19,収穫祭
一部設定を変更します。
平民は一日銅貨三枚で過ごせる⇒平民は一日銅貨十枚で過ごせる
に変更します。
そうしないと物価がおかしくなってしまうからです
転移された場所は、薄暗い何処かの一室。壁にはランプの様な物が複数取り付けられており、その先に鉄のドアがある。
シモンはドアを開いて外に出る。俺達もシモンに続くように外に出ると、一番最初に目に入ったのは階段だった。どうやら俺達がいた部屋は地下室だったらしい。
階段を上りきると、狭い個室に出た。この部屋に五人もいるのは狭すぎる。最初に出たシモンは、壁に取り付けられたレバーを下ろす。すると何かのロックが外れた音と共に、目の前の壁が自動ドアのように横に動き始めた。
俺達がいた狭い部屋は隠し部屋だったようで、隠し部屋があった部屋はヴァラールの書斎によく似ていた。隠し部屋はドラマやアニメでよくある本棚の後ろにあったようで、全員が隠し部屋から出ると自動的に元の位置に戻った。
「ここは?」
「アステルにある隠れ家だ」
どうやらモノリスの転移魔法で、村から町まで一瞬で移動したみたいだ。遠くの場所に一瞬で移動できる転移魔法は結構便利だ。転移魔法があれば何処にだって行けてしまう。そんな風に思っていたが、転移魔法は多くの魔力を使う上に転移できる距離も限られている。転移する場所には、あらかじめ印を付けておかなくてはいけないらしい。しかも転移魔法は村のモノリスとの往復しか出来ないため、転移の限界距離の場所から違う場所へと連続で移動することは出来ないみたいだ。それでも異世界初日に村の上空を飛んだ時は遠くの方まで森が広がっていたから、転移魔法はそれなりに遠くまで移動できるみたいだ。
「この家は表通りからは少し離れているが、ここらの住民は殆どが天使教徒だ。俺達の正体がバレても危害を加える人はいない。それに、この家には何重にも防御結界が張られている。エルフォ族以外は容易に侵入することは出来ないから、何かあった時の避難場所にも役立つ」
この家は部屋が今いる書斎と物置部屋しかない。家に置いてある家具は怪しまれないように置いてあるだけらしく、ここで暮らしている人はいない。本当にただの転移するための拠点らしい。
この拠点には張った結界には防音の効果もあるらしく、外に出ると表通りから離れているにも関わらず人の騒ぐ賑やかな声が聞こえて来る。
ミーシャは背が小さいので、離れ離れにならないようリリと手を繋いでる。余談であるが、リリと手を繋いでいるミーシャを羨ましそうに見ているシモンがいた。
五分ほど歩くと大通りが見えてくる。人も段々増えてきて、大通りに出た時にはかなりの人がごった返していた。予想通り人族というのは、元いた世界でいう人間だ。肌の色が白い人もいれば黒い人もいる。ただ、髪の毛だけは黒色の人はいなかった。シモンからは、この世界では髪の色はその人の魔力の色だと聞かされた。つまり黒、闇属性の魔力持ちはいないという事だ。シモンに俺の髪は銀髪だけど属性は何だろうと尋ねると分からないと返された。シモン曰く、銀髪の人を見たのが初めてだったらしい。帰ったらヴァラールにでも聞いてみるとしよう。
「最初は何処に行きますか?」
「うーん、収穫祭も楽しみたいから早めにシルフィーの物を買いに行きましょう。まずは洋服店からね。新品と古着だったらどっちがいい?新品の方が古着より少し高いけど」
「じゃあお金もあるし、新品の方で」
服は古着でも良いとしても、下着ぐらいは新品のを使いたいものだ。新品の服を売っている店は町の中央広場近くにあるらしく、今いる位置からは少し遠いのでリリ達と話しながら歩いて向かう。
ここアステルの建物はレンガなどで出来た洋風のような町並み。アステルは商人の町とも言われ、売っているものは色々な町や村から仕入れた珍しい物や美味しい物など様々。
今回の収穫祭は周辺の村々から取れた野菜や果物などを商人が買取り、アステルの町で売って儲けを出す。収穫祭が始まる何日か前から多くの人が町にやって来てくるので、商人にとっては年に一度の金の日というわけだ。アステルの町は色々な物が行き来する町なので、ここに拠点を置こうと考える人も多くいるだとか。
商人の中には奴隷を扱う奴隷商人という者がいるが、アステルは天使教の町なので奴隷の売買は出来ない。天使教には奴隷禁止の教えがあるので、奴隷を持っている人は天使教徒である町の人からはいい目で見られない。アステルに来る商人も大体が天使教徒なので、商人によっては物を売って貰えず、逆に水をぶっかけられる事もあるらしい。
小説では奴隷を買ってハーレムを作るという話が多いが、あれは物語の中だからいい事で、実際に人の命がお金で買えると聞かされると、あまりいい気分はしない。少なくとも、俺はこの世界で進んで奴隷を買うような事はしないだろう。
ここの領主はユラル・アステルという名で、彼の父がヴィルヘルム王国で侯爵という爵位と領地を貰った大物貴族だ。アステルの町は彼の父が作り上げたもので、その父の跡を継いで今も領地経営をしている。
アステルの町があるヴィルヘルム王国は千年以上の長い歴史を持つ大国で、天使教が始まった最初の国と言われている。アステルの町と同様にヴィルヘルム王国の国民は九割以上が天使教徒である。この国が天使教を取り入れたのは、千年前のヴィルヘルムの国王が天使族の輝きと美しさに魅入られてしまったからだと言われている。実際、魔法戦争時にヴィルヘルム王国にも悪魔族と魔族による襲撃があったので、その時国王が目にした天使族に一目惚れをしてしまったのだろう。その後魔法戦争が終結し、ヴィルヘルム国王は世界を救ってくれた天使族に感謝して神として崇めるようになった、と。聞いてて、そんなんでいいのか宗教……っと思ってしまった。
歩いていると少し小腹が空いてしまったので、近くにあった屋台でアップルパイやカボチャオムレットを買って皆で食べた。一つ銅貨20枚はしたが、満足するほど美味しかった。特にカボチャオムレットは良かった。今まで食べたカボチャの甘さではなく、普通のカボチャとは全く違った物だった。元の世界のカボチャとは、また違ったカボチャを使ってるのだと思った。
食べたり話をしたりしながら歩くと、あっという間に目的の服屋に到着した。服屋の看板には文字らしきものが書かれているが読むことが出来ない。文字と言って思い出したが、俺は長耳語しか理解できない。先ほどの会話が誰かに聞かれていたらまずいのではないかとリリに今更だが小声で聞くと、既にセイが声漏れ封じの魔法を使っているらしい。これは人語を話せない俺とミーシャのためにやっていてくれているみたいだ。後でお礼でも言っとこう。
店の中には俺とリリとミーシャの三人だけが入った。シモンとセイが入らなかった理由は、ここが女性専門の洋服店だからだ。
店内には色々な服が品揃えられていて、可愛い服や綺麗な服など様々。服の他にも帽子やスカーフなども置いてあり、置いてある服などのセンスもいい。
女の人は買い物が長いと聞くが俺は元男だし、シモンたちを長時間待たせるわけにはいかないので、見てないで早く決めるとしよう。
新品の服屋で買い物をした後、古着屋の店と調理器具なども置いてある道具屋という店にも寄った。二つの服屋に入った合計は時間は約一時間半、その間シモン達を長時間待たせる事になってしまった。
下着を買うために自分のスリーサイズを測ったり、リリ達と服を試着し合ったりと……まあ長々と店の中にいました。
ただ、人族の衣服に関する技術力は元の世界と殆ど同じだから驚いた。自分のサイズにあった物が手に入ったのは……まあ、うん、よかった。よかったはず……。
新品の店では下着類を十着とネグリジェを予備も合わせて三つ、あとこれから寒くなるだろうと白いマフラーと黒いコートを一着ずつ、旅先では必要になるだろうと紐と裁縫道具も購入した。次の古着屋の店では替えの服を六着と布を十五枚を購入し、二つの店の合計金額は銀貨3枚と銅貨95枚。下着は安かったがコートが高く、一着で銀貨2枚もかかった。
町中でそれとなく人族には触れておいたので、試着室で『擬態の紋章』を使用し、人族の姿へと変わる。MPは木剣の自動回復と買い食いしたパイとオムレットで何とか足りたので問題は無し。それでもMPは結構消費してしまったので、また食べる必要がある。
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名前:シルフィー
種族:人族 (擬態)
性別:女
年齢:16
職業:紋章術師 Lv78
HP:28170/28170
MP:2577/48440
攻撃力:5634
魔法力:5634
防御力:3756
魔法防御力:3756
敏捷性:3130
運:25
魔法
『紋章作成』『×精霊魔法(使用不可)』
紋章
『盾の紋章』『解析の紋章』『剣士の紋章』『槍士の紋章』『擬態の紋章』『導誘の紋章』『箱庭世界の紋章』『解体の紋章』『領域の紋章』
スキル
『×飛行』『魔力操作』『×耐熱』『×耐寒』『恐怖無効』『×飛行加速』『直感』『×長耳語』『×精霊語』『×隠密』『×森の加護(制限)』『瞬間的反応』『人語』『経験値上昇』
装備
武器:生命樹の木剣
防具:
装飾:銀十字 人化石 魔法鞄
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人族になった事で新しいスキル『人語』と『経験値上昇』が追加された。試着室を出てリリに声をかけると、驚いたように『人語』が話せるのかと言われてしまった。『擬態の紋章』の事を話すと納得したように『人語』で話してくれた。リリ達は『人語』を話せるようだがミーシャは話せないらしく、話す際はリリに翻訳を頼んで話すこととなった。
その後、道具屋に行って鍋とオタマ、包丁やナイフなどの料理道具を二つずつ購入し、食器やお碗などを三つずつ購入した。そこでの合計金額が銅貨78枚。
残りの所持金は金貨3枚、銀貨25枚、銅貨257枚だ。
「かなりお金を使ったな……」
「まあ旅をするとなれば、そのくらいはかかる。この他にも食料品を買わなくてはならないのだが、それは収穫祭の行われている中央広場で買えるだろう」
ある程度買い物が終わった俺達は、収穫祭が行われている中央広場へ向かう。中央広場では広場の中央にある大きな噴水の周辺でバザーが開かれていた。売られているものは野菜や果物が多い。見たことがあるのだと、ジャガイモやサツマイモ、小麦、松茸、舞茸、柿やリンゴまで様々だ。バザーで売っている物の中には加工した鉱石を埋め込んだペンダントや指輪などのアクセサリーも売られていた。
そこで俺はこの時期によく見慣れたある物を発見した。
「……ハロウィンカボチャ?」
そう、ハロウィンには欠かせない目と口の部分がくり抜かれた大きいカボチャが売られていたのだ。しかもピラミットを連想させるかのように四つが積み重なっている。よく見れば四つとも全て中身まではくり抜かれてはいないため、これは観賞用ではなく食用なのだと思った。
「お客さん、これが気になるのかい?これはパンプマンの頭だよ」
俺がハロウィンカボチャを凝視していたからか、カボチャを売っているおじさんから声をかけられた。
「パンプマン?」
「ああ、そうだよ。夏が終わった頃からか、墓場の近くに現れるんだ。そいつは幽霊モンスターでな、体が透明で普通の攻撃は効かないんだ。その代わり光には物凄く弱いから、初級だが光属性の魔法を覚えてる俺の息子が頑張って倒してくれたんだ。どうだお客さん買わないか?一つ銀貨1枚だよ」
「高いです。他にも買わなくちゃいけないのに買えませんよ」
「フード被ってるから分からないが、声から察するに女の人か?俺の父ちゃんから女の人には優しくしろって言われているから少し安くして銅貨285枚。もし顔を見せてくれたら280枚でいいよ」
少し悩む。サイズから察するに先程食べたカボチャオムレットを50個程は作れそうだ。銅貨20枚もまけてくれるなら、そこそこ良い買い物なのかもしれない。
「値段高いけど、これって美味しいの?」
「当たり前だ。これを使ったお菓子なんかは、そこら辺の屋台で売ってる。まだ始めたばかりなのに、既に3個は売れたよ」
先程食べたカボチャオムレットは、このカボチャを使っているのかもしれない。今思い出すだけでも、あの味は最高だった。それにしても、おじさんの息子はパンプマンを七体も倒したのか、頑張るな。
「分かりました。じゃあその値段で」
俺はおじさんだけに顔が見えるようフードをずらす。俺の顔を見たおじさんは、目が飛び出るくらい驚いていた。もういいだろうと思い、再びフードを深くかぶる。その時おじさんが残念そうにしていたのは言うまでもない。
「驚いた……。お嬢さん美人だね。良いものを見せてくれたお礼に、パンプマンの値段をまけて一つ銅貨240枚、どうだ?」
「うーん、もう一越え」
「220枚。これ以上は奥さんと息子に怒られる」
「……220か、だったら二つ貰っていい?」
「わかった、二つだな。銀貨1枚と銅貨120枚だが、パンプマン二つも持てるのか?」
「大丈夫だよ」
俺は魔法鞄から銀貨1枚と銅貨120枚を取り出して、おじさんに渡す。そして俺はパンプマンを持ち上げ、魔法鞄に押し込める。魔法鞄に入った瞬間重さが無くなり、魔法鞄にもパンプマンが入っているような膨らみはない。既にこの魔法鞄にはヴァラールから貰った魔導具と先程買った物が入っている。魔法鞄をくれたヴァラールには感謝しなくてはいけない。
「……お嬢さん面白いもの持っているね。なんだい、その鞄は?」
「残念ながら、これに関しては秘密だよ」
「そうか、今回の収穫祭は驚く事ばかりだな……」
パンプマンを買った俺はおじさんの元から離れる。
買い物に夢中になっていたからか、シモン達が見当たらなくなっていた事に今気づいた。この人混みの中、はぐれてしまったようだ。
「どうしよう……」
選択肢は四つ。
一つ、一度拠点に戻る。
二つ、シモン達に見つけてもらうために、ここから動かない。
三つ、シモン達を探しに行く。
四つ、シモン達を探すという名目で、収穫祭を楽しむ。
俺は四つ目を選ぶことにした。
「歩いてれば、そのうち会うだろ」
俺は美味しいものや面白いものを求めて、その場から歩き出した。
すると、何処から男の叫び声が聞こえてきた。
次回の更新は28日にしたいのですが、明日書き終わらなかったら30日か31日になります(;・∀・)




