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ダンジョン運営奮闘記  作者: 優樹
魔王会議編
34/46

13.魔王会議-二日目、三日目-

後半はついノリでやってしまった感があります。

 会議二日目、俺は食事会の会場で頭を抱えていた。

「なんか、周りの視線がつらすぎるうううううう!」

 何をしていても他の参加者からの視線が痛い。唸ってしまうのも仕方ないと思うのだ。

 その原因はというと、どうやら先日皇帝陛下に呼び出されたことがいつの間にか広まってしまっているらしい。そして、その理由について様々な憶測が飛び交い、それについて知るために俺達の様子を伺うような視線がいたるところから向けられている状態だ。

 しかも一部の界隈では明らかな敵意を持って睨みつけてくる一団もおり、空気が悪いことこの上ない。

 敵意を向けてこない集団も遠巻きに眺めるだけならまだいいのだが、俺達に取り入ろうとする人たちもいるようで、それはそれで対応に困る。

 どうやら皇帝に興味を持たれていることが、俺達の価値を閑職の魔王という印象だけではなく、うまく取り入ることが出来れば甘い汁を吸える獲物のように見えているらしい。

 今のところはメリルが睨みをきかせていることで面倒には巻き込まれていないが、それもいつまで持つかわからない。

 用意された豪勢な食事も、針のむしろにいるような気分では味もわからない状態だ。

 はっきり言って、早くこの場から帰りたい。

 初日よりは気楽に過ごせるだろうと思っていた自分を怒鳴りつけてやりたい気分だ。

「魔王様、また表情が険しくなっておりますよ」

 うがーと頭を振りながら考え込んでいた俺にメリルからそんな注意が飛ぶ。

「……はぁ、いやだって、この状態で後何時間も過ごさないといけないのか?」

 ただ単に食事を摂るだけなら一時間もかからないだろうが、この食事会は交流がメインなのだろう、全体で数時間もの枠が取られていた。

 親しく話す相手もいなければ、貴族社会の思惑や陰謀とも関係したくない俺からすれば、数時間メリルと食事をするのと変わらない。

 いっそ、途中で抜け出しても良くないか?

「お気持ちはお察しいたしますが、駄目ですよ」

 よからぬ考えをしていたのを見ぬかれたか、先にメリルから制止される。

「でもなぁ……、ほら、あっちの人……」

 顔は向けずに仕草だけで方向を示す。

 そちらにいるのは俺達に一際強い敵意を見せている一団。

 彼らは魔王とその部下だ。

 なんて名前だったかな……ハ……ハイ……えーと、わからん。

「ハインド・リエント・ヴァイル魔王ですね」

「そうそう、ハインド魔王」

 メリルのお陰で名前を思い出す。

 そのハインド魔王とその部下達が、今日会場内で会ってからというもの、それはそれは敵意の籠った視線をビシバシとこちらに向けてきているのだ。

「そのハインド魔王に、なんで俺達あんなに睨まれてるのさ……」

 なんとなく予想がつかないわけでもないが、ため息を漏らしながらメリルに訊いてみる。

「まぁ、皇帝陛下から覚えがいいということが、気に入らないのでしょうね」

 やはりそうか。でも、こっちも好きで覚えられた訳じゃないんだけどなぁ……

「彼らは魔王の中でも上昇志向が強いと伺っています。ですから、最近になって僻地の魔王を引き継いだ得体のしれない人物、本来であれば権力争いに関わる要素のないその人物が、まさか皇帝の覚えが良いとあって憤懣やるかたないのでしょうね」

 こちとら権力に興味などないのに、はた迷惑すぎる話だ

「権力とか欲しくありませんよーってアピールでもしてくれば、あの視線も和らぐだろうか」

「やめておいたほうがいいでしょうね。素直に受け取ってくれるとは思えません。余計に溝が深まるだけではないかと」

 ですよねー。そうだと思ったよ……

「しかしだな……、あのいつ喧嘩を吹っかけてくるかわからない視線に晒されるのも、中々辛いものだよ……」

 横目で確認をすれば、まだ敵意が放射されているのがわかる。そんな親の仇を見るような睨み方をしなくてもいいだろうに。はぁ、とまたため息が漏れる。

「まさか公の場でいきなり喧嘩を吹っかけてくるようなことはないでしょう。会議の参加中は城内に部屋も用意されますし、争いに発展するようなことはないかと思います。後は会議さえ終わってしまえば、流石にダンジョンまでは追ってこないでしょう」

 それはありがたいのだが、逆に言えば会議中はとにかく我慢し続けろってことなんだよなぁ。

「城内では私が常に一緒におりますから、わざわざ近寄って話をしに来ることはないと思います。ですから、頑張りましょう」

 メリルには悪いが、確かにダークエルフが一緒だということがある意味抑止につながっているのも事実である。まぁ、二日目でこの様子だと、そのうち面と向かって罵声を浴びせられたりするようなこともありそうだが……

 既にいたるところから聞こえる陰口には慣れてきたので、そこは気にしないようにする。

 むしろ俺に対する陰口や悪口はまだいいのだ。得体が知れないのも、能力的に微妙なのもその通りだし、魔王として未熟なのは自分でよくわかっている。

 それよりもメリルに対する悪口のほうがよっぽど気に障る。生まれだけでそんなにお前等に悪口を言われる筋合いはないだろうと思うのだ。お前等よりも絶対うちのメリルのほうが優秀だと思うぞ。

 現代の日本で生まれた俺に人種差別というのはほとんど意識にない。過去にあったということは知識としてもちろん知っているが、俺自身はそんな差別の意識は持っていないのだ。メリルには仕方がないことだと言われても、それを心で理解することは難しい。

 頭の中で仕方がないと思っても、実際に陰口を叩かれている場面に遭遇してしまうと心がささくれ立つのはコントロール出来ない。

「とにかく耐えるしかないのか……」

「現状ではそうですね」

 まあ、今日に関しては後もう少しでお開きだ。頑張って耐えようじゃないか。

 幸いにも、その後特に変わった出来事は起こらず、俺達はなんとか無事に解放された。


 そして翌日。俺は舞踏会の会場で頭を抱えていた。

「昨日とは別の感じで回りの視線がつらすぎるうううううう!」

 感じるのは期待に満ちた視線。

「魔王様、観念してください」

 そして告げられるのは死刑宣告。

「いーやーだー!」

「聞き分けてください」

「むーりー!」

「あまり駄々をこねますと……」

 一瞬メリルの眼光が冷気を帯びる。

「ひぃっ……!」

 即座にすくみ上がる俺。随分調教されたものである。

「では、参りましょう」

「そんな! ご無体な!」

 隙を見せたところでメリルに手を取られる。

「許して! 初めてなの!」

「大丈夫です、私がリードして差し上げます」

「無理だって! 踊れないって!」

 半ばメリルに引きずられるようにして連れて行かれたのは会場の中央にある舞台。そこでは今も数組の男女が曲に合わせて踊っている。

「簡単ですからすぐ覚えられますよ」

「メリル、舞踏会では別に踊らなくてもいいって言ってたじゃないかぁ!」

「状況が変わったのです、諦めてくださいませ」

 そう、何故か今俺達は踊らなくてはならない状況に追い込まれている。

 舞踏会に来た時は昨日の食事会と特に変わりはなかったのだ、まぁ相も変わらず寄ってくる人はいないし、色んな人に様子を伺われている状態ではあったのだが。

 それが変な方向に変わっていったのは何が原因なのかというと、そう、ハインド魔王一派のせいである。

 舞踏会だというのに誰とも交流せず、そしてもちろん踊ることもせずに会場の端っこの方で小さくなっていた俺達だったが、いつしか遠巻きに踊らないのかな? みたいな視線が集まってきていたのだ。

 最初はその視線の意味をよく理解出来ていなかったので、なんか変な注目浴びているなぁ、くらいにしか思わなかったのだが、小声でひそひそと話されている内容を聞いてみると、田舎魔王が踊りなんて踊れるのか? みたいな会話がされていたのだ。

 え? 何この状況? 俺踊らないよ? と思っていたら、どうもハインド魔王とその取り巻きが、どうせ踊れないだろうし恥でもかかせてやろうということで、舞踏会の運営側へ勝手に話を通していたらしい。

 まぁ実際にその場面を見たことがないので推測になってしまうのだが、周りの会話を盗み聞きした限りでは、間違っていないみたいである。

 それでも一部の人だけがそんな話をしていただけなので、無視しようとその時は思っていた。

 しかし、そこでまさかの指名が入ったのだ。

 まさか強制的にやらせようっていうのか!? と驚愕した俺が聞いたのは、それより斜め上の事実。

「えー、陛下より魔王アース様の踊りが見たいと……」

 おい!! 初日と最終日以外は居ないんじゃなかったのか! どこで見てやがる!

 思わずそう叫びそうになったのもしょうがないと思う。

 え? 陛下見てるの? みたいなざわめきが周囲でも起こっていたが、踊らされる当事者の俺はそれどころではない。

「メリル! 逃げよう!」

「無理のようですが……」

 メリルもまさか皇帝がこの場を見ているとは思わなかったのだろう。驚きの表情を露わにしている。

 しかもメリルが言った通り、司会に紹介されてしまったお陰で周りからの視線が一層強くなって、とてもここから逃げられる様子ではない。

「どうしてこんなことに……」

「陛下の考えはわかりませんね……」

 そして状況は冒頭へ戻る。


「うぅ……メリルぅ……無理ですぅ……」

 舞台に上がらされた俺はもはや体面も保てないレベルで打ちのめされている。

 先ほどまで数組が踊っていたはずの舞台には、今や俺達しか立っていない。

「魔王様、大丈夫です、私がついております」

 普段からどっちが魔王なんだかわからない関係の俺達だが、今回は一層立場が逆転していた。

「ほら、手を出してください」

 言いながらメリルが俺の手を取る。

「ステップは私に合わせて」

 会場内に響き始めた音楽に合わせ、メリルの足が動く。

 それを魔王の身体能力と反射神経だけで無理やりついていく俺。

「そうです、後はリズムに乗って」

 何度もメリルの足を踏みそうになりながら、とてもダンスとは言えないぎこちなさで踊る。

 そうして数分、ようやく踊りに慣れてきたような気がしてきた。

「いいですよ。その調子です」

 正直周りの反応は見たくないが、必死すぎてそこまで気が回らないのはいいのか悪いのか。

「次で終了ですよ、頑張ってください」

「お、おう……」

 それでもなんとか無事に踊りきり、舞台から逃げるように立ち去る。

 周りを見てみると、まぁ踊りは出来ないんだなという納得感溢れる空気が充満していた。ぶっちゃけて言ってしまえば微苦笑というかなんというか、ええい! 詳しく説明などするものか!

 そしてハインド魔王一派からは先程よりも厳しい視線。

 お前等が企んだことじゃん! まさか皇帝から指名されるなんて思ってなかっただろうけど、だからって怒るなよ! むしろ俺が怒りたいよ!

 大体皇帝も皇帝だ。俺のダンスの腕なんて見てどうするのだ。じいさんの研究とは何の関係もないだろう! 畜生ロリババアめ!

 そう心の中で罵声を浴びせていたら、一瞬凄い寒気が走った。

「ひっ」

 ち、畜生、俺の周りはエスパーばっかりか!

 俺は心の中で涙を流しながら、残りの舞踏会をひたすら端っこで耐えていた。


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