24.第二章エピローグ
イレーヌからの提案を受けた後、メリルは会議室でアースとセレナに話をしていた。
「彼らを配下に?」
「ええ、そのように提案がありました。生き延びるのに必死なのでしょう……天界を捨てることになっても」
「冗談じゃない! アタシ達がどれだけの被害を被ったと思ってるんだ!! その原因となった張本人達を仲間にするだって!?」
怒りを滲ませながら抗議したのは、セレナだった。
「確かに、気持ち的には簡単に受け入れられるものではありません。しかし、現在このダンジョンの戦力はかなり低下していることもまた事実。長期的に見れば、この提案は悪いものではありません」
セレナの怒りを受けても冷静な姿を崩さないメリルが、そう答える。
「メリル……アンタ、本気で言ってるのかい?」
「もちろん。ですが私も与えられた被害について簡単に許すつもりはありません。彼らには、彼らが殺戮した魔物達の分以上に働いてもらうつもりです」
「……裏切る可能性はないのか」
ここでアースが口を開き、天界兵の真意について問う。
「イレーヌと制約を交わします。仲間が裏切った場合も彼女が死ぬように制約を行い、それを他の三名にも伝えて行動を縛ります」
「おいおい、それじゃあイレーヌを犠牲にして他三人が裏切る可能性が残るじゃないか。そんなの認められないね」
セレナにとってはリーゼの安全が第一。僅かでもそれを脅かす可能性がある提案は、到底受け入れられるものではない。
「その可能性は低いかも知れないな」
そう補足したのはアース、彼は、牢屋で尋問したときの天界兵の様子を思い出していた。
そのうち、意識の戻らないマイルについてはどのような考え方をしているのかわからないが、カインとロナについてはかなり素直な性格をしているようだった。
マイルについても、あの重症では下手をすれば一ヶ月以上ベッドから起き上がることは出来ないだろう。
「とはいえ、セレナの心配も最もです。ですからイレーヌ以外の者達には、ダンジョン内での行動を制限する装備を常に付けさせます。それに加えて監視も付け、自由にダンジョン内を歩き回れないように管理します。そしてアーシャ、セレナ、リーゼには、今回魔王様が召喚した三体の魔物を護衛に付けます。彼らはランクで言えば上級よりの中級魔物。カインでさえ容易に勝つことは出来ないでしょう」
「だけどっ……!」
セレナとしてはそれでも受け入れがたいのだろう。納得のいってない顔で不満を言い募ろうとする。
「セレナ。どうするかを決めるのは魔王様です。あなたの気持ちはわかりますが、最終的には魔王様の判断に従って頂きます」
「ちっ……! 万が一にもリーゼに危害が及んだら、アタシも裏切ってやるからなっ」
「そうならないように最善を尽くしますよ」
セレナの怒りを受け流して、メリルはそう返す。
だが、メリルだってセレナを軽んじている訳ではないのだ。しかしエレーナに目をつけられているということが発覚した以上、天界兵と戦える戦力の確保は急務なのである。
「魔王様、いかがいたしますか?」
「そう……だな……」
複雑な思いをその胸のうちに秘めているのだろう。しばらく考えこんでから、アースは口を開いた。
「わかった。イレーヌの提案を受け入れよう」
アースが提案を受け入れてから、すぐにメリルは動き出した。
まずは天界兵四人を集めて、彼らの前で、イレーヌに制約を行う。
内容は「<<ダンジョン及びそこに所属する者、そして魔界に不利益な行動をしない>><<制約から外れた行動をした場合、死ぬ>><<仲間が裏切った場合の責もイレーヌが負い、死ぬ>>」というようなものだった。
イレーヌは彼らを説得したのだろう。誰も文句を言うものはいなかった。
長いこと意識を失っていたマイルも、目覚めてから事情を聞いてその提案を受けいれたようだ。
それでもイレーヌが制約を交わしている間、ずっと彼らは悔しそうな顔をしていた。
だがメリルはそれについて気づかないふりをして、制約を終わらせる。
その後カインは装備を奪われた状態で第一層の魔物詰所に待機することになった。メリルが侵入者の姿を捉えた際にのみ、それら装備を返してもらい最前線で戦うことになる。元々魔法は得意ではないということだったが、それでも念のため魔力封じの枷が嵌められているため、魔法は一切使うことが出来ない。
イレーヌは第二層で待機することになる。魔力封じの枷はないが、制約により行動が縛られているため、当然うかつな行動は出来ない。
マイルとロナは第四層の小部屋にいることが決まった。マイルは意識さえ取り戻したものの、動くことに支障があるほどの怪我はまだ治りきっていない。そのため、戦うどころではないのだ。
そしてロナはマイルの治療のため、やはり近い部屋で待機することになっている。彼女はマイルを治療するときだけ監視付きで魔力封じの枷を外して、魔法を使うことが許された。また、それ以外でも怪我をした魔物の治療なども担当することになっている。
実質的に、マイルとロナはカインが変な行動を起こさないための人質だった。戦力的に大したことのない二人を第四層に置くことで、第一層で戦うカインの動きを牽制しているのだ。
こうして彼らは条件付きで<奇人の住処>に所属することが決まった。
しかし、それから二週間以上が経ってからも、天界兵の追手が来ることはなかった──
……
──天界某所──
「エレーナ様、カイン達への追手ですが、急遽出撃を取りやめたそうです」
「……何故ですの?」
エレーナの考えでは、天界の追手すらも<奇人の住処>につぎ込む戦力だったのだ。それが取りやめになったとはどういうことなのか。
「その前に、先ほどミュリエール様から連絡がありました。人間界に戻ってくるようにと」
「お姉さまが? わかったわ」
確かに、ここのところ天界での作業が多く、人間界にいるミュリエールに会いに行く機会が減っていた。しかしわざわざ呼び出すということは、何か用事があるのだろうか。
「それと……追手が出撃を取りやめたことに関係するかわかりませんが、上層部の噂では王が、お倒れになったそうです」
「なんですって!?」
「もし本当であれば後継者となるのは王の息子……クルサーダ様となります」
「……つまり」
「クルサーダ様は天界でもかなりの強硬派です。ですから、魔界との戦争が再び起こるかも知れません」
「じゃあお姉さまの呼び出しというのも」
「はい、恐らくはその件についてかと」
「……すぐに出発しましょう」
「はい」
少々すっきりしない内容ですが、ここで「魔王会議」編は終了となります。次の話は登場人物紹介を行なって、それから次の章に入ります。




