーンが欲しい。あなたの実力を見極めるのに力を尽くすのは当然です」
「それで? どうすれば俺の実力を示せる?」
「少なくとも、これまでのやりとりで馬鹿や狂人ではないと分かりました。身の程知らずのミッションを受けるポーンは、この二種類が少なくありませんから、安心しました。ミッションの開始までまだ間があります。セントラルにお越しいただけますか?」
身を晒しても、突然襲うような危険な馬鹿ではないと見極めて、二次面接か。
アランは少しだけ悩む。
行くかどうかではない。そんなことは悩まない。
やがて結論が出る。
「それは構わないが、一人連れて行っていいか?」
「……私が面接したいのは、あなただけなのですが」
固く鋭い声に不快さが混じる。
「分かっている。俺の、その、何というかアシスタントだ」
一瞬の沈黙ののち、
「よろしいでしょう」
ため息と共にオリガは答えた。




