8.街のうわさ
──辺境都市リドル、冒険者の集まる酒場にて──
薄暗い店内を、いくつものランプの明かりがまばらに照らしだす。喧騒と香ばしい食べ物の匂いに包まれた酒場では、幾人もの冒険者たちが、グループになってテーブルで飲食していた。
「なあ、聞いたか?」
とあるグループのテーブルで、刺青を入れた一人の冒険者が話しだす。
「ん、何をだ?」
隻眼の男が木のコップに注がれた酒を飲みながら訊き返す。
「ここらによ、寂れた村があるだろ」
「寂れた村なんてドコにでもあらぁな、ここは辺境だ、王都周辺よりもよっぽど多いだろうさ」
そう答えたのは酒やけで赤くなった鼻をさすっている男だ。
「そんなかでもとびきり寂れた村があっただろ、ほら、なんつったかなあ」
「あー、そりゃあれか、キリネ村だったか? 特産品も何もなく、平和なだけが取り柄って感じの村だったと思うが」
他三人の男と比べるとやや線の細い男がそう言った。
「それだよそれ! キリネ村。そこの近くによ、新しいダンジョンが見つかったらしいんだけどよ」
「マジでか?」
「そりゃアレじゃねえか、確かただの洞穴だったとかって、学者さん達がむかぁしに決着つけたんじゃなかったか?」
「いやそれがよ、いつの間にか魔王が住み着いていたとかで、今はダンジョンになっているらしいぜ?」
「嘘くせえなあ……本当かよ?」
「いやさ、俺も正直怪しいと思ったんだけどよ、街の情報屋がその情報を積極的に流しているらしいんだよ」
「逆に怪しいじゃねえか、情報屋が金も取らずに情報をよこすなんてよ。何かの罠って可能性は?」
細身の男が警戒も露わに言う。
「でも俺らだけじゃなくて、何人もの冒険者に声をかけてるみてーだ、何かうまい話でもあんのかもしれねぇな」
「ふうん、王都の連中に嗅ぎつけられる前に、様子を見に行くのもいいかもしれん」
「ああ、どうせこの街にも、今は目ぼしい依頼もないことだしな」
「そういうことで、どうすらぁ? リーダー」
隻眼の男はわずかに思案すると、口を開いた。
「よし、キリネ村にいっちょ行ってみるか」
「合点!」「了解だ」「そうこなくっちゃな!」
そうしてまた、一つの冒険者パーティがキリネ村に向かってゆく。