3.続・リーゼの観察日記-魔物編-
徐々に皆の化けの皮が剥がれてきてキャラが崩壊しているような……
こんにちは! リーゼです!
今日はダンジョン内に住んでいる、魔物さん達の様子を観察してみたいと思います。
お姉ちゃんは「危ないからやめときな」って言ってましたけど、私はそんなことないと思います! 皆良い人? 達ですよ!
アーシャさんは「たぶんだいじょぉぶぅ」と半分寝ながら答えてくれました。本当に私の話を理解して返事をしているのか、かなり怪しいです。
そしてメリルさんは「指示は徹底しています、危険はありません」と言い切っていました。
魔王様も「あいつらにはよく言い聞かせてあるから、多分大丈夫」って言っていました。でもその後に「ただリーゼの情操教育には……」と言っていたのは、聞かなかったことにします。最近妙に魔王様とお姉ちゃんの二人が過保護にしてくるんですよね。私は今年で十六歳になるし、もう子供じゃないのに! と、こんな風に思ってしまうのは反抗期みたいなものでしょうか、ふふふっ
話がずれてしまいました、そんな訳で、今日は自由時間を使ってじっくりと魔物さんを観察していきます!
まずは第二層です。最近第二層は亜人系魔物の担当らしいです。早速ですが、一番大きなグループらしい、ゴブリンさん達の様子を見に行ってみましょう。
第二層の魔物詰所まで来ると、ゴブリンさん達だけではなく、オークさん達も固まっていました。なんでも、異種族間連携訓練で意気投合したらしいです。仲が良いのはいいことですね。
オークさん達は体の大きな豚さんの顔した魔物です。武器や鎧を身につけて、とっても強そうです。
そんなオークさん達を率いるのはオークリーダーさん、オークさんよりも一回り大きくて、頭もいいみたい。
ゴブリンさん達は、オークさんの半分くらいしか背丈がなくて、緑色の肌をしています。お顔がちょっと怖いんだよね。
ホブゴブリンさんは、ゴブリンさんより大きくて、オークさんより小さい背丈。肌の色は茶褐色で、二本の角が生えてます。
ゴブリンメイジさんは、見た目はゴブリンさんと同じなのですが、愛嬌のある顔をしています。だぼだぼのローブと捻くれた杖がちょっとオシャレ。
そして最後にゴブリンさん達を率いるゴブリンリーダーさん。オークさんと同じくらいの背丈で、ホブゴブリンさんを更に一回り大きくした感じ。
そんな彼らは一体何をしているのでしょうか。私はこっそり観察してみます。
「ギャッギャッ!」
詰所にあるボードの前で、ゴブリンリーダーさんが演説? しています。その横では、ゴブリンメイジさんがボードに何やら書いています。
「グギャア、ギャッ!」
話している言葉はわからないので、ゴブリンメイジさんが書いているものに注目してみます。どうやら絵みたいなものを書いている様子なんだけど……あ、わかった! 今書いているのはメリルさんの絵だ! びっくりするほどうまいなぁ……
「ギャギャッ、ギャウ!」
ゴブリンリーダーさんの演説を聞いて、他の皆も盛り上がっているみたい。あ、次の絵はアーシャさんだ。その次は……お姉ちゃん?
お姉ちゃんを書き終わってから、ボードの端っこの方に私の絵も書いてる。やっぱりうまいなぁ、でもなんで端っこなんだろう?
「ギャギャーウ!!」
絵を書き終わったゴブリンメイジさんがボードから離れて、席の方に戻っていく。それを見届けてから今度はゴブリンリーダーさんが、絵の胸の部分を指しながら何事かを叫んでる。
「ギャウ! ギャウウ!」
それぞれの絵を指さしていくと、他のゴブリンさんやオークさん達が金貨や銀貨を絵の前に置いていく……んん? これは……?
そして最後に、ゴブリンリーダーさんが絵に矢印みたいなマークをつけてって……まさか!
アーシャ>メリル>セレナ>>>>>>リーゼ
む、む、胸の大きさで賭け事してるなんて! しかも、ご丁寧に私を端っこに書くなんて! 確かに私の胸は、その、慎ましいというか、山じゃなくて丘だとか、自分でももうちょっと大きくならないかなとか思わないでもないけど、それはまだ私が成長途中だからだもん! お姉ちゃんもそんなに大きくないなんてこと、私には関係ないはずだもん!
そうして一人物陰で憤慨していると、どこからともなくメリルさんが現れて、風のような素早さで積まれた金貨や銀貨の塊を回収していきました。
いつもと変わらない顔なんだけど、なんか不機嫌そうで話しかけられません。
そして去っていくメリルさんを悲しそうな顔で眺めるゴブリンさん達とオークさん達。
もう! いい気味です!
え? 私の前に金貨を積んだ魔物はいたのかって? 知りません!!
気を取り直して別の亜人グループを観察しにいきましょう、次はリザードマンさん達です。
リザードマンさん達は調査団との戦いを生き残った猛者だってお姉ちゃんが言っていました。確かに傷跡の目立つリザードマンさんが三体程いるみたいですね。彼らがそのまま群れの中の偉い人みたい。
リザードマンさん達は、正式には陸で暮らすリザードマンということで、ランドリザードマンって名前なんだって。
ちょっと前傾姿勢だから背は低く見えるけど、尻尾まで含めたらかなりの大きさです。体表はやや黄色がかった茶色で、地面と区別がつきにくい保護色になっているそうです。
彼らはゴブリンさん達みたいに遊んだり賭け事をするのではなく、鍛錬を行っているみたいでした。
うーん、真面目さんなんですね。
しばらく眺めていたら模擬戦を始めてしまって、私には痛くて見ていられなくなっちゃったので、その場から逃げちゃいました。
うん、真面目にしている彼らには、今度差し入れでも持って行ってあげよう。
さてさて、お次は第一層です。
第一層は侵入者の来る可能性が高いから、行っちゃ駄目だってお姉ちゃんには言われているんですけど、詰所に行くだけなら大丈夫だよね?
第一層は第二層と変わって、アンデッド系魔物の担当なんだって。いつもお世話になっているスケ蔵さんとスケ道さんはここにはいないけど、それ以外の魔物は皆ここにいるみたい。
それでは早速、詰所の中を観察してみましょう!
……
な、なんというか、お通夜?
皆、すっごく静かにしてる……
怖くはない……はずなんだけど、なんだか背筋がゾクゾクしちゃう。
それに明かりもかなり少ないような……
「ワァウ!!」
「きゃああああああああああああああ!!」
思わず悲鳴をあげて声がしたほうに振り返ってみれば、ゾンビドッグさんのちょっと怖いお顔が!!
はぁふぅ、ドキドキが止まりません。心臓に悪いです。
今日はここまでにしよう! と若干へっぴり腰になりながら第三層へ帰ろうとしたら、怖い顔をしたお姉ちゃんに見つかってしまい、沢山説教されちゃいました。
うう、悲鳴さえ上げなければバレなかったのに。
次回はアンデッドさん達をもっと観察出来るようになるんだ!
……
俺が調理場の前を通ると、中から変な声が聞こえた。
思わず立ち止まり耳をすませてみると、アーシャとリーゼの声が聞こえてきた──
「あん……だめですぅ……そこはぁ……」
「うふふ、これがいいんでしょう?」
「そんな強くしたらぁ……」
「気持ちいい?」
ふ、二人とも、何をやっているんだ!?
気になる、気になるが扉を開けてはいけないような気がする。いやそもそもここで立ち聞きしていることもまずいのではないだろうか。
調理場の扉の前で悶々としていると、遠くからセレナが歩いてくるのが見えた。
これはまずいと思い、思わず物陰に身を潜める俺。
そのまま調理場の前を通りがかったセレナが、やっぱり中の様子に気づいた。
しばらく耳をそばだてている様子だったが、途中からどんどん顔が赤くなって、しかも握りこんだ拳がぷるぷる震えてる。
爆発か? 爆発するのか?
「アンタ達! 何やってんだい!!!」
怒鳴り声を上げながら調理場に突入するセレナ。
俺もすかさず後ろからこっそり覗きこむ。べ、別にやましい気持ちはないぞ、本当だぞ。
ここに居ない誰かに言い訳をしながら調理場を見てみると……
そこにはアーシャの尻尾をニギニギしているリーゼがいた。
「あ、お姉ちゃん、アーシャさんの尻尾凄い気持ちいいの! 触ってみる?」
「えっ、尻尾……?」
「だめですぅ、そんなに握らないでくださいぃ」
リーゼが尻尾を握りこむたび、くねくねと体をくねらせるアーシャ。
うーん、これはこれで体の線が強調されてエロ……い、いや、なんでもない。
まぁなんだ、危惧したようなことは何もなかったわけだ、良かった良かった。
「で、何で魔王サマはここにいるんだい」
未だ赤い顔のまま、セレナが俺を睨みつける。
しまった! 中の様子に気を取られ過ぎて、隠れていたことを忘れていた!
「タマタマトオリガカッテー」
「そんなたまたまがあるかっ!」
その後何故かリーゼと一緒に説教された俺である。理不尽だ。きっとセレナもいかがわしい想像していた癖に。と思っていたらセレナにまた睨まれた。怖い。
ちなみにアーシャはやっぱり寝てた。やたらくねくねしてたから疲れたのかもしれない。




