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銀翼の紋章術師(エンブレムマスター)  作者: 森羅 紫
第一章 紋章術師
16/27

15,風の試練


「ここ……、どこ?」


 異世界に来た時も同じようなセリフを言ったような気がするが、そんな事を思い出すことよりも今の状況を理解する方が優先だ。

 転移された場所は大樹の太さと比べるとかなり狭い所、俺が通っていた学校の教室ぐらいの広さだ。

 辺りを見渡しても一緒に転移したはずのリリやシモン達が居らず、代わりに木で出来た人形が、この部屋の唯一の出入り口である扉の横に座り込んでいるだけだった。


「リリ達は何処に?……誰もいないのか?」


 おそらく転移が失敗したのだと思うが、こんな変な所に一人で来てしまったのは考えたくない。取り敢えず外に出て他に誰かいないか探そうと扉に向けて歩みだす。座り込んでいる木人形が少し気がかりだったが、無視して扉の取手に手をかける。その瞬間、座り込んでいたはずの木人形が行き成り立ち上がり、手にした木剣で俺を斬ろうと振りかざしている瞬間だった。


「っんな!?」


 行き成りの事だったため直様反応する事は出来ず、俺は少し遅れて後方へ飛ぶ。木剣は俺がいた位置を掠めるように通り過ぎていった。


「あ、危ねえ!」


 行き成りの危険と驚きで俺の心臓はバクバクだ。木人形には目や口などが無いのっぺらぼうな顔なのに俺のことが見えているようだ。その真っ平らな顔を俺の方に向けて、次の攻撃のために木剣を両手で構えている。

 敵の情報を知るべく『解析の紋章アナライズ・エンブレム』を発動させる。



____________________

名称:自動人形オートマタ(仮)

HP:1/1

MP:10000/10000


攻撃力:4998

魔法力:1

防御力:1

魔法防御力:1

敏捷性:4998


装備

『生命樹の木剣』


アーツ

『一閃』『返し斬り』『盾破壊シールドブレイク


____________________

《生命樹の木剣》


能力上昇:無し

特殊能力:HP自動回復(小) MP自動回復(小)

耐久力:10000


 生命樹の枝から作られた木剣。装備した時、能力が上昇しない代わりにHPとMPが少しづつ自動的に回復する。

 剣の耐久力はMPを注ぐ事で回復出来る。


____________________





 ……どこにツッコミを入れたらいいんだろう。 

 まず、ステータスがおかしい。防御系やHPが1しかないという事は一撃でも入れたら勝つことができる。だがその分MPや攻撃力、敏捷性に能力が割り振られており、敏捷性に関しては俺のステータスを超えている。しかも『(マノ)族』にしか使うことが出来ない『アーツ』を習得している。そして極めつけは『自動人形オートマタ(仮)』が装備している『生命樹の木剣』だ。HP回復は『自動人形オートマタ(仮)』には何の意味もない効果だが、MP回復と耐久力が高いのが問題だ。『剣士の紋章ソード・エンブレム』で作られる剣でも容易なことでは壊すことができなさそうだ。それにしても、木人形の名称の『自動人形オートマタ(仮)』の(仮)ってなんだよ。誰が作ったんだが知らないけど、名前ぐらいちゃんと付けてやれよと心の中で思った。


「さて、どうやって切り抜けたものか……」


 このまま扉に走って逃げてもいいが、俺よりも敏捷性が高い敵に対して背を向けるのは危険だ。いくら『直感』があったとしても、全部避けることは出来ないだろう。

 ここで何か新しい紋章を作って対応しようにも、祈っている間に攻撃を受けてしまう。選択肢は戦うしかない。


「異世界初の対人戦が、こんな変な人形なんて……」


 表情が見えない不気味人形に対して文句を言いつつ『剣士の紋章ソード・エンブレム』を発動させる。リリを助ける時は焦って切れ味にMP全て消費したが、今回は冷静にMPを分配する。頭の中で取り敢えず五千のMPを剣の強度、切れ味に二千ずつ、重さに千割り振る。重さにもMPを割り振ったのは、リリを助けた時に作った『剣士の紋章ソード・エンブレム』では攻撃する際に武器が軽すぎて深い一撃を与えられなかった。その事を思い出し、重さを攻撃力に加えられるようにしたのだ。作られた剣は片手で持つには重すぎず軽すぎない。丁度いい感じだ。

 剣を構え、相手を見据える。

 先に仕掛けてきたのは『自動人形オートマタ(仮)』……は長いので短く木人形と言おう。先に仕掛けてきたのは木人形の方だった。

 木人形は一瞬で俺との距離を詰め、鋭い剣戟を放ってきた。その一撃を『剣士の紋章ソード・エンブレム』で作成した光の剣で受け止める。光の剣が木剣を斬ることが出来れば良かったのだが、光の剣が木剣に食い込むことはなかった。切れ味を二千にしてもまだ足りないようだ。

 気を抜いている暇はなく、次の攻撃がやって来る。木人形の剣技は俺を圧倒しているが、俺はその剣戟を力任せと咄嗟の反応で何とか防いでいる状態だ。

 次に木人形が剣を振る際、木剣が白く光った。おそらく、これがヴァラールの言っていた『アーツ』なのだろう。先よりも剣を振るう速度が速いが、見失う程でもない。先と同じように光の剣で防ごうとしたが、剣と剣が重なる事はなかった。

 木人形の剣は俺の剣にぶつかる寸前、不自然なぐらいに剣の向きが変わり、剣は下から上へと一直線に俺の身体を断ち切った。


「っつ……」


 血は出てないが、少し痛みがある。服もお腹から肩の方にかけて破かれ、隙間から素肌が晒し出されてしまった。


「これ借り物なのに!」


 仕返しとばかりに剣を振るうが、簡単に受け流されてしまう。

 受け流された瞬間に木人形の持つ木剣が青く光る。直感的に剣での防御は無理、回避は間に合わないと思い、その攻撃に対して『盾の紋章シールド・エンブレム』を発動させて防御する。

 青く光る木剣が俺の動体視力を超える速度で『盾の紋章シールド・エンブレム』にぶつかった。俺は攻撃の反動で後ろに突き飛ばされそうになるが踏ん張って耐える。『盾の紋章シールド・エンブレム』は勝手に防御してくれる盾だとばかり思っていたので、反動が来たときは少し焦った。

 だが、そんな俺に休む暇は無かった。

 今度は木剣を赤く光らせ『盾の紋章シールド・エンブレム』に叩きつけた。

 叩きつけられた『盾の紋章シールド・エンブレム』にはヒビが入り、そしてガラスが砕け散るように割れてしまった。

 今更思い出すが、木人形が取得している『アーツ』には『盾破壊シールドブレイク』というのがあった。この相手に『盾の紋章シールド・エンブレム』を使うのは危険だった。

 反動で体勢を崩し、床に尻餅をついてしまう。同時に剣を握っていた手が緩み、持っていた光の剣が手から離れて消失してしまった。


「やばっ」


 そんな状態でも木人形の攻撃は止まらない。俺の頭目掛けて剣が振り下ろされた。今から回避も間に合わず、『剣士の紋章ソード・エンブレム』や『盾の紋章シールド・エンブレム』を使っても防御が間に合わない。やばい、めっちゃヤバイ。誰がどう見てもピンチでしかない状況だ。

 木剣が俺の頭に当たる刹那の時間、剣の速度がスローモーションに見えるぐらい脳が思考が常人の何倍にも加速される。

 どうすれば防げるか。どうすればピンチを回避できるか。頭はそればかりを考える。

 そして導き出された結果、剣は頭にぶつかる寸前に停止した。

 木人形が寸止めをしたわけではない。


「これが木剣じゃなかったらアウトだったな……」


 両手で剣を直接受け止める技、時代劇やアニメで使われた真剣白刃取りだった。

 木人形は剣を引き抜こうとするが、しっかり挟み込んでいるため抜き取ることは出来ない。


「《解体の紋章ディスメント・エンブレム》」


 俺は覚えたての新しい紋章を使用し、木剣は鍔や刃の部分などに分かれて床に落ちてしまった。木人形は残った柄を握り締め、何が起こったかよくわからない様子だ。『解体の紋章ディスメント・エンブレム』は俺が物に触れる事で効果を発揮する。ピンチがチャンスに変わった瞬間だった。

 俺は相手が武器が無くなって戸惑っている間に立ち上がり、仕返しとばかりに拳を振るった。 

 木人形はそれを避けようとはせず、後ろの壁に叩きつけられた。HPが0となり、木人形が動くことは無かった。


「お、おわった~」


 集中が解けたようで、ほっと息をつく。HP1のくせして強敵だった。

 これでやっと外に出られる……はずだ。

 このまま出ようかと思ったが、その前に戦利品としてバラバラになった『生命樹の木剣』を拾い集めて組み立てる。最後に木剣に対してMPを千ほど注ぐ事で耐久力が千となった『生命樹の木剣』が完成した。鞘は木人形が所持していたので木剣をその鞘にしまい、そしてそれを肩にかける。

 耐久力がMPで回復できて、尚且つ所持しているだけでHPとMPが少しずつ回復することが出来る優れものだ。こんな人形が持ってるなんて勿体無い代物だ。

 その後、俺はこの部屋の出口である扉に手をかける。


「よし、行くか」


 リリ達と合流するために俺は扉を押した。

 扉を開くと、そこから静かに心地よい風が吹き出し……






 

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