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[二七]多彩な茶番劇が、おしなべて駄作とは限らない(後編)

「そっか。ならもう僕に疑問点はないや。今回の事件は、これにて大団円だね」

 僕は大きく伸びをした。

「目的のもう一つは、未達成かもしれない」

 ぼそりとつぶやいたひまわりの言葉に、再び緊張が走った。

 僕は彼女に詰め寄る。

「まだ隠してること、あるの?」

「ないことも、ないというか」

 ひまわりの回答、歯切れ悪いったらない。

「はっきりしてくれ。堂嶋のほかにも、第二第三のストーカーが潜んでいるとかだったら、対策を練り直さなくちゃならないんだから」

「ああいう手合い、一人しかいない」

「本当だね。君につきまとう変質者は、あいつだけなんだろ」

 するとひまわり、わずかに間を置いた。

「厳密には、もう一人いるかも」

 僕はひまわりの肩をつかみ、軽く揺さぶる。

「誰なんだ」

「あなた」

「な~んだ、僕か──って、なるわけないだろ!!」

「ふふ」

 ひまわりはかすかに口元をほころばせた。

 そうかい。やっと僕も悟ったよ。

 これは彼女の悪ふざけなのだ、と。

「分かりましたよ。要するに、自演乙ってことだろ」

「巡に声をかけた理由が、ストーカーの対処以外にもあるというのは、ホント」

「どっちなんだよ。もう僕の心、かき乱さないでくれ。僕の完敗だから」

「あたしたちがいつもやられていることだし」

 ひまわりの語る『たち』には誰と誰が含まれるのか、皆目見当もつかない。

 でもそこを掘り下げていくと、自壊のビジョンしか浮かんでこないのも、また事実。

 従って『聞こえなかったふり』が正しい選択だ。

「話を戻すよ。体育館裏の呼び出しに隠された目的だけど、ひまわりの命にかかわる?」

「いいえ」

「だったらいいよ。君の言葉を信じる」

 僕が切り上げようと思って彼女の肩から腕を離したとき、

「あのとき巡は言った。あたしが『単なるクラスメイト』だと。それがヒント」

 こりゃまた、難解なクイズだ。

『クラスメイトの一人でしかない』

 そんなやつは大勢いる。学校を卒業して数年経ったら、顔を思い出すのに苦労するかもしれない。卒業アルバムを見て『あぁ、こいつか』と思うのだ。

 つまるところそういう同級生とは、『皆無』と言っていいほど接触がない。

 会話はおろか、挨拶すら交わさないことだってありうる。

 じゃあそいつと仲が悪いから、トークの一つもしないのか?

 そうじゃない。

 お互い、興味がないのだ。

『こいつと仲良くなりたい』という欲求がないので、事実上ないものとして扱っているにすぎない。無関心であるがゆえ、『好き』でも『嫌い』でもない状態。

 だから記憶に残らない。当人にとっては、路傍の石と大差ないのだから。

 それを打破するにはどうするか?

 答えは簡単。なんらかの方法で注目してもらえば良い。

 好印象を持ってもらうのがベターだけど、仮に悪印象だったとしても、眼中にないよりは幾分いいだろう。

 これに該当する行為が『手紙を使った呼び出し』だったとしたら。

 ひまわりが求めているのは恐らく──

「承知したよ、ひまわり。我ながら今日の僕は、いつにも増してさえてる。これを女の子に言わせるのは、男として甲斐性がないね」

 僕はすっくと立った。スクールベストやズボンのしわを伸ばす。

 ひまわりもつられて立ちあがる。ついでにハンカチも拾ったらしく両手で握り、胸元に添えていた。

 目の錯覚だろうか。彼女の頬が上気しているように映るのは。

 まぁいい。僕は僕の使命を全うするまで。


「能登ひまわりさん、僕と友達になってください」


 僕はひまわりから手紙をもらって以降、劇的に彼女のことを考える時間が増えた。

 どういう意図で僕とかかわりを持つのか、思案するのが大半だったけど。

 いずれにせよ、とうにひまわりは『単なる同級生』の範疇から外れている。

 彼女のもくろみが道半ばだとすると、こういうことだと推測した。

 僕の関心を引き、友好関係になりたいのだ、と。

 僕だって常々そうなりたいと願ってきた。

 欲を言えば、もうちょっと踏みこんだ間柄になりたいけど、物事には順序がある。

『友達から始めましょう』

 あれ、これってフラれるときの常套句だっけ?

 ううん、案ずるな、天城巡。

 本日の僕は一味も二味もちが──

 楽観的思考がぷつりと途絶えた。

 目の前にある美貌から、表情がそげ落ちたからだ。むしろしょっぱさ及び憐憫すら含み、僕を見返してくる。

「ひ、ひまわりさん、お返事は」

「知らない」

 おや、彼女の心情がブラックボックス化してしまったぞ。

 女心と秋の空。知ったかこくのは、時期尚早だったか。

「な、何か怒ってらっしゃいます、よね」

「別に。失望しただけ。もう帰ろう」

 ひまわりが自身のスクールバッグに僕のハンカチを押しこんだ。洗って返すつもりなのかもしれないけど、乱暴な詰め方だ。

「一つ聞く。どうして『友達』なの」

「ああ、いや……僕、『友達じゃない』と前に君から言われたでしょ。何ごとも順番って大切だよなー、なんて思ってみたんだけど。間違ってた、かな?」

「間違ってはいない。ただ……いえ、巡に期待したあたしが、愚かだった」

 ごふぅ。えぐりこむように打つべし、とばかりに効きやがる。

「なんかもろもろ含めて、ごめんなさい」

 もはや僕は、うなだれることしかできない。

 するとひまわりが手のひらを向けてきた。

 そこを使って泣いてもいいよ、という暗示だろうか。

「握って」

「えと、なんで?」

「帰るから」

『シンプルイズベスト』とは言うけれど、はしょりすぎも良くないと思う。

「恋人でもない男女がおててつないで家に帰る、っておかしくないかな。ましてや現時点で僕ら、友人ですらないよね。返事もらってないもの」

「でもお姉さんとは、つないでた」

 遊園地の話か。あれもレアケースなんだけどな。

 でも抵抗したところで、押し問答になりそうな気がする。河原で美少女と言い争いなど近所の人に見られたら、風聞がどう広まるか予測不能だ。

 ルミちゃんの耳に入れば、

「腕を削り取られておきながら、女狐とイチャイチャするとか。学習能力ないんじゃない。バカは死ななきゃ治らないね」

 こんなのもお仕置きフェスティバルの序の口かもしれない。

「めーくんの無節操ぶりは、父親譲りなのでしょうか。いいえ、父は母一筋ですものね。殊勝な純愛です。すると隔世遺伝か突然変異かしら」

 あやめ姉さんはあきれを通り越して、つむじを曲げるだろうか。

 今度はどうやってご機嫌うかがいすりゃいいんだ。遊園地は安牌じゃないし。

「やっぱりあたしみたいなそっけない女となんか……お断りよね」

 ひまわりはしょんぼりと腕を下ろしかけた。

「そんなわけないって!」

 もうやけくそだ。明日は明日の風が吹く。

 竜巻でも台風でもハリケーンでも、きてみやがれってんだ。

 僕は合気道の武芸者。一つ残らずさばいてやろうじゃないか。

 僕は覚悟を決め、ひまわりの手を握る。

 すると彼女は目を見開いた。僕が石段を歩き始めると、物言わず付き従う。

 ひまわりのぬくもりをじかに肌で感じつつ、

「あのさ、ひまわり。やっぱ僕らって、とっくに友達なんじゃないかな」

「答えは後日、ということにしといて」

 そう言うひまわりは、心なしかウキウキしているように見えた。

 僕の両目はガラクタ同然なんで、見間違いの可能性も大いにあるけど。


 いつか、僕はこの日のことを思い返して、どんな感慨を抱くだろう。

 そのとき身近に誰がいるかな。

 想像もつかないや。

 だって遠い未来どころか、数時間先のことも見通せないのだから。

 でも何歳の僕であろうと能登ひまわりには、口をそろえてツッコむと思うんだ。


「この期に及んで保留ですか」と。


〔了〕

以上をもちまして、『呼び出しといて保留ですと?』フィナーレでございます。

今のところ続編の予定はありません。

次は全く別の物語に着手、と考えております。


続きまして謝辞を。

本作に対し「お気に入り登録」してくださったり、「評価ポイント」を入れていただいた皆様、誠にありがとうございました。

また、感想をご記入くださった皆様、深く感謝いたします。

合わせまして、お読みいただいた方々にも御礼申し上げます。

皆さんの後押しのおかげで完結に至り、新人賞へも投稿できました。


最後に裏話を一つ。

今作は僕が生まれて初めて書き上げ、新人賞へ応募した小説の大幅リメイクに当たります。

元ネタと比べると97%ほど新要素を詰めこみましたので、ほぼ別物に成り果てました。

処女作では冒頭主人公がヒロインにラブレターで呼び出され、「あなたじゃない」とすげなくフラれます。

そして悶々とする中、すったもんだがあって空から隕石が降ってくる、という宇宙規模のデウス・エクス・マキナが炸裂するわけですけど……


選考結果はどうだったか?

ええ、安定の一次落ちでした。


従いまして小手先の改稿をしても結果は推して知るべしでしたので、導入部分のみ移植する形に落ち着いたわけです。


またもや冗長な駄文になってしまいましたが、この辺りで筆を置かせていただきます。

次はもっと面白い作品をお届けできれば、と願いつつ──



2014年6月 木田真

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