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銀翼の紋章術師(エンブレムマスター)  作者: 森羅 紫
第一章 紋章術師
10/27

09,隠し味は……

投稿遅れてごめんなさい(>_<)

多分また遅れます(・・;)

「ふぅ~」


 一緒に風呂に入って男として何か大事な物を失った気になっている俺は、脱衣所でバスタオルを巻いて小さく溜息をついた。

 今時の思春期男子からしてみれば、一緒に入ったのは別に嫌だったわけじゃない。ただ、何かよく分からない気持ちが渦巻いて溜息をつきたくなったのだ。

 だがそんな気持ちをいざ知らず、その後ろでは溜息をつく原因をつくったリリが髪を乾かしてくれていた。

 この世界にドライヤーという都合のいい物は存在しない。その代わり『精霊魔法』という魔法は意外と便利なようで、『精霊族』に頼むだけで髪を乾かしてくれるみたいだ。


「乾かし完了。私も自分の髪乾かすから先着替えてて!これ下着と服、あと靴も履いてなかったよね」


 そういって渡された服と下着、靴を着用する。

 用意された若葉色のスカートは先まで着ていたワンピースよりも丈が短く、膝が少し見えるほどだ。

 上は白のブラウスにスカートより少し色の濃い若葉色のカーデガンを羽織った。

 靴はかなりサイズが大きかったが、履いた瞬間自分に合うサイズに変わった。何かの魔法道具マジックアイテムみたいだ。

 ちなみにリリから借りた下着はブラジャーではなくキャミソール。

 キャミソールでも着ていて少し胸の辺りが苦しいが、洗ってもらった服が乾くまでの辛抱だ。胸といえば近所の変態お兄さんが「貧乳はステータスだ!!希少価値だ!!」とか言ってたことがあった。あの人そろそろ捕まってもいいと思う。


「シルフィー何か失礼なこと考えてなかった?」


 いつの間にか髪を乾かして着替えを終えていたリリが笑ってこちらを見ていた。恐怖無効のスキルを持っているのに彼女が怖いと感じるのは何故だろう。


「い、いや別に……。そ、それより早く行かないか?先からお腹すいて死にそう」

「……まあ、いいわ。じゃあお爺様の家に案内するね」

「うん、よろしく」


 リリに案内されて家を出る。風呂に入っている間に日が沈んだようで辺りが暗くなっていた。

 今は種族が変わり、スキルの耐寒が使えなくなっている。そのため風呂上がりで火照った身体に冷たい風が当たって少し寒いと感じた。

 夜の村を見渡してみると屋根から生えている鈴蘭が街灯のように村を照らし、夜空に浮かぶ星々が世界を照らし出していた。


「……きれいだ」


 空を見上げてそう呟いた。


「今日は新月だから星がよく見えるね。すごく感動して見ているみたいだけど、シルフィーが住んでいた所は星があんまり見えなかったの?」

「まぁね。俺がいた場所はあんまりとういか全然見えなかったから、ここまで綺麗な夜空は初めて見た」


 元の世界、特に都会なんかでは見ることの出来ないその輝きについ見とれてしまっていた。


「そういえば先から思っていたけど、シルフィーは何で一人称が俺なの?」

「え、えーと、やっぱり変かな?」

「そういうの個性だから私が兎や角言う筋合いないけど、見た目とのギャップがありすぎだよ」

「や、やっぱりそうだよね……」


 最初は自分がどんな顔をしているか知らなかったが、今は鏡で自分の顔を知っているからリリが言うのも分かる。


「あ~、ぼく?違うな……。わたし、あたし、あらし?」

「一人称が自然災害になってる……」

「うん、わたしが一番しっくりくるかな?」

「別にわざわざ変える必要はないよ」

「いや、この顔で俺っていう一人称はわたしも変だと思ってたから丁度いいよ」

「本人がいいならいいけど……」


 そんな話をしながら五分ほど歩くと、一軒の家の前にたどり着いた。

 家の大きさはリリの家より大きめだが、その家は丁度大樹の根元に位置する場所にあって逆に家が小さく感じた。

 大樹を真下から見上げると、その迫力はエベレストに引けを取らないぐらいだ。エベレストを直接見たことはないが……。


「お爺様、シルフィーをお連れしました!」


 大樹を眺めている間にリリが扉を開けて入っていったため、遅れて後に続く。


「……おじゃまします」

「いらっしゃい、貴女がシモンが言っていたシルフィーさんね。待っていたわ」


 出迎えてくれたのはリリよりも背が低く、顔つきが少し幼い茶髪の少女だった。シモンと同じ碧眼で顔つきも似ているから普通は彼の妹と考えるのだが、『長耳(エルフォ)族』というのは発音がエルフと似ている。もしかすると不老でシモンの姉、もしくは母でしたとかいうオチだったりするかもしれない。


「えーと、あなたは?」

「私はシモンの祖母のカタリナといいます」

「えっ!祖母!?」


 予想してたよりもう一段階上だったので驚いて声が出てしまい、それに対してカナリアさんが小さく微笑んだ。


「私は『長耳(エルフォ)族』と『小人(エナノ)族』のハーフなので背が小さいんですよ」

「そ、そうなんですか……」


 『小人(エナノ)族』の意味が小人だということか、ただ単に背が小さい人(ドワーフ)というこなのかは分からないが、不老の『長耳(エルフォ)族』と組み合わせると立派な合法ロリ、ロリババアの完成だ。

 

「シルフィーさん、何か変なことを考えませんでしたか?」

「いえ、何も……。祖母っていうことはシモンが言っていた料理人の……?」

「ええ、そうですよ。料理はもう出来てますから、お爺さんとの話は食事の後にでもゆっくりいたしましょう」


 そう言ってカタリナさんはリビングへと案内してくれた。リリの家でもそうだったが、この村では靴を履いたまま家に上がるらしい。

 リビングに入った瞬間、香辛料や肉の焼けた匂いが漂って来た。リビングには6人ぐらいとなら一緒に食事ができる程のテーブルの上に大きい鍋と5人分の木製食器が並べられていた。

 座席には既に二人の男性が座っていたが、俺達が部屋に入った瞬間椅子から立ち上がった。

 片方はシモン、もう片方の人はシモンと同じ金髪の青年だ。

 見た目はシモンよりも大人びており、少女マンガとかに出てくる伯爵などの貴族のイメージに合いそうな人だった。

 

「よくぞいらっしゃいました。この千年間、貴女様が来るのを心待ちにしておりました」


 そう挨拶したのは貴族顔の青年。俺に敬意を払うように小さくお辞儀をした。

 その光景に隣に立っているシモンが驚いたような顔をしている。

 千年前と言うことは、彼はあの魔法大戦を経験しているのだろう。


「あの、貴方は?心待ちにしてたって?」

「私はこの村の元長でシモンの祖父であるヴァラールと申します、シルフィー様」

「いや、様はちょっと……。ヴァラールさん、普通に呼び捨てでいいから」

「いえ、私の師と同じ『天使族』ならば様をつけるのは当然。むしろシルフィー様こそ、私のことは呼び捨てで構わないのです」

「いやいや、さすがに呼び捨ては……」

「いえいえ、構わないですよ」

「いやいや」

「いえいえ」

  

 ……………ということが少し長く続いて、結局俺の方がおれた。

 

 


「今晩のメニューは《フォレストウルフの肉》と《ホワイトマッシュ》を煮込んだシチューですよ。パンもたくさん焼いてあるから、おかわりしてくださいね」


 カタリナさんが鍋の蓋を開けると、シチューの美味しそうな匂いが飛び出してきた。

 それをよそってもらい、目の前に出されると涎が出そうになる。


「我らの生きる糧となるものたちに感謝を」

『感謝を』

「……感謝を」


 この世界での「いただきます」みたいなものだと思い、後に続いて祈り感謝した。

 すると祈った為か勝手に『紋章作成(エンブレム・クリエイト)』が発動した。




《……術者の祈りを確認。特殊魔法(ユニークマジック)紋章作成(エンブレム・クリエイト)』発動検索。検索内容『感謝』………………完了。最も近い紋章(エンブレム)を提示。紋章名『導誘の紋章スティーア・エンブレム』。取得条件『種族:天使族』『レベル70以上』。術者は条件を満たしており取得可能。取得を開始し……………………完了》




 頭の中で例の声が聞こえたが、お腹が空いているので確認は後回しにする。

 スプーンでシチューと一口サイズに切られた肉やキノコを一緒にすくい上げて口に頬張った。


「~~~~~!?」


 それは声には、ならなかった。

 シチューにはオオカミの肉とキノコしか入っていないのに、複数の野菜・果物・肉・魚などの風味がし、煮込まれて柔らかくなった肉は口に入れた瞬間消えて無くなった。キノコもシチューの味と合っていて大変美味しかった。

 焼き立てのパンを千切ってシチューにつけて食べても中々美味で、パンの柔らかさに驚いた。異世界の料理が口に合うかどうか少し不安だったが、これなら毎日にでも食べたいものだ。


「とても美味しいですね」

「お口に合って良かったわ。隠し味に《ブロス・マンティスの卵》を煮込んだ出汁を使っているのよ」


 ブロス・マンティス……マンティス………蟷螂?……………虫!?


「ブロス・マンティスは二メートルから三メートルぐらいの昆虫で、美味しい物しか食べない奇妙な虫なのよ。だから私たち料理人の間では美食屋昆虫って言われているわ。その虫が産む卵は今までに食べた物の栄養が詰まっていて美味しいのよ」


 昔、親戚に騙されてイナゴの佃煮を食べさせられたことを急に思い出した。その時の気持ちもこんな感じで美味しかった幸福な気持ちとショックだった不幸な気持ちの混ざり合ったようなものだった。

 虫の卵の出汁。

 考えただけで背筋が寒くなるが、それでもお腹は空くものだ。








 …………うん、聞かなかったことにしよう。

 


 そして俺は再びスプーンを手に取った。




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