12,早起きは三文の徳?
早朝の暖かな日差しがカーテンの隙間から漏さし、俺の眠りを妨げる。いつもの喧しい目覚まし時計の音は聞こえず、花の甘い香りが俺を再び眠りへと誘う。
だが俺は二度寝すると大体お昼頃まで寝てしまうと経験で分かっている。過去に三回ほど二度寝をして、昼から学校に行くという失態を犯したことがある。その経験から出来るだけ早起きを心がけているのだ。
眠い中渋々目を開ける。だが俺のいる場所はパソコンやラノベ、漫画が置いてある自分の部屋ではなかった。そのことに慌て、驚いてしまった。
目を擦り、意識が少しずつ覚醒していく。そういえば、昨日俺は変なゲームをプレイして異世界に飛ばされてしまったことを思い出した。そして自分の肉体が女の子になったことも……。
「ふぅぅ~」
ベッドから上半身を起こし、軽く腕の筋肉を伸ばして息を吐く。寝ていて固まっていた筋肉がほぐされ、頭もスッキリして気分がいい。
取り敢えずベッドからは起きようと思い、下半身を動かそうとした。だが下半身は何か重りが付いていて動かそうにも動けなかった。
何かと思い、俺はかかった布団を退かして、その重りを確認をする。
そこにいたのはリリと同じ黄緑色の髪を持つ少女、ミーシャであった。
彼女は確かリリと一緒に寝ていたはずだ。予想だが、おそらく夜中に一人でトイレに出た後、自分の部屋とリリの部屋を間違ってリリの部屋に入って来て、寝ていた俺を姉のリリと勘違いしたままベッドに潜り込んだって所だろう。
「それにしても、この子の寝顔を見ていると昔の妹を思い出すな~」
昨日はよく見ていなかったので分かっていなかったが、見た目は十歳程の無垢な少女だ。未だに小さく寝息をたてて俺の足にしがみつくミーシャは大変可愛らしかった。
そんな彼女の頬を何となく指で軽く突っついたら、「ふにゃ~」と小さく声を漏らして柔らかな表情を作り出した。それには、少々ドキッとした。ちなみに俺はロリコンではない。
友達が少ない俺は昔から同年代ではなく、子供なんかに好かれやすい体質だった。
中学時代に職業体験という特別授業があり、複数の職業の中から一つを選んで一週間その仕事場に通う授業だった。その時俺は家から近く、簡単そうに思った小学校を選んだのだが、楽だと思っていた仕事は結構大変だった。
内容は中学生に任せられる範囲の仕事だけだったが、休み時間や放課後などに子供達が大勢やってきて大変だった。
俺と同じ小学校を選んだメンバーにも何人か子供達が来ていたが、比べてみれは圧倒的に俺の方が多く集まってきていた。当時まだ入院していない妹にネタとしてそれを話したら「子供に手を出したら死刑だよ。あ、でも男の子になら……」と意味深なことを言っていた。
そして、もう一度言っとくが俺は断じてロリコンではない。大事なことなので二度言いました。
まあ、そんな感じで俺は何故か子供に好かれやすい。妹を思いだしたからか、無性に寝ているミーシャの頭を軽く撫でたくなった。というか、もう勝手に撫でてしまっていた。
ふさふさと柔らかい髪を撫でている俺の目には、とても数日病気で苦しんでいた少女には見えなかった。
「う~むぁ……」
流石に頭を撫でていたら起きてしまったようで、眠たそうに目を擦りながら顔を上げてしまっ
た。ミーシャの半分閉じた柔らかな瞳が目の前にいる俺を数秒見つめた後、小さく首を傾げた。漫画だったら彼女の頭の上に「?」が付いていただろう。
「…………おねえちゃんだぁ~れ?」
とても眠たそうに、だけど聞かずに入られない子供のように尋ねられた。
「わたしはシルフィー。貴女のお姉さん、リリアーヌの友達だよ。昨日、野宿するはずだったわたしを泊めてくれたんだよ」
そう説明すると分かったのか眠りかけているのか、こくこくと頭をうなずいた。
「う~ん。ルフィーおねえちゃんおやすみ~」
ミーシャは抱きつく位置を足から腹の辺りに変え、再び寝ようとする。というか今の俺の名前から“シ”を抜いては駄目だ。それでは有名な海賊漫画の主人公になってしまうではないか。
「ルフィーじゃなくて、シルフィーだよ……」
そう言っている間にミーシャから小さく寝息が聞こえてくる。腰の位置に腕をまわされてしまったため、身動きができなくなってしまっていた。
彼女との会話で眠気は覚めてしまい、もう二度寝する気分ではない。少しばかり暇な時間が出来たが、この体勢では何も出来なかった。
「どうしたものか……」
そういえば、昨日夕食の時に作られた紋章の内容をまだ確認してなかった。
すぐさま《ステータス》を開いて確認する。
表示された《ステータス》には、昨日一割になるまで消費していたMPが、四割ぐらいまでしか回復していなかった。
そして紋章には《導誘の紋章》が追加されていた。
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《導誘の紋章》 使用MP?
術者が他者に道を示す《挑戦》を与える。《挑戦》を与える際に成功報酬として術者が所持する何かを差し出さなければならない。消費MPは与える《挑戦》の難易度によって決まり、同じ人物に《導誘の紋章》 は三回までしか使用できない。
《挑戦》がクリアされる度に術者の《ステータス》が上昇する。これはクリアされる《挑戦》の難易度によって決定される。
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「使い所が微妙な紋章だな……。成功報酬なんかは差し出せる物も無いし……」
今の段階では必要のない紋章だったが、後々必要になるだろうと願い、新たに作る紋章を考える。
「旅をするんだから野宿はしなくてはならないだろうな。一度だけならしてみてもいいが、トイレが無いとか風呂に入れないのは困るよな……」
昨日の事を思い出すと……ああ、うん、不便だよな。旅をする以上、野宿も覚悟しなくてはならないし……。
手を合わせ、取り敢えず入浴とトイレが使える紋章が作れるように願い、『紋章作成』が発動した。
《……術者の祈りを確認。特殊魔法『紋章作成』発動検索。検索内容『入浴』『トイレ』………………完了。最も近い紋章を提示。紋章名『箱庭世界の紋章』。取得条件『種族:天使族』。術者は条件を満たしており取得可能。取得を開始し……………………完了》
無事『箱庭世界の紋章』を作成し、その効果を早速確認してみた。
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《箱庭世界の紋章》 使用MP0
箱庭世界に出入りすることが出来る紋章。この紋章には術者以外の者を対象に使用できないが、身体の一部が術者に接触していれば他者でも使用することができる。
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説明が少ない分、反応に困る。はっきり言って、かなり気になる紋章だ。こんな状況でなかったらすぐさま確認したいものだ。
「うん、また後で確認しよう……」
次作るとしたら、解体とかだろうか。
流石に狩りをしたら、それを解体するのは当たり前なのだが、現高校生の俺にはそんな知識は無い。それ以前にグロ耐性がないのでしたくない。
《……術者の祈りを確認。特殊魔法『紋章作成』発動検索。検索内容『解体』………………完了。最も近い紋章を提示。紋章名『解体の紋章』。取得条件『モンスターを狩猟』。術者は条件を満たしており取得可能。取得を開始し……………………完了》
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《解体の紋章》 使用MP?
触れている物に対してのみ解体を行うことができる。ただし生きている生物には使用できない。
消費するMPは解体する物体のサイズまたは耐久力によって変化する。
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これは使い方によっては便利だ。モンスターによっては武器を使ってくる奴がいる可能性があり、今後対人戦をすることもある。その時に上手く行けば武器破壊が狙えて無力化できる。
「あとは……マップとかかな?」
《……術者の祈りを確認。特殊魔法『紋章作成』発動検索。検索内容『地図』………………………完了。最も近い紋章はありませんでした。自動再検索。検索内容『何かの過程で地図を使用できる』……………完了。最も近い紋章を提示。紋章名『領域の紋章』。取得条件『術者が修得している紋章が五つ以上』。条件を満たしているので取得を開始し………………………完了》
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《領域の紋章》 使用MP?
術者を中心に自身の領域を展開する。
領域内では全ての生物・物体を探知することができ、紋章の複数同時使用・紋章の制限解除・紋章の消費MPが0になる。
領域の範囲は《紋章術師》のレベル分のメートル距離まで展開できる。
使用MPは術者の最大MPの六割が消費され、《領域の紋章》の使用後は十分間全ての紋章が使用できず、使用されている紋章は全て強制解除される。
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「うわぁ…………………」
求めていた紋章より凄い紋章のテキストが表示されていたため、俺自身も何て言ったらいいか分からない。そのぐらいヤバい紋章を入手してしまったようだ。デメリットやコストが大きいため連続使用できないが、奥の手としては優秀だろう。そんなことを考えていたせいか、少しばかりだが眠気がやってきてしまった。
「あ、あれ?なんか眠くなってきた……『紋章作成』使いすぎたからかな?」
最初は少し眠いだけだったが起きてるのが段々辛くなってきた。上半身を起こしているのも辛くなり、再びベッドに身体を倒す。すると腰にしがみ付いていたミーシャが胸の辺りにまで上がってきた。しかも位置的に彼女を抱き枕にするには調度良い所だ。
「やばい、もう、むり………」
眠気が我慢できなくなり、ミーシャを引き寄せて抱き枕代わりにする。暖かく、大きさも丁度良い。
そして意識は再び夢の中に落ちていった。
最後に、俺はロリコンじゃ…………




