11,二人の想い
書斎を後にした俺はリビングに戻ってきたが、カタリナさんと一緒に食器を洗っていたはずのリリの姿が見えなかった。
「リリどこいったんだろう?」
「あいつなら先に帰ったぞ」
そう言ったのは椅子に腰掛けたシモンだった。
「爺様との話は終わったのか?」
「一応。明日、研究所と『精霊様』の所に案内してもらうことになった」
それを聞いたシモンは、驚いたように目を見開いた。
「ほ~、珍しいことも有るもんだ。爺様はたまに助言をくれたりはするが、手助けはしない人だからな」
「そうなんだ」
「ああ、しかもあそこにか……。先も爺様がシルフィーさんに頭を下げていたし、本当あんた何者なんだ?」
疑問に思ったが、シモンは俺が『天使族』であることを知らないのだろうか?
「シモンはヴァラール……、自分のお爺さんから歴史の話とかは聞かなかったの?」
「残念ながら俺は小難しい話は苦手でな。特に爺様の話は途中で眠くなって、ほとんど聞いてないんだ。俺が生まれるよりも前に何か大きな戦いがあったということは覚えてるんだがな……」
「そ、そうなんだ……」
「シルフィーはリリの家に泊まるんだろ。外は暗いし、道分からないだろうから送ってやるよ」
別に夜道ぐらいなら大丈夫だが、道は流石にうろ覚えだったのでお言葉に甘えることにした。
「ああ、うん。ありがとう」
外に出て夜道を少し歩いた頃、シモンから先に会話がふられた。
「先はすまなかったな。少し気が動転していたんだ。剣まで抜いて……。モノリスの結界内にあるこの村に悪意ある者は入れないのを知っていたのに……」
そう言って落ち込んだときのシモンの顔は、なんだか子供が親に怒られた時のような顔のように感じた。その件はもう謝ってもらったし、俺としてはもう済んだことだからもういいと思っていたのだが、その話をもう一度するのなら嫌がらせに甘い話をするとしよう。
「そのことについてはもう気にしてないからいいよ。そういえば疑問に思ったことがあるんだけど、シモンってリリの恋人なの?それとも片想い?」
その一言にシモンがギクリと肩を振るわせた所を俺は見逃さなかった。辺りが暗くてよく見れなかったが、頬が照れてるのか赤らめ、少し目を反らしていたのは分かった。
「いや、その、……ああ、まいったな。何で片想いってのが分かったんだ?」
「う~ん……。私と最初に会ったときに向けられた強い敵意と、リリに向ける視線が微妙に引っかかったからかな?食事の時も何度かリリの方を見てたし……」
特にシチューを食べて嬉しそうな顔をしている時のリリを何度かチラチラと見ていた。ばれないようにしていたつもりだろうが、結構目立っていた。
「リリとは幼なじみなの?」
「ああ、産まれた時からな。俺とあいつは偶然にも産まれた日が一緒でな、兄妹みたいにずっと一緒だったんだ。俺も最初は可愛い妹のつもりで接してたつもりだったんだが、最近妙に意識してしまってな……」
「告白とかしないの?」
「いざという時に勇気が出なくてな……。この村は定期的に『小人族』と貿易をしているんだが、つい最近あいつらの両親と俺の両親が『小人族』との貿易のために村の外に出たとき『人族』にさらわれたんだ。そのことで色々と考えていたら、あいつの妹……ミーシャっていうんだが、ミーシャが病になってしまってな、結局まだ言えてないんだ」
「そうだったんだ……。だったら、リリがマナの森に向かったときも結構慌てたんじゃない?」
「かなりな……。村の男達でマナの森に向かおうとしたら爺様に殴って気絶させられた。その後爺様から『村の者達を危険にさらすためにお前を長にしたんじゃねーぞ』って言われてな。その後リリが帰ってきたって知らされて、慌ててあいつの家に向かったら血の臭いがしてな。だから思わず剣を抜いちまったんだ。本当悪かったな」
からかうつもりで始めたこのトークが、だんだん黒い話になってきた。
「明日、色々見て回ったらその後、この世界を旅してまわるつもりなんだ。もし、旅先で二人の両親を見かけたら、この村まで連れてくるよ」
「……ありがとう」
「お礼は連れてこられたらね。それにリリ達はシモンと違って姉妹二人っきりで不安なんだから、男ならちゃんと守ってあげなきゃ駄目だよ」
「ああ、そうだな」
「告白、頑張ってね」
「…………ああ」
少し不安だが、彼ならリリを幸せに出来るだろう。気付いたら、もうリリの家についていた。
「送ってくれてありがとう。また明日」
「ああ、また明日」
それだけ言ってシモンは自分の家に帰って行った。俺もリリの家の扉をノックする。ノックをした後、すぐに扉が開かれてリリが顔を出した。
「おかえりシルフィー。先帰っちゃってごめんね」
「別にいいよ。シモンに送って貰ったし」
「……シモンと一緒だったんだ」
リリから少し敵意を感じた瞬間だった。もしかしたら彼女も……。
「あの~取り敢えず、あがっていいかな?」
「え?……ああ!ごめん、入って入って」
家にあがった俺はリビングにではなく、彼女の部屋に通された。
リリの部屋は妹ミーシャの部屋の向かい側にあり、部屋の内装や家具はミーシャとあまり変わらないが、ベッドの上に可愛い鳥のようなぬいぐるみがあった。
「シルフィーに少し話があるんだけど、いいかな?」
内容はおおよそ見当がつく。話にのるくらいならと別に良いと思い、二人でベッドに腰掛ける。
「シルフィーはシモンのこと、その……どう、思う?」
やはり、予想通りシモンのことだ。
「どうって?」
「その……か、かっこいいとか思う?」
「そうだな~、確かに顔は結構イケメンだし、誰かのために何かしようと動ける人だから良い人だと思うよ」
「そ、そうなんだ。そ、その、シルフィーはシモンのこと、す、す、すき、なの……?」
「友達だからね。好きだと思うよ」
「と、ともだち!そ、そうなんだ。友達なのか……ふふっ」
「リリはシモンのこと好きなんでしょ」
「ふぇっ!!いや、その、す、すきなんかじゃないよ!!」
「顔を赤くして言っても説得力が無いよ」
「はう~」
「どうして好きになったの?」
「シモンとは同じ日に産まれて、その時からずっと一緒に過ごしてきたの。いつも私と一緒に遊んでくれたり本を読んでくれたりしてくれて、私のお兄ちゃんみたいな人なの。でも、妹……ミーシャって名前なんだけど、ミーシャが産まれて私がお姉ちゃんになったことで、なんか、その……シモンのことを意識し始めちゃって……」
そこまで言って顔を更に真っ赤にして顔を手で隠してしまった。だけど俺はそこに追い打ちをかける。
「告白とかしようと思わないの?」
「私も告白しようと思ってた。でも、この前私の両親とシモンの両親が『小人族』との貿易のために村の外に出て『人族』にさらわれちゃったんだ。私も大分ショックを受けたし、ミーシャもずっと泣いて『パパとママを探しに行く』って言って一回村の外に出ちゃったの。その時に病気にかかったみたいなの。私もショックで立ち直れなくて、シモンもお爺様から村の長に任命されて凄く悩んでいたみたいで、告白するタイミングなんて無かったのよ」
「……そっか。でも、妹さんの病気が治った今ならしてもいいんじゃない?」
「そ、そうよね!うん、頑張ってみる」
「うん、頑張れ」
「シルフィーに話してみたらスッキリしたわ。ありがとう、流石天使様ね」
「天使は関係無いと思うけどね……」
「ああ、そうだ。ちょっと待っててね」
そう言ってリリは、部屋に置いてあるタンスの中からうっすらピンク色の布を取り出した。そして俺はそれを知っている。アニメでよく見たネグリジェというやつだ。しかも結構フリルが付いているとても可愛らしいやつだ。
「ベッドはこの部屋のを使って。私は今日久々に妹と寝るつもりだから。あと寝巻きはネグリジェしか持ってないんだけど、これでも大丈夫?」
「……まあ、無いなら仕方ないよ。分かったありがとう」
「いいの、いいの。シルフィーは私とミーシャの命の恩人なんだから。ああ、お手洗いはリビングの方にあるからね。今日はありがとう。おやすみ」
「うん、おやすみ」
そしてリリは自分のネグリジェを持って部屋から出て行った。
「それにしても両思いか~。二人ならお似合いだし、何だかいいなこういうの」
二人の話を聞いて、何だか自分も幸せな気持ちになった。そして二人の恋が叶いますように……。
「さて、着替えるか……」
アニメの記憶通りなら、確かこれには下着を履かなかったはず。
「でも流石にパンツまで履かないのは主に羞恥心的な意味でやだな……」
結局洋服とキャミソールだけを脱ぎ、残したパンツとネグリジェを着てベッドに入った。そして俺の意識は段々遠のいていき、異世界生活1日目は無事終了した。
最近更新してなかったせいか、アクセス数やお気に入り登録数が減ってきている気がする(・・;)