6.???
──人間界某所──
一目見て誰もが豪奢な室内だと思うだろう。そこにある品々は、どれもが高い美術的価値を秘めていると素人目にもわかる貴重な品々で占められており、それでいて見るものにいやらしさを感じさせない見事な統一感で満たされていた。
大きな窓からは日の光が差し込み、室内に置かれた観葉植物を柔らかに照らしだす。
窓から見える景色には、雲ひとつ無い青空が広がっている。風は驚くほどに凪いでいるようだ。
そして、そんな室内に二人の人影があった。
「お姉さま? 風のうわさで聞いたのですけど、ランドゲルズのクソジジイがついにくたばったようですわよ」
言葉を発したのは、艶やかでさらりとした金色の髪を持つ、天使と見まごうほどの美貌を持つ少女。羽衣のような服を着用し、その背中からは美しい純白の羽根が生えている。
「こらエレーナ、クソジジイだなんてはしたないわよ」
答えた声は、まるで竪琴のような美しい音色。その声を発したのは、柔らかくウェーブを描く淡い桃色の髪を持つ乙女。やはり羽衣のような服を着用し、背中からは純白の羽根が生えている。
「あら、失礼しましたわ。つい昔の屈辱を思い出してしまい、言葉遣いが荒くなってしまいました」
「それなら仕方ないわね。しかし、ついにランドゲルズが死んだのですか、全く、ざまあないですわね」
喜色を浮かばせながら、桃色の髪を持つ乙女が答える。
「ほんと! せいせいしますわね!」
「それで、奴が管理していたダンジョンはどうなったのです?」
「噂によると、どこの馬の骨ともしれない輩が後を継いだそうですわよ」
「ふうん、ランドゲルズの親類縁者は皆死んでいるはずですし、どこからか跡継ぎを見つけてきたのですかね」
「そうかもしれないですね。それより、お姉さまぁ」
エレーナと呼ばれた金髪の少女が、猫のような甘えた声を出す。
「甘えた声を出して、何かしら、エレーナ」
「ランドゲルズが管理していたダンジョンに、ちょっかい出しませんか?」
「うーん、でもあまりこちらの兵は使えないわよ?わたくし達も魔界に睨まれたくはありませんし」
桃色の髪の乙女が、美しい憂いの表情を浮かべる。
「大丈夫ですわよ! 使うのは天界の兵ではなく、人間ですもの!」
「人間? ……なるほどね。それはいい案だわ」
「でしょう? うふふ、魔王の引き継ぎを済ませたばかりで、ちゃんと結界陣を守りきれるかしらぁ?」
「ふふ、奴らの慌てるさまを想像すると、胸がすくような思いですわね」
二人が浮かべた表情は、乙女の美しさと、残酷な無邪気が同居する表情。
「そうでしょう! じゃあ、早速準備してきますわ!」
「ええ、エレーナ、気をつけてね」
「わかっておりますわ!」
……
「ついにランドゲルズが、ね。ふふふ、面白くなりそうだわ」
エレーナがいなくなった室内で、乙女は呟く。
「まだ見ぬ魔王様、貴方は無事に生き残れるかしら?」
「わたくしの方でも、準備をしておきましょうか」
そう言ってから、彼女もまた何事かを準備するために動き出した──