00,Eleccion Online
俺、千葉銀二が通っている高校に一時期こんな噂、いや都市伝説が流行った。
人生に迷ったとき、自分の代わりに新たな人生を“選択”してくれるゲームがあると。
EleccionOnline
ゲームの入手方法、作成者などは一切不明。
噂だと、実際にそのゲームの影響で30歳近くのニートがプロの漫画家になったり、運動が苦手だった少年がサッカー部のエースになったり、クラスでは影が薄かった少女が大人気アイドルになったりとEleccionOnlineをプレイした後にそうなった人が数多くいるといという。
ゲーム開始時、キャラクターメイキングが行われる代わりにいくつかの質問に答え、その結果から自分のゲームキャラや職業、スキルといったステータスが勝手に決まるという。
そして、その結果は現実の世界のプレイヤーにも影響が現れ、ゲーム内の職業がそのまま現実の職業になるらしい。
彼らの場合、漫画家だったり、スポーツマンだったり、アイドルだったりと人生が一転したという噂だ。
そんな噂が流れた当時は「そんな夢のゲームなら是非手に入れたい」と噂を信じ、毎日のようにネットを徘徊していた人が大勢いたという。
だが所詮は都市伝説、探したところで見つかるわけもなく今になってはそんな噂すらもう聞かない。
だから俺はEleccionOnlineなど夢物語だと、自分のパソコン画面にEleccionOnlineが表示されるまでそう思っていた。
「EleccionOnline……、ただの都市伝説だと思ってた……」
世界樹のような大きな木を背に大きな文字でEleccionOnlineとしっかり書いてあった。
人生を新たに選択できるゲーム、おそらく今これを逃せばおそらく次はやってこない。
ちょうど俺はMMORPGのゲームを探していたのでここで試すのも一石二鳥で良いだろうと考えていた。
なぜ俺がMMORPGを探していたのかは、最近読んでいるライトノベルがVRMMO関連の物だったので、つい似たようなのをやりたくなったと言う簡単な理由だ。
VRMMOというのはVirtual Reality Massively Multiplayer Onlineの略で仮想現実大規模多人数オンラインの事だ。
大体のラノベだと、バーチャル空間内での剣や魔法を使った戦闘、装備品である武器や防具の作成、洋服などで自分を着飾るといった事をリアルに体感できるゲームとして登場し、物語を面白くさせるためにVR空間からログアウト出来なくなる、VR空間に似た世界に転移するといった内容の物が多くある。
逆に純粋にVRMMOを楽しむ話が少ないのが少し残念である。
話は戻るが、EleccionOnlineという未知のMMOが目の前に出現し、まるでゲームを始めろと言わんばかりにNEWGAMEが強調されている。
このゲームの噂が実際に新たな人生を選択するのか、ラノベではよくある展開だが実際に起こると好奇心が疼いてしかたない。
結果やってみることにした。
ゲームを始めると三つの質問が表示された。
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1, 貴方の現実の名前を入力してください
2, 貴方の現実の性別を入力してください
3, 貴方の現実の年齢を入力してください
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ネットゲームで現実の情報を入力するのは少し戸惑ったが続けた。
住所や電話番号を入力しろとかは書かれていなかったので大丈夫だろうと適当に流したのだ。
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1, 貴方の現実の名前を入力してください
千葉銀二
2, 貴方の現実の性別を入力してください
男性
3, 貴方の現実の年齢を入力してください
16歳
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入力を確認し次の質問に移る。
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この度はEleccionOnlineをプレイして頂、ありがとうございます。
これからプレイヤーである千葉銀二様にいくつかの質問をいたします。
質問には嘘偽りが無い用お願いします。
それでは、質問に移ります。
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問1,好きな食べ物は何ですか?
問2,好きな動物は何ですか?
問3,好きな色は何ですか?
問4,好きな…………………
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こんな質問から始めて70問続いた。
好きなものから嫌いなもの、趣味といったものやカウンセリングみたいな質問まで様々な内容だった。
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ここまでの長い回答ありがとうございます。
残り5つですので、最後まで回答よろしくお願いします。
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「やっと終わるのか……」
溜め息混じりでそう言う。
一度休憩のため、パソコンをそのままにして部屋を出る。
今は夏休みで学校は無く、補習以外の人は皆休みである。
補習には中学の時からの親友も行っているみたいだが、この前のテストで俺はそこそこ良い点を取っているので全く関係ない。
両親は共働きで、いつも夜まで家に帰ってこない。
両親の他に妹が一人いるが、一年ほど前から病気で入院中のため両親同様家にはいない。
なので事実上、俺がこの家に一人で暮らしているようなものである。
部屋の外は蒸し暑く、真っ昼間から冷房を入れて涼しんでいる俺には少し辛かった。
暑いのを我慢しつつ階段を下りて台所へ向かう。
冷蔵庫には夕食の材料の他、俺の好きなビタミンCたっぷりの炭酸飲料がある。
それを取り出して蓋を開けて飲む。
口の中に広がるレモン味の味と炭酸のしゅわしゅわ感が一時的にこの暑さを忘れさせてくれる。
半分くらい飲んだ後、キャップをしっかり閉めてペットボトルを冷蔵庫に戻し、自室に戻って質問の続きを行った。
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問71,天使と悪魔だったら、どっちらを信じますか?
①天使
②悪魔
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先程の質問とは違い、ファンタジー的な質問だった。
EleccionOnlineに関する質問だろうか、とりあえず①天使と答えた。
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問72, 千葉銀二様の目の前にナイスバディで巨乳の美少女が愛の告白をしてきました。どう返事をする?
①迷わず承諾する
②きっぱり断る
③セクハラする
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この文面を読んで最初に俺が言った一言は「は?」だ。
何故か文章の一部が強調されており、最後の方でまさかこんな意味不明な質問が来るとは流石に思ってもみなかったからだ。
それに人生を新たに選択してくれるという噂を持つゲームで、こんな場違いな質問がされる意味も分からなかった。
質問には②を選んだ。
人を見た目だけで選ぶ気はないし、どんな人かも知らないを恋人にするつもりはない。
もちろんセクハラする気もない。
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問73, R18の同人誌でボーイズラブとガールズラブのがありました。千葉銀二様だっらどちらを読みますか?
①ボーイズラブ
②ガールズラブ
③両方
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表示されたとき、危うくこの画面を消しそうになった。
そんなことをしたら今までの苦労が水の泡だ。
あぶないあぶない……。
しかし、この三択どちらか選ばなくては次に進まない。
悩んだ末、消去法で②のガールズラブを選んだ。
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問74, 天使の巨乳好きで同性愛趣味の千葉銀二様ですが………
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俺は咄嗟に手元にあった中学時代に修学旅行で買った木刀を持って自分のパソコンの画面に向かって突き刺したい衝動に駆られるが、こんな事でパソコンを壊してしまうと中のデータや修理または新しく買うために札が飛んでいってしまうので、深呼吸して冷静さを保ち、掴んでいた木刀を元の位置に戻す。
取り敢えず、最初の文は見なかったことにして文面の続きを見る。
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問74, 天使の巨乳好きで同性愛趣味の千葉銀二様ですが、このゲーム、EleccionOnlineを本当にプレイしたいと思っていますか?
①Yes
②No
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最初の行は完全に俺を馬鹿にしているが、EleccionOnlineを本当にプレイしたいかという質問に違和感を覚える。
だが、ここまで頑張ったのに辞めるのはありえない。
①を選んで次に進んだ。
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最後の質問です。
問75, もし明日世界が終わってしまうとして、千葉銀二様はそれを防ぐ手立てが有るとします。
千葉銀二様は世界を救いますか?
①Yes
②No
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最初の70問は簡単な質問、最後の5問は全く違う質問だった。
まるで、最後の5問が本命のようで……。
製作者は何を考えてこの質問をしているんだと考えさせられる内容だ。
少し悩んで①を選択した。
別に本当に世界を救うなんて事は考えていない。
ただ、もし本当に世界が終わってしまうのなら「自分が生きている世界が無くなるのは嫌だな」という簡単な理由だ。
最後の問に答え、これでやっとゲームが始められる。
一個のゲームを始めるのに15分ぐらいかかった。
まあ、他のMMOでも自身のアバターを作るのに長い人でも1時間かかったという話を聞いたことがあるのでまだ短いほうなのだろう。
そんな事を考えていたら、いきなりパソコンの画面が切れて真っ黒い画面になってしまった。
「ぇ……?えぇーーーーー!?」
ここまでの苦労が水の泡になってしまったのは少しショックだ。
いや、もしかしたらコードが抜けただけかもしれない。
椅子から立ち上がり、フリーズしたと思われるパソコンに触れようと手を伸ばすが何故か届かない。
パソコンではなく、虚空を掴んでしまいバランスが崩れる。
意識が朦朧とし、視界もぼやけて自分と自分の周りにある物の距離が分からなくなってしまった。
立っている足もふらついて床に倒れこむ。
いや、床に倒れたのではなく机に突っ伏したのかもしれない。
そして俺の身体から何かが抜けていくという今まで感じたことのない感覚に襲われた。
水分とか血の気とかそういうのでは無い。
身体を構築する芯みたいな物。
魂という物が本当にあるのなら、それがどんどん抜けていく様な感じだ。
その感覚が進むにつれて意識が徐々に薄れていく。
自分という存在が少しずつ消えていくような状態に恐怖を感じた。
消えたくない。
そう思ってもこの現象は止まらない。
それでも何かが消えるその時まで、俺は消えたくないと願っていた。