02,紋章作成
「おい、まだリリは見つからないのか!」
一人の青年が大きな声でそう叫ぶ。金色に輝く髪と海のように青い瞳が特徴の彼が探しているのは幼馴染で大切な仲間のリリと呼ばれる少女だ。そのリリが突然いなくなってしまい、村の男性陣総出で森を探しているが見つかっていなかった。リリには病気の妹がいて、リリ自身が一番近くに居てやらくてはいけないはずなのに、姿を消してからもう1時間は立ってしまっていた。心配な顔をする青年はリリが見つからないことに少しばかりイライラしてきている様子だった。
「ここら一帯は探したがいねえ!もしかしたらまた『人族』の奴らに攫われたのかも……」
「ふざけるな!奴らに攫われて帰ってきた者は居ないんだぞ!」
「だがこれだけ探していないとなると……」
「長!ミレナの占いの結果が出ました!リリアーヌはマナの森に向かったようです」
「バカな!あそこはレベルが高いモンスターがうようよいる場所だぞ!」
マナの森はここらの森よりも魔力が濃い場所だ。その場所に住むモンスターは通常のモンスターよりも凶暴で強く、ここにいる者達だけでは最低でも一、二体を相手をするのがやっとなぐらいだ。彼のイライラがさらに増し、小さく舌打ちをした。
「あのバカ!武器を準備しろ!これからマナの森に向かう。急げ!」
無事でいてくれよ。
先までイライラしていた青年は、気づいた時にはそう心に強く願っていた。
◇◆◇◆
現在、俺は森の上空を飛翔している。
実を言うと異世界に来てからもう一時間程経過しており、その時間『紋章作成』で紋章を作ろうと躍起になっていた。
だが、いくら願っても黒歴史に残りそうな厨二病的呪文を考えて唱えても作ることは出来ず、気分を入れ替えスキル『飛行』を試してみようということになったのだ。
初めて飛ぼうとした時は今までにない翼に動かすのに苦労した。
少し練習すると翼の感覚が大分わかり、大きく翼を広げて何度も羽ばたかせ、空を飛ぶことを意識した。
それにより背中から翼の根元、そしてその先まで何か温かいものが集まり、これなら飛べそうだと感じた。
おそらくこれが『飛行』というものだろう。
結果、この温かい力を維持したまま地面を蹴りあげ、翼をさらに羽ばたかすことで高く飛翔することに成功した。
飛翔後、飛行する制御も難しかったが少し飛ぶことですぐに慣れることが出来た。
今では飛ぶことが結構楽しかったりする。
「それにしても広い森だな、木ばっかりで………、お!水場発見!」
気ままに飛んでいると複数の小さな虹が架かった泉を見つけた。
中心には白い宮殿みたいな物が建っており、そこから噴水のように水が噴き出して虹を作り出してるようだ。
水を出す紋章を作ることが出来なかった以上、川などの自然水を使用するしかない。
翼にかかる力を調節し、ゆっくりと泉の近くに下降する。
泉の水は思ったより透明で綺麗だった。
もしかしたら元の世界に居たときに何時も使っていた水と同じぐらい綺麗かもしれない。こんなに綺麗なら意外と飲めそうだ。
だが、すぐさまその考えを否定する。そもそもここは異世界だ。
こんなにも綺麗な水でも何が含まれているか分からない。
鑑定などを魔法が出来たら便利なのだが、紋章術士は魔法は使えないし、先試した時は紋章を作ることは出来なかった。
「もう一回試してみるか……」
先程は失敗してしまったが、安全な水を飲みたいという一心でもう一度挑戦することにした。神頼みのように手を合わせて祈り、心の中で水の安全性を知りたいと強く願う。すると頭の中に先程は聞こえなかった声が聞こえた。
《……術者の祈りを確認。特殊魔法『紋章作成』発動検索。検索内容『水の安全性を知りたい』………………完了。最も近い紋章を提示。紋章名『解析の紋章』。取得条件『知りたいという祈り』。術者は条件を満たしており取得可能。取得を開始し……………………完了》
「あれ?成功した?」
最初の時と違い、祈るように手を合わせたのが良かったのかあっさりと出来てしまった。早速ステータスを開き、新しい紋章を確認する。
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《解析の紋章》 使用MP ?
術者の片目に解析の紋章を出現させ、その紋章を通して見たもの全てを調べることが出来る。
使用MPは1秒間に5消費される。
目を閉じることで紋章が消滅する。
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『盾の紋章』の時と違い、常時MPを使うみたいだ。
今現在のMPは700なので継続で約二分半ぐらいまでしか使用出来ないが、すぐ調べて目を閉じれば済む話だ。
「では、早速《解析の紋章》!」
ステータスを開く時と同じ用に声を出し、『解析の紋章』を発動させる。
右目の前に紫色の円が出現し、段々と何かが身体から抜けるような感じがした。その状態で泉の水を見ると、その情報が頭の中に提示された。
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《精霊水》
マナの森にある精霊神殿から湧き出る水。
飲んだ者の病や傷を治したり、魔力を全回復させたりすることが出来る。
マナの森は凶暴なモンスターが数多く生息するため滅多に入手することは出来ず、精霊水はかなり高値で取引されている。
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飲めるかどうかの以前に効果がヤバかった。
試しにどんなものか飲んでみようと思い、出て来たばかりの水を手で掬くって口に運ぶ。
「……美味しい」
水なんてどれも同じだと思っていたがこの《精霊水》は今まで飲んだ水の中で一番美味しく、つい声が出てしまった。
しかもこの水のを飲んだ瞬間、先ほど抜けるように感じたMPが全回復した気がした。
「この水でウーロン茶とか炭酸飲料を作ったら美味しいだろうな~。そもそもこの世界に炭酸というものが有るのか?作るにしても俺は作り方知らな(くぅ~)………いし」
考え事をしていたら、お腹から可愛らしい音が鳴った。
太陽の位置からして丁度十二時ぐらい。朝早く朝食を食べ、昼は食べずにこの世界に来たのでお腹がすく時間だ。火は自力じゃ熾せないから魚を取っても食べれない。何か果物でも探すかするか。
一応『解析の紋章』も覚えたので取った果物が食べられるか確認することができる。
だが《精霊水》を解析した時に出た結果には、ここがマナの森という所でモンスターが凶暴だと書かれていた。
モンスターが出てきたら初期ステータスで武器無しの状態では手も足も出ない。
「一応攻撃系の紋章でも作れるか試してみるか……」
『解析の紋章』の時とは違い、指と指を絡ませて教会で祈るような感じに祈る。
天使のイメージ的に神社より教会の祈りの方が効果が出そうな気がしたからだ。
《……術者の祈りを確認。特殊魔法『紋章作成』発動検索。検索内容『攻撃系の紋章』………………完了。最も近い物で取得可能な紋章を提示。紋章名『剣士の紋章』『槍士の紋章』。取得条件『戦いの祈り』。取得を開始し………………………完了》
「よし!うまくいった」
『剣士の紋章』と『槍士の紋章』を作ることに成功し、早速効果を見てみた。
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《剣士の紋章》 使用MP ?
術者の片手に魔力で作った剣を出現させる。
使用MPは発動する際にどれぐらい使用するか決める事が出来、この時に使用したMPの量によって強度や強さが変わり、一定以上だと特殊能力などが付く。
剣から手を離すと消滅する。
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『槍士の紋章』の方は『剣士の紋章』の剣が槍に変わっただけだった。
だがこれでモンスターが出てきても反撃する事ができる。
そう思っていた矢先、森の奥で何かが爆発する音が響いた。