22,冒険者ギルド
毎度毎度、更新するのが遅くてごめんなさい
「すまん、遅くなった」
五分後、ギルド前で待っていた俺の元にシモンは人混みを掻き分けてやって来た。彼の後ろにはリリ達の姿は見えない。
「この人混みなら仕方ないよ。そういえば、リリ達は?」
「セイに頼んで帰らせた。二人を送り届けた後、セイも冒険者ギルトに来るように言ってある」
「そうなんだ。それで、私は何を手伝えばいい?約束したからね、私も力を貸すよ」
「ありがとう。だが、助けに行くには三人だけでは無理だ。旧友に協力を仰ぐ」
「旧友?」
「ああ。丁度、待ち合わせしたこの場所にいるからな」
シモンはそう言って冒険者ギルドの中に入っていく。彼の旧友は冒険者なのだろう。
俺達は酒飲み達の間を抜けながら受付の方へ向かう。
途中、何人かジョッキを持ちながらシモンに「一緒に飲まないか?」と誘ってきたが、もちろんシモンは全て断っていた。
受付には何人か順番を待っている人がいたが、シモンは彼らに対応していない一人の受付嬢に声をかけた。
「すまない、少しいいか?」
「………あ、はい、こ、こんにちは!ど、どのようなご要件でしょうか?」
振り向いた彼女はシモンの顔を見た後、慌てるように頬を赤く染め、少し早口で話した。今更だが、シモンは元男の俺が嫉妬するぐらいに美形だ。受付嬢が見とれてしまうのは、仕方のないことだろう。
対応してくれた受付嬢は見た感じは若く、俺と同い年くらいに見える。茶髪のボブヘアーが特徴だ。
「すまないが、ギルドマスターに至急取り次ぎ願いたい」
「え、えっと……。冒険者の方でしょうか?すみません。用がある場合は、あちらの列に並んでいただいてもらえませんか?」
それに対してシモンは、懐から一枚のカードを取り出して受付嬢の前に置く。受付嬢は置かれたカードを手に取り確認をする。そして、書かれていた内容を見てみるみる表情が変わっていった。
「すまない、緊急時なんだ。直ぐにギルドマスターと会わせてくれ」
「しょ、少々お待ちください」
受付嬢はカードを持ったまま奥へと消えていった。シモンが出したのは、おそらくギルドカードというやつだろう。受付嬢が驚くような事がギルドカードに書いてあったのだろうか。
「シモンは冒険者だったの?」
「昔は修行も兼ねて冒険者として活動をしていた。引退したのは、もう10年程前だったかな?」
「……シモンって歳いくつ?」
「今年で48だ。人族で言うならば、24ぐらいか」
長耳族は人族の2倍は寿命があるということか。
だとすれば、ミーシャやソウ君の方が年上という可能性があるわけだ。あの見た目の子をお姉さん、お兄さんと呼ぶのは違和感があるな。
そんな事を考えていたら、先の受付嬢が戻ってきた。
「ギルドマスターから許可が下りました。203号室でお待ちしています」
「わかった。ありがとう」
「い、いえ。それが仕事ですので……」
受付嬢は顔をゆでダコのように真っ赤にしながらシモンにカードを手渡した。
その光景に俺は深く溜息をついた。
階段を上がった一番奥の部屋が203号室だ。シモンに連れられ扉へ向かう。
コンコンっとシモンがノックをし、中から「どうぞ」と声が聞こえると、扉を開けて中へ入る。
「シモン、久しぶり。6日振りかな?」
部屋には一人の女性が待っていた。おそらく彼女がギルドマスターなのだろう。見た感じは20歳後半。今の俺の身長より頭一つ分ほど背が高く、足も長い。それに出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいるので、まるでモデルのような体型だ。
今着ている黒いスーツも体型が良いからか凄く似合っている。
クールそうな顔立ちが以外と格好良く、腰の辺りまである紫色の髪は窓から入る光が当たって輝いて見えた。
「レイ、来て早々だが頼みがある」
「収穫祭の日に来るなんて、今日はデートのお誘いなのかな?自分の家族の事ほったらかしにして、女を口説くなんて良いの?」
「悪いが冗談に付き合ってる暇はない。実は両親の居場所を見つけたらしいんだ」
その一言でレイと言われた女性の態度が変わる。先までのような冗談を言っていたような顔ではなく、とても真剣な表情だ。一度シモンの後ろにいる俺に視線を向けていたが、直ぐに視線をシモンに戻した。
「―――そこにいる子が見つけたという事かしら?一体どうやって?」
「彼女が扱える魔法に人を探すような物があるらしい」
「彼女?肩幅が広いから男かと思ったわ。そっか……魔法か。私の知らない魔法があったなんてね……」
そう言いながら、レイさんは撫で回すように俺を見ていた。それこそ爪先から頭の天辺まで。胸の辺りを見た時に哀れむような目をしたのは気のせいだろうか。
「初めまして。私はアステルの町のギルドマスター、レイナール・クランチェルよ。シモンとは昔一緒にパーティを組んでいた仲よ。よろしく」
自己紹介をされたので、失礼がないようフードを外して同じく自己紹介をする。フードを外すと、もちろん銀髪が彼女の目に留まる。髪の色を見て目を丸くしていた。
「私はシルフィーといいます。こちらこそよろしくお願いします、クランチェルさん」
「……シモン、こんなに可愛い子連れてきて新しい彼女の自慢?幼馴染とは、もう縁を切ったのかい?」
「違う。何でレイはいつもそっちに話を持って……」
「ねえ、シルフィーさん。私の事は家名の方じゃなくてレイと読んでもらって構わないよ。それで行き成り質問で悪いけど、髪に属性の色が無いのはどうしてかしら?シモンが言ってた人探しの魔法って?」
レイさんはキラキラと目を輝かせて、顔を見つめてくる。俺も内心引き気味だ。
「えっと……、レイさん。取り敢えずその話は後にして、シモン達の両親について話しましょう。時間もないことですし……」
「あ、そうだったね。魔法の詮索は後にするとして、早速彼らが何処にいるか教えてもらえる?」
「はい、分かりました」
俺はMPを30消費して『繋ぐ紋章』を発動させる。シモン達の両親とソウ君のいる場所は相変わらず変わっていない。『繋ぐ紋章』を使っていて気づいたが、この紋章は人の場所は分かっても、建物や地形がどういった物なのか分からない。
「レイさん、この町の地図はありますか?」
レイさんに地図を借りようと声をかけたが、俺の方をじーっと見て動かない。
「……レイさん?」
「あ、ああ。すまない。つい綺麗な光だったから見とれてしまったよ。地図ね。少し待ってて」
少し待つとレイさんは机の引き出しから地図を持ってきた。
「ここが今いる冒険者ギルド」
「ありがと」
冒険者ギルドは、この町の中央近くに描かれていた。もう少し北に進めば領主の館らしき広い土地が描かれている。
ギルドから南東25メートル。
「ここら辺にいるみたい」
指で示した場所は大通りからそんなに離れていない住宅地だった。人通りもそこまで悪くなさそうな場所だ。
「本当にこの辺にいるのかい?」
「場所はあってます。でも近くまで行かないと詳しい位置は分からない」
「……分かったわ。考えたくは無いけど、私の管轄内で悪事を働く者がいたということだね。でも残念ながら今は収穫祭で冒険者ギルドからは人が出せないんだ。皆酒を飲んで酔っている時に無理だろうしね」
「そんな……」
「だから私とシモン、シルフィーの三人で押しかけることにしましょう」
「さ、三人で、ですか!?」
この二人はそんなに強いのか。そういえば二人のステータスを見ていなかった。でも、今は1MPも惜しいから確認は後にするとしよう。
「そんなに驚く事でもない。昔は私とシモンを入れた五人パーティでⅠまでギルドランクをを上げたんだ。新種のモンスターやドラゴンを倒したのは中々楽しかった思い出だね」
「そ、そうなんだ……」
ドラゴンを倒せるという事は、おそらく凄いことなのだろう。ドラゴンは異世界に来たなら一度は会ってみたいものだ。
そんな時、階段を駆け上がる音が扉の外から聞こえてきた。そしてこの部屋の扉が強く開かれる。
「悪い、遅くなった」
入ってきたのはセイだった。先程辺りを『繋ぐ紋章』で確認した時は反応がなかった。始めて確認した時には合ったのに。
「セイ、ノックをするのはマナー」
「すまない、レイさん」
「これで四人だな。セイ、話した内容は行きながら話す。外に出たら魔法でここの近くまで俺達を送ってくれ」
シモンはセイに地図で場所を示す。セイは「わかった」と小さく頷いた。
ギルドの外へ出ると、セイは一本の短杖をバッグから取り出し、長耳語で呪文を唱え始めた。
詠唱が終わると俺達の身体が空中に浮きだした。まるで宇宙に行ったような無重力の感覚だ。だけどそんな余裕はすぐに終わる。最初はゆっくりだったが移動を始めたが、段々早くなっていく。まるで直進のジェットコースターに乗ったような感じだ。一度自分の翼で飛んだ感覚が無かったら確実に酔ってしまっただろう。ただでさえジェットコースターは元の世界でも苦手だったのに。
飛んでいて納得した。セイが『繋ぐ紋章』に反応しなかったのは、丁度終わった時に転移をして来たから。隠れ家からギルドまで、こんなに早く来れたのはこの魔法を使ったからだろう。空を飛ぶから人混みは関係無いというわけだ。
もうすぐ指定の場所に到着する。俺はソウ君達が無事でいるよう心の中で願っていた。
次回の更新は……頑張ります(つд⊂)