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銀翼の紋章術師(エンブレムマスター)  作者: 森羅 紫
第一章 紋章術師
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07,エルフォの民

 泉を出発してから体感時間で三時間程経過した。

 出発する前に頭上あった太陽はゆっくりと沈み、それに伴い空が段々暗くなり始めた。

 それでもリリが指し示す方へ進んでいくと、森を囲うように聳え立つ崖が見えてきた。

 本来ならもっと速くここまで来れたのだが途中、トラック並の大きさを持つヘラクレスオオカブトとオオクワガタを足したようなモンスターや、蜂に蟷螂(カマキリ)の鎌を付けたようなモンスターが出現して戦闘になった。

 両手はリリを抱えているので両手が使えず遠距離攻撃系の紋章は所持していない為、昆虫型モンスターが放ってくる攻撃を回避しつつ振り切るのにかなりの時間を要したのだ。

 森の上空を逃げながら飛び続けていて気が付いたのだが、崖に近づくにつれて森の力が低くなっているようだ。

 マナの森という所は、初めてこの世界に来て魔力という物を知った俺でも分かるぐらい大きな力を感じる。

 そこに住む生き物はその魔力を常に浴びながら過ごしているため、先程倒したオルトロスや巨大化した昆虫と同じかそれ以上の化け物へと成長するのだろう。

 はっきり言って、あの時オルトロスを倒すことが出来たのは運が良かったと言わざるを得ない。

 紋章の効果もテキストのみの確認だけで動作確認や紋章が二つ同時に使用出来きるかなどを試さず、ぶっつけ本番の戦闘を行った。

 第三者から見れば何処の自殺志願者だ?っと突っ込まれる行動だ。自分が持っている力について色々と知っておかないと後々確実に死ぬ。

 暗くなりつつある空を見上げながら、リリを抱えている手に力を入れる。

 あんまり暗くなりすぎると視界が悪くなるので、その前にリリの家に着かなくてはならない。

 俺は高度と飛行速度を更に上げて崖を飛び越える。

 超えた先にも森が広がっているが、マナの森とは違って強い力は感じない。

 どうやらマナの森を抜けたようだ。

 

「●▼*、××●●▲!」


 抜けた森の先に空を支えているかのような柱が見え、それをリリは指差す。

 よく見るとそれは大きな大樹で、一番低い枝でも雲より上の位置にあった。

 逆に大樹の根元には蛍のような丸い光が集まって、暗くなりつつある森を明るく照らしていた。

 

「あそこか……」


 丸い光によって明るく照らされた大樹に向かってシルフィーは飛行する。


 大樹にたどり着くまで、そう時間はかからなかった。

 大樹の根元にはログハウスがいくつも建っており、屋根には鈴蘭に似た花が咲いて蛍のような神秘的な光を放っている。

 俺はその内の一つ、リリが指した丸い屋根に鈴蘭が三本生えたログハウスの前に降下する。

 おそらくここがリリの家なのだろう。

 リリを地面に下ろすとすぐさま扉を開き、彼女と一緒に家の中へ入る。

 家の中にも屋根に生えた鈴蘭より小さなものがあり、その植物が部屋を明るく照らしていた。

 リリは部屋を一直線に進み、奥の扉を開けて中に入る。

 開かれた奥の部屋に入るとその部屋にも同じような鈴蘭で明るく照らされていた。

 部屋にはベットやタンスといった家具がいくつかあり、ベットの上には一人の少女が眠っている。

 少女の手や顔には青黒い痣があり、少し痩せこけて顔色も悪かった。

 この寝ている子がリリの妹だろう。

 リリは妹を起こして何か会話をした後、持っていた《精霊水》の入った瓶を取り出して中の水を飲ませる。

 《精霊水》を飲んだ瞬間、痣は瘡蓋かさぶたのように簡単に剥がれ落ち、顔色は段々と良くなってきた。これで妹は大丈夫だろう。

 俺を他所に二人共涙を流しなが抱き合っている。

 治らないはずの病気が治ったんだそりゃ涙の一つでも出るだろう。

 そんな二人の時間を邪魔するように後ろの扉が大きく開かれた。

 開かれた扉の先には長身の金髪美青年と、その後ろにリリに似た黄緑色の髪の青年が複数押しかけてきた。

 彼らは部屋にいるリリ達姉妹と不審者では無いが、向こうから見ればそう見える俺に気づき、何かを言って腰に携えた剣を抜き警戒した。

 

「種族変えないと何言ってるか分からないんだったな……」


 すぐさまMPを三割消費して『擬態の紋章ミミック・エンブレム』を発動させて姿を『長耳(エルフォ)族』に変える。

 これでMPは一割しか残らないので当分『擬態の紋章ミミック・エンブレム』は使えない。

 

「……見たことのない術だな、貴様何者だ?」

「シモン、剣をしまって!彼女は私の命の恩人よ!」


 リリが前に出て俺を庇ってくれた。リリはシモンという男に経緯などを説明すると彼は剣をしまい、後ろの青年たちにも剣をしまうように指示してくれた。


「……リリの恩人だとは知らず失礼した」

「いや、いいよ。はじめまして、俺はシルフィーだ」

「シルフィーか、いい名だな。俺はシモン、ここ村の長をやっている。リリが世話になったようで何かお礼がしたいが……」

「礼なら彼女に今日は泊めてもらう約束をしているんだ」

「そうだったのか……。リリ、マナの森に行ったんだろ。無事に《精霊水》は手に入ったのか?」

「シルフィーのおかげでね」


 全員ベットに目を向ける。

 ベットの上にはリリの妹が、すやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

 ホッとして眠ってしまったのだろう。


「そうか、本当によかった。やはり俺からも何かお礼をさせて欲しい」

「ん、だったら誰かこの世界や歴史のことが詳しい人を紹介して欲しい」

「だったらお爺様に聞いてみれば良いんじゃないかな?」

「そうだな、爺様なら色々教えてくれるだろう。では案内しよう、ついて(くぅ~)……まずは夕食を済ませてからにするか」


 空腹に耐えきれず鳴ってしまったお腹の音は、流石にこのタイミングでは恥ずかしいと思った。

 




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